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2014年7月

「すき家」の労働環境改善に関する第三者委員会調査報告書

すでにネット上では大変話題になっているようですが、これは、超絶的な長時間労働がいかにして現代日本のベンチャー企業において蔓延していくのかのメカニズムを雄弁に物語る本当に第一級の史料です。

http://www.sukiya.jp/news/tyousahoukoku%20A_B.pdf

50ページに及ぶかなり長い報告書ですが、一気に読ませます。

労働時間問題を論するのなら、何よりもまずこれをきちんと読み込んだ上で、ここにどう切り込んでいくのかというところから考えていかないと、すべては空疎な議論になっていくと思います。

(追記)

ついでに嫌みを言っておくと、せっかくゼンショーがこういう絶好のネタを投入してくれている当のその時期に、肝心の相手をどっかに置いてけぼりにして、東京都議会なんかをぶっちぎりの第1位にしているブラック企業大賞の世の中の読めなさって・・・・・・。

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ドイツ最低賃金導入は組合の恥

平成26年度地域別最低賃金額改定の目安が決定されたのを受けて、いろいろと評論がされていまして、それらはそれらなりにもっともな面もありますが、一点だけ注意を喚起しておきたいのは、出羽の守のつもりで贔屓してると、贔屓の引き倒しになりかねない面もあるということ。

たとえば、

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-07-31/2014073101_01_1.html (低すぎる 最低賃金目安 地方審議会へたたかい正念場 16円増 増税分にも届かず)

・・・世界では、最賃引き上げが行われています。米政府は時給7・25ドル(約740円)を10・10ドル(約1030円)にしようと提案。州・自治体レベルでは実現したところもあります。ドイツも全国一律最賃制度の導入間近で、8・5ユーロ(約1165円)とされています。

ドイツの最低賃金導入を、脳天気にただもう良いことみたいに言うのはいかがなものかと。そもそも、なぜ今までドイツには最低賃金がなかったのかというと、日本やアメリカよりもひどい市場原理主義だから・・・じゃないですよね、もちろん。

実を言うと、現在でも最低賃金制度がない国はあります。スウェーデンとかデンマークとか、労働組合の組織率がすごく高くて、国家権力に最低賃金なんてやってもらう必要がない国々です。

ドイツも最近まではそういう国みたいな顔をして、最低賃金なんていらない、労働組合が自力でやるぜ、といってたのですが、組合の力がどんどん弱まって、今では組織率2割台。一般的拘束力すら使えない業種が出てきて、どうしようもなくて、恥を忍んで、最低賃金の導入に舵を切ったわけですよ。

本当に組合が強ければ、国家権力による最低賃金なんか要らないわけです。ドイツの最低賃金の導入は、本当は組合の恥なんですね。

そのあたりの感覚が、もう少しあってもいいんじゃないかと。

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解雇ルールの在り方を考える@『全国労保連』7月号

Kaihou1407『全国労保連』7月号に「解雇ルールの在り方を考える」を寄稿しました。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/rouhoren1407.html

 昨年来、労働分野の規制改革の議論が盛んになるなかで、その本丸と目されているのが解雇規制の緩和です。しかしながら、官邸主導の会議体である規制改革会議や産業競争力会議などでの議論内容を見ると、必ずしも正しい認識のもと論議が進められていないようにも思えます。また政治家やマスコミ報道、評論家などにおいても、正しい認識にもとづいていないことが窺われる発言や言説が数多く見受けられます。
 そもそも、日本の解雇規制は、彼らが主張するように、本当に厳しいのでしょうか。
解雇規制について、実定法上では、労働契約法第16条で次のように規定しているにすぎません。

(解雇)
第十六条  解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。 

 これはヨーロッパ諸国の解雇に関する規定と比べて、なんら厳しいわけではありません。たとえば、ドイツでは、解雇は社会的正当性がなければ無効とされていますし、フランスでも同様に、解雇には真実かつ重大な事由が必要とされているほか、イギリスでも不公正な理由で解雇された被用者を救済する制度があります。
 では何が違うのでしょうか。日本型正社員は職務も勤務地も労働時間も制限がない代わりに、仕事が少なくなったりなくなったりしたときでも、社内での配転が可能である限り、解雇が正当と認められにくいだけなのです。つまり解雇「規制」が厳しいのではなく、日本の雇用システムの問題なのです。
 この労働契約法第16条を「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない権利濫用があったとしても有効」と改正(改悪?)することは、法理からして不可能ですし、たとえ同条を削除しても、当該条文が規定された2003年以前に戻るだけで、状況は変わりません。そもそも、根っこの権利濫用法理は民法1条3項に明記されており、まさかそれを削除することはできないでしょう。
 もし仮に欧州並みに解雇「規制」を設けるのであれば、その例外(解雇できる場合)についても同じように明確化する必要があり、例えば次のような条文が考えられます。規制改革と言えば、規制緩和を一般的にはイメージされますが、緩和するだけでなく、こうした規制を明確化するというのも立派な規制改革となるでしょう。

(解雇)
第○条 使用者は次の各号の場合を除き労働者を解雇してはならない。
一 労働者が重大な非行を行った場合。
二 労働者が労働契約に定める職務を遂行する能力に欠ける場合。
三 企業経営上の理由により労働契約に定める職務が消滅または縮小する場合。ただし職務が縮小する場合には、解雇対象者は公正に選定しなければならない。
2 前項第三号の場合、過半数労働組合または従業員を代表する者に誠実に協議をしなければならない。

  さて、ここまで述べてきたことは、実は出るところへ出たときのルールに過ぎません。中小零細企業を中心とした現実の労働社会においては、裁判所に持ち込めば適用されるであろう判例法理とはかけ離れたレベルで解雇が自由奔放に行われています。年間数十万件の解雇紛争を労働裁判所で処理している西欧諸国に比べ、日本で解雇が裁判沙汰になるのは年間1600件程度に過ぎず、圧倒的に多くの解雇事件は法廷にまで持ち込まれて来ないのです。解雇をはじめとする雇用終了関係について、全国の労働局に寄せられる相談件数は年間10万件にも上りますが、そのうちあっせんを申請したのは約4000件弱です。
そこで、筆者は、主に中小零細企業などで生じる裁判所にまで持ち込まれない個別労働紛争とその解決の実態を探るため、都道府県労働局におけるあっせん事案の内容を分析し、2012年に『日本の雇用終了』(労働政策研究・研修機構)を公刊しました。
 労働局のあっせんは任意の手続であり、参加を強制することはできないことから、事案の約4割には会社側が参加せず、結果として、解決に至るのは全体の3割に過ぎません。こうした制度の不安定さを反映して、解決金の水準で最も多いのは10万円台であり、約8割が50万円以下での解決となっています。もちろん、膨大な費用と機会費用をつぎ込んで裁判闘争に持ち込めば、解雇無効の判決を得られるのかもしれませんが、明日の食い扶持を探さなければならない圧倒的多数の中小零細企業労働者にとって、それはほとんど絵に描いた餅に過ぎないのです。
 ここに、法廷に持ち込まれる事案だけを見ている法学者や弁護士には見えにくい、解雇の金銭補償の持つ意味が浮かび上がってきます。たとえばドイツでは、解雇が無効と判断された場合に労使いずれかの申し立てにより、補償金と引き替えに雇用関係の解消を命じることができ、その額は原則12か月分、50歳以上なら15か月分、55歳以上なら18か月分とされています。またスウェーデンでは、違法無効な解雇について使用者が復職を拒否したときは、金銭賠償を命じることができるとされていますが、その水準は、勤続5年未満で6ヶ月分、5年以上10年未満で24ヶ月分、10年以上で32ヶ月分とされています。
 先に述べた現実の労働社会の実態をふまえれば、規定の内容にもよりますが、こうした金銭補償基準が法定されることが、ごく一部の大企業正社員を除き、不公正な解雇に晒されている圧倒的多数の中小零細企業の労働者にとっては、むしろ福音となるとも考えられるのではないでしょうか。


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東京都議会がブラック企業だって?

まあ、いかなる意味でもブラック企業じゃなくても、こういうのを入れとけば、みんなこれに投票するという結果になることははじめからわかっているわけで、

http://www.enlog.jp/enqResult/14240/

ブラック企業大賞2014

・株式会社 大庄(居酒屋チェーン「日本海庄や」) 344票 (7%)

・JR西日本 250票 (5%)

・株式会社 ヤマダ電機 958票 (19%)

・株式会社 A-1 Pictures 506票 (10%)

・タマホーム株式会社 319票 (6%)

・東京都議会 1,518票 (30%)

・株式会社リコー 427票 (8%)

・株式会社 秋田書店 630票 (12%)

・学校法人智香寺学園 正智深谷高等学校・株式会社 イスト149票 (3%)

まあ、一昨年の東京電力と同じで、労働問題それ自体よりも全然他のことに関心のある人々が、ブラック企業という恰好の看板を掲げてやってるイベントということなんでしょう。

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労組寄りの学会?

https://twitter.com/h_yoko_yama/status/494405381448544256

ところで, 当のhamachan先生は, 社会政策学会の秋季大会の共通論題で登壇するわけですが, 労組寄りの学会でもいつもの「 hamachan節」を炸裂させるのでしょうか. 今から楽しみです. hamachan先生のことですからやりそうな気がしますが.

いや、そもそも社会政策学会が労組寄りとは必ずしも言えないように思われますが、それはおいても、そもそもわたくしは陰で「労働組合の御用学者」とまで誹謗されている身でして、その炸裂させるという「hamachan節」って、別にそんなおどろおどろしいものではあり得ませんよ。

ちなみに、10月の社会政策学会でやるのは、EUの労働政策でして、いわゆるhamachan節はやりませんので、ご承知おきください。

http://jasps.org/archives/1245

日付:2014年10月11日(土)-10月12日(日)

 会場:岡山大学津島キャンパス

 10月11日(土):共通論題:社会政策としての労働規制―ヨーロッパ労働社会との比較-

  座長:森建資(帝京大)

  報 告 者:濱口桂一郎(労働政策研究・研修機構)

          田中洋子(筑波大)

          菅沼隆(立教大)

  コメンテータ:戸室健作(山形大)

           清山玲(茨城大)

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平成25年度産業経済研究委託事業

昨年10月、こういうエントリを書きましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/10/post-2b65.html (経済産業省の委託事業仕様書に・・・)

経済産業省のホームページの入札情報のところに、「各国の働き方の実態から見た労働法制・雇用制度に関する調査」ってのが載っています、

・・・なんだか、いろんな話がてんこ盛りになっていますが、メンバーシップ型とかジョブ型という言葉も顔を出しているようです。

・・・こういうのを見てまた怒りの炎を燃え立たせる人々もいそうです。

その成果物が3月にはもうできあがって、経済産業省のサイトにアップされていたようです。

http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2014fy/E004061.pdf (平成 25 年度産業経済研究委託事業(各国の働き方の実態からみた労働法制・雇用制度に関する調査)報告書)

作成したのは、株式会社 NTT データ経営研究所ですね。

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ジョブ型責任とメンバーシップ型責任

いつも明快な松尾匡さんが、例によってシノドスで明快な議論を展開していますが、

http://synodos.jp/economy/10051(「自己決定の裏の責任」と「集団のメンバーとしての責任」の悪いとこどり)

ここで松尾さんが例に引いているのは、イラクで拘束された3人に対する日本のバッシングと外国の賞賛ですが、松尾さんの言う「自己決定の裏の責任」と「集団のメンバーとしての責任」の区別は、なぜ日本の企業で成果主義がおかしな風になるのかを理解する上でも有用でしょう。

成果主義というのはいうまでもなく成果(あるいは成果のなさ)に応じて賃金を支払うことですが、それが可能であるためには最低限、その成果(あるいは成果のなさ)が当該労働者の自己決定に基づいて生じたものである必要があり、そのためには自己決定が可能な程度にはその労働者の職務が明確であり、権限が明確であり、逆に言えば上司その他の第三者の介入によって当該成果(あるいは成果のなさ)が生じたのであれば当該第三者にその責任を追及しうる程度にはデマケがはっきりしている必要があります。

でも、それが一番、日本の企業が絶対にやりたくないことなんですね。

職務が不明確であり、権限が不明確であり、誰の責任でその成果(あるいは成果のなさ)が生じたのか、デマケが誰にもわからないようになっているそういう世界で、なぜか上からこれからは成果主義だというスローガンと発破だけが降りてきて、とにかく形だけ成果主義を一生懸命実施するわけです。

そうすると、論理必然的に、松尾さんの言う「集団のメンバーとしての責任」の過剰追求が始まってしまう。もともと職務も権限も不明確な世界では、責任追及も個人じゃなくて集団単位でやるという仕組みで何とか回していたから矛盾が生じなかったのですが、そこで個人ベースの責任を追及するということになれば、「みんなに迷惑かけやがってこの野郎」的な責任追及にならざるを得ず、「俺だけが悪いわけじゃないのに」「詰め腹を切らす」型の個人責任追及が蔓延するわけですね。

