(6) 休み
休みを理由とする雇用終了は10件(実質9件)ある。事案によっては(5)に含めるべき欠勤と区別することができるかどうか疑問な面もあるが、雇用契約の債務不履行に相当する欠勤が理由であると使用者側によって明確にされていないことから一応別項目とした。逆に、この休みが正当な年次有給休暇の取得を意味しているのであれば、労働法上の権利行使を理由とする雇用終了に含まれることになるが、その点は必ずしも明確ではない。より細かくいえば、使用者側に時季変更権の行使を不可能とさせる有休の当日申請は正当な権利の行使ではないとすれば、そのような有休取得は欠勤に該当するともいえる。その意味では、これら欠勤、休み、有休が明確に区別されにくい状況は、現実の労働社会における労使双方の権利義務関係の意識の曖昧さを示していると言うこともできるかも知れない。
なお、これらのうち4件(実質3件)が試用期間中の者に係る事案であり、試用期間中の者については極めて広範な解雇権が留保されているという認識が一般的であることを示しているともいえる。
・10104(試女)普通解雇(不参加)(30名、無)
支店長より「休みが多すぎるので、辞めて欲しい」と即日解雇された。面接時に、小さい子どもがいることを伝えており、有休はないが用事のときは休んでいいと言われていて、子どもが高熱を出したので病院に連れて行っただけである。
会社側によれば、面接時に、子どもが小さいから勤めは大丈夫かと聞いたら、母親がすぐ来てくれるから大丈夫と言った。にもかかわらず、母親が法事で故郷に帰ったので来られないと言って、2日続けて休んだ。よって解雇した。
そもそも面接時に「有休はない」と平気でいう会社なので、子どもの看護で2日休んで解雇というのも不思議ではないのかも知れないが、既に改正育休法が施行され、子ども看護休暇の権利が実定法上に規定されていることを考えれば、(本人に当該権利の行使としての認識がないとしても)正当な権利行使への制裁とも言いうるケースである。こういう悪質なケースほど会社側不参加となるのも、あっせんの性格上やむを得ないところではあるが、何らかの対応策が必要という感を抱かせるところがある。
・10111(正女)退職勧奨(23.3万円で解決)(不明、無)
直属上司の課長に有休の使用や体調不良による半休についてなじられ、退職の意向を示さざるを得なくなった。翌々日、20時まで残業したのち、強制的に退職届を書かされた。
これもまた、「有休の使用をなじられ」という点に着目すれば、正当な権利行使に対する制裁としての性格が相当程度強く感じられる事案である。会社側は「申請者の主張は、当社の主張と異なっており、当社として受け入れられるものではありません」と述べているが、どの点が異なっているかは資料からは明らかでない。
判定的機能ではないので、あっせん員からの「解決しようという意思はないのか。問題が拡大することも考えられる」という説得に対し、会社側が「上層部と検討した結果、基本給23.3万円の支払いをしたい」と述べて解決している。
・20021・20023(試男)普通解雇(同一事案について労使双方からあっせん申請)(5万円で解決)(11名、無)
労働者によれば、体調不良により4日間休んだため、社長から「一線を退け」と言われ、給料も精算されたので解雇を受け入れた。
会社側によれば、試用期間中に、16労働日のうち4.5日欠勤するという勤務状況のため、話し合いを持ち、「勤務態度を改めるのかあるいは退職するか」を決めてもらいたい旨伝え、その結果、自己退職で合意したものと判断し、退職手続に入ったもの。
会社側の提示の仕方は、(もとより労働条件等の変更ではないが)変更解約告知に近いやり方である。
・20129(試男)普通解雇、その他(1万円で解決)(60名、無)
風邪や頭痛で、総務に連絡を入れた上で4回ほど休んだだけで、欠勤が多いことを理由に「試用期間を取り消します」と言われ解雇された。
