毎日新聞で書評
本日の毎日新聞の書評欄で、中村達也さんによる拙著『日本の雇用と中高年』への書評が載っています。
http://sp.mainichi.jp/shimen/news/m20140713ddm015070022000c.html
冒頭、
二〇一二年の大(おお)晦日(みそか)、全国紙の第一面に、こんな見出しが躍っていたのをご記憶だろうか。「配属先は『追い出し部屋』」。日本を代表する電機メーカーで進められていた、中高年リストラの生々しい実態報告である。・・・・・・著者がかねて指摘してきたように、日本の雇用契約はEU(欧州連合)諸国の「ジョブ型」のそれとは異なり、「メンバーシップ型」であるがゆえに、こうした部署への配置転換を拒否することができないのである。・・・
というところから私の議論を丁寧に説明していきます。
・・・そこで著者は、中高年対策として、「ジョブ型正社員」を提案する。つまり、「メンバーシップ型」を前提とした年功序列型賃金ではなく、担当する職務に応じた処遇である。ただし留意すべきは、子供の養育費や教育費や住居費など、年功序列型賃金で生活給として企業が受け持ってきたその部分がそぎ落とされることになる。その部分を、社会保障を通じてカバーするというのが大前提。つまり、「ジョブ型正社員」プラス社会保障。そのためにも、中高年から「ジョブ型正社員」というルートを準備しておくことが必要だというのである。もしも「ジョブ型正社員」が制度化されて職務が明確化されるならば、「追い出し部屋」のような曖昧な職務に配置転換されることもなければ、定年後の不安定で条件の悪い非正規の働き方を免れることにもなるというのである。・・・
最後のところで、
・・・国際比較という横糸と、戦後の労務管理史という縦糸を組み合わせて中高年対策を織り上げた、じっくりと味読に足る一冊。
と高い評価をいただきました。ありがとうございます。
(追記)
なお本日、民主党の国会議員である岸本周平さんのブログでも、拙著が取り上げられています。ホワイトカラーエグゼンプションの話の流れで取り上げられているのですが、
http://blog.shuheikishimoto.jp/archives/54881968.html (ホワイトカラー・エグゼンプションとは何か?)
一方、濱口桂一郎先生の「日本の雇用と中高年」(ちくま新書、2014年5月)を読むと、戦後の日本の労働政策の変化が判りやすく書かれています。
1960年代までは、欧米型の「ジョブ型(職務給)社会」を目指していたのですが、石油危機の70年代以降、「職務の限定のない雇用契約」を特色とする「日本型雇用」が肯定されるようになりました。
その中で、「同一価値労働、同一賃金」の原則は放棄され、年功序列賃金や家族手当など、中高年になれば支出が増える家計を企業がサポートするようになりました。
80年代以降、「ジャパン・アズ・ナンバー1」などと、日本型の経営方法がほめそやされる中、「日本型雇用」も反省されること無く続きました。
ヨーローッパでは、あくまでも「同一価値労働、同一賃金」を原則に、家計支出の増加には子ども手当など社会保障で政府が手当しています。
正規の職員間ですら「同一価値労働、同一賃金」の哲学が無かった日本に、非正規雇用に対して「同一価値労働、同一賃金」を適用するのは難しいのかもしれません。
また、今、企業が家計を支援できなくなっているにもかかわらず、政府の社会保障施策が遅れていることが、いろんなところで「貧困」問題を生んでいるように思います。
また、日本でも一時期、定年制は年齢による差別なので廃止すべきだという動きがありましたが、その後、定年制延長、継続雇用などによる方向に動いています。これが、本当に中高年の雇用の保障になるのかは疑問です。
多くの先進国では、定年制は、年齢による差別なので違法だとされています。
一律の規制よりも、個人の多様性に基づく柔軟な制度が望まれます。
もう一度、「同一価値労働、同一賃金」のジョブ型(職務給)社会を目指し、非正規雇用や中高年の雇用改善への挑戦をすべきではないでしょうか。そのためにも、社会保障改革は避けては通れない考えます。
国会で質疑をされる際には、是非とも正しい認識に基づいて的確に突っ込んでいただきたいと切に思います。
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