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「『雇用維持型』から『労働移動支援型』への転換」@損保労連『GENKI』10月号

112損保労連『GENKI』10月号に「『雇用維持型』から『労働移動支援型』への転換」を寄稿しました。

 第2次安倍政権が誕生して以来、雇用労働政策では矢継ぎ早にさまざまな政策が打ち出されています。本コラムではそのうち解雇や労働時間など労働条件規制に関する問題を主に取り上げてきましたが、もう一つの柱として「『雇用維持型』から『労働移動支援型』への転換」があります。これは雇用助成金や教育訓練給付といったソフトな政策手段を用いるものなので、労働規制に関わる問題ほど注目を集めていませんが、政策思想としてはむしろ現政権の考え方がかなりくっきりと表れている分野ということもできます。また、抵抗が少ない分、既にかなりの政策が実施に移されてきています。

 昨年(2013年)6月に取りまとめられた『日本再興戦略』では、「雇用制度改革・人財力の強化」の冒頭に「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策転換(失業なき労働移動の実現)」を置き、雇用調整助成金(2012年度実績額約1,134億円)から労働移動支援助成金(2012年度実績額約2.4億円)に大胆に資金をシフトさせ、2015年度までに予算規模を逆転させるとか、学び直しの支援のために雇用保険制度を見直すこと、さらにはハローワークの求人・求職情報を民間人材ビジネス等に提供することや民間人材ビジネスのさらなる活用が謳われていました。

 これらは既に2014年度予算の中に盛り込まれ、既にどんどん実施に移されています。たとえば、雇用調整助成金は545億円に半減する一方、労働移動支援助成金は301億円と一気に二桁上がっています。去る9月に示された2015年度予算要求では、雇用調整助成金はさらに258億円に縮小し、労働移動支援助成金は363億円に膨らんで、まさに約束通り「逆転」しています。そんな多額の予算を組んで、いきなりそれだけの数の転職者が出てくるのかいささか心配になりますが、おそらくそれを側面から促進する役割を民間人材ビジネスに期待しているのでしょう。そのために2014年4月には職業安定局に民間人材サービス推進室が設置されています。

 ハローワークの求人情報については既に2014年9月から民間人材ビジネスへの提供が始まっています。無料で紹介を受けるつもりでいた求人企業が、有料職業紹介事業者から連絡を受けて手数料を要求されたという事態も考えられますが、まだ問題は少ないということでしょう。これに対し、求職者情報はまさにプライベートな個人情報そのものなので、厚生労働省も慎重に今年の5月から6月にかけて「ハローワークの求職情報の提供に関する検討会」(座長:鎌田耕一)を開催し、その取りまとめに基づいて、現在労働政策審議会職業安定分科会で審議が行われています。工程表によると2015年度から実施する予定のようです。

 学び直し支援は教育訓練給付の拡充という形で行われ、2014年10月から「専門実践教育訓練」という名前で実施されています。この給付は、「受講者が支払った教育訓練経費のうち、40%を支給(年間上限32万円)。更に、受講修了日から一年以内に資格取得等し、被保険者として雇用された又は雇用されている等の場合には20%を追加支給(合計60%、年間上限48万円)。給付期間は原則2年(資格の取得につながる場合は最大3年)」と、大変手厚いので、対象となる講座がどのようなものであるかは極めて重大です。指定基準では「業務独占資格・名称独占資格の取得を訓練目標とする養成施設の課程」、「専門学校の職業実践専門課程」、「専門職大学院」の3つが挙げられています。

 最初のものは「○○師」「○○士」といった職業資格の取得を目指すコースなのでよくわかりますが、2番目と3番目は専門学校と大学院の授業料を雇用保険財政でまかなってあげるような制度になっています。これらが入っているのは、ここ数年来の政府の政策として、高等教育レベルでの職業教育機関を確立していこうという方向が打ち出されているからです。

 この点で最近興味深い政策の動きがありました。官邸に設置された教育再生実行会議が、2014年7月に「今後の学制等の在り方について」という第5次提言を出し、その中で、「実践的な職業教育を行う高等教育機関を制度化する」とされているのです。曰く:「社会・経済の変化に伴う人材需要に即応した質の高い職業人を育成するとともに、専門高校卒業者の進学機会や社会人の学び直しの機会の拡大に資するため、国は、実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関を制度化する。これにより、学校教育において多様なキャリア形成を図ることができるようにし、高等教育における職業教育の体系を確立する。具体化に当たっては、社会人の学び直しの需要や産業界の人材需要、所要の財源の確保等を勘案して検討する。」今後、この「職業大学」が現実化していくと、そこでの「学び直し」についても手厚い教育訓練給付の対象として盛り込まれていくことになる可能性があります。

この最後のトピックは、最近L型大学という歪んだ形で議論が燃え上がった高等教育レベルの職業教育機関としての職業大学の問題と密接に繋がっています。

職業教育機関に学ぶ学生に対しては、卒業後当該職業に就職することを条件としてその教育費を公費援助することを正当化することができます。

それに対して、もし大学が純粋にアカデミックな学問のための機関であるならば、そこで学ぶ学生への財政援助は彼らが卒業後アカデミックなポストに就けば返す必要がないけれども、そうでないなら単なる趣味のための消費財だったことになるので、貸した金に利子つけて返してもらおうと言うことになるのも、財政の論理からすればそれなりに筋が通っているということになるでしょう。

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