まさに、自己決定がないのに、自己決定に基づくはずの責任を、集団のメンバーとしてとらされるという、「悪いとこ取り」になるわけで、そんな糞な成果主義が一時流行してもすぐに廃れていったのは当然でもあります。

この議論、もっと発展させるとさらに面白くなりそうな気がするので、松尾さんにはこの場末のブログから励ましのお便りを出しておきます。

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それはふざけてないのだよ、全然

http://bookserial.seesaa.net/article/402736510.html(こんなふざけた内容の求人があって良いのか? 国際文化会館図書室 司書)

何をふざけていると憤慨しているのかというと、

●雇用形態 アルバイト職員

●待遇 時給1000円

●勤務条件 1年毎契約更新

といういかにもそこらの非正規なのに、求めるスペックが、

・洋書目録の作成、つまりは目録規則を理解し外国語が読解ができるレベルが必要

・発注、受入、配架、除籍、装備、蔵書点検

・英語によるレファレンス、つまりは英会話ができるレベルの語学力が必要

・カウンター業務においても英語での対応が必要

・書類作成、経理などの一般事務

・PowerPointやAccessもできること

・応募理由も書いて提出しなくてはならない

・図書館勤務経験が5年以上

・司書資格が必要

とやたらに高いということなんですが、でもね、これって日本の雇用システムからすれば全然ふざけていないどころか、きわめて当たり前なのです。何でもやるメンバーシップ型正社員にはジョブ型の高度専門的スペックではなく、なんでもやれる意欲と潜在能力が重要である一方、ここまで限定されたジョブをこなす人材はメンバーシップ型正社員じゃない雇用形態でもって充てるのですから。

残念なことに、図書館という本来ジョブ型正社員という形態こそが最もふさわしいはずの職場であっても、メンバーシップ型正社員とジョブ型非正規労働者という二極構造以外のあり型がなかなか許されていないために、こういう(図書館という専門職という日本ではほとんど無視される観点から見れば)不合理な事態がやむを得ない帰結となるわけです。

この話は、去る4月22日に、早稲田大学メディア文化研究所 公共ネットワーク研究会の主催するシンポジウム「非正規公務員問題を考える」でお話ししたところですが、今度11月1日の全国図書館大会でもお話しする予定にしています。

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ワロタ・・・では済まないんだが・・・

https://twitter.com/ryojikaneko/status/493798672413380609

この春は全国各地の労働相談に組合から賃上げはどうすればいいのかという相談が寄せられたという。

組合から・・・・・・

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『月刊連合』8月号に登場

201408_cover_l_2 『月刊連合』8月号に登場しております。

http://www.jtuc-rengo.or.jp/shuppan/teiki/gekkanrengo/backnumber/new.html

ワークルール読本2014夏

「過労死ゼロ」へ 労働時間規制を考える

■日本の労働時間規制 3つの大誤解を解く

濱口桂一郎 JILPT主席統括研究員

■安倍「雇用改革」3つの大矛盾を解く

毛塚勝利 中央大学法学部教授

■労政審における論点と連合の対応

新谷信幸 連合総合労働局長

中身は、本日も都内某所でお話ししてきたことと同じです。

そこでも申し上げたように、私は全く同じことを、経団連に呼ばれても連合に呼ばれても、どこに呼ばれてもお話ししてきております。

●目的は労働者の健康と安全の保護
 
 「新しい労働時間制度」創設の具体的な検討の場は、三者構成の労働政策審議会。審議に臨むにあたっては、労働時間規制の基本となる考え方をもう1度押さえておくことが重要だ。
 私が、労働時間規制を考える上でベースにしているのは、EUの労働時間指令だ。その目的は「労働者の健康と安全の保護」におかれ、「実労働時間規制であること」「安全衛生規制であること」「賃金規制ではないこと」という3つの特徴がある。
 実労働時間規制には、「最長週労働時間」「週休」「毎日の休息期間」があるが、いずれも物理的に働く時間を規制するもので、賃金に関する規定は一切ない。第6条「最長週労働時間」には、「時間外労働を含め、48時間を超えないこと」と書いてある。つまり、週48時間が上限で、そこで時間外労働はストップとなる。「週休」も働いてはいけない「絶対休日」だ。「毎日の休息時間」は「継続した11時間の休息期間(rest period)を得る権利を確保する」というもの。それが不可能な職務であっても、「同等の代償休息期間」が与えられなければならないとされている。
 「最長週労働時間」については適用除外(オプトアウト)が可能で、イギリスなどでは雇用契約締結時にオプトアプトが組み込まれていることも多い。しかし、それでも、週休と毎日の休息期間は適用されるから、24時間×7日から11時間×6+24時間を引いた78時間が週労働時間の絶対上限として機能する。また、「全面適用除外」の条項もあるが、対象となる「経営管理者その他の自律的な意思決定権限を有する者」は厳格に判断されていて、「一部自律的な働き方をしている」という程度では対象外だ。
 このEU指令とまったく異る性格を持っているのが、アメリカの公正労働基準法だ。物理的労働時間規制はなく、あるのは「週40時間を超えたら50%の時間外手当を支払え」という賃金規制だけであり、その適用除外制度がホワイトカラー・エグゼンプションだ。これに対し、EU指令のオプトアウトは、物理的労働時間規制の適用除外であって、手当の支払いは一切関係ない。ここを混同してしまうと、議論が混乱するので注意が必要だ。
 
●安全衛生規制であった工場法
 
 さて、基本的な頭の整理ができたところで、日本の労働時間規制をめぐる3つの大誤解を解きほぐしていこう。よく言われてきたのが、「日本の労働時間規制は厳しい」「労働時間の規制緩和はワーク・ライフ・バランスに役立つ」「残業代ゼロ法案はけしからん」。しかし、この3つはいずれも間違いだ。
 第1に、日本の労働時間規制は本当に厳しいのか? 
 最初に日本の労働基準法は、EU労働時間指令とアメリカ公正労働基準法、どちらのタイプなのか確認しておこう。その前身である工場法は、1911年に制定され、女子と年少者の深夜業を禁止するとともに、就業時間を1日12時間に制限した。製糸工場などで働く女性たちに、長時間労働による慢性疲労や結核などの病気が広がっていたからだ。つまり、日本でも、労働時間規制は安全衛生問題であり、手当を払うか払わないかという賃金規制とはまったく別問題だったのだ。1919年に採択されたILO第1号条約も、その観点から「1日8時間、1週48時間」という上限を定めた。
 戦後1947年に制定された労働基準法には、32条で「1日8時間、1週48時間」の法定労働時間が定められた。しかし、36条で労使協定を締結すれば、青天井で時間外労働を認める仕組みが入った。そのため工場法がもっていた安全衛生規制という性格が薄れ、法定労働時間は「ここから時間外労働が始まる」という賃金計算上の「区切り」になっているのが実情だ。逆にいえば、物理的な規制が緩められたために割増賃金が意味を持つという構図になっている。さらに1990年代以降は、労働時間の弾力化が労働時間法制の中心課題となり、「いかに割増賃金を払わなくていい部分を増やすか」という観点から様々な制度が検討されてきた。
 つまり、日本は、労働時間規制が厳しいどころか、アメリカと並んで世界で最も規制の緩い国の1つであり、約百年前に採択されたILO第1号条約さえ、いまだ批准できずにいるのだ。その事実をまず認める必要がある。
 
●賃金規制か、安全衛生規制か
 
 第2に、労働時間規制を緩めるとワーク・ライフ・バランスが推進されるのか?
 産業競争力会議が提出したペーパーは『「子育て・親介護といった家庭の事情等に応じて、時間や場所といったパフォーマンス制約から解き放たれて、これらを自由に選べる柔軟な働き方を実現したいとするニーズ、特に女性における、いわゆる『マミー・トラック』問題の解消」に役立つと説く。この大誤解も、労働基準法の法的性格に対する根本的な誤解に由来している。言うまでもなく、法の名宛人は使用者だ。「使用者は1日8時間、週40時間以上働かせてはならない」と書いてあるが、労働者に対して「1日8時間、週40時間働きなさい」とはどこにも書いてない。法定労働時間より短く働くことも、働かせることも、現行法で十分可能だ。労働時間規制の適用除外は、労働時間を長くすることに対してのみ意味を持つ。女性の活躍促進はいいことだが、それを大義名分に適用除外を拡大する必要性はまったくない。
 第3に、「残業代ゼロ法案」という批判はなぜいけないのか? 現状において、残業に対する間接的な規制として唯一機能しているのが、37条の割増賃金だ。しかし、日本における労働時間規制の適用除外を「残業代ゼロ」と表現するのは正しくない。アメリカの公正労働基準法は、賃金規定しか持たないから、ホワイトカラー・エグゼンプションは「割増賃金の支払いを免除する制度」と考えていい。しかし、日本の労基法は、あくまで安全衛生規制であり、物理的労働時間規制としての性格を有している。だから、労働時間規制の適用除外とは、37条の割増賃金の支払いだけでなく、安全衛生規制である32条の適用除外でもあるのだ。しかし、適用除外の拡大を「残業代ゼロ」という視点だけで批判すると、安全衛生規制の問題がむしろ押し隠されてしまう。働く人の健康と安全を守るために長時間労働を規制するという一番重要なことがむしろできなくなってしまう。これは「名ばかり管理職」問題を考えればわかりやすいだろう。本当は過労死寸前の長時間労働を強いられていることが問題なのに、いつのまにか残業代が払われないという問題にすり替わってしまう。2つの問題が一緒くたに議論されているために様々な矛盾が生じている。
 今回の「新しい労働時間制度」創設の真の目的が「割増賃金規制の合理化」なのであれば、経営側はそれをはっきり言うべきだろう。賃金の問題なら、基本的に労使が交渉して決めていけばいい話だ。
 しかし、健康と安全に関わる安全衛生規則は、労使合意があっても緩めてはいけないものだ。例えば建設作業において、労使が合意すれば安全靴やヘルメットを装備しなくていいということには決してならない。労働時間規制も同じだ。労使協定を結べば、割増賃金さえ払えば、何時間働かせてもいいという話ではないはずだ。労働政策審議会においては、賃金規制なのか、安全衛生規制なのか、その線引きを明確にした上で議論を進めていってほしい。
(連合第4回労働法研究会における講演より構成)

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大内伸哉『最新重要判例200[労働法] <第3版>』

181564大内伸哉さんから『最新重要判例200[労働法] <第3版>』(弘文堂)をお送りいただきました。毎月のように本を出されている大内さんですが、今回は学習用参考書のシリーズで、表紙には『200』と謳いながら、載っている判例は213です。

でもそれでも第2版より若干減らしたんですね。下関商業高校事件など16件削除して、日本IBM事件など13件追加しています。この例でわかるように、同じジャンルの古い判例を新しいのに置き換えたのが多いようです。

とはいえ、たとえば有期雇用の賃金格差については、看板事案は丸子警報器事件のままで、その解説の半分以上を充てて最新のニヤクコーポレーション事件の説明をしているというのもあり、全部そうしているわけでもないようです。

http://www.koubundou.co.jp/book/b181564.html

なお、ちょっと気になったのは津田電気計器事件の解説で、

・・・この判断によれば、改正後においては、労働者が希望すれば原則として定年後も65歳(経過措置あり)まで継続雇用される期待に高度の合理性があることになり、9条の私法的効力を否定しても、実質的には解雇の法理が準用されて、雇用保障が認められる可能性があると言えよう。

とのべているところです。

私の理解では、9条に基づいて当該企業に継続雇用制度が設けられていることを前提に、それに基づく合理的期待を認めているのであって、改正高齢法の下でも継続雇用制度がまったくないところにいきなり9条を根拠に合理的期待を認めるロジックにはなっていないように思われます。ここの記述はその当たりの論理関係がやや不明確で、気になりました。

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禹宗杬・連合総研編『現場力の再構築へ』

9784818823051禹宗杬・連合総研編『現場力の再構築へ 発言と効率の視点から』(日本経済評論社)を、執筆者の鬼丸朋子さん、梅崎修さんより、お送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.nikkeihyo.co.jp/books/view/2305

企業行動の変容のなかで、職場はどう変わったか? 働き方は? 現場力は? 労働関係は? 労使へのヒアリングを通じてそれらの相互関係を読み解き、今後の展望を探る。

連合総研で数年前から行われた「企業行動・職場の変化と労使関係に関する研究委員会」の成果ですが、いろんな業種の代表的な企業の、近年の職場の変化と労使関係の姿が描かれています。

