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2014年8月25日 (月)

現代日本社会の「能力」評価@『JIL雑誌』9月号

New『日本労働研究雑誌』9月号は、「現代日本社会の「能力」評価」という特集です。これは結構面白いですよ。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/new/index.htm

解題
現代日本社会の「能力」評価 編集委員会

論文
日本企業の解雇の場面における「能力」評価の合理性について 井村 真己(沖縄国際大学法学部教授)

タイプ別に見た限定正社員の人事管理の特徴──正社員の人事管理や働き方に変化をもたらすのか? 西村 純(JILPT研究員)

非認知能力が労働市場の成果に与える影響について 李 嬋娟(明治学院大学国際学部専任講師)

「人間力」の語られ方──雑誌特集記事を素材にして 牧野 智和(日本学術振興会特別研究員)

紹介
就活で求められる能力 西山 昭彦(一橋大学特任教授)

「スキルの見える化」とキャリア形成 笹井 宏益(国立教育政策研究所生涯学習研究部長)

PIAACから読み解く近年の職業能力評価の動向 深町 珠由(JILPT副主任研究員)

このうち、堀有喜衣さんによる解題は全文ネット上で読めますので是非。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2014/09/pdf/002-005.pdf

近年の能力評価をめぐる混迷した議論状況を的確に指摘しています。

・・・しかし実際の日本のホワイトカラーの職場では,必ずしも新しいタイプの「能力」や企業横断的な評価が必要とされたり,あるいは人事評価や賃金に反映されているわけではなく,いぜんとして「メンバーシップ型」(後述)の採用や雇用管理,人材育成が主流であることを示唆する様々な知見で溢れている。いわゆる「日本的雇用慣行」は大筋の部分では維持されており,「能力」評価の点でも同様だと言えよう。

 他方で,近年労働契約のあり方が議論される中で,例えば職務を明確にしたジョブ型のような働き方を導入するとすれば,「能力」の測定と評価への反映は避けられないという事態が生じつつある。また職務の明確化が,長時間労働の歯止めになることも期待されている。さらに「日本再興戦略」においては「職業能力の見える化」が論点のひとつとなっており,近年ではこれまでになく「能力」評価のニーズが高まっている。・・・

論文の中では、やはり井村真己さんの「日本企業の解雇の場面における「能力」評価の合理性について」が、おもしろいです。まだ本文はアップされていないので、堀有喜衣さんによる要約を引用しておきます。

井村論文は,法律学の立場から,現在の日本の人事管理制度において労働者の能力が,①潜在的な能力,②労働意欲,③コンピテンシー(高い成果を安定的に生み出す職務行動),から把握されているという前提のもとで,解雇をめぐる裁判例を検討している。
 労働契約における能力評価は,労働契約の形態や内容によって評価方法が変化する。日本でよく見られる職務を限定しない労働契約における評価は,結果よりもプロセスを重視することになるため,労働者の「能力」の不足を理由とする解雇は実質的には「勤務態度」が理由になっている。他方で職務を限定した労働契約の場合には結果を出すことが求められると解されるので,結果を理由とした解雇の可能性が生まれる。
 ただし職種限定の仕事の解雇に関わる裁判例においても,単に結果のみをもって解雇の有効性が肯定されているわけではない。医師であっても解雇の合理性が労働意欲やコンピテンシーにおける問題に求められたり,能力を焦点とする場合でも,研究者における研究業績や進学塾の授業アンケートなど明確で客観的な指標が根拠とされている。また中途採用された管理職においても,結果を出すまでの期間への配慮が求められている。すなわち,能力不足という理由で解雇が認められているというよりは,労働意欲やコンピテンシーなどを考慮した総合的な判断がなされている。
 したがって解雇に関わる能力評価の課題としては,各職種ごとにコンピテンシーを明確化すること,また就業規則上の解雇規定を精緻化することが使用者側に求められることを井村論文は提起している。
 ただし解雇という場面においては職務評価を明確にすることが使用者側にプラスに働くとしても,これまでのように職務評価を明確にしないことで使用者側が得てきたメリットも大きいだろう。このメリットを捨てて職務評価を明確化する方向に向かうかどうかは,個々の企業の判断に拠るところが大きいように思われる。

あと、西村純さんの「タイプ別に見た限定正社員の人事管理の特徴」も、昨今の限定正社員論議に一石を投ずる内容です。堀さんの要約の最後の所だけを。

以上のように,限定正社員は無限定正社員の働き方を変革する可能性を秘めているのだが,能力が社会的に可視化された労働市場への扉を開くものではなさそうである。しかし,従来の日本的雇用慣行を鑑みれば,限定正社員の導入それ自体を新しい動きとして評価すべきであるのかもしれない。

言説分析に関心のある方々には、牧野智和さんの「「人間力」の語られ方」。「「人間力」って言うな!」と言う代わりに、その語られ方を分析してやろうというわけです。

書評も充実してますよ。清家篤『雇用再生』に八代尚宏さん、大内伸哉『解雇改革』に有賀健さんを当てるというあたりに、編集者のにやにや顔が見えるようです。

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