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2014年10月26日 (日)

金銭解決したくても復職を求めるパラドックス@『労基旬報』10/25

『労基旬報』10月25日号に掲載した「金銭解決したくても復職を求めるパラドックス」です。

先日本ブログに書いた、佐々木亮さんたちの本『労働審判を使いこなそう!』への感想を膨らませました。

 昨年来、アベノミクスの労働改革の一環として解雇事件の金銭解決問題が再び取り上げられるようになり、労働組合側からは「カネさえ払えばクビ切り自由化」などと反対する声が上がっています。しかし、不当な解雇であっても復職したい労働者ばかりとは限りません。実際、労働局のあっせんや裁判所の労働審判などでは大部分が金銭解決をしています。逆に、それらでは金銭解決しているのだからそれで良いではないか、という議論もあります。ある面ではもっともなのですが、いざ訴訟となれば金銭解決の道がほとんどなく、解雇無効による地位確認請求で行くしかないことが、少なくとも労働審判にも奇妙な影響を与えているようなのです。

 去る8月、エイデル研究所から伊藤幹郎・後藤潤一郎・村田浩治・佐々木亮著『労働審判を使いこなそう!』という本が出版されました。4人の労働側弁護士による労働審判の使い方を丁寧に解説した本ですが、その中にこんな記述があるのです。

・・・申立人が必ずしも職場に戻るつもりがなくても地位確認で行くべきである。申立の趣旨を「相手方は申立人に対して金○○円を支払え」などとし、はじめから慰謝料等の金銭請求をするのでは、多くを得ることは望めないと知るべし。必ずしも職場に戻る意思がなくとも、そのように主張しないと多くの解決金は望めないからである。

 これは、実務家として、現に争いの現場で当事者に寄り添って何をなすべきかを論ずる土俵においては正しい議論であることは間違いありません。

 しかしながら、そもそも論として考えれば、心にもない原職復帰を口にすることで、獲得したかったそれなりの額の金銭補償を手にすることができるのに、最初からお金で解決したいと口にしてしまうとそれすらも得られないということ自体に問題があるわけで、現場の戦術論では所与の前提として論ずる必要のないそういう問題点に対して、一国の法制の在り方を考える議論においてはきちんと論ずるべきであることもまた言を俟たないところでしょう。

 戦術論としての心にもない地位確認請求をすることのリスクは、それが通ってしまいそうになることです。実際、申立人から「もし戻ってこいといわれたら、どうしましょう」と相談されることもあるそうです。しかし、労働弁護士としては「辞めたくても地位確認はしなければならない」「日本の裁判制度はそうなっているのだ」と説得するのだそうです。

・・・万一、相手方が「それなら解雇を撤回して職場に戻す」と言ってきたら、原職復帰に徹底してこだわることが重要である。解雇して数ヶ月経れば職場には原職がないのが一般である。また、新規採用などで補充されている場合も多い。したがって、安易に解雇撤回論に乗ってはならず、徹底的に原職復帰にこだわって、相手方の解雇撤回論の虚偽(使用者は一旦解雇した者を戻したくないのが本音)を追求することを念頭に置くべきである。

 これまた、現場の戦術論としてはまことに心配りの効いた絶品ものの指南ですが、本当は原職復帰したくない労働者が多額の金銭解決を得るために心にもない原職復帰を要求し、しかも解雇撤回という甘い罠に引っかからないように細心の注意を払うという、まことに絶妙の心理戦を戦わなければならないわけです。こういう高等戦術をやりきるためには、確かに弁護士の助力は必要不可欠でしょう。

 しかし、再び一国の法制度の在り方のそもそも論としては、解雇は不当で違法だからきちんとそれを確認し、そのサンクションを与えたいけれども、もうあんな会社には戻りたくないという労働者が、その気持ちを素直にそのまま訴えることがなかなかできなくなってしまっている仕組みにも、問題があるのは間違いないようにも思われます。解雇の金銭解決制度を考えるというのは、こういう心にもない戦術をとらなければならない状態から脱却し、最初から金銭解決を要求してもちゃんとしかるべき補償を受け取れるようにするにはどうしたらよいか、という問題意識からも来ている面があるのです。

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