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2014年10月 8日 (水)

『ミッキーマウスのストライキ!』

201410_cover_lさて、昨日ノーベル物理学賞がらみで職務発明関係の座談会を紹介した『月間連合』10月号ですが、実はとても面白い本の紹介をしています。

http://www.jtuc-rengo.or.jp/shuppan/teiki/gekkanrengo/backnumber/new.html

篠田徹さんの「篠田教授の労働文化耕論」で、『ミッキーマウスのストライキ!』という本を紹介しているのです。

版元の宣伝文を引用しておきますと、

日本ではほとんど語られることのない米国のアニメ界の労働組合運動。アニメーターたちの姿を20世紀初頭からさかのぼって追っていく。写真・イラスト・当時06111128_5397bedeedbb7の新聞記事など豊富な図版とともに紹介。
ディズニーやドリームワークスで世界的ヒット作に携わってきたアニメーターによる、米国・アニメーション界の裏側の歴史を伝える貴重な一冊!

ですが、篠田さんはとりわけ訳者の久美薫さんの腕前に感嘆の声を上げています。

・・・いずれもタフな専門書の訳書を短期間にこれだけ出しながら、一体どうやって原文の背景を、適切な文献とともにここまで簡潔明瞭に説明できるのだろうと脱帽するのが、先に紹介した膨大な訳注だが、それにもまして驚くのが、原著の事実関係の誤りを指摘する詳細な独自検証の数々だ。普通良質な翻訳者でないとそういうことはしないし、余程調べて確証がなければ原著の記述を訂正しはしない。確かにもともとアニメ関係が専門だったからできるところもあるかも知れないが、この本はアニメ労働組合の歴史を超えて、アニメ社会史であり、アニメ労働史になっているので、その検証の範囲は尋常ではない。

・・・だが最後の部分は、決して付録ではない。日本の読者がもっとも引き込まれるのは実は、日本史上の重要事項が併記された(だからこれは訳者が作り込んだ)13ページにわたる年表の前の「訳者解説 アニメーションという原罪"Drawing the Line"を訳しながら考えたこと」ではなかろうか。40ページという分量もさることながら、その内容からいっても立派な研究論文といえるこの部分は、日米のアニメ産業における比較労使関係論である。本書を手にして僕はまず、自分が米国労働運動史を研究しているというのは隠した方がいいかもしれないと思ったが、この訳者解説を読んだときには、これからは戦後日本の労働運動の専門家などと言ってはいけないし、ましてや労働文化などを語るのをおこがましいにもほどがあると猛省した。・・・

これだけでは、篠田さんが舞い上がっているだけと思われるかも知れませんので、その訳者解説の小見出しを並べてみますね。これを見るとさすがにすごいと思うでしょう。

組合(ユニオン)が力を握るアメリカアニメ界
組合が機能していない日本アニメ
あの人たちは「社員」ではない
大恐慌を母にし躍進したアメリカアニメ、高度経済成長を追い風に量産体制に入った日本アニメ
かつては日本でも「雇用」だった
1959年、切り崩された組合結成運動
1961年、東映動画労働組合ついに承認される
大川社長、USAテレビアニメの下請に活路を探る
さらに社員固定給から出来高賃金制への移行を提案
『アトム』の輸出もアメリカアニメ界の過渡期ゆえの結果
テレビアニメの時代を迎えて若手が入らなくなったアメリカ、新人を大量に集めた日本
テレビアニメ時代到来、日本では下請プロダクションが乱立
だがアメリカでは?日本のアニメ界にも産業別組合が誕生
東京ムービーで不当解雇、日本アニメ界初の解雇撤回闘争へ
同じ年に東映動画でも解雇撤回闘争の第二号は『サザエさん』のスタジオで
1970年代に入って各スタジオに組合発足-高度経済成長の終わりの始まり
とうとう社員アニメーターがゼロの会社登場
そして決定的事件が同1972年に
オイルショック前夜、虫プロ倒産
5年の間受注制作費は値上げがなかった
1970年代に海外下請が本格化
社員制の時代から、業界ぐるみの違法操業の時代へ
戦後日本で産業別、業種別組合が主流にならなかった理由
大恐慌と高度経済成長
宮崎駿も共犯者
アニメブームで育った世代が劣悪労働環境を「普通」にしてしまった?
「過保護」に育ったアメリカアニメ労働者への手痛いしっぺ返し
皮肉なことにユニオンの敗北は日本製アニメのアメリカ進出への追い風になった
1992年、銀座でデモを刊行したのだが・・・
「制作委員会」というリスク分散装置
「クール・ジャパン」の掛け声が結果としてアニメ産業論をいくつか生み出した
なぜ労働環境が劣悪なのかが論じられない不思議
デジタル化、3D化のしわ寄せも現場に
労働実態調査が行われたのは2009年になってから
2009年の実態調査から浮かび上がるのは
「動画は本来、金を貰えるような存在ではありません」
日本のアニメのもう一つのエネルギー源-まんが文化
もはや誰にもいじれないほど「成熟」してしまった
結び-アニメという「原罪」とどう向かい合うのか