「代表的な」と言いましたが、本書では一応、企業名はA社とかB社等と匿名になっています。とはいえ、読者からすれば全然匿名になっていません。だって、「R社との提携でR社から招聘されたG氏が経営責任を負うようになった」自動車製造業のA社はかつて「労組の相対的に強い規制力やその経営に対する負の効果に関心を向けられた」とか、匿名にする意味があるのかと思いますし、「郵政、佐川を迎え撃つ」宅急便のE社って、まさか魔女のじゃないでしょうし、エブリデイ・ロープライスの価格政策を推進している流通D社とか、オープンキッチンの中華料理チェーン店を全国展開しているF社とか、だだわかりですよね。

目次と執筆者は以下の通りです。

はしがき 

序 章 日本企業の現場力と労使関係 禹宗杬

1.本書の問題関心 

2.本書の作業仮説 

3.各章の概要と含意 

序章の補論 現場力に関する若干の理論的検討 禹宗杬

1.はじめに

2.日本企業の競争力と現場

3.現場力をめぐる近年の変化

4.海外の研究成果を踏まえての相対化

5.おわりに

第1章 【自動車】余裕の喪失が現場力を弱めている?  禹宗杬

1.はじめに 

2.労使関係

3.経営の行動と組合の対応

4.職場における余裕の喪失

5.おわりに

第2章 【電機①】労使協議を通じた労使関係の構築

──組合の「翻訳」機能に関する一考察── 鬼丸朋子

1.はじめに──問題の所在──

2.B社の概要

3.b事業所における労使関係

4.おわりに 

第3章 【電機②】労使協議を通じた労使関係の構築

──組合員の現場力形成を通じた交渉力の維持・向上──  鬼丸朋子 

1.はじめに 

2.C社c事業所の概要 

3.C事業所における労使関係 

4.C社労働組合が果たす役割 

5.おわりに 

第4章 【流通】創意工夫を生み出す労使関係 金井 郁 

1.はじめに

2.経営環境の変化と企業の対応 

3.現場における創意工夫 

4.マネジメントによる創意工夫の促進

──業績管理の多層性── 

5.売り場の創意工夫を生み出す労働組合・労使関係の機能 

6.おわりに

第5章 【宅配】労使が支える現場の自律性と企業競争力 金井 郁 

1.はじめに

2.経営環境の変化と企業の対応

3.労使関係の枠組みと労働組合の組織構造

4.E社の現場力を労使で支える仕組み

──労働時間削減と生産性向上への取り組み──

5.現場力を生み出す職場作業者集団と近年の変化

6.おわりに

第6章 【外食】「人づくり」と「現場力」 土屋直樹

1.はじめに

2.会社の経営方針と施策

3.店舗オペレーション

4.労働組合の役割 

5.おわりに 

第7章 【人材派遣】労働者派遣業における労使関係の多層化と労働組合の取り組み 梅崎 修 

1.はじめに 

2.労働者派遣業おける「発言-退出モデル」

3.常用型派遣会社の概要と企業競争力の源泉

4.人材マネジメント 

5.労働組合の支援と今後の課題 

6.おわりに 

第8章 【産業機械】製品開発力を生み出す企業内連携と労使関係 梅崎 修 

1.はじめに 

2.調査企業の説明 

3.企業内連携の仕組み 

4.技能形成 

5.連携を生み出す労使関係 

6.おわりに 

この中で興味深かったのは、常用型派遣会社G社をとりあげた第7章でした。

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人手不足と採用難の悪循環

リクルートワークス研究所が7月24日に発表した「人手不足の実態に関するレポート」に、興味深い分析が載っています。

http://www.works-i.com/pdf/140724_hit.pdf

「人手不足の影響と対応に関する調査」によると、人手不足に関連して当てはまる状況として、「同業他社が、賃金などの処遇を高めて募集をしていて、採用を巡る競争が厳しくなった」(25.6%)、「自社の正社員の労働時間が長くなっている」(24.6%)は、他よりも回答割合が高い。

業種別に見ると、飲食サービス業において「同業他社が、賃金などの処遇を高めて募集をしていて、採用を巡る競争が厳しくなった」(36.8%)の割合が他の業種よりも高い。また、「業界のイメージが悪く、自社に応募者が集まりにくい」の割合は、建設業(32.6%)や飲食サービス業(28.9%)において他の業種よりも高い。「自社のアルバイト・パートの離職率が高くなっている」の割合は、飲食サービス業(31.6%)や小売業(24.8%)において他の業種よりも高い。

飲食サービス業や小売業においては、アルバイト・パートの離職率が高まることにより、既存社員の業務負担が高まり、業界の評判が悪くなり採用が難しくなるために既存社員の業務負担がさらに増えるといった、採用難による悪循環に陥っているといえる。

ある時期までは、低賃金の非正規労働力を多用するとともに正社員の異常なまでの長時間労働をコスト上の武器にして「好循環」を謳歌していたビジネスモデルが、一つ歯車が狂うと、すべてがマイナスに作用する「悪循環」に転化するという皮肉でしょうか。

つい最近まで謳歌されてきた労働者にとってブラックな「好循環」をまっとうな「悪循環」に転化させたのは、残念ながら労働組合が支持する政権ではなく、その反対側の自公政権の金融財政政策であったことは、(それを「アホノミクス」などと罵倒して済ませるのではなく)きちんと落とし前をつけておくべきことであるように思われます。

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日経新聞で山田久さんが拙著書評

26184472_1本日の日本経済新聞の書評欄で、山田久さんが拙著『日本の雇用と中高年』(ちくま新書)を取り上げています。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO74786300W4A720C1MZC001/

日本の雇用システムは「就社型」の仕組みであり、「就職型」の欧米と対比される。著者は職務の定めのない雇用契約である「メンバーシップ型」という鮮やかなコンセプトを打ち出し、近年における雇用問題の論壇をリードしてきた。その著者が、日本の雇用問題が最も集約的に表れる「中高年雇用」に着目しつつ、戦後日本の雇用システムの構図を浮き彫りにし、処方箋の方向性を論じた。

著者は若年層の就労問題に関し、既得権を持つ中高年が若者の雇用を奪っているとする主張を批判する。日本型雇用システムとは本来、スキルの乏しい若者にとって有利である半面、スキルの蓄積が乏しい中高年は雇用調整の対象になりやすい、中高年にとって厳しい仕組みだと喝破し、戦後の日本型雇用に対する見方の変化と雇用政策の変遷を追う。1960年代にはそうした認識が一般的で、欧米流の就職型の仕組みである「ジョブ型社会」が目指されていたことが明らかにされる。

しかし、70年代以降、日本型雇用への評価の逆転が生じる。この関連の叙述で注目されるのは、その逆転を正当化したものが、今なお強い影響力を持ちつつも現実の説明力には疑問な面がある「内部労働市場論」であったとの指摘である。様々な仕事を経験した中高年ほど労働価値が高いとする理論だが、真っ先にリストラ対象となるのが価値の高いはずの中高年である現実と辻つまが合わないからだ。

中高年問題に対する著者の処方箋は、「ジョブ型労働社会」への接近であり、その前提としての社会保障改革である。評者も、雇用問題を雇用システム改革の問題としてとらえ、社会システム全体との関連から論じるべきだとする見解に共感し、突破口は「ジョブ型正社員」にあることに強く賛同する。だが、この議論は「多様な正社員」や「限定正社員」といった呼び方でも論じられ、論者の立場によってイメージが異なり、必ずしも共通認識が得られていない。この点については、一段と議論を深めていく必要があろう。

私見では、(1)現在、存在する地域や職種が限定されている正社員(2)(著者が主に想定していると思われる)欧州タイプの職種限定の熟練正社員(3)米国タイプのプロフェッショナルな正社員の少なくとも3タイプに分け、導入の条件や環境整備を議論すべきだと考える。読者は、本書から日本の雇用の行く末を考えるにあたって必要な、確かな歴史認識と拠(よ)るべき視座を得ることができるであろう。

私が強く主張したかったことを的確に摘示していただいている記述もあり、大変嬉しい書評です。

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『労働調査』7月号で拙著書評

Coverpic労働調査協議会の雑誌『労働調査』7月号は、特集が「労働組合の教育機能を考える」で、これ自体とても大事なトピックなので改めて取り上げますが、本日は最後のページに載っている書評を。評者は中川敬士さん。

http://www.rochokyo.gr.jp/articles/br1407.pdf

本書は、戦後日本の雇用システムと雇用政策の流れを丁寧に解説しながら、こぼれ落ちたらなかなかはい上がれない日本の雇用システムの構図が最も集約的に現れる「中高年雇用」に着目している。・・・

・・・ただし、ジョブ型の雇用システムでは就職の際に職業スキルが問われることになるので、中高年よりスキルの劣る若年層は労働市場で不利となる側面がある。しかしメンバーシップ型の入社からこぼれ落ちるとなかなかはい上がれない新卒一括採用から、ジョブ型の欠員補充方式に移行していけば、採用の入口が拡がるので、再チャレンジできる可能性は高まると思われる。さらに入社しても中高年になれば職務の有無に関わらず人件費が高いという理由だけでリストラの対象となりやすく、対象となった場合には再就職も難しいことを考えると、職務がある限り企業から排出されることはないジョブ型の雇用システムが若年層にとっても好ましく思えてくる。本書は中高年の雇用問題だけでなく雇用問題全体を考えていく上で必要な要素がわかりやすく解説されているので、若年層にもお勧めしたい。

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「育児は女性」母孤立

本日の朝日新聞が、1面左側と2面全面を使って、シングルマザーの問題を取り上げています。

http://www.asahi.com/articles/ASG7Q132CG7PUHBI023.html

 急な仕事で子どもを預けないといけない。ひとり親で収入は少なく、頼れる人も限られている。一体どうすれば良いのか。

 3月、インターネットで見つけたベビーシッターに預けた男の子が、遺体で見つかるという痛ましい事件が起きた。横浜市の山田龍琥(りく)くん(当時2)。母親(22)は取材に「助けてあげられなかった。ごめんねってしか、言えないです」と語った。・・・

すでにネット上でも大きな反響があるようなので、ここでは記事の最後に載っているJILPT研究員の周燕飛さんのコメントを:

ネットシッター事件の背景には、働きに出ざるを得ない母子家庭の困窮と、保育サービスの不足がある。

日本のシングルマザーの就業率は極めて高いが、賃金が低く、「働いているのに貧困」というケースが多い。解決策は労働市場を抜本改革して男女間、正規・非正規間の雇用格差を解消することだが、日本には古くからの慣行や文化に根強い支持があり簡単ではない。

母子家庭のうち推定15万世帯は食べるのにも困る「絶対的貧困レベル」で、対策は急務だ。養育費の強制徴収制度を検討したり、貧困層への財政支援を手厚くしたりする必要がある。

Singlemothers ということで、先日出版されたばかりの周さんの本も紹介しておきます。この問題を考える際の必読書です(と販売促進)。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/06/wlb-ba22.html (シングルマザーに必要なのは、「企業戦士型経済的自立」というよりも「ワーク・ライフ・バランス(WLB)型経済的自立」である@周燕飛)

内容は周さんが過去数年間取り組んできたシングルマザー研究の現段階での集成ですが、経済学的分析を駆使した研究書ではありますが、切れ味の良い周さんらしい記述があちこちにあって面白く読めます。

また、周さんの映像と肉声はこちらをどうぞ:

