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日本労働弁護団の労働時間法制試案?

弁護士ドットコムによりますと、日本労働弁護団が昨日、「あるべき労働時間法制の骨格」と題する試案を発表したそうですが、

http://www.bengo4.com/topics/2355/ (「労働者を1日12時間以上働かせてはいけない」労働弁護団が「過労死防止」試案発表)

労働弁護団のサイトに行ってみると、それらしき気配はなく、

http://roudou-bengodan.org/

原則としてマスコミ等の不確実な情報ではなく、原資料に基づいてコメントする、という本ブログのスタンスからすると、今の段階であれこれコメントするのは控えておきたいところではありますが、まあしかし、中身が中身ですので、一応心覚え的にメモしておきます。

その2つとは、(1)「総労働時間」の上限を定めることと、(2)勤務が終わったあと次の勤務までの間に、しっかり休める時間を確保する「勤務間インターバル」の規制を作ることだ。

・・・具体的な数字としては、時間外労働を含めた労働時間全体の上限を1日あたり10時間、週あたり48時間とする。労働協約による延長を認めるが、それでも1日12時間、週55時間を限界とする。さらに時間外労働は、年間220時間までとしている。

・・・もう一つ、労働弁護団が打ち出した規制案が「勤務間インターバル」だ。これは「勤務を始めてから24時間以内に、連続11時間以上の休息時間を与えなければならない」というルールだ。

私が物理的労働時間規制こそが重要だと言い出した頃は、世の中はどっちの側も残業代しか関心がない状態でしたが、次第にこういう流れになってきているのだな、と感じます。

(追記)

ちなみに、日弁連(日本弁護士連合会)の方は、この期に及んで未だに「「労働時間の長さと賃金のリンクを切り離した『新たな労働時間制度』を創設する」ことには反対である」などと訳のわからない世迷い言を言っているみたいですね。

http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2014/opinion_141121.pdf

誰が書いているのかわかりませんが、もう少し日本の労働法制を踏まえて書いていただければと思います。一応日本の弁護士の代表機関なんですから。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/07/post-d971.html日弁連会長声明のどうしようもなさ

本日、日弁連が「「日本再興戦略」改訂2014の雇用規制緩和に反対する会長声明」を発表してますけど、読んでそのあまりのレベルの低さに涙が出てきました。

労働法制をわかっていない産業競争力会議がいうならまだいい。労働法制をわかっていないマスコミがいうならまだいい。

でも、法律家の右代表のはずの日弁連会長の声明がこのレベルですか・・・。

これは、本日のみずほ総研のコンファレンスをお聴きになっていた方にとっては、そこで私が喋ったことの繰り返しになりますし、本ブログ何回も繰り返してきたことでもありますが、何が法規制において問題とすべき事柄であり、何がそうではないかという問題の仕分けが、根本的にねじけているという、産業競争力会議はじめとするそして多くのマスコミ報道に共通する欠点が、なんの修正すらもなくこの会長声明にそのまま露呈しているという点にこそ、今日の日本の最大の問題があるのでしょう。

・・・

いうまでもなく、日本国の法律制度において、「労働時間と賃金とを切り離し、実際に働いた時間と関係なく成果に応じた賃金のみを支払えばよいとする制度」は何ら禁止されていません。そういう賃金制度が良いかどうかは労使が決めれば良いことであり、導入して失敗しようがどうしようが、それをとやかくいう法規制はどこにもありません。

午後2時に出勤してきて、2時間だけ働いて4時にはさっさと帰っちゃう人に成果を上げたからといって50万円払って、9時から6時まで8時間フルに働いた人にあんまり成果が上がっていないからと30万しか払わないのも、法律上全く合法です。法定労働時間内というたった一つの条件のもとで。

日本国の実定法上、それ以上働かせたら違法であって、懲役刑すら規定されているような悪いことを、それでもあえてやらせるというような例外的な状況では、そうでない状況が出てきます。時間外労働時間に比例した時間外割増賃金を支払わなければならなくなります。ただし、何回も強調しますが、それはいかなる意味でも、特定の賃金制度が良いとか悪いとか、許すとか許さないとかいうような話とは関係がありません。本来悪いはずの時間外労働をあえてやらせることに対する罰金として課されているお金が、あたかも時間に比例した賃金を払えと命じているように勝手に見えるだけです。そんな賃金イデオロギーは、労働基準法のどこにも存在しません。もしあるというのなら、なぜ法定労働時間の枠内であればそれが全く自由に許されているのか説明が付かないでしょう。

こういう労働法の基本をわきまえていればすぐわかるようなことが、産業競争力会議やマスコミの人々に全然理解されないのは、そもそも日本国の実定法が法定労働時間を超えて働かせることを懲役刑まで用意して禁止しているということが、現実の労働社会では空想科学小説以上の幻想か妄想と思われているからでしょう。そう、そこにこの問題のコアがあるのです。

こういうことを一生懸命説明してきている立場からすると、労働法制の基本を全くわきまえない人々と全く同じ認識に立脚しているように見えるこの会長声明は、情けないの一言に尽きます。

