今野論文@『季刊労働法』246号
さて、昨日の産経新聞の記事でチラ見せした今野晴貴@POSSEさんの議論を若干パラフレーズした論文が、先日刊行予告を紹介した『季刊労働法』246号に載っています。
http://www.roudou-kk.co.jp/quarterly/archives/006324.html
特集
近時の立法・改正法令の検討課題
改正労働安全衛生法の考察 京都大学大学院教授 小畑史子
改正パートタイム労働法と均等・均衡待遇 近畿大学教授 奥田香子
次世代育成支援対策推進法の改正と今後の課題 京都産業大学教授 高畠淳子
性差別解消の現在から見た均等法施行規則の改正―次なる法改正へ向けての考察 北海道教育大学教授 菅野淑子
過労死防止法の意義と課題 弁護士(過労死防止法基本法制定実行委員会事務局長) 岩城 穣
ブラック企業対策から見た近時の立法・改正法令の検討課題 NPO法人POSSE代表 今野晴貴
■論説■
NHK受託業務従事者の労契法・労組法上の労働者性 NHK前橋放送局事件・前橋地判平成25・4・2(労働法律旬報1803号50頁) 同志社大学教授 土田道夫
フランチャイズ・コンビニ加盟店主の労組法上の労働者性 山梨大学教授 大山盛義
非正規の正規化 その実態の法的課題 UAゼンセン会長 逢見直人
■研究論文■
配偶者のうち夫にのみ年齢要件を課す遺族補償年金の合憲性 地公災基金大阪府支部長(市立中学校教諭)事件(大阪地裁平成25年11月25日判決) 中央大学大学院博士後期課程 西 和江
働く児童と教育を受ける権利―労働法制における就業と就学の両立に着目して― 武蔵大学非常勤講師 常森裕介
■投稿論文■
社会的(保護的)就労への労働法適用を巡る考察 神奈川大学法学研究科博士前期課程修了 石原康則
■労働法の立法学 第37回■
労働人権法政策の諸相 労働政策研究・研修機構統括研究員 濱口桂一郎
■神戸大学労働法研究会 第29回■
派遣労働者に対するパワハラ行為と派遣先会社の損害賠償責任 アークレイファクトリー事件・大阪高判平成25年10月9日労判1083号24頁 弁護士 千野博之
■同志社大学労働法研究会 第12回■
複数就業者の労災保険給付―ドイツ法との比較法的研究― 同志社大学大学院 河野尚子
■北海道大学労働判例研究会 第34回■
公務員のした退職の意思表示の撤回と退職承認処分の有効性 豊富町事件・旭川地方裁判所平成25年9月17日判決・判例時報2213号125頁 琉球大学准教授 戸谷義治
■筑波大学労働判例研究会 第40回■
労災民訴(精神疾患)における業務過重性評価と過失相殺・素因減額の関係性 東芝事件(最2小判平成26.3.24 裁判所時報1600号1頁) 社会保険労務士 北岡大介
■文献研究労働法学 第13回■
労働契約論 北九州市立大学准教授 石田信平
■イギリス労働法研究会 第21回■
イギリスにおける「株主被用者(employee shareholder)」制度の導入―株の取得と引き換えにした雇用諸権利の放棄 久留米大学准教授 ・敏
■アジアの労働法と労働問題 第21回■
韓国の女性労働法制と課題 日本大学教授 神尾真知子
●重要労働判例解説
希望退職応募勧奨とその拒否した従業員に対する出向命令の有効性 リコー(子会社出向)事件(東京地判平25・11・12労働判例1085号19頁) 専修大学法科大学院教授 小宮文人
違法解雇と代表取締役の責任 I式国語教育研究所代表取締役事件(東京地判平25・9・20労経速2197号16頁) 小樽商科大学准教授 南 健悟
今野論文は、著書などで語られているブラック企業の話をした上で、最後の「雇用改革(日本再興戦略)とブラック企業」という節で、多くの労働法学者たちによるジョブ型正社員に対する批判などに対して、今までやや異なる観点からの議論を提示しています。
・・・だが、こうした雇用改革批判が見落としている(あるいは敢えて着眼していない)重大な論点がある。それは、実は既に「ブラック企業」の正社員は職種限定社員であるという事実である。この事実を踏まえると、単純に契約の明確化に反対することは難しくなる。
「ブラック企業」の多くは小売店や飲食店の店員・店長、IT企業のエンジニア、介護労働者などであり、事実上職種が限定された労働者たちである。実際にこれらの業態の企業では、職種転換をするだけの現実の「ポスト」が存在していない。即ち、企業組織の客観的な制約から必然的に職種限定正社員なのである。そして職種限定社員は自ずから雇用継続や賃金制度において従来型と異なった処遇にならざるを得ない。従来型の年功処遇はなじまず、具体的なポストで賃金が決定される。このため、「ブラック企業」の労働者は、はじめから「年功処遇」「終身雇用」を主張することは難しい。限られた職種に従事するにもかかわらず、その待遇は不明確で、職務遂行方法は「無限定」のままである。
こうした職種限定社員の客観的な広がりの中では、従来日本社会で許容されてきたような「契約内容が曖昧な正社員」はかえって不利な状況を労働差(「者」の誤り)にもたらす。・・・
この「事実上の職種限定社員」というのは久本憲夫さんが提起した概念ですが、今野さんはそれを現代型ブラック企業の原因論に上手く取り入れています。
なお、私の「労働法の立法学」は、「労働人権法政策の諸相」です。最近のヘイトスピーチ等をめぐる議論に同期させたわけではないのですが、人権擁護法案をめぐる推移の説明が、なぜか世の中の動きに波長が合っているようないないような。
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