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2014年7月19日 (土)

生活保護の根拠は血か働く意欲か

7月18日の最高裁判決については、すでにマスコミ報道や評論などで取り上げられていますが、少なくとも法律的ロジックに関していえば、判決文が1946年の旧生活保護法と1950年の現行生活保護法の規定ぶりの違いを理由に、こう述べていることにそれほど付け加えるべきことはありません。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1)前記2(2)アのとおり,旧生活保護法は,その適用の対象につき「国民」であるか否かを区別していなかったのに対し,現行の生活保護法は,1条及び2条において,その適用の対象につき「国民」と定めたものであり,このように同法の適用の対象につき定めた上記各条にいう「国民」とは日本国民を意味するものであって,外国人はこれに含まれないものと解される。

 そして,現行の生活保護法が制定された後,現在に至るまでの間,同法の適用を受ける者の範囲を一定の範囲の外国人に拡大するような法改正は行われておらず,同法上の保護に関する規定を一定の範囲の外国人に準用する旨の法令も存在しない。

 したがって,生活保護法を始めとする現行法令上,生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されると解すべき根拠は見当たらない。

 (2)また、本件通知は行政庁の通達であり,それに基づく行政措置として一定範囲の外国人に対して生活保護が事実上実施されてきたとしても、そのことによって,生活保護法1条及び2条の規定の改正等の立法措置を経ることなく,生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されるものとなると解する余地はなく,前記2(3)の我が国が難民条約等に加入した際の経緯を勘案しても,本件通知を根拠として外国人が同法に基づく保護の対象となり得るものとは解されない。なお,本件通知は,その文言上も,生活に困窮する外国人に対し,生活保護法が適用されずその法律上の保護の対象とならないことを前提に,それとは別に事実上の保護を行う行政措置として,当分の間,日本国民に対する同法に基づく保護の決定実施と同様の手続きにより必要と認める保護を行うことを定めたものであることは明らかである。

 (3)以上によれば、外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり、生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく、同法に基づく受給権を有しないものというべきである。

そうすると、本件却下処分は、生活保護法に基づく受給権を有しない者による申請を却下するものであって、適法である。

ただ、ではなぜ旧生活保護法は国籍要件を入れずに外国人についても原則として対象に含めていたのに、現行生活保護法は「国民」に限ることとしたのか、という法政策の根っこの部分については、当然のことながら語られていません。

ここで語られていない部分こそ、生活保護というセーフティネットの性格をどう理解するかという重要なポイントがあります。この点について、かつて2008年に『季刊労働法』224号に掲載した「公的扶助とワークフェアの法政策」で、歴史的経緯に触れてこう説明したことがあります。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/fujoworkfare.html

7 旧生活保護法*4

 同年2月27日付でGHQから発出された「社会救済」(SCAPIN775)は、「日本帝国政府ハ都道府県並ニ地方政府機関ヲ通ジ差別又ハ優先的ニ取扱ヲスルコトナク平等ニ困窮者ニ対シテ適当ナル食糧、衣料、住宅並ニ医療措置ヲ与エルベキ単一ノ全国的政府機関ヲ設立スベキコト」を要求し、さらに「私的又ハ準政府機関ニ対シ委譲サレ又ハ委任サルベカラザルコト」も求めました。これは方面委員という民間人によって援護を行おうとした厚生省に対する批判です。

 これを受けて政府は4月30日に「救済福祉に関する政府決定事項に関する件」を報告し、「全困窮者ニ対スル救済ハ凡テ政府ノ責任ニ於テ平等ニシテ且差別スルコトナク其ノ徹底ヲ期スル為」に、厚生大臣(社会局)-地方長官(社会課)-地方事務所長(社会課)-市町村長(社会課)という「単一ノ政府機関」で実施し、方面委員は補助機関とすることとしています。この第5項に「単一包括的社会救済法タル「生活保護法」ハ来ルベキ帝国議会ニ提案付議ノ上7月ヨリ実施スル予定ノ下ニ諸般ノ準備ヲ進メツツアルモ本法ニ依ル救済ハ政府ノ責任ニ於テ全困窮者ニ対シ最低生活ノ維持ニ必要ナル最小限度ノ生活費ヲ補給スルコトヲ基本原則ト」する等が記述されており、政府部内で生活保護法律案作業が進められていたことが判ります。

