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「格差是正と差別是正の矛盾」@労基旬報2月25日号

労基旬報2月25日号に寄稿した「格差是正と差別是正の矛盾」です。

 昨年11月、民主、維新、みんな、生活の4野党が、「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案」を国会に提出しました。また、同月の解散で行われた衆議院総選挙では、民主党と維新の党が共通政策としてマニフェストで同一労働同一賃金を謳っています。もっとも、法案の内容は格差問題への関心が前面に出ており、理論的な整理がどこまでつけられているのかよくわからないところがあります。

(目的)
第一条 この法律は、近年、雇用形態が多様化する中で、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性について格差が存在し、それが社会における格差の固定化につながることが懸念されていることに鑑み、それらの状況を是正するため、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策に関し、基本理念を定め、国の責務等を明らかにするとともに、労働者の雇用形態による職務及び待遇の相違の実態、雇用形態の転換の状況等に関する調査研究等について定めることにより、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策を重点的に推進し、もって労働者がその雇用形態にかかわらず充実した職業生活を営むことができる社会の実現に資することを目的とする。

(基本理念)
第二条 労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策は、次に掲げる事項を旨として行われなければならない。
一 労働者が、その雇用形態にかかわらずその従事する職務に応じた待遇を受けることができるようにすること。
二 正規労働者・・・以外の労働者が正規労働者となることを含め、労働者がその意欲及び能力に応じて自らの希望する雇用形態により就労する機会が与えられるようにすること。
三 労働者が主体的に職業生活設計・・・を行い、自らの選択に応じ充実した職業生活を営むことができるようにすること。

 ここには、2000年代以来若い男性の非正規労働者が目立ち始めたことによって駆動されてきた社会的格差問題への関心と、それ以前から主婦パートの基幹化現象によって問題意識に上せられてきた職場における差別問題とが、整理されないまま併存しているようです。

 雇用形態によって賃金の決め方が全然異なっているのは、日本の非正規の決め方がおかしいのではなく、日本の正社員の決め方が世界的に見て極めて特殊だからです。すなわち、年齢と扶養家族数で基本給を決め、それを働きぶりで査定する年功賃金制度です。この賃金制度の源流は、戦前呉海軍工廠にいた伍堂卓雄が唱えた生活給思想にあります。彼の考え方は、まさに格差問題を解決するために、職務に応じるのではなく、家族の生計費に応じたものにすべきという発想でした。戦後労働運動が職務給に反対してきたのも、それが格差をもたらすと危惧したからです。社会構成員の生活水準をできるだけ平準化すべきという平等主義を、国家による再分配を通じてではなく、企業内部の賃金配分を通じて実現しようとしたのが、年齢と扶養家族数に基づく年功賃金制でした。そして、それゆえにそれは同じ仕事をしている女性正社員を(女房子供を養う必要がないからという理由で)差別し、同じ仕事をしている主婦パートを(亭主に扶養されているのだからという理由で)差別するロジックでもあったのです。こうした賃金制度をめぐる歴史を頭に置けば、格差問題と差別問題とが、場合によっては、というよりもむしろ多くの場合に、相矛盾する帰結をもたらすということが理解されるはずです。

 非正規労働者に限っても、格差の是正と差別の是正は多くの場合に矛盾します。「職務に応じた待遇」という方向を貫くのであれば、何よりもまず職場で重要な役割を担うに至っている基幹的パートがその対象となるべきでしょう。しかし、彼女らの多くは、早急に是正されるべきみじめな生活水準にあるというわけではありません。逆に「格差の固定化」を何とかしなければならないというのであれば、製造業派遣や日雇派遣で働く若年・中年の男性非正規労働者が対象になるはずですが、彼らの職務内容は全く基幹的ではありません。同一労働同一賃金原則は異なる労働に従事する者を救うわけではないというあまりにも当たり前の事実は、今日の日本においてどこまで理解されているのでしょうか。

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