大山典宏『隠された貧困 生活保護で救われる人たち』
大山典宏さんの『隠された貧困 生活保護で救われる人たち』(扶桑社新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.fusosha.co.jp/books/detail/4111
生活保護受給者数217万人。その受給者の中には様々な背景をもつ生活困窮者がいる。
児童福祉施設出身者、薬物依存者、高齢犯罪者、外国人貧困者、元ホームレス。
貧困問題が取上げられる際にも決して語られることがなく、社会から「排除」された状態の人たち。生活保護を受けることで救われた彼らがどのように生きてきて、現在、何を感じているのか。そして、彼らを社会に戻していくためには、どうすればよいのか。
社会福祉のエキスパートが厳しい立場に置かれた人たちの支援の現場をルポする。
本ブログでも何回か取り上げてきた大山さんですが、今回はちょっと違う観点から、
・・・しかし、こうした活動の中で、徐々に違和感を覚えるようになっていきました。
メディアで伝えるのは、多くの人が共感する、わかりやすい生活困窮者です。・・・
よく言えば、わかりやすい、悪い言い方をすればステレオタイプな取材の在り方に、「何か違うな」という気持ちがぬぐえずにいました。・・・
都合の悪いもの、説明が付かないものを切り落としているのではないか。現場はもっとドロドロとしていて、割り切れないものも多いのに、「それは、まあ、置いておきましょう」と誤魔化してはいないだろうか。違和感は澱のように溜まっていきました。
もっと、現場に近い、生々しい声を集めよう。もっと周縁にいる、厳しい人たちの声を聞こう。何より自分の違和感を解消したくて、当事者や支援団体のもとに足を運び、耳を澄ませました。・・・
こうしてできあがった本書は、前著の『生活保護vsワーキングプア』『生活保護vs子供の貧困』とはひと味も二味も違った作品になっています。
第一章 児童養護施設出身者 「私のことを必要としてくれた」
第二章 高齢犯罪者 「息子たちに手紙を書いています」
第三章 薬物依存者 「認めてもらえる場所がある」
第四章 外国人貧困者 「なぜ、外国人なのに保護が受けられるんですか」
第五章 ホームレス・孤立高齢者 「続かないんだよね」
第六章 生活保護から見えるもの
冒頭に出てくる児童養護施設出身者の話は、実は大山さんが今現在取り組んでいる課題でもあるようです。彼のプロフィールに曰く:
1974年埼玉県生まれ。埼玉県職員。立命館大学大学院政策科学研究科、日本社会事業大学大学院 福祉マネジメント研究科(専門職大学院)修了。福祉事務所の生活保護ケースワーカー、児童相談所の児童福祉司などの現場経験ののち、県庁の社会福祉課で生活保護受給者の自立支援事業の企画運営に携わる。2014年度からはこども安全課で児童養護施設退所者を支援する「未来へのスタート応援事業」の立ち上げに挑戦中。このほか、内閣府子どもの貧困対策に関する検討会構成員(オブザーバー)、 日本社会事業大学非常勤講師など、貧困問題の専門家として幅広い活動を続けている。社会福祉士。
今年度から、まさに第1章に出てくるような児童養護施設退所者を支援する事業に取り組んでいるのですね。
前著もそうでしたが、本書を読み進めていくと、warm heart cool head という言葉が思い浮かびます。
とかく、cool heartな(一部)経済評論家とwarm headな(一部)運動家の対立図式に陥りがちなこの問題を、現場目線で一歩一歩解決していくのは、大山さんのような現場のwarm heart cool headな努力なのだろうな、というのが何度目かの感想です。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_d0c9.html(湯浅誠『反貧困』をめぐって)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-4287.html(埼玉県が生活保護家庭の教育支援へ)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/200-f0ab.html(『生活保護200万人時代の処方箋~埼玉県の挑戦~』)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/11/vs-cbf1.html(大山典宏『生活保護vs子どもの貧困』)
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