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« 『若者と労働』への短評二つ | トップページ | 「家事使用人の労働基準法」@『労基旬報』8月25日号 »

2014年8月26日 (火)

久本憲夫さんの拙著書評@『JIL雑誌』6月号

Chuko『日本労働研究雑誌』9月号が出たので、3か月ルールで6月号の中身がアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2014/06/index.htm

それで、その6月号に載っていた久本憲夫さんによる拙著『若者と労働』への書評もネット上で読めるようになりました。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2014/06/pdf/088-089.pdf

 本書は,労働問題のオピニオンリーダーである濱口氏がほぼ「現時点で若者の労働について語るべきことはほぼ語りつくした」書物である。歴史的な経過などが的確に押さえられているので勉強になるし,説得力がある。具体的には,「社員」の採用の仕組み,「入社」のための教育システム,若者雇用問題の「政策化」,正社員の疲弊,そして最後に若者雇用問題への「処方箋」と,新書ながら,実に幅広い問題が議論の俎上にあがり,濱口流の明快な解釈が展開する。「入社」システムの縮小によって,排除された若者が増え,評者なりにいえば,不熟練労働者をターゲットとする企業が「メンバーシップ型」企業を装って,若者を採用することが増加し,社会問題化したことなどを指摘したうえで「処方箋」を示す。このテーマに関心がある人ならば一読すべき一冊である。

 本書の基本線は,雇用社会を「就職」型(ジョブ型)社会と「入社」型(メンバーシップ型)社会に分け,日本以外を前者,日本を後者に位置づけ,その問題点を検討することにある。こうした議論は,日本特殊性論以来,ある意味,わが国では最も古典的なものである(ただ,前者を単に「欧米」に限らず,アジア諸国にも拡大している点は異なる)。こうした分類,わが国の雇用慣行の特徴を浮き上がらせる観点からは有効であろう。ただ,分析が明確過ぎて,若者の雇用政策や職業教育に関する評価など,気になる点もある。

 まず,若者の雇用政策であるが,濱口氏自身が本書で述べているように,わが国で政策が必要であると認識されたのはわずか10 年前のことである。それまで,特別の政策は必要なかった。つまり,特段の政策が必要でなかったという意味で,わが国ほど若年者雇用政策が成功した国はほかにない。もちろん,近年問題となっているわけだが,それでも多くのほかの先進国ほどひどくなったわけでもない。とすれば,基本線を「ジョブ型」社会にもっていくという考えは,少なくとも若年者雇用政策という観点からすれば,齟齬がある。

 つぎに,「ジョブ型」正社員の議論である。そもそも正社員共稼ぎモデルの主流化を求め続けている評者にとって,コース別人事管理における「一般職」の男性への開放,あるいは契約社員の「期限の定めのない雇用」化など近年話題となっている「限定正社員」の議論は,評者も10 年ほど前から主張してきたことであり,違和感はない。現実には,正社員は多様であり,世間で論じているような「正社員」(全国転勤・長時間残業あり)は実は少数派なのだが,「正社員像」としては広く認知されている。それは「日本的雇用システム」のなかにいる人が一貫して少数派であるという事実と相通ずる点がある。

ここで問題なのは「ジョブ」とは何かということである。わが国の働き方で「職務」あるいは「業務」を確定することは困難であり,業務が明確に規定されているはずの派遣社員に対してでさえ,規定外の仕事を依頼する職場の長がいるのが現状ではないだろうか。この点への考察がないとすると,「ジョブ型」正社員とは,単に定期昇給制度のない賃金カーブがフラットな正社員ということになる。

 最後に,中長期的な「処方箋」としての「ジョブ型」社会の評価とそのための職業教育政策である。職業能力開発の仕組みがドイツのようになる見込みがほとんどないのではないだろうか。ドイツ型デュアルシステムは,「就社」(=雇用,濱口氏の表現では「入社」)のまえに「就職」(=職業)を決めるものである。

問題はわが国での実現可能性である。その導入には学校教育と企業システムにおける革命的変革が必要であり,文部科学省も厚生労働省はもとより,そもそも企業がまったく本気でない以上,あまり有望だとは思えないというのが正直な感想である。

正確に読み解いて頂いた上で、鋭い突っ込みを入れて頂いている、お手本のような書評です。

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