 法案は7月に提出され、9月には成立しました。同法は目的として「生活の保護を要する状態にある者の生活を、国が差別的又は優先的な取扱をなすことなく平等に保護して、社会の福祉を増進すること」としつつ(第1条)、「能力があるにもかかはらず勤労の意思のない者、勤労を怠る者、その他生計の維持に努めない者」や「素行不良な者」には保護をしないといった欠格事由が置かれていました(第2条)。これは無差別平等原則に反するとして今に至るまで批判の的ですが、戦前と異なり労働能力のある者も保護の対象にする以上、就労できるのに就労しない者をどう扱うべきかという問いを避けることはできないはずです。今日世界的にワークフェアが論じられていること自体、この問題が過去のものではないことを示しているといえるでしょう。この時期に、失業者たる要保護者をどう扱うべきかについていくつか通達が出されています*5。

 そのうち、昭和22年4月1日発社第32号「要保護者中失業者に対する就職斡旋並びに生活保護法の適用に関する件」は次のようにかなり詳しく述べています。「客年12月要保護者全国一斉調査によれば、失業の故をもって要保護者と認定せられた者の数は相当多数に達し、最近勤労署の窓口に求職申込をなす者の数より上回っているような特異な現象を呈しているのであるが、これ等の失業者に対し失業という理由によって漫然生活保護法を適用することは、同法第二条との関連において甚だしく妥当を欠く」ものであり、「苟くも稼働能力のある者に対しては就職の斡旋等に努め勤労により生活を維持せしめるよう指導せねばなら」ない。具体的には「必ず最寄りの勤労署に出頭せしめて求職の申込をなさしめると共に、就職の決定するまでの間はとりあえず民生委員等をして、最寄り授産場に就労せしめ、又は適当な内職若しくは地域内において一時的就労の機会を努めて斡旋せしめる等の方途を講じ、出来る限り勤労により自活せしめる指導を」行わなければならない。それでもなお「生計を維持することが困難な場合」にはじめて「緊急已むを得ない措置として」保護を適用すべきである、と*6。岸勇氏はこれを「いまや無差別平等の原則はどこへすっ飛んでしまったかの観がある」と批判していますが、労働能力のある者に対して就労を求めることなく「無差別平等」に保護を行うことが適切だとは到底いえないでしょう。

 なお、旧生活保護法は無差別平等を国籍にも及ぼし、日本国に居住する外国人にも適用されるとする建前を堅持していました。この点は、新法では保護請求権を認めたことから国民に限ることとされています。

旧生活保護法は国民に限らず外国人にも適用されていましたが、そのかわり「能力があるにもかかはらず勤労の意思のない者、勤労を怠る者、その他生計の維持に努めない者」や「素行不良な者」には保護をしないといった欠格事由が置かれていたのですね。

現行生活保護法はそのような欠格事由を廃止したのですが、そのかわりに国民に限るという血の論理が導入されたわけです。

ここには、生活保護という最後のセーフティネットの性格を、ワークフェア的な行為に着目した条件付きのものととらえるのか、国籍という血に着目した条件付きのものととらえるのかという、本質的な対立が顔をのぞかせているように思われます。

実際には、その後の生活保護法の運用は、法律の建前は建前として、現役世代の男性で傷害も傷病もない人はそもそも窓口で追い払うような対応(明示化されない、かつ規則性のない恣意的な現場レベルの粗野なワークフェア)をしてきたために、この理念レベルの対立図式はあまり意識されないまま来てしまった面がありますが、根本の議論をしようとすれば、やはりここに至ることに変わりはありません。

昨年の生活保護法の改正やとりわけ生活困窮者自立支援法により、日本の生活保護法政策は著しくワークフェア的色彩を強めてきたわけですが、それに対する批判ばかりが強調される一方で、そのことと現行法が持っている血の論理との関係をどう考えるのか、というような問題は、あまり議論されないまま来ているような印象があります。

今回の判決をめぐる議論が、そういう法政策的な議論に繋がる形で議論されるならば望ましいのですがどうでしょうか。

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