AKB握手会は年少者にふさわしい業務か?
こういうネタはPOSSEの坂倉さんに任せた方が良いのかもしれませんが、世の中にはこういう行為に出て、こういう訴訟を起こす人もいる、ということを考えると、そもそもこの握手会なるイベント自体、年少者にとって有害業務になり得るものなのではないかという疑問も湧いてきます。
この裁判の原告本人のブログに、当該裁判の判決文が全文掲載されているので、裁判所の判断部分を(固有名詞を除き)そのまま載せておきますが、以前のいきなり刃物を振り回すという物理的攻撃リスクもさることながら、こういう性的言動にさらされるリスクも、年少者保護という観点から改めて考える必要がありそうです。
この裁判がこういう行為をした側が自らのサービス購入者としての権利を主張する形で、言い換えればAKB48側が当該サービスを提供すべき債務を負っていると主張する形で提起されているということ自体が、この握手会そのものが年少者労働基準規則第8条に言うところの「特殊の遊興的接客業における業務」に類するものであることを問わず語りに示しているようにも思われないではありません。
http://onicchan.cocolog-nifty.com/blog/2014/11/post-b2fa.html
第3 当裁判所の判断
1 請求1について
(1)被告キングレコードは,AKB48のCDを販売するに当たり,これに握手券を付属させ,握手会を開催していること,握手券付きCDを購入する場合,購入希望者は,握手をするメンバーを一人選択し,握手会の日時等を指定することが必要であり,その選択ができた場合にのみ購入することができること,握手券には,上記握手会の指定日時等及びメンバーの氏名が表示されており,上記握手券の所持者が指定された握手会において上記メンバーと握手をするためには,上記握手券を提示する必要があること,被告キングレコードは, 自社のウェブサイト上で,握手会においてメンバーと握手することが不可能となる事態が発生しても責任を負わない旨を表示しているところ,指定された握手会における握手ができない事態となった場合は,振替握手会を開催したり,握手券付きCDの購入代金を返金したりすることによって対応していることは,当事者間に争いがない。
そして,上記CDを購入する者にとっては,握手券の入手に大きな関心を有しており,被告キングレコードも,これを認識して販売をしていることは明らかであること,他方において,握手という行為は,握手を行う者の自由意思に基づいて行われるものであって,握手会に参加するメンバーが個人の個々な事情によってこれを行うことができないこともあることから,被告キングレコードがメンバーに握手会における握手を強制することはできないことや,被告キングレコードが,握手会の主催者として,握手会の参加者に対し,一般に,握手会を安全かつ円滑に運営し,事故等を防止すべき義務を負っていると考えられることなどの事情に前記事実関係を併せ考慮すると,被告キングレコードは,握手券付きCDの売買契約に付随する合意として,同CDの購入者(ないしは握手券の所持者)に対し,指定された握手会において握手券の提示があった場合には,握手を拒絶する正当な理由がない限り,当該握手券に表示されたメンバーと上記購入者(ないし所持者)が握手をする機会を確保する義務を負うと解するのが相当である。
(2)他方,前記前提事実のとおり,被告AKSは,AKB48のマネジメントを行う会社であることから,AKB48のメンバーがイベントヘ参加するに際しては,当該イベントの主催者に対し,AKB48のメンバーが参加することに関して,同イベントの運営に協力すべき義務を負っていると解されるものの,前記のとおり,握手会は,被告キングレコードが主催する,AKB48のメンバーと握手をすることができるイベントであり, しかも,握手券は,被告キングレコードが販売するCDに付属しているものであるから,被告AKSと握手券付きCDの購入者との間に,契約上の債権債務関係が生じる余地はない。したがって,被告AKSは,握手券付きCDの購入者に対し,契約上の債務不履行責任を負わないというほかはない(もっとも,握手券付きCDの販売に当たっては,被告AKSがAKB48のメンバーを握手会に参加させることが当然に予定されているというべきであるから,被告AKSが,握手を拒絶する正当な理由がないのにもかかわらず,あえてメンバーを握手会に参加させなかったり,握手を拒絶させたりした場合には,握手券の所持者に対して不法行為責任を負うこともあると解されるところ,原告は,被告AKSの不法行為責任として,同被告に対して慰謝料請求権を有するとも主張するので,以下においては,本法行為責任も併せて判断する。)。
(3)そこで,上記被告らにおいて,Iとの握手を拒絶する正当な理由があったか否かについて検討する。
