山崎憲『「働くこと」を問い直す』
JILPTの山崎憲さんから手渡しで『「働くこと」を問い直す』(岩波新書)をいただきました。ありがとうございます。
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1411/sin_k800.html
タイトルはなんだか哲学思想系な感じですが、いやいやそういう本にはなっていません。出版社の意図がどこにあったのかはわかりませんが、もしそういう労働の哲学的考察みたいな本だったら、つまんない本になっていたでしょう。でも、本書は、そんなんじゃなくって、日本の職場の働き方、働かせ方を問い直そうとする本であり、何より昨今珍しい労使関係のありようそのものを正面から取り組んでいる本です。
実は、同じ岩波新書から5年前に『新しい労働社会』を出したとき、労使関係を取り上げた第4章の必要性について編集者から疑問を呈されたことでもわかるように、今日労働問題が結構注目され、労働問題を取り上げた本が続々と出されるといえども、労使関係ってのは依然としてあんまり人気がない領域だと、少なくとも出版業界の人々には思われているのですね。その中で、本の中身は労使関係真っ向勝負という本をよくぞ出したな、というのが、ちょっとひねた私の第一の感想。
叙述はやや散漫な感じもありますが、本筋はアメリカはアメリカなりのやり方で労使関係を構築し、日本は日本なりのやり方で労使関係を構築してきた、ところが日本のやり方が賞賛された80年代に、その日本のやり方をアメリカに移植しようとしたそのことが、アメリカ型労使関係を破壊し、つまりアメリカの労使関係を破壊し、それが再び日本に影響を与え、日本の労使関係も破壊しつつある、というストーリーですね。
戦前にさかのぼるそれぞれの労使関係システムの展開の歴史のあれやこれやのエピソードも、ある年齢層以上にとっては常識的なところもありますが、今の若い人々にとっては貴重なメッセージになるでしょう。
一点だけ、小姑的なチェック入れを。31ページの「電機産業を中心とする労働組合」は電産型賃金体系の話ですから、多分「電気産業」のミスタイプだと思いますが、この電気産業ってのは松永安左衛門が9分割する前の日本発送電ですから、むしろ誤解のないように「電力産業」と書いた方が良いと思います。
はじめに
第一話 「働くこと」の意味
1 なぜ働くのか ―社会の中心にあった「労働」
2 生きていくために必要なもの
第二話 日本的労使関係システムの成立
1 力のせめぎ合いが社会をつくる ―労使関係
2 「成功」とその代償 ―日本の経済成長
第三話 転機 ―日本企業の海外進出
1 世界にキャッチアップした1980年代
2 日本に追いつけ
第四話 日本の「働かせ方」が壊したもの
1 国境を越えた労使関係システムのパラドックス
2 浮かび上がる矛盾
第五話 「働くこと」のゆくえ ―生活を支えるしくみづくりへ
1 交渉力を取りもどす
2 労働と生活をつなぐ ―コミュニティ・オーガナイジングに学ぶ
3 日本でなにができるか
あとがき
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