日本の労働時間法制の最大の問題はどこにあると思っているのか、「このような制度が立法化されれば、適用対象者においては長時間労働を抑制する法律上の歯止めがなくなり」って、そもそも今の日本に「長時間労働を抑制する法律上の歯止め」があると思っているのでしょうか。残業代はそれ自体はいかなる意味でも「長時間労働を抑制する法律上の歯止め」ではありません。休日手当を払わせている現在において「休日を取らずに働くことを命じることも許される」という状況にないというのでしょうか。一種の間接強制であるとはいえるでしょうが、あたかもそれだけがあるべき労働時間規制であり、それさえあれば長時間労働は存在し得ないかのようなこの言い方には、今過労死防止促進法が成立することの意味が全く抜け落ちているように思えます。

こうやって、現行法上も(法定労働時間の枠内である限り)何ら違法でもなく全く自由にやれる「労働時間と賃金とを切り離し、実際に働いた時間と関係なく成果に応じた賃金のみを支払えばよいとする制度」を、あたかも現行法で禁止されているかのごとく間違って描き出し、それを解禁するためと称して、本来論理的にはなんの関係もない労働時間規制の問題に持ち込むという、産業競争力会議の誤った議論の土俵に、何ら批判もないまま、そのまますっぽりと収まって、ただ価値判断の方向性だけを逆向きにしただけの薄っぺらな批判を展開するのが、日本の法律家の代表の責務なのか、悲しくなります。

こうやって、日弁連会長の立派なお墨付きを得て、ますますよくわかっていないマスコミの議論は、「労働時間と賃金とを切り離し、実際に働いた時間と関係なく成果に応じた賃金のみを支払えばよいとする制度」を認めるべきか否かなどという虚構の議論にはまり込んでいくわけです。一番大事なことをどこかに置き忘れながら・・・。

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コメント

正確にいえば、「労働運動の流れとしては、こういう方向になってきている」ではないでしょうか?

経営側は時間規制やインターバル規制に強く反対していると報道されていますし、年間220時間というフランス並みの厳しい規制が日本でできるとも思えません。

現実性があるのは、現状では行政指導の目安になるに過ぎない36協定の上限時間(大臣告示)を法的拘束力があるものにする、ということでしょう。これにより普通協定で告示超えはできなくなるので、あとは特別協定にも上限を設けるかどうか、ということになります。また、特別協定の適用を年の半分まで、という点を厳格に守れば、少なくとも、一定の歯止めにはなるでしょう。

今のところ、月当たり労働時間と過労死のリスクの関係は研究結果が出ているので、月当たりないし数か月単位の残業時間規制は過労死を防ぐのに必要なレベルに限定すれば正当ですが、インターバルと過労死の関係はおそらく医学的に立証はされていないでしょう。それゆえ、過労死防止の名目でインターバル規制をすることは過度の規制に当たると考えます。

少なくとも、
・普通協定の上限時間についての大臣告示に拘束力を持たせる
・特別協定も月80時間越を禁止する
・特別協定の発動は年6か月までとする
ことを徹底すれば、過労死は激減すると思います。

ただ、あとは個別の配慮ですね。
体が弱い、あるいは、作業がきついと1日8時間週40時間でもきついというケースもあるわけで、そういうケースでは残業はさらに負担になります。育児期間などに認められる残業免除をもう少し普遍化する(例えば、体調が悪いことを申し出た場合にも免除されるなど)制度も必要でしょう。

>もそも今の日本に「長時間労働を抑制する法律上の歯止め」があると思っているのでしょうか。

少なくとも、労使が集団的に合意できなければ残業ができない、という条件付きの歯止めはありますね。実際、労使関係が悪くて協定が結べなかったのに残業させていて摘発された事例が報道されていた記憶があります。

また、普通協定は大臣告示による上限があり、特別協定は年のうち6か月まで、に制限されたことで、実質的な歯止めにはなっているでしょう。

少なくとも、バブル期以後の時短政策が全く効果がなかったとは思えません。

これを「法律上の歯止め」と表現するかは、考え方の違いでしょう。ただ、アメリカのようなまったく直接規制がない状態とも違うと思います。

>。残業代はそれ自体はいかなる意味でも「長時間労働を抑制する法律上の歯止め」ではありません。
>一種の間接強制であるとはいえるでしょうが、

間接強制という意味で「長時間労働を抑制する法律上の歯止め」でしょう。私は労働法は大学の講義で習ったくらいですが、「アメリカは間接規制、大陸法は直接規制」と習いました。日本は一見すると大陸法的な労基法でありつつ、36協定制度でそこが大幅に緩和されて、実際は(間接規制という)アメリカ法的な運用がされてきた歴史があります。

ただし、残業代の割増率が低いのであまり歯止めになっていないかもしれませんが、仮にアメリカ並みの50%にすればさすがに経営側に対するかなりの圧力になると思いますよ。

ただ、過労死の問題が明らかになった以上、その恐れの高い月80時間以上の残業や、45時間以上の残業の常態化、は禁止すべきで、そういう意味で、普通協定の上限告示の法制化、特別協定の上限設定と年に6か月制限の厳格化、は賛成です。

投稿: NAGAMI | 2014年11月30日 (日) 09時00分

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