ア 被告キングレコードは,握手会の主催者であることから,握手会仝体を管理し,握手会を安全かつ円滑に運営すべき立場にあり,来場者及びイベントに参加するAKB48のメンバーら等に対し,その安全を保護し, トラブル等を回避すべき義務を負っており,また,被告AKSは,AKB48をマネジメントする立場にあり,AKB48のメンバーらの安全を保護すべき義務を負っているものと解される。
イ 原告が,平成23年11月から平成25年11月22日までの間に,ほぼ毎日のように合計約640通のI宛のファンレターを出していたこと,Iに宛てたファンレターの中で「伊達娘とエッチしたいなあ」等の性的な表現(なお,「伊達娘」は,原告が用いていたIの呼称である。)を用いたり,Iの母親に対し,その育て方に対する疑間を投げかける表現をしたりしたことがあったこと,インターネット上において,Iに対し,マスターベーションをすると宣言したことがあったこと,本件握手の際,原告がIに対して結婚してほしい旨を告げたところ,Iが「ホントそういうのやめてください。迷惑なんで・・・。」と言ったこと,本件握手の後,Iが泣き出したことは当事者間に争いがないところ, これらの各事実によれば,原告は,義務教育を修了していない中学生であるIに対し,性的な表現を用い,また,結婚を申し込むなどした上,親の教育方針に疑間を呈するなどの言動を示しているのであって,これらの言動は,社会通念上,未だ精神が発達途上にある者に対する言動として適切さを欠いたものというべきである。
そして,上記のような対応を受けたIにおいて,ファンからアイドルとしての自分に対して向けられたアプローチであることを考慮したとしても,相応の不安や危険を感じるものであることが想定されるところであって,前記のような「ホントそういうのやめてください。迷惑なんで・・・。」というIの発言や,その後にIが泣き崩れたことも併せると,これを目撃した被告AKS及び被告キングレコードの担当者らが,Iが原告に対して迷惑な感情を有していると受け取り,Iを原告から引き離し,その後の原告との握手を拒否すべきであると考えることにも相応の理由があるというべきである。
ウ 以上によれば,被告キングレコードにおいて握手券に係る契約上の債務を履行しないこと,被告AKSにおいて原告がIと握手をすることを拒否することについて,いずれも正当な理由があるというべきである。
その他,原告が被告AKS及び被告キングレコードに握手券に係る義務違反があるなどと主張する点は,いずれも,上記正当な理由があるとの判断を左右するに足りるものではなく,採用することができない。
2 請求2について
原告は,本件において,被告AKS及び被告キングレコードに対し,同被告らが販売する「握手券付きCD」を選択購入することができる地位を有することの確認を求めるが,そもそも購入の対象となる「握手券付きCD」を具体的に特定していない上,被告AKS及び被告キングレコードに対し,上記のような地位を有することの根拠となる法的権利ないし利益を具体的に主張していないから,上記訴えは,請求の特定を欠き,不適法であるというべきである。
3 請求3について
原告は,被告AKS及び被告グーグルに対し,本件サービスを含む「Google+」と称するサービスの利用契約に基づき,原告が,同サービスにおいて,一般利用者が閲覧することができる内容と同一の内容を閲覧することができる地位を有することの確認を求めるが,本件サービスの利用契約の相手方が米国法人グーグルであることは原告も自認するところであって,被告AKS及び被告グーグルは,いずれも本件サービスの利用契約の主体とはいえず,その他この点に関する原告の主張は採用し得ないことが明らかである。
4 請求4について
(1)前記握手券に関し,被告AKS及び被告キングレコードにおいて,原告に対し,Iとの握手を拒否する正当な理由があり, したがって,かかる握手の拒否が不法行為に該当しないことは,前記1のとおりである。また,その他,上記2及び3のとおり,請求2及び請求3に関連する原告の主張に関し,被告らに不法行為に該当する事実は認められない。
(2)そこで,その他の原告の主張について検討する。
ア ファンレターの取得について
前記の事実関係等からすれば,被告AKSは,AKB48のマネジメントの一環として,AKB48のメンバーに対するファンレターに不適切な記載があるか,危険物が封入されていることがないか等を確認すべき立場にあることが明らかであり,また,被告AKSが, 自社のウェブサイト上で,「ファンレター・プレゼントに関してのご案内」を公開し,メンバーにファンレターを出す者に対し,「ファンレターは運営側で検閲した後,メンバーに渡す」旨告知していること(甲9)は当事者間に争いがないところ,これらの事実からすれば,被告AKSが,ファンレターの送付先である被告AKSの事務局に宛てて送付されたファンレターを開封し,内容を確認することは,ファンレターの送付者においても認識し,了解しているものというべきである。