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人種差別撤廃条約と雇用労働関係

『労基旬報』7月25日号に寄稿した「人種差別撤廃条約と雇用労働関係」です。

 昨年6月に障害者雇用促進法が改正され、障害者に対する差別の禁止や合理的配慮の提供が規定されたことは読者周知のことと思います。同月にはより一般的な法律として障害者差別解消推進法も成立しています。これら立法が、2006年に国連総会で採択され、2007年に日本政府が署名した障害者権利条約の批准のためのものであることもよく知られているでしょう。
 このように国際条約の批准のための立法として最も有名なのはいうまでもなく、1979年に国連総会で採択され、1980年に日本政府が署名した女性差別撤廃条約とそれを受けた1985年の男女雇用機会均等法です。
 他にこのような例はないのでしょうか。国際条約としては障害者や女性よりももっと早く。1965年の国連総会で採択された人種差別撤廃条約があります。ところが、労働法の世界でこの条約が議論されることはほとんどありません。多くの読者にとっては意外な事実かも知れませんが、実は日本政府は1995年にこの条約に「加入」しており、1996年1月14日から日本について「条約」の効力が生じているのです。ところが、この条約を実施するための国内法というのは存在していません。
 アメリカでもヨーロッパでも、差別禁止法制といえばまずは人種差別と男女差別から始まり、やがて年齢差別や障害者差別に広がっていき、さらにこういった属性による差別とは異なる類型として雇用形態による差別的扱いも問題にされるようになっていったというのが歴史の流れなのですが、日本ではその最も根幹のはずの人種差別が、条約の効力はあるとはいいながらそれを実施する国内法は存在しないという奇妙な状況がずっと続いていて、しかもそれを(少なくとも雇用労働分野では)ほとんど誰も指摘することがないのです。
 かつては女性差別撤廃条約を批准するためには国内法整備が必要だと言って男女雇用機会均等法が制定され、最近は障害者権利条約を批准するために国内法整備が必要だと言って障害者雇用促進法が改正されたことと比べると、人種差別撤廃条約に対するこの国内法制の冷淡さは奇妙な感を与えます。実は、2002年に当時の小泉内閣から国会に提出された人権擁護法案が成立していれば、そこに「人種、民族」が含まれることから、この条約に対応する国内法と説明することができたはずですが、残念ながらそうなっていません。
 このときは特にメディア規制関係の規定をめぐって、報道の自由や取材の自由を侵すとしてマスコミや野党が反対し、このためしばらく継続審議とされましたが、2003年10月の衆議院解散で廃案となってしまいました。この時期は与党の自由民主党と公明党が賛成で、野党の民主党、社会民主党、共産党が反対していたということは、歴史的事実として記憶にとどめられてしかるべきでしょう。
 その後2005年には、メディア規制関係の規定を凍結するということで政府与党は再度法案を国会に提出しようとしましたが、今度は自由民主党内から反対論が噴出しました。推進派の古賀誠氏に対して反対派の平沼赳夫氏らが猛反発し、党執行部は同年7月に法案提出を断念しました。このとき、右派メディアや右派言論人は、「人権侵害」の定義が曖昧であること、人権擁護委員に国籍要件がないことを挙げて批判を繰り返しました。
 全くの余談ですが、この頃私は日本女子大学のオムニバス講義の中の1回を依頼され、講義の中で人権擁護法案についても触れたところ、講義の後提出された学生の感想の中に、人権擁護法案を褒めるとは許せないというようなものがかなりあったのに驚いた記憶があります。ネットを中心とする右派的な世論が若い世代に広く及んでいることを実感させられる経験でした。
 一方、最初の段階で人権擁護法案を潰した民主党は、2005年8月に自ら「人権侵害による被害の救済及び予防等に関する法律案」を国会に提出しました。政権に就いた後の2012年11月になって、人権委員会設置法案及び人権擁護委員法の一部を改正する法律案を国会に提出しましたが、翌月の総選挙で政権を奪還した自由民主党は、政権公約でこの法案に「断固反対」を明言しており、同解散で廃案になった法案が復活する可能性はほとんどありませんし、自由民主党自身がかつて小泉政権時代に自ら提出した法案を再度出し直すという環境も全くないようです。
 ちなみに、人種差別撤廃条約に国内法としての効力を認めた判決は、雇用労働関係ではまだありませんが、入店拒否事件(静岡地浜松支判平11.10.12、札幌地判平14.11.11)やヘイトスピーチ事件(京都地判平25.10.7)などいくつか積み重ねられつつあります。

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本日の日経記事意味不明その2

4面に載っているこちらは、政府筋のリーク記事のようですが、これまた意味不明がてんこ盛り。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS24H15_U4A720C1PP8000/建設業の外国人労働者、日本人並み給与義務化へ

政府は来年度から受け入れを拡大する建設業の外国人労働者について、同じ技能を持つ日本人と同等以上の給与を支払うよう受け入れ企業に義務付ける方針を固めた。外国人が給与水準など就労条件のより良い企業に転職することも認める。いずれも技能実習期間の3年間を超えて働く人が対象になる。外国人が働きやすい環境を整え、「安価な労働力確保」という批判をかわす。

なんで建設業の外国人技能実習生「だけ」同一賃金を義務づけることができるのか、そこだけミクロスコピックに見た議論じゃなくって、マクロ社会政策的にちゃんと説明できる理屈を、ちゃんと用意するんでしょうかね。

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本日の日経記事意味不明その1

本日の日経の1面トップ記事は、読めば読むほど意味がよくわからない記事です。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC24H0A_U4A720C1MM8000/三菱UFJ、契約社員を60歳まで雇用 1万人待遇改善

三菱東京UFJ銀行は約1万1千人の契約社員の雇用を60歳まで保証する。勤続3年以上で本人が希望する人を対象に2015年4月から実施。新たな休職制度などを設け、待遇改善も進める。13年に施行された改正労働契約法を先取りする動きだ。長く働ける環境をつくり、人材をつなぎ留める狙いからも、他の企業に広がりそうだ。

契約法20条に対応する待遇改善はわかりますが、見出しになっている「60歳まで雇用」とか、いわんや「契約社員の雇用を60歳まで保証」というのがまったく意味不明。しかもそれが「13年に施行された改正労働契約法を先取りする動き」といわれて、ますます頭の上に?が重なります。

そもそもこの現在有期契約を更新して雇用されている人々は、有期契約のままで「60歳まで雇用」を「保証」するというんでしょうか。それとも正社員とは異なる無期契約にするというのでしょうか。後者であれば改正労働契約法に沿ったものですが(既に施行されているので「先取り」ではあり得ませんが)、それではもう契約社員じゃないはず。

契約を半永久的に更新しながら60歳まで継続すると約束するから、契約法18条の無期転換権を行使しないでね、という申出ということなんでしょうか。でも、そもそも、60歳まで更新し続けるという約束はそれ自体雇用契約の一部になってしまうはず。とすれば、それは既に60歳終期付き無期契約ではないかという気もします。

考えれば考えるほど意味不明になっていく記事ですが、これは日経記者の記述のせいなのか、これだけではよくわかりませんね。

(追記)

読売新聞を読んだら,意味が明瞭になりました。

http://www.yomiuri.co.jp/economy/20140724-OYT1T50165.html?from=ytop_ylist(契約社員、3年で「無期雇用」に…三菱UFJ銀)

三菱東京UFJ銀行は、現在は6か月~1年程度ごとに契約更新している契約社員を、期間を定めず定年まで働くことができる無期雇用の契約社員にする方針を固めた。

単に、契約法では5年となっているのを3年で無期化するというだけのことですね。

多分、三菱UFJの「無期雇用の契約社員」という言葉が誤解のもとだったんでしょう。

しかし、これも変な言葉ですね。拙著でも、正社員も全て雇用契約を結んでいるはずなのに有期労働者だけ「契約社員」なんて言うのは変だね、と書いていますが、有期労働者を無期化しても、そっちは契約社員で、今までの正社員は無契約社員(?)なんですな。

まあ、無限定正社員の無限定さの根っこは、この自分は「契約社員」なんかじゃないと思い込んでいる「無契約社員」にこそあるのでしょう。

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義理を欠くことの大切さ

S1494川人博さんより『過労自殺 第二版』(岩波新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1407/sin_k777.html

ちょうど、過労死等防止対策推進法が先月末に成立したところに出版されるというタイミングですが、本書の最後のところがこの法律の説明になっていて、まさにそれを見計らって出版したのでしょうね。

2014年,過労死等防止法成立.近年,二,三〇代の青年や女性たちの間にも,仕事による過労・ストレスが原因と思われる自殺が拡大している.なぜ悲しい犠牲が減らないのか.初版の内容を基調にしつつ,最近の事例や労災補償の有り様の変化,歴史の検証などを新たに盛り込み,法制定後に求められる防止策と善後策を具体的に示す.

第4章の「過労自殺をなくすために」の中では、もちろん「男女共通の労働時間規制を」とか「インターバル規制の導入を」というのは大事ですが、それらが存在しない今現在、特に過労自殺予備軍の人々に伝えるべき言葉は、

義理を欠くことの大切さ

という言葉ではないでしょうか。

・・・過労死で亡くなった事例の調査をすると、この日無理をせずに休んでいれば助かったかもしれない、と悔やまれるケースがたくさんある。だから、私は、「過労死をしない方法は」と聞かれたときには、「義理を欠くこと」を勧めることにしている。心を鬼にしてでも「義理を欠く」気持ちがないと過労死を防げないのが日本の職場の実態である。・・・

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JILPT「人材マネジメントのあり方に関する調査」

JILPTが「人材マネジメントのあり方に関する調査」を記者発表しました。

http://www.jil.go.jp/press/documents/20140723.pdf

いろいろと興味深い事実が明らかになっていますが、とりあえずここでは、無期契約化、多様な正社員化、というホットなテーマについて:

<4社に1社超が、向こう5年間で「無期契約の社員」割合が増加すると回答>(p4・図表2参照)
従業員全体に占める「無期契約の社員」割合の、向こう5年間の増減見通しは、「横ばいで推移する(増減はほとんどない)」とみる企業が30.7%となったものの、「現状より(やや)増加する(と思う)」企業も26.6%で4社に1社を超えた。

<2割弱が「多様な正社員区分の新設(拡充)を検討し得る」と回答>(p6・図表4-1,4-2参照)
「多様な正社員」の可能性について、「新設(既にある場合は拡充)することを検討し得る」企業が19.1%となった。「宿泊業、飲食サービス業」や「金融業、保険業」「情報通信業」「生活関連サービス業、娯楽業」などでは4社に1社を超え、「1,000人以上」では3割強にのぼった。新設(拡充)を検討し得る理由としては(複数回答)、改正労働契約法への対応(44.3%)や、少子高齢化の中での労働力確保に対する危機感(42.7%)、非正社員からの優秀人材の確保(41.7%)などが多くあがった。

あと、これはなかなか微妙な結果。どう読むかは人によるかも知れないけれど。

<ミドルマネジャーに共通する資質は「ストレス耐性」や「顧客志向」「成果志向」など> (p17・図表15参照)
正社員ミドルマネジャーが、自身にあてはまると考える資質は、「大体のことは何とかなると考えている」というストレス耐性がもっとも高く、次いで、②顧客の満足を重視する、③誰が商品やサービスを使う人かを具体的に考える、④困難に直面しても耐えられる、⑤どんな責務でも最後までやり通し、とりかかったことは必ず終わらせる、などの順となった(該当指数の高い順)。総じて、「ストレス耐性」「顧客志向」「成果志向」といった共通点が浮かび上がった。

ストレス耐性ねえ。

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新科目「公共」に労働法教育を

本日の産経新聞に、

http://sankei.jp.msn.com/life/news/140722/edc14072221570002-n1.htm(高校に新科目「公共」、秋にも中教審諮問へ)

文部科学省は22日、平成28年度の全面改定を目指す小・中・高校の学習指導要領について、今年秋にも中央教育審議会に諮問する方針を決めた。下村 博文文科相が同日の会見で明らかにした。高校では新科目「公共」の導入や大学入試改革に対応した教科のあり方、日本史必修化などが目玉に。小中では、英語 教育の充実などが柱となりそうだ。

 高校の新科目「公共」は昨年夏、自民党が下村文科相に提言。現在、「公民」や「家庭科」などにまたがっ て教えられる規範意識や社会制度について新科目にまとめ、若者の自立心を育むのが狙い。就労や結婚、家族、納税、政治参加などについて、ディベートや体験 学習を通じて実践的に学ぶ教科となりそうだ。

例によってネット上ではつまらぬイデオロギー的空中戦になっているようですが、これこそ、今まで文部科学省がやってるやってるといいながら公民で労働3権を教えてるだけという状態だった労働法教育を、リアルなレベルできちんと位置づけるいい機会でしょう。

大事なのは、どんな無茶ぶりでも言うことを聞くというたぐいの規範意識ではなく、自らの正当な権利を社会に通用する規範としてきちんと示せるという規範意識として作っていけるかですが、そういう建設的な方向に持って行けるかは、これを変な空中戦にしていかないことが大事です。

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「ハローワークは嫌い、ダサい、行きたくない」そんな就職できない若者がハマる大手就職サイトの罠

ダイヤモンドオンラインの記事ですが、

http://diamond.jp/articles/-/56458(「ハローワークは嫌い、ダサい、行きたくない」そんな就職できない若者がハマる大手就職サイトの罠)

「ハローワークってなんかダサいよね」
「なんかオジサンがオジサンの就活の世話をしている感じ」
「陰気で暗いイメージ」
「年配者が通うところでしょ?」

私が就職支援で関わった方々は、これまで就職が上手く行かなかった20代の男女がメインでした。一般的な統計は分かりませんが、少なくともそのほとんどの方がハローワークを敬遠していました。その主たる理由は、冒頭でご紹介したとおりです。

