女性就労とオランダモデル@NIRA
NIRA(総合研究開発機構)が『女性就労とオランダモデル』という小冊子をアップしています。
http://www.nira.or.jp/pdf/vision5.pdf
執筆しているのは5人。
1 権丈 英子 「参考となるオランダ型アプローチ」
2 八代 尚宏 「多様な働き方が可能なパートタイム雇用」
3 マルセル・ウィガース 「パートの均等待遇で社会を変える」
4 水島 治郎 「均等待遇は長時間労働の是正から」
5 デイヴィッド・バーンズ 「働き方をもっと柔軟に」
ここでは、八代さんの文章の一部を引用しておきます。ほとんどの点で私と同じことを言っていることがわかるでしょう。
オランダのパートタイム雇用モデルは、日本にとっても大いに参考になる。その基本的な考え方は、欧米型の職務の範囲を明確にし、同一労働・同一賃金の原則を確立することである。日本では、職務の概念が不明確であり、周囲の人の仕事との分担も曖昧で、個人の成果が不明瞭となりがちだ。また、労働生産性の低さを長時間労働で補っており、頻繁な転勤等、無限定な働き方となっている。・・・
オランダ型のパートタイム雇用によるワークシェアリングの働き方を、日本のシステムに取り入れるためには、「メンバーシップ型」の長期雇用保障や年功昇進・賃金体系を、唯一の望ましい働き方とする通念を変えなければならない。職務が明確な「ジョブ型正社員」を増やし、外部の労働市場からも人材を登用しやすくする。そうなれば、成果を明確に評価することも容易になり、「労働時間ではなく成果に応じた報酬」という、女性にとっても不利にならない、新しい労働時間制度の導入も容易となる。・・・
しかし、そのためにはまず実現すべきことがあります。それを指摘するのが水島さんです。
・・・日本でも、パートとフルタイムの均等待遇は実現すべきだが、現実には困難だ。日本は採用、待遇などが両者で異なり、何をどのように均等にすればよいのか、その基準が全くない。また、企業の間で顧客を優先する意識が強く、依頼に対して残業をいとわず対応する働き方が重視される。企業意識を変えなければ実現は難しい。まずは、男性中心の残業を前提とする長時間労働に網をかけ、働く時間をきちんと枠内に収める必要がある。それによって、すべての人が決められた時間で働く同じ環境が整い、ようやく何を比較するかという均等待遇に向けた議論も可能になる。
世にも奇怪なのは、メンバーシップ型の無制限の人事権を聖域よろしく抱きしめながら、それと不可分のメンバーシップ保護を目の敵にして首切れ首切れとうわごとのように口走る人たちですが、そういう手合いがいつまでもはびこるのは莫迦なマスコミが本物と偽物の区別がつけられないからなんでしょうね。
ところで、最後に登場するIBM人事担当副社長のバーンズさんは、オランダモデルとしてのパート促進にも疑義を呈しています。
オランダの労働市場のルールはオランダの歴史・社会・文化の産物であり、その文脈を抜きにしてパート労働という要素だけを別の国に移植することは適切とはいえない。ただし、より包括的な改革パッケージの一つとして取り入れるなら、うまく機能するだろう。例えば、職務ベースで契約し、従業員ごとに明確な職務記述書を定義することや、「時間」ではなく「成果」によって評価する制度などを導入して、より柔軟な働き方を取り入れるべきだ。こうした前提を踏まえずに日本でパート労働を推奨しても、非正規労働の比率が増えるだけという懸念がある。
いやそれはこれからのことについての未来形で語る話ではなく、10年ちょっと前に時ならぬワークシェアリングブームで、とにかく均等待遇なきパート促進がオランダモデルだというどこかの役所の宣伝の10年後の帰結そのものであり、現在完了進行形で語るべきことではないかと思いますよ。
バーンズ副社長とは、今年の2月に来日されたときに若干お話しをさせていただいたことがありますが、日本の雇用システムの問題について非常に的確な認識をお持ちだという印象を受けました。ジョブ型とメンバーシップ型の皮肉な実例として日本アイビーエム事件のことを話すと、面白そうに笑っていましたね。
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