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2014年11月27日 (木)

経済同友会の労働政策提言

昨日、経済同友会が「「攻め」の労働政策へ5つの大転換を—労働政策の見直しに関する提言—」という提言を発表しました。

http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2014/141126a.html

興味深いのはその名前です。

改革推進プラットフォーム
産業構造改革PT
委員長 冨山 和彦
(経営共創基盤 代表取締役CEO)

あの「L型大学」の冨山さんが委員長を務めるPTの提言なんですね。

というだけで毛嫌いする人が出てきそうですが、いやいやあまりにもまっとうなことを、経営者が言いたがらないようなまっとうなことをちゃんと言っています。

http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2014/pdf/141126a.pdf

提言1:最低賃金引き上げのための最低賃金決定要素の見直し

これまでの労働政策では、最低賃金の引き上げは、日本から生産拠点を流出させ、産業の空洞化を起こすものとして消極的な評価を受けてきた。また、経済学的には最低賃金の引き上げは失業を生み出すという立場が主流であった。・・・

しかし、対面サービスを基本とするサービス産業においては、製造業のような空洞化リスクは小さく、構造的人手不足と相まって、より高い生産性の企業を基準とした最低賃金上昇を行っても、需要不足失業・構造的失業が発生する可能性は低い。むしろ最低賃金の上昇に耐えられない低賃金事業者の廃業や事業売却を通じて、高い賃金を支払っている(≒労働生産性の高い)企業への事業と雇用の集約化を進める効果の方が期待できる。・・・

他方、今や日本の労働者の大半は非組合員(労働組織率は約17%)であり、その多くはサービス産業and/or 中小企業で働いている。すなわち労働条件の交渉力と情報力において典型的な非対称が存在する労働市場環境におかれている。本来、最低賃金制度を含む様々な労働規制は、この非対称性を克服することをも目的としており、わが国においては、ここで産業構造と労働力需給の実態を踏まえ、生産性と賃金向上を企図した賢い規制、スマートレギュレーションを導入することは極めて重要になっている。

・・・この際、医療・福祉などの官製市場では、賃金体系の見直しを後押しするために、公定価格や補助金なども、より労働生産性と賃金水準の高い事業者を支援する方針へと変更するべきである。

へっぴり腰の労働組合よりよほどストレートに最低賃金引き上げというスマートレギュレーションの必要性を訴えていますね。

提言2:サービス産業における労働基準監督の強化

・・・しかし、今や失業懸念は大きな問題ではなくなっている上に、雇用の大半を吸収している非製造業、中でも対面型サービス産業は労働集約的な産業が多く、従業員を酷使してコストを下げるインセンティブが働きやすい。また、産業特性上、事業所が多拠点化するため、出先で起きている労働状況を把握しにくい。これらの要因が相まって、従業員が使い捨てされたり、パワハラやセクハラが放置されたりするおそれを拭いきれない。また、サービス産業は非正規雇用が多い上に、技能レベルも低い労働者が多く、正社員と言っても名ばかりで安定的な雇用とはいえない場合が少なくない。加えて、このセクターは中小企業が多く、組合組織も存在しない場合が大半であり、交渉力、情報力の両面において弱い立場の労働者が多い。

こうした状況を勘案すると、サービス産業においてこそ、厳格な労働基準監督を行う必要性はより高まっている。

したがって、労働基準監督10の定期監督は、サービス産業への比重を高めるべきである。現状では、申告監督の事件割合はサービス産業の方が多いにも関わらず、定期監督にける製造業への実施割合は高く、実態に即していない。また、申告監督をより充実させるためには、労働基準監督署等に対する通報制度の周知徹底や機能強化を図ることが不可欠である。さらに、従来以上に企業規模や経営状況に関係なく、公平に違反行為の労働基準監督にあたるべきである。・・・

このあと弁護士や社労士など民間に監督行政を委託すべきという議論が展開されていき、そこは議論のあるところでしょう。

提言3:雇用流動性の高いサービス産業における人財育成の充実と労働者保護

・・・今や雇用の大部分を占めるサービス産業における政策課題は、これ以上、雇用の流動性を高めることではなく、流動性が高いことを前提に、職業能力開発を充実させることと、ジョブ型正規雇用への就労促進で雇用の安定化を図ること、そして企業間移動に際して労働者の経済的な実質利益を守ることである。

この方策としては、中等教育(特に高校)、高等教育(大学と高等専門学校)及び専門学校のあり方を見直すことが不可欠である。今までの教育では、現代の社会や企業の求める人財の育成に貢献できていない。とりわけサービス産業や地域経済の活性化に資する人財需要には応えられていない。そこで、これまでの方針を大きく転換して、サービス産業に特化した高等専門学校を作るなど、中等・高等教育においてもサービス産業を中心にした職業能力開発を積極的に実施していくべきである。

これがL型大学論につながっていくわけですが、その前提となる認識がどういうものであるかを、論じる人はちゃんと理解するべきでしょう。

提言4:労働条件規制の企業規模による格差の解消

これまでの労働政策は、大企業における日本的雇用慣行を前提に策定されていたため、中小企業の事務対応能力の低さ、経済的負担能力の低さなどを理由に、企業規模に配慮するべきとの主張がなされ、中小企業に寛容な制度が是とされてきた。・・・