Chukoこの後、具体的にハローワークと大手就職サイトの違いについて説明していきますが、読んでいくと、『若者と労働』で引用したあの学生たちの言葉が浮かび上がってきますね(p78~)。

http://sociologbook.net/?p=385

・・・それでも既卒を中心にハロワですぐに内定取るやつがたくさんいて、話をきくと確かに地味な中小が多いがなかなかのんびりした昭和な感じの会社も多くて、もうこれは職探しの手段としてはハロワ最高ちゃうん、って思って、苦戦してる学生にめっちゃ勧めてるんだけど、あれっと思うほど反応が悪い。
・・・もちろんハロワで見つかる会社にブラックがぜんぜんないっていう話ではぜんぜんなくて、そうなんじゃなくて、どうせ同じならムダに苦労することないと思うんだけど、っていうことやねんけども。やたらと競争率の高いところに行こうとして無理して長い期間しんどい就活しなくても、給料に差は無いんだから、ハロワで地元の中小企業探して、あとはのんびりと最後まで学生生活楽しんだらいいと思って、かなりアツくハロワ推しをしてるんだが、なんかあんまり反応がない。
・・・それで学生たちになんでハロワ行かないのって聞いたら、まあ聞いたらなるほどって思いましたけども、「ハロワに行くのって『職探し』って感じがするんですよー」って言われたときはびっくりした。いやお前らいまやってるの職探しやろ。違うのか。

 この学生たちの素朴な反応に、「就活」というものが、いかなる意味でも「就職」活動などではないという事実が、あまりにも露わになっていています。ハローワークは「職探し」をするところであり、自分たちがやっている「入社」のための活動とは縁のない世界だと思い込んでいるわけですね。
 「入社」のための「就活」に振り回される学生たちから「職探し」と見下すようにみられるところまで、日本の法律が本来の姿として想定していたジョブ型「就職」の世界は社会の中で周辺化されていたということでしょう。

つまり、ジョブ型の「就職」はダサい世界であり、大手就職サイトに象徴される「入社」の世界こそがかっこいいという価値観ですね。

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鶴さん、荻野さんの講演

アドバンスニュースに、昨日サポートセンターの勉強会で、規制改革会議の鶴さんとトヨタの荻野さんの講演があったことが報じられています。

http://www.advance-news.co.jp/news/2014/07/post-1222.html(鶴教授、荻野トヨタ自主査が講演  サポートセンター第3回勉強会)

N140722_2鶴さんは、先日のみずほ総研のパネルディスカッションでもちらりと語っていましたが、産業競争力会議の議論の流れにあまり好感をもっていないようです。

・・・しかし、労働時間規制の見直しについては、同じ政府の産業競争力会議から出た「成果型」労働制度の提言が閣議決定され、規制改革会議が提言した「新しい労働時間制度」、「労働時間の量的上限規制」、「休日・休暇取得の強制的取り組み」の「三位一体改革」の考え方が盛り込まれなかったことについて、「(産業競争力に軸足を置いた)雇用改革が政権中枢の目玉施策となり、途中で議論の流れが変わってきた」と、一部に無念さをにじませる場面もあった。

N140722_3荻野さんの方は、もちろん「所属する企業ではなく人事を担当した経験を踏まえた個人的見解」としてですが、

・・・新しい労働時間制度、多様な正社員、解雇の金銭解決などについて、政府での議論が「混乱している感もある」と指摘し、仮にこれらの改革が実施されても、「企業の“稼ぐ力”の向上にどこまで寄与するか、相応の時間を要するのではないか」と持論を説いた。

と語ったそうです。

労働時間については、8月1日に連合が緊急シンポジウムを開くそうなので、

http://www.jtuc-rengo.or.jp/info/event/20140801.html

ご関心のある方はどうぞ。

(参考)

Chinginjijou20140720鶴さんの最近の発言については、『賃金事情』7月20日号に溝上憲文さんが書かれた「「残業代ゼロ法案」の展開を追う」というレポートに興味深い発言が載っています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/07/720-6c7d.html

・・・しかし、このレポートで一番注目すべきは、規制改革会議雇用WPの鶴光太郎さんが成長戦略に対して強烈に不満を表明しているところでしょう。

・・・この成長戦略に対しては、これとは別の観点からその内容に不満を露わにする人もいる。安倍政権の規制改革会議・雇用ワーキンググループ座長の鶴光太郎慶應義塾大学大学院教授は、「規制改革会議がこれまで真剣に議論し、労働時間の量的上限規制などと新たな労働時間制度をセットにした三位一体改革が必要であることを提言した。だが、成長戦略ではそれが抜けてしまい、結果的には1,000万円という数字だけが突出しており、われわれとしては不満だらけの内容だ」と批判する。

例のブラック企業撲滅プランに関して、わたくしと鶴さんのコメントをそれぞれどうぞ。

・・・濱口主席統括研究員は「労働時間の量的制限という言葉はあるが、具体的には何も書いていない。長時間労働をしないように監督指導を徹底すると言っても、36協定がある限り違法ではないし、いくら監督官を増やしても,取り締まることはできない。残業代をなくした代わりに、監督官が監督指導できる根拠となる新たな法規制は盛り込まれていない。ということは、今のままでいい,というのが本音ではないか」と指摘する。

また、鶴教授も「36協定によって労働時間は事実上青天井になっている。産業競争力会議の提案にはいろいろ書いてあるが、上限規制についてはまったく踏み込んでいない。長時間労働を取り締まることがないままにエグゼンプションを導入するのでは,国民の納得も得られないだろう。労働政策審議会では、労使で健全な仕組みについて前向きな議論をお願いしたい」と語る。

先日のみずほ総研におけるパネルディスカッションを想起された方も多いかも知れません。

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よくわかるジョブ型とメンバーシップ型

読売新聞の「Chuo Online」というサイトに、中川洋一郎さんの「「新卒一括採用」は、やがて消え去る慣行か」という記事が載っています。

http://www.yomiuri.co.jp/adv/chuo/opinion/20140722.html

拙著で繰り返し述べていることが丁寧に説明されているのですが、その中のこのマンガがなかなかよくできていて、ジョブ型とメンバーシップ型の本質をよく表しています。

Job

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「リフレ派やめた」と言わずに済むように

https://twitter.com/sunafukin99/status/488965576627200001

とっくにリフレ派やめたから暗黒卿もバンバンdisれるので気楽だわ。

https://twitter.com/sunafukin99/status/491434287153946624

「リフレ派やめた」っていうとまるでデフレ派になったみたいに思う人がいるかもしれんな。決してそうじゃないんだが。

だから、そういう思いの人のために、わざわざ「リフレ派やめた」と言わずに済むように、「りふれは」という言葉をつくって差し上げていたのですけど、それにまた怒りをたぎらせる方がいたりしてね。

ま、どっちにしても、もうあまり世間の関心を集める話でもなくなりつつあるようですが。

その暗黒卿こと高橋洋一氏など、もうあまり批判する値打ちもない人という評価が広まりつつあるようですし。

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マシナリさんの拙著書評

26184472_1 本ブログでも何回もそのエントリを取り上げてきたマシナリさんのブログで、拙著『日本の雇用と中高年』が連続して取り上げられています。

http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-616.html(社会システム全体への目配り)

・・・ということで、だいぶ前に読了しておきながら塩漬けになってしまっていたhamachan先生の『日本の雇用と中高年』の感想から再開したいと思います。昨年同じくhamachan先生の『若者と労働』については、「この本を読んでしっかりと若者と労働について認識を改めて実践するべきは、堅く言えば使用者側、ぶっちゃけて言えば「メンバーシップ型」の雇用にどっぷりと浸かってしまった大人の側」という感想を書いておりましたが、今回の『日本の雇用と中高年』はその名のとおり、その「大人の側」が自分のこととして「認識を改めて実践すべき」ことが満載です。同じエントリで、若者については「これからその世界に浸かってしまう若者にとっては、予防線として知るべき知識ではあっても、現時点では残念ながら実践すべき知識ではない」とも書いておりましたが、これとは全く対照的に、本書で書かれていることはまさに中高年の労働者が実践するべき知識というわけです。

http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-617.html(実践される人事労務管理)

・・・また、本書で私もうーむと唸らされたのが、いわゆる小池理論を引き合いに出して、内部労働市場における「知的熟練」の議論が、ある時期までは日本型雇用システムをうまく説明できたものの、まさに現場の労務担当者が近代化に役立つと認識していた年功制が維持できなくなるにつれて、むしろ中高年労働者の「知的熟練」の虚構が暴かれてしまうという第2章の展開です。これについてはhamachan先生ご自身が解説されているのでそちらをご覧いただくとして、ある理論がある特定の時期の社会情勢を説明できるからといって、それを普遍的なモデルとして政策を論じることの危険性については、モデルを多用する学問(まあ経済学のことですが)では十分に注意する必要があると感じた次第です。

いつもながら目配りの聞いた的確な書評をいただき、ありがとうございます。

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ローカル経済はジョブ型か?

51ehemzjgwl_sx230_ 最近はジョブ型、メンバーシップ型という言葉がやたらに流行って、いろんな本や文章に用いられるようになってます。その中には、たとえば楠木新さんの『働かないオジサンの給料はなぜ高いのか』のように、内包的にも外延的にも拙著での使い方とほぼ同じものもあれば、かなり異なる出発点から議論を展開させていった流れの末に、その本における二項対立と絡み合わせる形でジョブ型とメンバーシップ型という概念を持ち込んでいるものもあります。

9784569819419 その一つとして、冨山和彦さんの『なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略』(PHP新書)があります。

http://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-81941-9

グローバルとローカルの経済圏を区別せずにその施策を考えていたため、格差問題が生じ、日本経済は停滞してしまっていた。

 グローバル企業がいくら稼いでも、日本経済全体の占有率は3割にすぎない。雇用にいたっては、2割程度である。残り7割のローカル経済圏が復活してこそ、初めて成長軌道に乗ることができる。

 内容例を挙げると、◎「GとL」を理解すれば格差問題の実相も見えてくる ◎日本のグローバルプレーヤーが長期的に後退してきた本当の理由 ◎大企業と中小企業ではなくグローバルとローカルで分ける ◎ほとんどの産業がローカル経済圏のプレーヤー ◎「コト」消費の時代の到来で「GもLも」戦略に追い風が吹き始めた等々

 そして、今、労働市場で人類史上発の巨大なパラダイムシフトが起きている、と著者は主張する。GDPや企業の売上が緩やかに減少していく中で、極度の人手不足が起こっているのだ。

 日本経済復活へのシナリオを明らかにする一冊。

というように、GとL、つまりグローバルとローカルという二項対立が本書の基本構造です。

そこに、冨山さんはメンバーシップ型とジョブ型を重ね合わせます。

・・・今のところ、我が国におけるグローバル経済圏での雇用は、仕事内容、労働時間、勤務地が限定されず、新卒一括採用で正社員として入社する「メンバーシップ型」が中心である。もちろん、Gの世界で戦う企業はGモードの高度人材を必要としているので、どこまでこのスタイルでいけるか、かなり疑問だが、とりあえず現状はまだ「メンバーシップ型」が主流になっている。

・・・これに対し、ローカル経済圏での雇用は、基本的に「ジョブ型」だ。・・・

労働の流動化について議論するとき、必ず出てくる疑問がある。

「本当に雇用は流動化するのか」

この疑問は、グローバル企業の大手製造業をイメージするから出てくる。職を失って次に移る場所がないという恐怖感から生ずる。確かに、グローバル経済圏のメンバーシップ型雇用では、恐怖感を抱いても不思議ではない。転職して、あとから「メンバー」に入ることが圧倒的に不利な世界であるからだ。

・・・ローカル経済圏の雇用は、もともと流動性が高い。「Lの世界」はサービス業と中小企業の世界なのだ。そこには終身雇用・年功制・企業別組合という、J.アベグレン博士のいう「日本型雇用の三種の神器」など、過去においても確立したことはない。・・・

正社員、年功序列という日本型正規雇用は、メンバーシップ型雇用の日本型大手製造業にしかフィットしない。ジョブ型雇用のサービス産業にはフィットしないので、労働者が非正規雇用化していく。・・・

この重ね合わせは、消極的な意味で、つまりローカルなサービス業主体の世界には、典型的なメンバーシップ型雇用など確立したことはないし、現にメンバーシップ型の雇用保障などきわめて希薄であるという意味においては正しい言明です。

その非メンバーシップ型的性格は、労働局あっせん事案をまとめた拙編『日本の雇用終了』を一瞥すればよくわかるでしょう。まさにスパスパ解雇していて、それがそれほど大きな問題とも認識されてもいません。

ただ、ではその世界、冨山さんのいう「Lの世界」が欧米の労働社会のような意味でのジョブ型の世界かというと、これまた『日本の雇用終了』がくっきりと描き出しているように、決してそんな代物でもないわけです。

あえていえば、ジョブもメンバーシップも労働者の固有の財産権としては確立していない世界といえましょうか。

そして、だからこそ、規制を緩めると冨山さんが懸念するブラック企業化が進行するわけです。

(追記)

冨山和彦さんといえば、産業再生機構のCOOとして、JALのリストラなどに関わった人として、やたらに規制緩和を唱える市場原理主義者だと思っている人もいるかもしれませんが、本書を読めばグローバル経済圏とローカル経済圏に対して、きちんとそれぞれのロジックで対応しようとしていることがわかります。先に引用した部分の直前の記述ですが、

