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2014年10月31日 (金)

昨日の講義で

法政大学公共政策大学院で秋学期の「雇用労働政策研究」という講義をやっているのですが、昨晩「労働人権法政策」の話で、学生たちと話しているうちに、在特会の言ってることはどうなの?みたいな話になっていったのですが、結局、戦後日本ではまともに人種・民族差別を論ずるという形にならず、その代替物として国籍差別という形で論じられてきたことの問題もありそうです。

終戦直後に労働基準法が制定されたとき、本来なら憲法と同様に人種が入るべきところで人種が入らず、代わりになぜか国籍が入っているのですね。

第三条  使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

この点について、制定担当者の寺本廣作名著は、

我が国に於いては将来人種問題よりも労働問題としては国籍問題が重要性を持つと考えられた為である。戦時中に行われた中国人労働者、台湾省民労働者及び朝鮮人労働者に対する差別的取扱いは再建日本の労働立法に当たっては特に反省せらるべきところであった。

と述べているのですが、よく考えると戦時中の台湾人、朝鮮人は外国人ではなく、大日本帝国の中の民族差別であったわけで、やや概念が混乱しているようです。

そもそも世界的に、国籍による異なった取扱いは主権国家として出入国管理の観点から当然あり得るわけで、国籍による差別が問題となりうるのは合法的に居住就労する外国人労働者に限られるのですね。

在日問題は本来同じ国籍の中の人種民族差別問題であったものを一律に国籍問題にしてしまったことが出発点にあることを考えると、その出発点近くの頃の労働基準法の規定ぶりの変なところ、本来あるべき人種がなくて代わりに国籍がある、ということの問題に遡って考えていく必要があるような気がします。

このことと、1995年に一応人種差別撤廃条約に加入していながら、女性差別撤廃条約や障害者権利条約と違って国内法には一切手を付けていないままになっているということとを考え合わせると、戦後日本の国際標準からしてある種変なところが浮かび上がってくるように思われます。

社会学者だったら、人種民族差別禁止とか言っちゃうと単一民族国家幻想が崩れるから、国籍の問題にしておくという無意識の機能が働いたのではないかとか言うかも知れませんね。

(参考)

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roukijunpo140725.html(「人種差別撤廃条約と雇用労働関係」 )

 昨年6月に障害者雇用促進法が改正され、障害者に対する差別の禁止や合理的配慮の提供が規定されたことは読者周知のことと思います。同月にはより一般的な法律として障害者差別解消推進法も成立しています。これら立法が、2006年に国連総会で採択され、2007年に日本政府が署名した障害者権利条約の批准のためのものであることもよく知られているでしょう。
 このように国際条約の批准のための立法として最も有名なのはいうまでもなく、1979年に国連総会で採択され、1980年に日本政府が署名した女性差別撤廃条約とそれを受けた1985年の男女雇用機会均等法です。
 他にこのような例はないのでしょうか。国際条約としては障害者や女性よりももっと早く。1965年の国連総会で採択された人種差別撤廃条約があります。ところが、労働法の世界でこの条約が議論されることはほとんどありません。多くの読者にとっては意外な事実かも知れませんが、実は日本政府は1995年にこの条約に「加入」しており、1996年1月14日から日本について「条約」の効力が生じているのです。ところが、この条約を実施するための国内法というのは存在していません。
 アメリカでもヨーロッパでも、差別禁止法制といえばまずは人種差別と男女差別から始まり、やがて年齢差別や障害者差別に広がっていき、さらにこういった属性による差別とは異なる類型として雇用形態による差別的扱いも問題にされるようになっていったというのが歴史の流れなのですが、日本ではその最も根幹のはずの人種差別が、条約の効力はあるとはいいながらそれを実施する国内法は存在しないという奇妙な状況がずっと続いていて、しかもそれを(少なくとも雇用労働分野では)ほとんど誰も指摘することがないのです。
 かつては女性差別撤廃条約を批准するためには国内法整備が必要だと言って男女雇用機会均等法が制定され、最近は障害者権利条約を批准するために国内法整備が必要だと言って障害者雇用促進法が改正されたことと比べると、人種差別撤廃条約に対するこの国内法制の冷淡さは奇妙な感を与えます。実は、2002年に当時の小泉内閣から国会に提出された人権擁護法案が成立していれば、そこに「人種、民族」が含まれることから、この条約に対応する国内法と説明することができたはずですが、残念ながらそうなっていません。
 このときは特にメディア規制関係の規定をめぐって、報道の自由や取材の自由を侵すとしてマスコミや野党が反対し、このためしばらく継続審議とされましたが、2003年10月の衆議院解散で廃案となってしまいました。この時期は与党の自由民主党と公明党が賛成で、野党の民主党、社会民主党、共産党が反対していたということは、歴史的事実として記憶にとどめられてしかるべきでしょう。
 その後2005年には、メディア規制関係の規定を凍結するということで政府与党は再度法案を国会に提出しようとしましたが、今度は自由民主党内から反対論が噴出しました。推進派の古賀誠氏に対して反対派の平沼赳夫氏らが猛反発し、党執行部は同年7月に法案提出を断念しました。このとき、右派メディアや右派言論人は、「人権侵害」の定義が曖昧であること、人権擁護委員に国籍要件がないことを挙げて批判を繰り返しました。
 全くの余談ですが、この頃私は日本女子大学のオムニバス講義の中の1回を依頼され、講義の中で人権擁護法案についても触れたところ、講義の後提出された学生の感想の中に、人権擁護法案を褒めるとは許せないというようなものがかなりあったのに驚いた記憶があります。ネットを中心とする右派的な世論が若い世代に広く及んでいることを実感させられる経験でした。
 一方、最初の段階で人権擁護法案を潰した民主党は、2005年8月に自ら「人権侵害による被害の救済及び予防等に関する法律案」を国会に提出しました。政権に就いた後の2012年11月になって、人権委員会設置法案及び人権擁護委員法の一部を改正する法律案を国会に提出しましたが、翌月の総選挙で政権を奪還した自由民主党は、政権公約でこの法案に「断固反対」を明言しており、同解散で廃案になった法案が復活する可能性はほとんどありませんし、自由民主党自身がかつて小泉政権時代に自ら提出した法案を再度出し直すという環境も全くないようです。
 ちなみに、人種差別撤廃条約に国内法としての効力を認めた判決は、雇用労働関係ではまだありませんが、入店拒否事件(静岡地浜松支判平11.10.12、札幌地判平14.11.11)やヘイトスピーチ事件(京都地判平25.10.7)などいくつか積み重ねられつつあります。

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コメント

日本の国籍は血統主義ですが、欧州のそれと違い、戸籍とセットで考えられてきました。そういうことが背景にあるのでしょうか。
それに労災は不法就労の外国人にも適用されますが、労基法3条は不適用になります。何故このような違いがあるのでしょうか?

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