しかし、繰り返し述べてきたように、今後の労働政策は、グローバル経済圏の大企業で働く労働者の保護よりも、ローカル経済圏の中小企業において安定的で高賃金の雇用を生み出すことにより重心を置くべきである。

加えて既述の通り、ローカル経済圏の中小企業にあっては、労働集約的であるために、従業員を酷使するインセンティブが働き、かつ労働組合などによる牽制も働きにくい。したがって、現実問題として、労働者保護の要請は中小企業の方が強い場合が多い。

ここまではっきりと中小企業優遇(という名の中小企業労働者冷遇)をやめるべきといいきっている人はあまりいないのでしょう

提言5:行政庁における労働政策の位置づけの見直し

本来、厚生労働省設置法においては、「国民生活の保障及び向上」だけでなく、「経済の発展に寄与」することも目的とされている。厚生労働省は、今こそ設置法の趣旨に立ち返り、経済戦略官庁として、労働市場からの規律付けによって企業の生産性を向上、ひいては持続的な経済成長を実現させることを考えるべきである。

とかく、経済の発展に寄与するためには、労働規制なんてやめとけといいがちなある種の人々と違って、労働規制を厳格にやることこそが生産性向上、経済発展につながるんだと言っているわけです。

繰り返しますが、「L型大学」に脊髄反射している人々は自分が何に反発しており、即ち何を(無意識裡に)擁護しているのかを、改めて意識化した方がいいと思われます。

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コメント

L型大学は「法学部なら、刑法ではなく道交法を学ぶべき」 ジョークや分かりやすい譬えだったのかもしれないが、過度に侮蔑的。当事者は不愉快に思うだろう。

議論は反目ではなく共感・相互理解を目指して行うことに価値がある。相手を否定したりバカにしてはいけない。

>サービス産業に特化した高等専門学校を作るなど、中等・高等教育においてもサービス産業を中心にした職業能力開発を積極的に実施していくべきである。

真面目なblogの真面目な記事に不謹慎なコメントで申し訳ありませんが、上の記述を見て以前に読んだ”都立水商”という小説を思い出しました。
これは文部省キャリア官僚のバーでの思い付きから、新宿(歌舞伎町?)に水商売(サービス産業です)の従業員(ホステス、バーテン等)を育成する都立の商業高校ができて という内容でした。
テレビドラマにもなったそうなので、当時はそれなりに話題になったのではないかと思います。

昔(70年代)に富山県(だったと思います)では、普通科高校の数を制限して職業科の高校を増やす方針だったと思います。これは今でいえば地方におけるG型高校よりもL型高校の優先ということになるのでしょうか?しかし当時でもこの方針はかなり不評だったと思うので、現在この方針を実施するのも抵抗が多いと思います。

富山県の職業高校政策については、本ブログでも何回か取り上げたことがあります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-d725.html">http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-d725.html(富山7・3教育は「ひずみ」だったのか?)

もしかしたら「通俗的な理解」の中に含まれているのかも知れないのですが、私が興味があるのは世間的には極悪非道の象徴のように非難されてきたいわゆる「7・3教育」との関係はどうなっていたのだろうか、ということです。「7・3」というのは、職業高校が7,普通科高校が3という割合を維持していこうとする政策です。

『七・三教育のひずみ』などという本まで出たくらいで、60年代から70年代にかけての頃には、普通科に行きたいと願う子どもたちや親たちの願いを無慈悲に踏みにじり、多くの子どもたちを職業科などという下賤な学校に追いやる教育政策として批判の的になっていまし。当時、「7・3」を口を極めて非難していたのは、教職員組合や労組、社会党、PTA、「母親の会」などで、これを受けて富山新聞社は大キャンペーンを行い、それが上記の本になったわけですが。

初めに付けられている年表みたいなものには「七・三体制」という文字もあるので、当然密接なつながりもあると思うのですが、このあたりをどなたかわかりやすく解きほぐしていただけるとありがたいと思います。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-4533.html">http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-4533.html


このあたりの詳しいいきさつについて、是非何らかの形でまとめていただいて、公表していただくと、多くの人々にとって大変有用なのではないかと思うところです。

また、その後の富山について、単に「全国に画一的な計画が押しつけられていく」というだけなのか、この思想がまた別の形で現代まで脈々と息づいている側面はないのだろうか、といった感想も持ちました。

中小企業家ではなく、こちらの同友会さんも、ぎりぎりまともなことを書いているようですね。「社会の公器」って言葉が、「経労委報告」から消えて久しいけど、久しぶりにここでお目にかかりました。そう思って委員の名簿を見たら、小松製作所の野路会長の名前もありました。それと政策投資銀行の薄井設備投資研究所長の名前がありました。この研究所は、先日亡くなった宇沢弘文先生が研究の拠点としていた(東大紛争で大学では研究どころではなかった時代でした)ところで、薄井さんはこの9月に、同研究所の設立50周年を記念して東大出版会から出版された『日本経済 社会的共通資本と持続的発展』(間宮陽介他編)でも「都市と持続可能性」という章を執筆されています。地域において、子育て世代のために、「相応の賃金」経済同友会もどうせ「安定した雇用」「やりがい」のある「しごと」を創生すべきというなら、社会的共通資本をベースとした持続可能なもうひとつの市場経済のあり方を考えるべきでしょうね。

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