会社側によれば、1か月間に欠勤8回、遅刻7回、早退5回で、試用期間中の勤怠状況が非常に悪いため、従業員として不適格と判断した。
申請人は入社前7か月間高血圧で治療に専念し、医師から「薬を飲んでいれば仕事をしても大丈夫」と言われて就職している。その意味では、「傷病」の中の体調不良に近い性格といえる。
・20136(正女)普通解雇、いじめ・嫌がらせ(18.1万円で解決)(10名、無)
社長から「何でそんなに腹が出ているんだ。メタボ、豚、デブ」等と皆がいる前で言われ、ある日1時間にわたって「頑張っていない。評価はズタボロだ。かわいげのない女だ。時間内で仕事を終わらせろ。言い訳するな。どこへ行ってもダメだ。働く意味を分かっていない」等と言われた。この日を境に社長が怖くなり、思い出しただけでめまいがし、立っていられない状況になったため、会社を休み、「抑うつ状態」と診断された。そののち、解雇予告通知書が送られてきた。
会社側によれば、暴言は一切していない。入社前からうつ病だったことを隠していたのは経歴詐称だ。よく眠そうにしており、休憩時間だけでなく就業時間にも居眠り、外出してもなかなか帰社しないなど勤務状況に問題。「仕事のミスが多いが、きちんとしてもらわないと困る」と言ったら、「頑張っているじゃないですか」と言い訳を繰り返すのが目に余り、「かわいげがないと言われるよ」と言ったのは事実。そののちは無断欠勤である。
あっせん員より、「被申請人は暴言の事実を否定しているので、事実を明らかにするには裁判をもらうしかない。このあっせんで“けじめ”をつけるのもよい機会では」と示唆し、申請人も早く立ち直るため解決を望んだ。
解雇の直接的な契機は会社を休んだことにあるのでここに含めたが、会社側からすれば無断欠勤であり、労働者側からすればむしろいじめ・嫌がらせによる追い出し型雇用終了である。あっせんは判定的解決ではないため、事実認識自体の正当性を論ずることなく「けじめ」としての解決が図られている。
・20184(非女)普通解雇(不参加)(40名、無)
休みが多いということで解雇されたが、休みが多くなるという個人的事情を十分に考慮された上での採用であったはず。会社側によると、欠勤、遅刻、早退が非常に多い。採用当時の担当者が既に退職しており、確認はできないが、十分に考慮したものと判断している。
・30078(正男)普通解雇(不参加)(3名、無)
建設作業員。休務したいと部長に伝えたら、社長命令で解雇された。会社側によれば、多忙期のみ外注として依頼するということを前もって告げてある。
・30270(非女)普通解雇(打切り)(4名、無)
体調が悪かったが無理して出勤したら、社長から体調不良のときは休んでよいといわれた。そののち、体調不良で、会社に連絡した上で2日間休んだ。すると出社後社長から「身を退いて欲しい」と言われ、翌日社長に辞めろということかと問うと、解雇を通告された。
会社側によれば、申請人は入社時より業務外のトラブルで遅刻早退が多く、勤務中も意味不明の大声を上げたり、体調不良による嘔吐を繰り返していた。申請人との口論の最中に口走った「身を退いてくれ」という言葉尻を捉えられ、即時解雇の書類を書くよう執拗に求められた。この口論は、申請人の勤務状況に対する指導が感情的になったもので、退職勧奨の意思は全くなかった。
会社側の主張を前提とすれば、コミュニケーション不全型に近い側面がかなりあるようである。
・30315(派女)(対派元)雇止め(13万円で解決)(8名、無)
体調不良で休んだら、次の契約はないと言われた。
会社側によれば、以前急に体調不良で休み、上からの苦情で現場が困ったことがあった。そのとき、次回またこのようなことが起こった場合、契約を更新できない旨伝えた。今回、再び体調不良で休み、現場リーダーが「このままだと契約更新できない」旨伝えたところ、「別にいいよ」と言っていたこともあり、業務に支障があるので代わりの人を雇い入れた。
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