フォト
2021年12月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
無料ブログはココログ

« 久本憲夫さんの拙著書評@『JIL雑誌』6月号 | トップページ | 「時間ではなく成果で評価される制度への改革?」@『労務事情』2014年9月1日号 »

2014年8月26日 (火)

「家事使用人の労働基準法」@『労基旬報』8月25日号

『労基旬報』8月25日号に寄稿した「家事使用人の労働基準法」です。

 長らく労働法の関心事項から外れ、ほとんど忘れ去られていたある問題が、昨今いくつかの動きから注目を集め始めています。それは、「家事使用人」への労働基準法適用除外の問題です。

 周知の通り、現行労働基準法第116条第2項は「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。」と規定しています。これは、制定当時は適用事業の範囲を定める第8条の柱書きの但し書きでした。当時は17号に及ぶ「各号の一に該当する事業又は事務所について適用する」とした上で、従って事業や事務所に該当しない個人家庭は対象外であることを前提としつつ、適用事業であっても家事使用人には適用しないという立法でした。1998年改正で第8条は削除されたので、現在は単純に家事使用人という就労形態に着目した適用除外です。

 この規定の解釈が争われた珍しい事件の判決が昨年ありました。医療法人衣明会事件(東京地判平25.9.11労判1085-60)です。ベビーシッターを家事使用人ではないとしたその判断には法解釈的には大いに疑問がありますが、むしろ家事使用人であれば労働基準法を適用しなくてもよいという67年前の立法政策を今日なお維持し続ける理由があるのか?という法政策的な課題を突きつけていると考えるべきではないかと思われます。

 この問題を今日真剣に考えなければならなくなっている理由の一つが、今年6月に成立した改正出入国管理及び難民認定法において、高度専門職という在留資格を新設し、この高度人材外国人が外国人の家事使用人を帯同することを認めることとしたからです。帯同を認めること自体は出入国管理政策の問題ですが、こうして日本で就労することとなる家事使用人は、労働基準法が適用されないことになってしまいます。労働法の隙間をそのままにして外国人労働者を導入してよいのかという問題です。

 さらに、今年6月に閣議決定された「日本再興戦略改訂2014」においては、「女性の活躍促進、家事支援ニーズへの対応のための外国人家事支援人材の活用」というタイトルの下、「日本人の家事支援を目的とする場合も含め、家事支援サービスを提供する企業に雇用される外国人家事支援人材の入国・在留が可能となるよう、検討を進め、速やかに所用の措置を講ずる」という政策が示されており、家事使用人雇用の拡大が打ち出されているのです。

 一方、2011年のILO第100回総会で、家事労働者のディーセントワークに関する第189号条約が採択されているという状況もあります。全世界的に家事使用人の労働条件をめぐる問題が政策課題として意識されつつあるのです。

 この問題に対する関心は一般にはなお高くありませんが、東海ジェンダー研究所が出している『ジェンダー研究』第16号(2014年2月刊行)に掲載されている坂井博美氏の「労働基準法制定過程にみる戦後初期の『家事使用人』観」という論文は、『日本立法資料全集』(51-54)を利用して、家事使用人の適用除外規定がいかに、そしてなぜ設けられたのかを綿密に検証しています。これを見ると、労務法制審議会では労働側委員だけでなく学識経験者の末弘厳太郞や桂皋も「家事使用人に適用しないこと反対、別の保護規定を設けよ」と主張していますし、国会でも荒畑寒村が「日本の女中というものは、ほとんど自分の時間が無い。朝でも昼でも晩でも、夜中でも、命じられれば仕事をしなければならぬ。・・・これこそ私は本法によって人たるに値する生活を多少ともできるように、保護してやらなければならぬだろうと思うのであります」と質問するなど、問題意識はかなりあったようです。

 同論文で興味深いのは、米軍駐留家庭の日本人メイドをめぐる問題です。占領初期には他の占領軍労働者と同様日本政府が雇用して米軍が使用するという間接雇用でしたが、1951年にメイドは直接雇用となったのです。そうすると突然国家公務員から労働法の適用もない存在になってしまいました。彼女らは全駐労に加入して運動しましたが、適用除外を変えることはできませんでした。

 一方職業安定行政においては、1959年に神田橋女子公共職業安定所が「女中憲章」を作成し、次のような7項目の求人条件のガイドラインを示したそうです。
①労働時間は1日12時間を超えない。
②休日は月2日以上。このほか年間7日以上の有給休暇。・・・
 裏返せば、こうした最低基準すら保障されていないということです。

 一点余計なことを付け加えておきますと、労働基準法とともに施行された労働基準法施行規則第1条には、法第8条の「その他命令で定める事業又は事務所」として、「派出婦会、速記士会、筆耕者会その他派出の事業」というのがありました。派出婦というのは家政婦のことですから、家事使用人に該当します。派出婦会が適用事業であっても、派出婦が家事使用人である限り適用されないことになるので、わざわざ派出婦会を規定していた意味はよく理解できませんが、1998年に法第8条が各号列記でなくなったため、この規定も削除されました。それにしても、労働者派遣法が成立するはるか以前からその成立後もしばらくの間、「派出」という他の労働法令には存在しない用語が生き続けていたのも興味深いところです。この「派出」と職業安定法でいう「労働者供給」との関係はどのように整理されていたのでしょうか。 

« 久本憲夫さんの拙著書評@『JIL雑誌』6月号 | トップページ | 「時間ではなく成果で評価される制度への改革?」@『労務事情』2014年9月1日号 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「家事使用人の労働基準法」@『労基旬報』8月25日号:

« 久本憲夫さんの拙著書評@『JIL雑誌』6月号 | トップページ | 「時間ではなく成果で評価される制度への改革?」@『労務事情』2014年9月1日号 »