そうすると,被告AKSが,AKB48のメンバーに対して送られたファンレターを受領し,その内容を確認していたこと自体に,原告との関係で,何らの違法性がないことは明らかである。
そして,証拠(甲9)によれば,被告AKSの公開する上記案内においては,「受取できない品物につきましては,お客様へ連絡確認ののち,返却もしくは処分致します」と記載されていることが認められるものの,一般に,ファンレターは,送付したファンに対してそのまま返却されることは想定されておらず,前記のとおり,本件においては,原告からほぼ毎日のように送付されるファンレターが相当な通数に達しており,その内容にはIに読ませることが不適切な内容も含まれていたという事情も存在したのであるから,原告において,ファンレターがIに渡っているものと信じて送付し続けていたものであったとしても,被告AKSが,原告に対して,Iにファンレターを渡しているか否かを告げることなく,また,原告に対する連絡確認をすることなく,上記ファンレターを処分した行為をもって直ちに原告に対する不法行為を構成することはないというべきである。
イ 本件各書き込みについて
原告は,被告AKSの「関係者」による書き込みであると主張するのみで,被告AKSが不法行為責任を負う法的根拠について明らかにしていない上,証拠(甲2)によれば,「Unknown Producers」 の名で,書き込みがされていることが認められるものの,上記書き込みの内容を見ても,そもそも,原告に関するものであるか明らかではないし,原告が主張する事実によっても,上記書き込みをした者が,被告AKSの従業員等以外には考えられないとまではいえない。
よって,本件各書き込みが被告AKSによる不法行為であるとする原告の主張は,採用することができない。
ウ 景品表示法4条1項及び独占禁止法19条違反について
原告は,被告キングレコードの握手券付きCDの販売行為が景品表示法4条1項及び独占禁止法19条に違反すると主張するが,そもそも,原告の主張する同被告の行為は,独占禁止法19条に該当するものといえないことは明らかであるし,また,被告キングレコードは,前記のとおり,握手券付きCDの販売に際し,握手会における握手をすることが不可能となる事態が発生しても責任を負わない旨を公表している上,正当な理由がある場合には握手を拒否することもできるのであって,上記CDの購入者に対し,必ずAKB48のメンバーと握手をすることができるという錯誤に陥らせているものとはいえないことも明らかである。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
エ 本件措置について
原告は,被告AKS及び被告グーグルから不当に本件措置を受けていると主張するが,同被告らは,前記のとおり,本件サービスの契約主体ではなく,本件サービスの契約主体として,何らかの責任を負うことはない。
また,原告の指摘する事実を考慮しても,被告AKS及び被告グーグルが,不法行為が成立する程度に本件サービスに関与していると推認することはできないから,同被告らに不法行為が成立するとする原告の主張は,いずれも採用することができない
なお,以上の説示に照らし,原告の主張する被告AKS及び被告グーグルの各行為が個人情報保護法の各規定,民法90条に該当するものということができないことも明らかである。
(3)以上によれば,被告らは,原告に対して不法行為責任を負わないというべきである。
5 よって,本件訴えのうち,請求2に係る訴えは不適法であるから却下し,請求1,請求3及び請求4はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(追記)
後日譚:
https://this.kiji.is/463525927471367265?c=39546741839462401
アイドルグループ「AKB48」元メンバーの女優岩田華怜さん(20)につきまとったとして、ストーカー規制法違反の罪に問われた無職大西秀宜被告(43)に、東京地裁は31日、懲役4月、保護観察付き執行猶予3年(求刑懲役4月)の判決を言い渡した。 中島真一郎裁判官は、警察による再三の警告を無視し、長年にわたってつきまといを繰り返したと指摘。「タレントとしてのファンサービスを好意の表れだと一方的に思い込んだ。再犯が強く懸念される」と述べた。身柄が長期間拘束されていることなどを考慮し、猶予判決とした。
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