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2014年12月 1日 (月)

「特殊日本型派遣法からの脱却」 @『全国労保連』11月号

Kaihou1411『全国労保連』11月号に「特殊日本型派遣法からの脱却」 を寄稿しました。原稿執筆時はこれから審議という状況でしたが、刊行時には国会解散で再び廃案になってしまいました。これはさすがにまったく予測していませんでした。

 先の通常国会で条文ミスのために廃案になった労働者派遣法改正案が再度臨時国会に提出された。マスコミや国会では依然として、そもそも派遣という働き方は良いのか悪いのかという議論ばかりが盛んであるが、今必要なのは、そういう派遣労働だけを取りだして、他の労働法分野の常識とは隔絶した特別扱いをしたがる発想そのものの見直しではないか。

 労働法研究者の多くがうすうす気がついているにもかかわらず、敢えて言挙げしてこなかったことは、日本の労働者派遣法制が世界的に見て極めて異例な仕組みになっているということである。先進諸国の派遣法制は、派遣労働者を保護するための労働法である。当たり前ではないかと思うかも知れないが、日本の派遣法はそうではない。派遣という本質的に望ましくない働き方を抑制するために派遣事業を規制することが目的の事業立法である。問題は、派遣という働き方が誰にとって望ましくないのか、だ。派遣法制定時の政策文書を見れば分かるように、「望ましくない」のは日本的雇用慣行の中にいる常用労働者にとってであって、派遣という働き方をしている労働者にとってではない。それを象徴する言葉が派遣法の最大の法目的とされる「常用代替の防止」だ。派遣という「望ましくない」連中が侵入してきて、われわれ常用労働者の雇用が代替されては困る、という発想である。

 ではどうしたら常用代替しないように仕組めるか。最初に派遣法が制定された時のロジックは、新規学卒から定年退職までの終身雇用慣行の中にいないような労働者だけに派遣という働き方を認めるというものだった。それを法律上の理屈としては、専門的業務だから常用代替しない、特別な雇用管理だから常用代替しない、と言ったわけである。しかし、その「専門的業務」の中身は、結婚退職したOLたちの「事務的書記的労働」であった。「ファイリング」という職業分類表にも登場しない「業務」が最大の派遣専門業務となったのは、その間の論理的隙間を埋めるものであり、後には事務職なら最低限のスキルである「事務用機器操作」が専門業務としてその隙間を埋めた。このごまかしが世間で通用したのは、OLは新規学卒から結婚退職までの短期雇用という暗黙の了解の下に、OLの代替は常用代替ではないと認識されていたからであろう。男性正社員の終身雇用さえ維持できれば、OLがいくら派遣に代替されてもかまいやしなかったのである。その虚構を維持するためなら、高度な専門業務をやっている男性の派遣を禁止しながら、補助的な女性の事務派遣ばかりが拡大しても、誰も文句を言わなかった。

 このごまかしに満ちた特殊日本的労働者派遣法を抜本的に作り替えるチャンスが実は一度だけあった。ILO181号条約の制定を受けて行われた1999年の派遣法改正だ。筆者は1997年のILO総会で同条約の採択過程に立ち会い、世界の政労使が交わす議論をつぶさに見てきただけに、この改正が新条約の思想に立脚して行われると考えていたが、残念ながらそうはならなかった。「常用代替の防止」という日本独自の派遣法思想は何の修正もなく維持され、専門業務だから常用代替しないというフィクションも維持された。付け加えられたのは、専門業務ではなく、それゆえ常用代替する危険性のある一般業務について、派遣期間を限定するから常用代替の危険性が少なくなるという新たなロジックである。

 この奇妙なロジックの矛盾が露呈したのが、有名ないよぎん事件である。普通の雇用であれば有期契約を何回も反復更新すれば雇止めが制限される可能性が出てくるのに、裁判所は、派遣法は常用代替防止が目的だからといって、それを認めなかった。日本的派遣法は、派遣労働者を差別することを要求しているのである。

 今回再提出された派遣法改正案は、その元になった研究会報告において史上初めて、特殊日本的「常用代替防止」論からの部分的脱却を打ち出した。そこでは、まず「無期雇用派遣については、派遣労働の中でも雇用の安定やキャリアアップの点で優位であること」から「常用代替防止の対象から外」し、有期雇用派遣については「個人が特定の仕事に有期雇用派遣として固定されないこと」を目的とするとともに、従来通り「派遣先の常用労働者が有期雇用派遣に代替されないことという派遣先レベルの常用代替防止」も維持するというのである。だが前2者は、少なくとも特殊日本型派遣法が制定されたときに考えられていた意味での「常用代替防止」ではない。むしろヨーロッパで一般的な無期雇用原則である。

 均等待遇原則や集団的労使関係システムの活用が極めて不十分であるなど、細かな点では色々と問題もあるが、世界共通の原則に基づく派遣法に転換しようとしている今回の改正案を、男性正社員の常用代替防止ばかりを金科玉条にしてきた旧来の思想で批判するだけでは、議論はますますガラパゴスの如き袋小路に入り込んでいくだけであろう。

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