『日本の雇用と・・・』2冊の書評
途中までよく似たタイトルの拙著『日本の雇用と中高年』と『日本の雇用と労働法』に、それぞれ書評が付きました。どちらも特定社会保険労務士の方です。
まず、近著『日本の雇用と中高年』に、WEB労政時報の「人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評」で、和田泰明さんが書評を書かれています。
https://www.rosei.jp/readers/article.php?entry_no=63029
同著者の『新しい労働社会』『日本の雇用と労働法』『若者と労働』に続く新書第4弾です。日本の雇用社会は「ジョブ型」ではなく「メンバーシップ型」であり、それが時代の変化とともに歪みが生じているとの現状認識がいずれも出発点です。そして今回は中高年問題、すなわち、中高年労働者がその人件費の高さゆえに企業から排出されやすく、排出されると再就職しにくいという問題を取り上げ、戦後日本の雇用システムと雇用政策の流れを概観しています。・・・
と、内容を紹介していった上で、最後に、
日本の若者雇用問題の解決策として、入り口から「ジョブ型正社員」をスタンダードとしてみるという考えは、それがどれぐらい定着していくかは分かりませんが、処方箋としては中高年問題の解決において「ジョブ型正社員」の考え方を採り入れるよりはシンプルなように思われ、逆に言えば、それだけ中高年の方は問題が複雑であるという気がします。
その意味で、第5章を深耕した著者の次著を期待したいと思いますが、こうした期待は著者一人に委ねるものではなく、実務者も含めたさまざまな人々の議論が活性化するのが望ましいのでしょう。そうした議論に加わる契機として、実務者である人事パーソンが本書を手にするのもいいのではないでしょうか。
と宿題をいただいてしまいました。いや、第5章は問題提起の最初のとっかかりで、それをどう展開していくかが大問題なんです。
もう一つ、こちらは松本利浩さんの「特定社会保険労務士ブログ」で、旧著『日本の雇用と労働法』が取り上げられています。
http://www.tokutei-sr.com/blog/2014/07/post-160.php
ちょっと時間がかかりましたが、濱口桂一郎さんの「日本の雇用と労働法」を読了しました。
前著「新しい労働社会」でも指摘されていましたが、日本型雇用システムの本質はメンバーシップ契約であること。
それに対し、労働法制はジョブ型を前提としたものが構築され、現実社会と法制度との間に乖離が生じていたところ、その隙間を埋めるように戦後の判例法理が作用してきたこと。
以上の展開を、雇用関係の様々な局面から明らかにしていきますが、膨大な資料を参照したのでしょう、なかなか鮮やかな腕前です。
このあとのところで、読まれる前はわたくしの現実認識に対して必ずしも評価されていなかったことを明かされています。
・・・実は、濱口さんは労働の現場、特に中小零細企業の現場をあまりご存知ないのではと思っていたのですが、以下の記述を読んでそんな心配も無用だったと感心してしまいました。
「(メンバーシップ性が希薄な中小企業では、)総じて、大企業型の安定したメンバーシップとは異なりますが、ある種の濃厚な人間関係によって組織が動くことが多いのです。そして、そのことがジョブ型原理に立脚した合同労組のような外部の労働組合に対して中小企業経営者が猛烈な抵抗を示しがちな理由でもあるといえます」
中小零細企業の現場で働いたことはありませんが、その現場から上がってきた膨大な労働紛争事案の資料をかなり細かく読んで、大体こんなところだろうなという勘どころはある程度理解しているつもりではあります。
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