ベンチャー企業というのは夢を見て24時間働くというのが基本@三木谷浩史楽天会長
1月29日の産業競争力会議の議事録がアップされています。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai20/gijiyoushi.pdf
分科会ではなく本会議なので、いろんな人が広い分野にわたっていろんなことをいっているんですが、その中でちょっと聞き捨てならない発言があったようです。
(三木谷議員)
雇用に関してだが、ベンチャーは是非この対象から外してほしいと思う。私もそうなのだが、ベンチャー企業というのは夢を見て24時間働くというのが基本だと思っているので、そういう会社に残業云々と言われても正直言って困る。我々も会社に泊まり込んで仕事をやっていた。ベンチャーはこの対象から外して、そのかわりがぽっと公開したらもうかるというものではないかなと思う。
いや、ベンチャー企業の経営者の方がベンチャー精神に満ちあふれて1日24時間、1年365日働こうが何しようが、誰からも指揮命令を受けているわけではないので、言葉の正確な意味での自己責任です。
しかし、そのベンチャー経営者との間に日本国民法第623条に基づき雇用契約を締結して、労務を提供して報酬を得る約束をしただけの、一介の労働者に対して、「ベンチャー企業というのは夢を見て24時間働くというのが基本」という倫理を要求するのが、契約関係に基づいて取引することを大原則とする我らが市場経済社会において正当なことであると心の底から考えておられるとするなら、それは残念ながら他のいかなる先進諸国においても共感を得られないでしょう。
労働者ではない経営者と、純粋の労働者の間に位置するのが、両方の性質を兼ね備えている(言葉の正確な意味における)管理監督者であり、それ故、どの諸国においても、管理監督者については労働時間規制がなにがしか緩和ないし除外されているわけですが、言うまでもなくそれは「監理監督者」という職務の性質に着目しているから認められているのであって、会社自体がベンチャー企業だからそこで働いている労働者はみんなベンチャー労働者だ、ゆめをみて24時間働くのだなんて馬鹿げた話はないわけです。
ていうか、経営者やせいぜい管理監督者という職務ベースに通用する話を、会社というバウンダリーでその中の人にみんな適用して疑いを持たないというところに、いかにも特殊日本的なメンバーシップ感覚が濃厚に満ちあふれているわけですが。
実を言うと、日本のベンチャー型ブラック企業のロジックというのは、まさにこのタイプなんですね。職場の真端にまで経営者になったかのような感覚を要求する。
メンバーシップ感覚の上にベンチャー礼賛が乗っかると日本型ブラック企業が生み出されるわけです。
(参考)
http://homepage3.nifty.com/hamachan/q&a1312.html(「ブラック企業問題とは何か」 『人事労務実務Q&A』12月号 )
4 「社畜」批判がブラック企業を産み出すパラドックス
この点についても、上記萱野さんとの対談で、筆者は次のように説明しました。いささか入り組んでいますが、注意深く読んでください。
・・・これはものすごくパラドキシカルで頭が混乱するかもしれませんが、そういうメンバーシップ型社会のあり方に対する批判が80年代末から90年代ごろ、「「会社人間」はだめだ、「社畜」はだめだ」というかたちで、いっせいに噴き出します。・・・世界的には80年代にイギリス、アメリカのネオリベラリズムが非常に流行って、90年代初めごろに日本に入ってきます。この二つの流れがないまぜになる中で、「だから会社に頼らずもっと強い人間になって市場でバリバリやっていく生き方がいいんだ」という強い個人型のガンバリズムをもたらしました。
大変皮肉なことに、強い個人型ガンバリズムが理想とする人間像は、ベンチャー企業の経営者なんです。理想的な生き方としてそれが褒め称えられる一方で、ベンチャー企業の下にはメンバーシップも長期的な保障もあるはずもない労働者がいるわけです。しかし、彼らにはその経営者の考えがそのまま投影されます。保障がないまま、「強い個人がバリバリ生きていくのは正しいことなんだ。それを君は社長とともにがんばって実行しているんだ。さあがんばろうよ」という感じで、イデオロギー的にはまったく逆のものが同時に流れ込むかたちで、保障なきガンバリズムをもたらしました。これが実は現在のブラック企業の典型的な姿になっているんではないでしょうか。・・・
つまり、労働者を企業のメンバーと見なすことに疑問を抱かないという点では従来型の日本型雇用の発想を維持しながら、「保障」や「見返り」といった現象面のみを否定しようとする流行のイデオロギーが、結果的に「保障なき拘束」「見返りのない滅私奉公」という不合理極まるシステムを産み出してしまったわけです。
