フォト
2024年9月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
無料ブログはココログ

« 目指せ監督官! | トップページ | 『社会政策学会誌』18号 »

2015年2月 7日 (土)

日本航空整理解雇事件のアイロニー

日本航空の整理解雇事件は、客室乗務員もパイロットも、最高裁が上告を退けて確定したようです。

http://www.sankei.com/affairs/news/150206/afr1502060028-n1.html

日本航空の会社更生手続き中に整理解雇された元パイロット64人が解雇取り消しを求めた訴訟で、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は6日までに、元パイロットらの上告を退ける決定をし、原告側敗訴が確定した。決定は5日付。元客室乗務員71人も4日に最高裁で上告を退けられ敗訴が確定している。

 一審東京地裁は、日航は更生計画に沿って人員を削減する必要があり、希望退職を募るなどの努力もしたことから「解雇は有効」と判断。二審東京高裁も支持した。

本ブログでも何回か取り上げてきましたが、この事件ほど、解雇というものに対する日本人の感覚の特殊性を示すものはないように思われます。

会社がつぶれかけても整理解雇はケシカラン一方で、組合所属や年齢に基づく解雇を不当だとする感覚は著しく乏しい、という欧米人には理解しがたい感覚です。

この辺を、一昨年『世界』5月号に寄稿した「労使双方が納得する」解雇規制とは何か──解雇規制緩和論の正しい論じ方」でこう述べたところですが、

http://homepage3.nifty.com/hamachan/sekaikaiko.html

 要するに、アンフェア解雇は厳しく規制するが、ジョブレス解雇は原則として正当であり、ただしそれがアンフェアなものとならないようきちんと手続規制をかけるというのが、ヨーロッパ諸国の解雇規制の基本的な枠組みなのである。

 この解雇に関する日欧の常識の乖離が露呈したのが、日本航空(JAL)の整理解雇問題であった。JALの労組は国内向けには整理解雇法理違反だと主張していたが、国際労働機構(ILO)や国際運輸労連(ITF)にはそんなものが通用しないことがわかっているので、解雇基準が労組に対して差別的だという国際的に通用する主張をしていた。ところが、それを報じた日本の新聞は、記事の中では「2労組は、整理解雇の際に『組合所属による差別待遇』『労組との真摯(しんし)な協議の欠如』『管財人の企業再生支援機構による不当労働行為』があったと指摘。これらは日本が批准する結社の自由と団結権保護や、団体交渉権の原則適用などに関する条約に違反すると主張している。」とちゃんと書いていながら、見出しは「日航2労組『整理解雇は条約違反』ILOに申し立て」であった*1。残念ながら、「整理解雇は条約違反」ではないし、そんなナンセンスな申し立てもされていないのである。

しかし、とりわけパイロットなどは、もっとも典型的なジョブ型職業であるようにもおもわれますが。減便して余ったパイロットを客室乗務員や地上職に配置転換できるわけでもないでしょう。医師を看護師や医療事務に移せないように。

もひとつ、この事案で意識すべきは、人員整理における年齢基準に疑問を抱いていないこと。地裁判決では、こう述べています

・・・このように年齢の高い者から順に目標に達するまでを対象とするという基準は、上記のとおり、解雇者の恣意が入る余地がないことに加え、年功序列型賃金体系を採る企業では、年齢の高い者を解雇対象者とするほど人件費の削減効果が大きいこと、定年制を採る企業では年齢の高い者ほど定年までの期間が短く、企業に貢献できる期間が短いという意味において将来の貢献度が相対的に低いとの評価が可能であること、再就職が困難である等の問題もあるものの、退職金等により、その経済的打撃を調整しうること・・・等からすれば、これを他の人選基準では目標神通を満たさない場合の補助的な基準とすることには合理性があるということができる。

これまた、『日本の雇用と中高年』で述べたように、日本社会でしか通用しない論理なのですが。

(追記)

こういう、メンバーシップ感覚だけ旺盛で、欧米型のフェアネスの感覚を欠いた議論の行き着く果ては、

https://twitter.com/ikedanob/status/563715164370120705

これは重要な判例。会社がつぶれても最高裁まで争える日本は、労働組合のユートピアだ。

欧米型のフェアネス感覚の欠如したこの池田信夫氏のような人間が、あたかもジョブ型の合理性から評論しているような顔で、こういうインチキな議論を展開できるになるわけです。

欧米なら普通に不当労働行為だとか年齢差別だって言えるはずのところで、日本独特のメンバーシップ感覚に訴えざるを得ないような日本社会のどこが「労働組合のユートピア」なのか。

しかし、そもそも労働組合を企業メンバーシップ感覚からしか理解できない人にとっては、こういう非論理が平気で通用してしまうわけですね。

(おまけ)

「ニュースの社会科学的な裏側」さんがこのエントリを引いていろいろと書かれているのですが、

http://www.anlyznews.com/2015/02/blog-post_8.html

「メディアと判決文の両方を批判しているのだが、話がちょっと分かりづらい」というのもややずれていて、本ブログの文脈ではすでに何回も書いてきたテーマについて、「やっぱり日本人の感覚はこうだよね」と、言っているに過ぎないのです。

上にあるように、そもそも組合サイドの宣伝戦略がそれに乗っかったものでしかないので、別に今さらメディアと判決を事々しく批判しなおしているわけでもない。

まあ、あえて言えば、いつものことながら、インチキな議論を展開する方々に対する皮肉がむずむすするということでしょうか。

« 目指せ監督官! | トップページ | 『社会政策学会誌』18号 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 日本航空整理解雇事件のアイロニー:

« 目指せ監督官! | トップページ | 『社会政策学会誌』18号 »