・・・一般的に、市場の規律には資本市場の規律、製品市場の規律、労働市場の規律という三種類がある。・・・

そうなると、穏やかな退出を促すためには、労働市場での規律を厳しくすることが唯一の有効な方法となる。

具体的には、サービス産業の最低賃金を上げることだ。あるいは賃金がどんどん上がってきて、弱い事業者が悲鳴を上げてきたときに、そこに救済の手をさしのべないことだ。

・・・労働監督、安全監督を厳しくすることも有効だ。・・・

ブラック企業と噂されるのは、圧倒的にサービス産業の方が多い。労働監督や安全監督を強化しなければならないのは、むしろサービス産業の方だ。・・・これを機に中小企業についても容赦なく取り組み、その基準をクリアできない企業には、退出を迫った方が良い。

中小企業経営者の支持を頼むある種の野党にはここまで明確な言い方ができない見事な正論です。

ちなみに、一見冨山氏と同じことを言ってるようなふりをしているある種のヒョーロン家は、こと労働問題に関する限り、断固としてゾンビ企業の味方であるようですな。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-a344.html (ゾンビ企業の味方です!キリッ)

(再追記)

ついでに、女性についても、こういうまともな意見を述べていますね。

・・・女性の雇用に関しても、盛んに語られるのは東京でエグゼクティブとしてバリバリ働く女性のイメージだが、東京にある一流企業で、コーポレートエグゼクティブとして働く女性が増えても、それは日本の女性人口のうちの0.1%にも満たない。99.9%の女性の人生にとって、ほとんど関係がないグローバル経済圏からローカル経済圏へのトリクルダウンが起こらないように、エグゼクティブな女性が増えてもローカル経済圏の女性の労働環境が変わるわけではないのだ。・・・

そんなことよりも、女性の就労参加のリアリティは、普通の職場で子育てをしながら女性が働きやすくなることだ。そのうえで、夫と二人でおおむね800万円程度の世帯収入があり、無理なく子供が育てられる状況をつくってあげる方が、はるかに有効だ。・・・

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経営者意識になりすぎたメンバーシップ型労働者を「もっと経営者になれ」と罵る人々

昨日に続いて、イケメン社会学者の筒井淳也さんです。こちらは本人のブログ記事。

http://d.hatena.ne.jp/jtsutsui/20140719/1405754049日本的働き方における「フレキシビリティ」の矛盾

・・・日本的な働き方の特徴の一つに、社内で人員をフレキシブルに配置できる、というものがある。職務内容や勤務地がはっきりと決められていないため、内部労働市場が活発になり、経営者は事業の縮小や新規展開にあわせて人員を柔軟に配置換えすることができる、ということである。1970年代以降の経済成長率の低下に際して欧米諸国では大量失業が生じたのに日本では失業率(特に若年者失業率)がそれほど高まらなかったのは、余剰労働力を吸収する旧セクター(自営)の厚みや女性を非労働力化する家庭の影響があったという事情もあるが、内部労働市場の活用も無視できない。

しかしそれと引き換えに、企業の内部では能力主義(職能資格制度に基づく個別的評価)が浸透し、働く人々にいっそうの「柔軟性」が求められるようになった。つまり、複雑な複数の職務を把握し、周囲と協調して働くことがますます求められるようになった。そこでは具体的職務内容の遂行ではなく「潜在能力」が職務能力評価の対象になるため、「適性」「能力」「意欲」といった抽象的な基準で個人主義的な評定がなされるようになった。一見能力主義と対立するようにみえる「情意考課」も、もとはといえばこういった能力主義化のもとでの柔軟性の要求の延長線上にある評価の仕方である。

いってみれば、社員全体が「経営者的意識」を持つことを要請されてきたのである。このような働く環境において、女性は排除される傾向が強くなる。

端的に書かれているので特に付け加えるべきことはないでしょう。こういう「経営者的意識」をもった労働者のことを、日本社会の日常言語では、法律上は会社への出資者のみを指す言葉を用いて、「社員」と呼んでいるわけであり、逆に言えば自らを「社員」と意識する労働者が法律上そうであるように労務提供と報酬受領の債権契約の一方当事者と意識しないこともまた自然であるわけです。

そしてこういう「社員」であればこそ、

・・・つまるところ、職務配置の柔軟性とは、労働者の働き方の自律性の縮小と引き換えで可能になるものなのである。欧米的・職務給的な働き方は、職務内容が限定されているがゆえに、労働者はそれ以外の点で自律的な働き方をする余地が残されているし、また自分たちを経営者と対立する労働者として認知しているがゆえに連帯・団結することでそういった自由を勝ち取ってきたという側面もある。「全員が経営意識を持っている」ような場合にはそういった労働者としての連帯意識は構築されにくい。各自が経営意識を持ち、利益に敏感で、営業職でなくとも営業感覚を持つことが期待される職場では、「意欲・適性・能力」というあいまいな基準で駆り立てられつつ、働き手は自らを複雑な職務配置のなかに投げ込み続け、労働環境の自律性を放棄しているのである。

という事態になるわけですが、さて。

そういう(共同主観的に)経営者意識になりすぎたメンバーシップ型労働者に対して、奴隷だの身分制だのと罵声を浴びせながら、「もっと自立的になれ」「もっと経営者になれ」と叱咤激励して、それが矛盾していると全然感じていないように見えるある種のヒョーロン家諸氏の精神構造こそ、この世の不思議の極みと言えましょうか。

いやいや、数多くの係員島耕作たちが、あたかも社長島耕作になったかのように思考し、行動せよという価値規範が内面化されていることこそが、良きにつけ悪しきにつけ、メンバーシップ型社会の最大の特徴なんですよ。

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若者雇用法の中身が少し

公明党が申し入れして、先月の成長戦略に盛り込まれた例の若者雇用法の中身が、少しずつ報道されています。

http://www.asahi.com/articles/ASG7M5GF9G7MUTFL001.html若者を正社員にしよう 新法検討、ブラック企業対策)

田村憲久厚生労働相は19日、若者の正社員化を進める新たな法律づくりを検討する考えを明らかにした。非正規社員を正社員にする企業に助成金を出すことなどを中心に、中身を詰める。与党と協議した上で、早ければ来年の通常国会への法案提出をめざす。

・・・新法では、過酷な労働環境の「ブラック企業」対策を盛り込むことも検討する。

この間の経緯については、本ブログでも取り上げましたが、WEB労政時報の記事でまとめています。

http://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=234若者雇用法?

 去る6月16日の産業競争力会議で『「日本再興戦略」の改定について(素案)』が示されました。

※首相官邸「第17回 産業競争力会議 配布資料」(平成26年6月16日)⇒トップページはこちら

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai17/siryou.html

 本連載でも繰り返し取り上げてきた時間と賃金のリンクを外す「新たな労働時間制度」をめぐって産業競争力会議側と厚生労働省でぎりぎりまで綱引きが行われ、とりあえず年収1000万円で収めた話など、興味深い話題はいっぱいありますし、解雇の金銭解決を目指した「予見可能性の高い紛争解決システム」の動向も目が離せませんが、今回はそれらのちょっと後ろにさりげなく載っているある項目を取り上げたいと思います。

 それは、「未来を創る若者の雇用。育成のための総合的対策の推進」というタイトルの下に書かれた次のような一節です。

①未来を創る若者の雇用・育成のための総合的対策の推進

就職準備段階から、就職活動段階、就職後のキャリア形成に至るまでの若者雇用対策が社会全体で推進されるよう、以下の総合的な対策について、法的整備も含めた検討を行い、次期通常国会への法案提出を目指す。

・求人条件や若者の採用・定着状況等の情報の適切な表示

・「若者応援企業宣言」事業の抜本的強化

・企業の雇用管理改善の取組の促進

・若者の「使い捨て」が疑われる企業等への対応策の充実強化

・「わかものハローワーク」、「地域若者サポートステーション」等の地方や民間との連携のあり方を含む総合的な見直しによるフリーター・ニートの就労支援の充実等

※『「日本再興戦略」の改訂について(素案)』

⇒公表資料はこちら(PDF48ページ)

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai17/siryou2.pdf

  突然「次期通常国会への法案提出を目指す」という言葉が飛び出してきています。突然というのは、少なくとも政府部内においては、若者雇用対策を法制化しようというような動きはどこにもないからです。

 付属の中短期工程表を見ても、他の項目は2013年度のところに記述があるのに、この項目だけはそこが空白です。つまり、今まで全然検討も何もしてきていないのに、ここからいきなり「若者の雇用・育成のための総合対策の検討」を行い、それに続いて「検討結果を踏まえた法制上の措置」を講ずるということになっているようなのです。

 実は、これが初めて報じられたのは、6月12日の共同通信でした。

 政府は12日、若者の雇用安定を後押しする総合的な取り組みを定めた「若者雇用法」を策定する方針を固めた。過酷な労働を強いるブラック企業対策などを強化し、働く環境の改善を図る。来年の通常国会への法案提出を目指す。

 ……若者雇用法は、若者が安定した職に定着できるよう、就職の準備をする在学中から就職活動、就職後を通じて社会全体で雇用対策を推進することを規定する。

※「若者の雇用支援で新法策定へ ブラック企業対策を強化」(共同通信)⇒記事はこちら

http://www.47news.jp/CN/201406/CN2014061201001649.html

 唐突な報道を見て、この背後に何があるのだろうと興味をそそられていろいろと調べてみると、公明党のホームページに「若者雇用の促進法を」という記事があるのを見つけました。

 公明党の雇用・労働問題対策本部(桝屋敬悟本部長=衆院議員)と青年委員会(石川博崇委員長=参院議員)は7日、厚生労働省で田村憲久厚労相に対し、「若者が生き生きと働ける社会」の実現に向けた提言を申し入れた。これには、佐藤茂樹厚労副大臣(公明党)が同席した。

今回の提言は、少子化に伴い若者が減少していく中で、「ますます貴重な存在となる若者の育成・活躍なしに、将来のわが国の社会・経済の発展はない」との認識から、党内で議論を重ねてきたもの。

具体策としては、まず、家庭や地域、学校、企業、行政機関、民間団体など、若者を取り巻く関係者の責務を明確化し、社会全体で若者を守り育てていく取り組みを総合的・体系的に推進するために、「若者の雇用の促進に関する法律」(仮称)を制定するよう提唱。

また、若者が企業を選ぶ際に重要となる、採用・離職状況やワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の達成状況などの情報について、企業側の開示を促す仕組みの検討などを要請している。

新卒者支援では、全国に57カ所ある「新卒応援ハローワーク」でのきめ細かな職業相談・紹介に加えて、2015年度から始まる採用活動時期の繰り下げに伴う支援体制の確保を挙げた。中退者・未就職卒業者対策については、学校とハローワークの連携を進めることなどを求めた。

フリーター・ニート、非正規雇用者への支援策では、14年度に28カ所へと増設される「わかものハローワーク」の速やかな設置を要望した。個別の状況に応じた就労支援を行う「地域若者サポートステーション」(サポステ)については、安定財源が確保されていない現状を指摘し、事業の抜本的強化や法的位置付けの明確化を主張した。

若者が結婚し、子育てしやすい職場づくりに関しては、長時間労働の縮減や職場環境の改善に取り組む企業、業界への支援を提案。若者の“使い捨て”が疑われる、いわゆる「ブラック企業」対策では、国の厳格な監督指導などを訴えた。このほか、若者の能力開発の推進も要望した。

提言に対し、田村厚労相は「しっかりと重く受け止める」と答えた。

※「若者雇用の促進法を」(公明党HPより)⇒該当ページはこちら

https://www.komei.or.jp/news/detail/20140508_13909

  これを見ると、共同通信の報道も、今回の産業競争力会議で示された『「日本再興戦略」の改定について(素案)』の記述も、この公明党の提言通りであることが分かります。与党の一角を占めるとはいえ、一政党の提言が出されて間もない時期に政府の中枢でそのまま法制化されることが決まっていくというのはいかにも異例な感じを与えますが、大きな政治状況の中でそのような意思決定がなされたのであろうと想像することができます。

 法制化といっても、内容的には既に行われている事業の羅列が多く、純粋の法律事項はそれほどあるわけではありません。ただ、かなり大きな規制でもあり、企業の人事実務に大きな影響を与える可能性があるのが、「求人条件や若者の採用・定着状況等の情報の適切な表示」という項目です。

 公明党のホームページによると、これは「若者が企業を選ぶ際に重要となる、採用・離職状況やワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の達成状況などの情報について、企業側の開示を促す仕組みの検討」と書かれており、離職率の高い企業や、長時間労働の傾向の高い企業にとっては、あまり出したくない情報を開示させられることになる可能性もあります。