この奇怪な構図は、今日ブラック企業を論ずる際にもいつも姿を現します。従来の日本型雇用を信奉する立場の人々からは、ブラック企業における追い出しの現場の凄惨さへの認識の乏しいまま、それくらいの長時間労働は当たり前だという若者批判が繰り返されますし、まったく逆の日本型雇用を否定する立場の人々からは、従来型のメンバーシップ意識をもはるかに超える宗教的とすら言えるような経営者へのイデオロギー的同一化の実態への認識が欠けたまま、「辞めればいい」という軽々しい評論が飛び交います。こういう不毛な議論のはざまで、身も心も捧げ尽くした若者たちが安易に使い捨てられている、という点にこそ、この問題の深刻さがあるというべきでしょう。
(追記)
典型的な「意識高い系」の兄ちゃんが、市場経済の基本原則を「意識高い」と罵っている奇観:
https://twitter.com/Goendama/status/571606647006601216
自ら企業もしない・できない系の意識高い系が呪詛を吐いて居るな。有る意味ベンチャー企業はどこも同じだぞ。
自分は、雇用契約で賃金もらって働くような「意識低い系」じゃなくって、ベンチャー意識に充ち満ちてビジネスを切り開く「意識の高い」人間だと思っている人間が、なぜか用語法を180度逆転させて喋っているのが可笑しい。
ちなみに、「意識高い系」については、常見陽平さんの『普通に働け』を、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/10/post-7646.html
日本の雇用・労働をめぐる議論は、エリートかワーキングプアを対象としたものに偏りがちである。
そこには「普通の人」の「普通の働き方」が見落とされており、ブラック企業論争やノマド論争で可視化されたのは、私たちの「普通に働きたい」というこじれた感情であった。
しかし、「普通の人」とは誰か?
「普通の働き方」とは何か?
そもそも私たちは「普通」ということが、実はよく分かっていないのだ。
本書は豊富にデータを揃えながら「意識の高い」系言説のウソを暴き、私たちノンエリートのための働き方を考察する。
まっとうな働き方については、同じ常見陽平さんの『僕たちはガンダムのジムである』を、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-ffa2.html
・・・会社と社会は、僕たちジムで動いている。
この現実を直視するべきだ。
・・・ジムであることの誇りと責任を今こそ持とうではないか。
世の中はガンダムだけで動いているわけではない。世の中はジムで動いている。・・・
・・・僕たちは「ガンダム」のジムである。
ジムだからといって、人生は終わったわけではない。・・・世の中は普通の人で動いている。ジム同士のつながる力で、真っ白な手を広げて待っている明日を少しでも明るく、1℃でも熱くしたいのだ。
それぞれお薦めしておきます。
(再追記)
一方、はてぶに適切な用語法の例が:
http://b.hatena.ne.jp/entry/eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/02/24-89d1.html
Dicer 「ベンチャーは基本的に自分で起こすもの。就職するものではない」と何度繰り返しても、意識の高い高学歴が「夢のある話」に引っかかってブラック零細企業へ就職していく。人生棒に振っているのわかってる?
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コメント
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匿名希望です。
ちょっとずれた話になりますが
三木谷氏のこのような体育会系のノリは
楽天株式会社の中で既に崩壊しつつあるそうです。
楽天では有名な朝会という毎週1回
早朝8:00から全社員参加で行う会議がありますが
この会議はずっと従業員が自主的に参加するという
ことになっていて、営業時間外なので勤務に
含めないということになっていました。
ところが実際は参加状況を個人単位で管理されており
不参加が多いと昇給に影響が出るというものだった
そうです。
営業時間外の会議の参加状況が成績に影響があるのは
おかしいので不満を持つ人もいたそうですが、
うちは体育会系なのでそういうノリが嫌いなら
辞めてもらって結構という対応だったそうです。
ところが英語化で外国人を積極的に雇った結果、
外国人から不満が多くあがり、誰も彼らが納得のいく
説明ができなかったので、結局朝会の日は勤務時間を
am8:00からに繰上げ、定時も繰り上げる、となった
ようです。
自分の会社内がグローバル化でそんな状況になっているのに
こんなことを言ってるのはなんだかなぁと思いますね。
投稿: 匿名希望 | 2015年3月 2日 (月) 22時18分