江口匡太『大人になって読む経済学の教科書』
江口匡太さんより『大人になって読む経済学の教科書』(ミネルヴァ書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.minervashobo.co.jp/book/b184827.html
規制緩和って本当にいいこと? 市場原理主義って本当にわるいこと?
市場にまかせてばかりでは解決しない問題がある一方、市場を否定すると、よりひどい事態に陥ってしまうことがあります。それは一体どういうことなのでしょうか。本書では、数式や図を使わずに、身近なトピックから、市場経済のしくみを分かりやすく解説。ルールの重要性を理解し、市場の有効性を学びながら、分かったつもりの経済学をもう一度学びます。
江口さんといえば、かつて『キャリア・リスクの経済学』をかかれた労働経済学者ですが、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/01/post-4efe.html(江口匡太『キャリア・リスクの経済学』)
今回の本は題名通り、一般向けに経済学の考え方の基礎をわかりやすく解説した本です。
ヤフオクから始まって、身近なネタを次々と繰り出しながら、数式の一つも出さずに、一気に読ませる手際は見事です。
なぜか扉が上下反転していたのは、製本やさんも読んで思わず踊り出してしまったからでしょうか。
さて、こういう中身のうち
はじめに——経済学を学ぶ意味
第Ⅰ部 市場経済のしくみ
第1章 いつでも買える安心感——市場を通した分業
1 山奥でいつでもガソリンが買える理由
2 市場経済を否定すると……
3 欲しいモノしか市場に現れない
4 日本経済の大きさ
5 ネット・オークションから考える市場のしくみ
6 ヤフオクの魅力
7 市場取引のコスト
8 信用の価値
コラム1
第2章 1万円札は20円で作られる——貨幣と信用
1 魔法の紙切れ
2 貨幣が機能する条件
3 貨幣の役割
4 貨幣発行益という麻薬
5 金の呪縛
6 お金を持っていると損をするとき
7 お金は永遠に流通しなければならない
8 信用創造——銀行のしくみ
コラム2
第3章 利益はどこから生まれるか——裁定取引とブラック・マーケット
1 利益の源泉
2 現代の金融取引にみる裁定取引
3 チケットの転売は是か非か
4 自由な経済取引の効率性
5 ブラック・マーケットはなぜ発生するのか
6 すべてを表の市場取引へ?
7 価値の測り方
コラム3
第4章 安心安全な取引——情報の非対称性
1 市場の成立を脅かす問題
2 情報の非対称性
3 品質を保証するしくみ
4 「はずれ」の代償は誰が負うべき?
5 経済学で考える消費者保護
6 長期的関係から得られる利益
コラム4
第Ⅱ部 市場経済における政府の役割
第5章 来ない救急車——相対価格と税制
1 シルバーパスから考える現物支給と現金支給
2 相対価格と消費行動
3 食糧品と旅行,どちらの税率を高くする?
4 来ない救急車
5 医療や教育の分野で,現物支給が広く採用される理由
コラム5
第6章 困っている人を救うには——市場経済と格差
1 市場原理主義が格差社会を作る?
2 グローバル化と市場競争
3 格差の固定化という問題
4 市場の不完全性と所得分配
5 日本の生活保護制度
6 不平等を測る尺度
コラム6
第7章 市場がない!——環境問題と外部性
1 経済学の視点から環境保全を考える
2 環境汚染の費用と利益
3 排出権取引をめぐって
4 市場がない……
5 共有地の悲劇
コラム7
第Ⅲ部 企業とビジネス
第8章 会社は誰のものか——不完備性と労働者
1 市場経済VS計画経済——再論
2 企業の存在理由
3 取引の不完備性
4 人を雇うということ
5 見えにくい仕事
6 会社は誰のものか?
コラム8
第9章 日本限定発売のブランド品——ビジネスの戦略
1 あちこちで存在する価格差
2 価格をめぐる戦略
3 さまざまな価格設定
4 価格支配力はどのように発生するのか
5 価格支配力と独占
6 垂直統合
7 流通の系列化のメリット・デメリット
8 知的財産権
コラム9
第Ⅳ部 市場と国家
第10章 日本の食が危ない?——貿易と国際関係
1 貿易のしくみ
2 日本の貿易の概況
3 保護主義
4 戦略的貿易理論
5 市場開放と経済成長
6 食糧とエネルギー
7 貿易と国家
8 貿易黒字と貿易赤字
9 お金は国境を越えて
コラム10
第11章 豊かな国と貧しい国——経済が成長するために
1 他のことが考えられなくなる大切な問題
2 経済成長に必要なこと
3 TFP
4 幸せとは何か
5 豊かな国になるには
コラム11
おわりに——経済学の考え方
労働問題に関わるのは「第8章 会社は誰のものか——不完備性と労働者」ですが、その中に、一点誤解を招きかねない表現がありましたので、指摘しておきます。244ページですが、
・・・経済学では労働者=働く人ですが、法律上は違います。労働基準法では、使用者の指揮・命令に従い、仕事をする上で裁量の範囲が小さく、また、その仕事を自由に拒否できない場合に労働者と見なされます。このような環境で働いている場合、労働者性があるといいます。逆に、裁量労働制や在宅勤務に見られるように、仕事をする上で使用者の指揮をあまり受けず、自由な裁量が与えられている場合は、たとえ形式上は雇われていても労働基準法上の労働者としては扱われず、個人事業者と見なされることもあります。・・・
もちろん、裁量性は労働者性の判断基準の一つではありますが、それこそここで挙げられている裁量労働制も在宅勤務も、個人事業者ではなく労働者であること自体には何の疑いもありません。労働者ではあるけれども裁量性が高いので労働基準法の労働時間規制がそのまま適用されないということですから。この前後は、労働者内部の扱いの違いの議論と、労働者かそうでないかの議論とがやや混線しているようです。
後半のロジックは、むしろよく出てくるのは、たとえ形式上は個人事業主であっても労働法上の労働者と見なされることがあるという文脈であって、それが問題になるのは多くの場合、労災の関係であるわけです。
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