 大きな話題の陰に隠れてあまり注目されていませんが、こういう動きも進んでいるのだということは、頭の片隅にでも留めておいたほうが良いかもしれません。

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男女均等とWLBと日本型雇用

イケメン社会学者として有名な筒井淳也さんがしのどすに、「男女雇用機会均等法では「共働き」を実現できない」を書かれています。

http://synodos.jp/society/9733

・・・男女雇用機会均等法はその根本的な方向性からして「家庭と仕事の両立」を、ひいては真の意味での「共働き」社会を導くようなものではない。というのは、男女雇用機会均等法はほぼ一貫して、女性を従来の男性的な=「無限定的」な働き方に引き入れようとするものだからだ。・・・

・・・要するに、これまでの政策の方針は「女性を従来の男性的働き方に近づけましょう、ただし出産・育児期は配慮します」というものなのだが、これではおそらくほんとうの意味での「共働き」カップルは増えていかない。

今ほんとうに必要なのは、労働時間の短縮(上限規制)と可能な限り転勤のない働き方の推進である。男女雇用機会均等はその上ではじめて意味を持つ制度だ、ということを強調しておく必要があるだろう。

すでに耳タコなくらい言われていることでもありますが、私の名前も引用されたりしてるので、

正社員の「無限定性」とは、濱口桂一郎氏のいう「メンバーシップ型雇用」の特徴で、勤務時間、勤務地、職務内容について限定性がないという条件を引き換えに高い賃金を得るという点が、転勤のない準総合職や一般職、さらに職務内容がある程度限定されたパート労働などとは異なっている。夫が無限定的な働き方(残業あり、転勤あり)ができるのは、そのパートナーが働いていないか、あるいは限定的な働き方をしている場合である。無限定社員と無限定社員の共同生活は、極めて難しい。

確認的な意味で紹介したわけですが、そういえば、2年ほど前に、こんなことを書いていたことも思い出しました。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roukijunpo120825.html

「男女均等と職業家庭両立の両立」『労基旬報』2012年8月25日号

・・・ここには、日本の男女均等政策が欧米のような男女同一労働同一賃金政策を中心に置くのではなく、それまでの男女別人事管理を前提に男女間の「コースの平等」をめざしてきたことの一つの帰結がみられるように思われる。

 均等法以前の伝統的日本型システムにおいては、新規学卒から定年退職までの男性正社員と新規学卒から結婚退職までの女性正社員はまったく別のコースであった。そしてそれを前提として、男性正社員はすべてなにがしか管理職的性質をもって、しかしながら管理職的処遇は昇進後の将来像としておあずけにする形で、猛烈にばりばり働くことが期待されていた。彼らにはワーク・ライフ・バランスなどという言葉は世迷い言の一種であったろう。この点、入社時からエリートとノンエリートを明確に分け、後者は私生活と両立できる程度にゆったり働くことが当然である欧米の労働者とは出発点が違った。

 その日本で男女均等という言葉が、それまで女性向けコースしか与えられなかった女性に男性向けコースに挑戦する権利を与えるものとして受け取られたことは不思議ではない。しかしながらそれは、女性を男性並みに昇進させるという意味の男女均等が、ワーク・ライフ・バランスと矛盾するという皮肉な結論を導くものでもある。均等法成立以来四半世紀が経ったが、日本の女性労働政策はこの矛盾のはざまでなお進むべき道筋を見いだせていないように見える。

両立というのは二者についていう言葉ですが、ここで問題になっているのは、男女均等とワークライフバランスと日本型雇用の三者を同時に両立(正確には「三立」?)させることが論理的に難しいということなのでしょうか。3つのうちの2つを部分的に両立させることはそれぞれに可能ではあっても。

日本型雇用システムを堅持しつつ男女均等にしようとするとワークライフバランスは無理。日本型雇用の下でワークライフバランスを実現しようとしたら男女均等にはならない。男女均等でかつワークライフバランスを実現しようとすると・・・。

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生活保護の根拠は血か働く意欲か

7月18日の最高裁判決については、すでにマスコミ報道や評論などで取り上げられていますが、少なくとも法律的ロジックに関していえば、判決文が1946年の旧生活保護法と1950年の現行生活保護法の規定ぶりの違いを理由に、こう述べていることにそれほど付け加えるべきことはありません。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1)前記2(2)アのとおり,旧生活保護法は,その適用の対象につき「国民」であるか否かを区別していなかったのに対し,現行の生活保護法は,1条及び2条において,その適用の対象につき「国民」と定めたものであり,このように同法の適用の対象につき定めた上記各条にいう「国民」とは日本国民を意味するものであって,外国人はこれに含まれないものと解される。

 そして,現行の生活保護法が制定された後,現在に至るまでの間,同法の適用を受ける者の範囲を一定の範囲の外国人に拡大するような法改正は行われておらず,同法上の保護に関する規定を一定の範囲の外国人に準用する旨の法令も存在しない。

 したがって,生活保護法を始めとする現行法令上,生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されると解すべき根拠は見当たらない。

 (2)また、本件通知は行政庁の通達であり,それに基づく行政措置として一定範囲の外国人に対して生活保護が事実上実施されてきたとしても、そのことによって,生活保護法1条及び2条の規定の改正等の立法措置を経ることなく,生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されるものとなると解する余地はなく,前記2(3)の我が国が難民条約等に加入した際の経緯を勘案しても,本件通知を根拠として外国人が同法に基づく保護の対象となり得るものとは解されない。なお,本件通知は,その文言上も,生活に困窮する外国人に対し,生活保護法が適用されずその法律上の保護の対象とならないことを前提に,それとは別に事実上の保護を行う行政措置として,当分の間,日本国民に対する同法に基づく保護の決定実施と同様の手続きにより必要と認める保護を行うことを定めたものであることは明らかである。

 (3)以上によれば、外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり、生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく、同法に基づく受給権を有しないものというべきである。

そうすると、本件却下処分は、生活保護法に基づく受給権を有しない者による申請を却下するものであって、適法である。

ただ、ではなぜ旧生活保護法は国籍要件を入れずに外国人についても原則として対象に含めていたのに、現行生活保護法は「国民」に限ることとしたのか、という法政策の根っこの部分については、当然のことながら語られていません。

ここで語られていない部分こそ、生活保護というセーフティネットの性格をどう理解するかという重要なポイントがあります。この点について、かつて2008年に『季刊労働法』224号に掲載した「公的扶助とワークフェアの法政策」で、歴史的経緯に触れてこう説明したことがあります。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/fujoworkfare.html

7 旧生活保護法*4

 同年2月27日付でGHQから発出された「社会救済」(SCAPIN775)は、「日本帝国政府ハ都道府県並ニ地方政府機関ヲ通ジ差別又ハ優先的ニ取扱ヲスルコトナク平等ニ困窮者ニ対シテ適当ナル食糧、衣料、住宅並ニ医療措置ヲ与エルベキ単一ノ全国的政府機関ヲ設立スベキコト」を要求し、さらに「私的又ハ準政府機関ニ対シ委譲サレ又ハ委任サルベカラザルコト」も求めました。これは方面委員という民間人によって援護を行おうとした厚生省に対する批判です。

 これを受けて政府は4月30日に「救済福祉に関する政府決定事項に関する件」を報告し、「全困窮者ニ対スル救済ハ凡テ政府ノ責任ニ於テ平等ニシテ且差別スルコトナク其ノ徹底ヲ期スル為」に、厚生大臣(社会局)-地方長官(社会課)-地方事務所長(社会課)-市町村長(社会課)という「単一ノ政府機関」で実施し、方面委員は補助機関とすることとしています。この第5項に「単一包括的社会救済法タル「生活保護法」ハ来ルベキ帝国議会ニ提案付議ノ上7月ヨリ実施スル予定ノ下ニ諸般ノ準備ヲ進メツツアルモ本法ニ依ル救済ハ政府ノ責任ニ於テ全困窮者ニ対シ最低生活ノ維持ニ必要ナル最小限度ノ生活費ヲ補給スルコトヲ基本原則ト」する等が記述されており、政府部内で生活保護法律案作業が進められていたことが判ります。

 法案は7月に提出され、9月には成立しました。同法は目的として「生活の保護を要する状態にある者の生活を、国が差別的又は優先的な取扱をなすことなく平等に保護して、社会の福祉を増進すること」としつつ(第1条)、「能力があるにもかかはらず勤労の意思のない者、勤労を怠る者、その他生計の維持に努めない者」や「素行不良な者」には保護をしないといった欠格事由が置かれていました(第2条)。これは無差別平等原則に反するとして今に至るまで批判の的ですが、戦前と異なり労働能力のある者も保護の対象にする以上、就労できるのに就労しない者をどう扱うべきかという問いを避けることはできないはずです。今日世界的にワークフェアが論じられていること自体、この問題が過去のものではないことを示しているといえるでしょう。この時期に、失業者たる要保護者をどう扱うべきかについていくつか通達が出されています*5。

 そのうち、昭和22年4月1日発社第32号「要保護者中失業者に対する就職斡旋並びに生活保護法の適用に関する件」は次のようにかなり詳しく述べています。「客年12月要保護者全国一斉調査によれば、失業の故をもって要保護者と認定せられた者の数は相当多数に達し、最近勤労署の窓口に求職申込をなす者の数より上回っているような特異な現象を呈しているのであるが、これ等の失業者に対し失業という理由によって漫然生活保護法を適用することは、同法第二条との関連において甚だしく妥当を欠く」ものであり、「苟くも稼働能力のある者に対しては就職の斡旋等に努め勤労により生活を維持せしめるよう指導せねばなら」ない。具体的には「必ず最寄りの勤労署に出頭せしめて求職の申込をなさしめると共に、就職の決定するまでの間はとりあえず民生委員等をして、最寄り授産場に就労せしめ、又は適当な内職若しくは地域内において一時的就労の機会を努めて斡旋せしめる等の方途を講じ、出来る限り勤労により自活せしめる指導を」行わなければならない。それでもなお「生計を維持することが困難な場合」にはじめて「緊急已むを得ない措置として」保護を適用すべきである、と*6。岸勇氏はこれを「いまや無差別平等の原則はどこへすっ飛んでしまったかの観がある」と批判していますが、労働能力のある者に対して就労を求めることなく「無差別平等」に保護を行うことが適切だとは到底いえないでしょう。

 なお、旧生活保護法は無差別平等を国籍にも及ぼし、日本国に居住する外国人にも適用されるとする建前を堅持していました。この点は、新法では保護請求権を認めたことから国民に限ることとされています。

旧生活保護法は国民に限らず外国人にも適用されていましたが、そのかわり「能力があるにもかかはらず勤労の意思のない者、勤労を怠る者、その他生計の維持に努めない者」や「素行不良な者」には保護をしないといった欠格事由が置かれていたのですね。

現行生活保護法はそのような欠格事由を廃止したのですが、そのかわりに国民に限るという血の論理が導入されたわけです。

ここには、生活保護という最後のセーフティネットの性格を、ワークフェア的な行為に着目した条件付きのものととらえるのか、国籍という血に着目した条件付きのものととらえるのかという、本質的な対立が顔をのぞかせているように思われます。

実際には、その後の生活保護法の運用は、法律の建前は建前として、現役世代の男性で傷害も傷病もない人はそもそも窓口で追い払うような対応(明示化されない、かつ規則性のない恣意的な現場レベルの粗野なワークフェア)をしてきたために、この理念レベルの対立図式はあまり意識されないまま来てしまった面がありますが、根本の議論をしようとすれば、やはりここに至ることに変わりはありません。

昨年の生活保護法の改正やとりわけ生活困窮者自立支援法により、日本の生活保護法政策は著しくワークフェア的色彩を強めてきたわけですが、それに対する批判ばかりが強調される一方で、そのことと現行法が持っている血の論理との関係をどう考えるのか、というような問題は、あまり議論されないまま来ているような印象があります。

今回の判決をめぐる議論が、そういう法政策的な議論に繋がる形で議論されるならば望ましいのですがどうでしょうか。

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橘木俊詔『ニッポンの経済学部』

150501中央公論社より橘木俊詔『ニッポンの経済学部 「名物教授」と「サラリーマン予備軍」の実力』(中公新書ラクレ)をいただきました。

http://www.chuko.co.jp/laclef/2014/07/150501.html

「京大を蹴って阪大!?」「一橋商vs経」「早vs慶」「Ph.d.の値打ち」「なぜノーベル賞受賞者数ゼロか?」「底辺大は“実務偏差値”を上げよ」等々のトピックから、政策論議にも影響を及ぼす諸学風を歴史的に整理し、経済学の本質に迫る。教育・研究・人材力の観点で、各校の実力を徹底検証。