宮崎駿がどう共犯なのかも知りたいでしょうが、ここでは最後のパラグラフからその「原罪」たる所以を:

・・・本書を訳していて一番感銘を受けたのは、アニメーションの分業化こそが全ての始まりであるという、地味な、しかし的確な指摘だった。絵画を描くのなら一人か、せいぜい助手が付くぐらいなので「著作者」は一人に絞られる。だがアニメーションは必然的に分業化、流れ作業化されていった。ときには数百人の絵描きが一つの作品に投入される。当人たちは己を芸術家と考える。けれども「著作者」ではない。芸術家でありながら著作権は与えられない、つまり法解釈上は職工と同じ「労働者」なのだ(しかも日本では「労働者」ですらない)。商業アニメーションは始原からこうした原罪を抱えたメディアなのである。

Mikky

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コメント

訳者解説が実は本体です。あれを本として世に問いたかったのですが「地味すぎて売れない」と言われてしまいました。

せっかく探査衛星「はやぶさ」を自主開発したのに、日本では打ち上げロケットを誰も開発していなくて、軌道に乗せられないのです。むろんこれは比喩です。実際の「はやぶさ」は純国産でした。

そもそもこのテーマでの先行研究が日本にはほとんどないのです。それでハリウッドから超大型ロケットエンジンの技術ライセンスを買ってきて、そのおまけという体裁で打ち上げできないか…と考えました。

濱口先生のご著作にはとても刺激を受けました。日本アニメ論に応用したのはおそらく私が世界初です。当の業界内では今のところ黙殺状態です。目を逸らされてしまいます。ライター連中もです。アニメマニアは言わずもがな。

あ、そうだったんですか。

読みながら、これをもっと膨らまして新書版くらいの分量で世間に出して読まれるべきだと強く感じました。

いま出版社は、労使関係とかいうとそれだけで尻込みするような感じですが、アニメ界の労使関係という切り口は突破口になりそうな気がします(もう一つはスポーツ界ですが)。知ってる人々が出てくるというのはすごく売りになるように思います。

そう、ジブリ関係の本を出しているところなんか、久美薫さんの本を出しませんか?(→中の人たち)
つまらん本を量産するより、よっぽど世のため人のためでしかもすごく面白い。

アニメーション学会を名乗る組織があっても、心理学とかジェンダーとか美学とかの学者さんばっかりで、労使テーマなんてないことになってるんですよ。「寝た子を起こすな」というわけです。

宮崎アニメ論は数多くあれど、どれもくずぞろいです。私のが未だに最高峰という有様ですからね。

濱口先生は私にとって大恩人ですし、愚痴も兼ねてここでもう少し語ってよろしいでしょうか。

もともとは宮崎アニメの評論本から始まった道です。彼がかつて東映で組合活動の闘士で、それが後の『ナウシカ』にも反映しているのは有名です。ただ具体的にどうアニメ業界で労働運動があって、それがどう潰されていったのか、論じたものがまるでないことに気が付きました。宮崎やその同僚たちの回想エッセイとかインタビューのなかで、青春の思い出として語られるくらいです。

それで仕事で上京するたびに、東映や虫プロ(手塚治虫のスタジオ)他のOB、OGにお目にかかって、雇用条件や労働運動の視点からお話をうかがってきました。面白がられるんですよ。「こんな角度からの取材は初めてだ」とか。

濱口先生のことは、ある組合の方から教わりました。日本の労働運動について何かいい入門書はありませんか、とお尋ねしたら、『日本の雇用と労働法』をぽん、と放られたのです。「これがいいよ」って。

自分は語学屋なのでこの方面はど素人でしたが、このブログと合わせて読んでいくにつれて、自分の頭のなかがだんだん整理されていくのがわかりました。先生のご著作にはアニメ業界のことは出てきませんが、行間からちらっちらっと見え隠れするのです。

例えば「60年代に職能給が広まり、高度経済成長に応じた技術革新に対応できる人事が可能になったが、70年代に一度破綻した」という説明を読んだとき、これはそのままアニメ経営者としての手塚治虫の栄光と挫折に重なる!と気が付いて興奮しました。

ご著作と出会って以来、取材の精度があがっていくのが実感できました。例えばたまにアニメ業界で裁判がありますよね。原告(何十年も前の裁判のこともあります)で取材に応じてくださる方もいるのでお話をうかがうと、コミュニティユニオンが支えになっていると実感します。ご著作にも出てきますよね。アメリカ主導の労働法制度と日本の実態がかみ合わないすきまに活動しているのがコミュニティユニオンだ、と。まさにあの論考の実例が目に前にある(おられる)のだと感じました。それに組合の方々も私が労働法の心得があるとわかると、打ち解けていろいろ話してくださるんですよ。

もしあの本の私の翻訳が篠田先生が言われるようにできがよくて、訳注や解説が研究論文の域にあるのだとするならば、取材を繰り返し行ったからだと思います。そして取材と執筆にあたって、濱口先生のご著作が私にとって最高最強のGPSになったからです。

そのうえブログで取り上げていただけるなんて…前から欠かさず読ませていただいているので、書名がどーんと出ているのを見つけたときは心臓が止まりそうでした。

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