冒頭からいきなり、「ネコ文Ⅱ」とか「パラ経済」という言葉が出てきて、「なぜ経済学部生は勉強しないのか?」という問いが見出しに出てきます。

なぜこの本をお送りいただいたかというとですね。この中にこういう一節があるからなんです(35ページ)。

・・・この図表4をもとに、濱口桂一郎(労働政策研究・研修機構)は「『大学で学んだことは全部忘れろ、一から企業が教えてやる』的な雇用システムを全面的に前提にしていたからこそ、『忘れていい』いやそれどころか『勉強してこなくてもいい』経済学を教える」と鋭く指摘しています(濱口氏のブログより)。

拙著の一部が本や論文に引用されることは結構ありますが、さすがに本ブログの記述がそのまま橘木さんの本に引用されるとは思ってませんでした。いやいや。

せっかくですので、この本で一部引用された本ブログにおける経済学部の職業的レリバンスに関するエントリをも一度お蔵出ししておきましょう。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/12/post-f2b1.html (経済学部の職業的レリバンス)

・・・ほとんど付け加えるべきことはありません。「大学で学んできたことは全部忘れろ、一から企業が教えてやる」的な雇用システムを全面的に前提にしていたからこそ、「忘れていい」いやそれどころか「勉強してこなくてもいい」経済学を教えるという名目で大量の経済学者の雇用機会が人為的に創出されていたというこの皮肉な構造を、エコノミスト自身がみごとに摘出したエッセイです。

何かにつけて人様に市場の洗礼を受けることを強要する経済学者自身が、市場の洗礼をまともに受けたら真っ先にイチコロであるというこの構造ほど皮肉なものがあるでしょうか。これに比べたら、哲学や文学のような別に役に立たなくてもやりたいからやるんだという職業レリバンスゼロの虚学系の方が、それなりの需要が見込めるように思います。

ちなみに、最後の一文はエコノミストとしての情がにじみ出ていますが、本当に経済学部が市場の洗礼を受けたときに、経済学部を魅力ある存在にしうる分野は、エコノミスト養成用の経済学ではないように思われます。

というわけで、橘木さんの本でも、最後のところで

・・・それでは、二流、三流の大学出身者は何を“武器”にしたらいいのでしょうか?

と問い、

・・・二流、三流大学の学生たちには理論ではなく実技、実学を重視して教えるべきだということです。

と、レリバンスな提言をされています。

・・・入試偏差値が低いのだったら、いわば「実務偏差値」を高めるように教育を徹底すべきです。・・・

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非正規労働者の「正社員化」をどう見るか?@『ビジネス法務』9月号

1110306_p『ビジネス法務』9月号の巻頭の「地平線」というコラムに、「非正規労働者の「正社員化」をどう見るか?」という小文を寄稿しました。

http://www.fujisan.co.jp/product/3198/b/1110306/#conetnts_area

 最近、ファーストリテイリング(ユニクロ)、スターバックス、イケアなど、小売・飲食業界を中心に、非正規労働者の「正社員化」が相次いでいる。今後一番影響が大きいのは日本郵政だろう。これら「正社員化」は、これまでのような職務、時間、勤務場所が無限定な「正社員」になるのではなく、これらがなにがしか限定されたいわゆる「限定正社員」になるものである。この背景にはもちろん景気回復による労働市場の改善で、低い労働条件の非正規労働者ではなかなか人手が確保できなくなりつつあることがある。しかし企業法務の観点からすれば、2013年4月に施行された改正労働契約法への対応策という面もある。

 この改正により、有期労働契約を反復更新して5年経った労働者は無期契約に移行することができるようになった。企業は無期化を嫌がって5年経つ前に雇用終了してしまうという後ろ向きの対応をするのではないかと批判する学者や評論家も多く、実際にそういう対応をするところもあるが(その代表は実は企業ではなく大学だが)、事業を進めていかなければならない企業としては、せっかく仕事に慣れて戦力になってきた非正規労働者を、無期契約にしたくないという理由で放り出すのは経営上賢明なやり方ではない。

 この改正を批判する評論家は、無期契約化を「正社員化」と思い込んで過剰な規制だと言いたがるが、法律が求めているのは雇用期間が無期化することだけであって、他の雇用条件を今までの正社員と同じにすることを求めているわけではない。近年雇用政策で話題となっている「限定正社員」は、こうした無期化した非正規労働者の受け皿として提起されているものである。その事実が次第に浸透してきたこともあり、昨年来非正規労働者を限定正社員化する動きが加速化してきたわけである。

 振り返ってみると、1990年代以降日本の企業は人件費の節減を主たる目的として労働力の非正規化を進めてきた。その結果、非正規労働比率は4割近くとなり、とりわけ小売・飲食業では店長など一部を除けばみな非正規という状況が広まった。これを労働者の側から問題視し、その無期化と処遇の改善を進めようとしたのが上記労働契約法改正であるが、企業の側から見てもその業務を支える労働力の主力が非正規労働のままでは、責任感を持ってしっかりと働いてもらうことが期待できないという危機感が大きくなってきたのではなかろうか。そこにうまい具合に限定正社員という雇用のあり方が示唆され、取り入れる企業が続出した、と見ることができるだろう。

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『賃金事情』7月20日号

Chinginjijou20140720産労総合研究所の『賃金事情』7月20日号に、溝上憲文さんが「「残業代ゼロ法案」の展開を追う」というレポートを書かれていて、その中で私も若干コメントをしております。

http://www.e-sanro.net/jinji/j_books/j_chinginjijo/

しかし、このレポートで一番注目すべきは、規制改革会議雇用WPの鶴光太郎さんが成長戦略に対して強烈に不満を表明しているところでしょう。

・・・この成長戦略に対しては、これとは別の観点からその内容に不満を露わにする人もいる。安倍政権の規制改革会議・雇用ワーキンググループ座長の鶴光太郎慶應義塾大学大学院教授は、「規制改革会議がこれまで真剣に議論し、労働時間の量的上限規制などと新たな労働時間制度をセットにした三位一体改革が必要であることを提言した。だが、成長戦略ではそれが抜けてしまい、結果的には1,000万円という数字だけが突出しており、われわれとしては不満だらけの内容だ」と批判する。

例のブラック企業撲滅プランに関して、わたくしと鶴さんのコメントをそれぞれどうぞ。

・・・濱口主席統括研究員は「労働時間の量的制限という言葉はあるが、具体的には何も書いていない。長時間労働をしないように監督指導を徹底すると言っても、36協定がある限り違法ではないし、いくら監督官を増やしても,取り締まることはできない。残業代をなくした代わりに、監督官が監督指導できる根拠となる新たな法規制は盛り込まれていない。ということは、今のままでいい,というのが本音ではないか」と指摘する。

また、鶴教授も「36協定によって労働時間は事実上青天井になっている。産業競争力会議の提案にはいろいろ書いてあるが、上限規制についてはまったく踏み込んでいない。長時間労働を取り締まることがないままにエグゼンプションを導入するのでは,国民の納得も得られないだろう。労働政策審議会では、労使で健全な仕組みについて前向きな議論をお願いしたい」と語る。

先日のみずほ総研におけるパネルディスカッションを想起された方も多いかも知れません。

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『ふくしま・震災後の生活保障 大学生たちの目で見た現状』

9784657133045本日、福島大学行政政策学類の労働法の授業の時間をお借りして、学生の皆さんにお話をしてきました。

その担当の先生である長谷川珠子さんから、こういう冊子をいただきました。

http://www.waseda-up.co.jp/cat649/post-659.html

福島をわすれない――。社会保障法、労働法を学ぶ早稲田大学、福島大学の学生たちが、福島をめぐる教育、コミュニティ、雇用、介護など人々の生活実態を詳細にレポート。大学生ならではの瑞々しい感性で問題の本質に迫る。

これは、早稲田大学の菊池馨実ゼミの学生と、福島大学の長谷川珠子ゼミの学生たちによる震災と原発避難の実態を描き出した記録です。学生たちがここまでやれるといういい証明です。

 はじめに(菊池馨実)

第1章 福島の将来,子どもの未来――福島からみる中高生の教育問題 (柴崎早希子・大友恵美・角 詠之・櫻井 茜)

 ◆コラム 「被災者」と「被害者」と私 (塩沢真由)

第2章 福島の大学生と3・11――福島で生活し、学ぶ意味とは (高橋亜裕・高山瑞穂)

 ◆コラム 震災復興ボランティアの今とこれから (土谷一貴)

第3章 震災と障害者――コミュニティのあり方を再考する (浅見好香・金子果穂)

第4章 県外避難者のコミュニティ支援――みんなで支える,生きるためのつながり (吉村奈保)

 ◆コラム 仮設だからできること (野口雄基)

第5章 避難について,それぞれの家族の選択 (門倉春香・岸本清花)

第6章 福島の復興のために――震災後の福島県の雇用問題から見えてきたこと(荒木季・佐藤正德・林未来・山田眞緒)

第7章 原発事故による介護人材不足――原発事故後の介護現場の現状を知る (鈴木彩乃・熱田健一・佐藤真紀・塩田奈央)

第8章 早大・福島大交流会を通じて

 福島で暮らす意味――学生と向きあうなかで見えてきたこと (長谷川珠子)

 あとがき――ふくしま・大学生の目で見た現状とこれから(菊池馨実)

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『労働契約の特徴とそれを取り巻く社会保障など諸基盤に関する国際比較についての調査』

内閣府のHPに『労働契約の特徴とそれを取り巻く社会保障など諸基盤に関する国際比較についての調査』がアップされたようです。

http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/keizai-syakai-index/roudoukeiyakutyousa1.pdf

http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/keizai-syakai-index/roudoukeiyakutyousa2.pdf

http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/keizai-syakai-index/roudoukeiyakutyousa3.pdf

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岩波ブックレット『ブラック企業のない社会へ』

2709050岩波ブックレット『ブラック企業のない社会へ』をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/2709050/top.html

流行語ともなった「ブラック企業」については,社会全体の問題と受け止める必要がある.教育,福祉,医療,企業の人事など,さまざまな分野の人が協働して立ち上がった「ブラック企業対策プロジェクト」.その各ユニットが,被害相談,学生支援,鬱病の広がりへの対策など,現状分析と具体的な提言をおこなう.

著者が半端じゃなく多いので、目次を掲げておきます。

はじめに
Ⅰ ブラック企業対策プロジェクトの意義 今野晴貴
Ⅱ ブラック企業のない社会のために
1 労働相談の専門家にできること、すべきこと――相談ユニットから 嶋﨑 量
2 学校の教師・職員にできること、すべきこと――教育・就職ユニットから 上西充子
3 社会福祉とブラック企業――福祉・医療ユニットから 藤田孝典
4 人事担当者は、ブラック企業問題にどう取り組むか?――人事ユニットから 常見陽平
5 「ブラックバイト」問題への取り組み 大内裕和
6 「運動の実験室」――広報ユニットから ハリス鈴木絵美

この中で、特にすべての教育関係者に読まれて欲しいのは上西充子さんの文章です。

・・・翻って考えてみよう。彼らが自分の問題として労働法を学ぶ機会はあっただろうか?・・・

多くの学生は、高校時代には禁止されているか黙認されている状況で黙ってアルバイトに従事し、大学生になれば当たり前のように長時間のアルバイトに従事していく。その職場で何が起こっているのか、教員はあえて関心を持たない-それが実情ではないだろうか。

そのような状況の中で、学生たちは誰にも相談できないまま、理不尽な状況にも耐えるしかないのだと考え、何とかやり過ごしていく。同僚が罵声を浴びせられていても、職場の正社員が鬱状態で働いていても、何もできない無力感を抱く。

その延長線上に、孤独な就職活動がある。・・・

孤独な就職活動を経て入社した後には、洗脳的な研修や、仕事ができないという罵声や、疲労困憊する長時間労働が待っている。肉体的にきついというだけでなく、誰かに相談する、ゆっくり自分の状況を捉え返す、という心の余裕を奪われてしまう。・・・

学生がこのような状況に追い込まれていくことを、大学をはじめとする各学校の関係者は理解しているだろうか。理解しないまま、むしろ彼らを追い込んでしまっていないだろうか。・・・

教育の世界だけで通用するきれい事ばかりを語りたがる教育関係者ほど、こういう現実は見ない振りをしたがるのでしょうね。

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産業競争力会議長谷川ペーパーを読む@『人事労務実務のQ&A』8月号

4863194102 『人事労務実務のQ&A』の8月号に、「産業競争力会議長谷川ペーパーを読む」を寄稿しました。

http://www.nichiroken.or.jp/publication/jinjiromuqa.html

 政府の産業競争力会議は、最近の4月22日と5月28日にいわゆる働き方改革に関して、長谷川閑史雇用・人材分科会長のペーパーを提示して議論をしている。予定では6月にとりまとめを行い、明確な政策方向が示されることになるとされているが、原稿執筆の現時点ではあくまでも分科会長名で提出されたペーパーという位置づけである。
 とはいえ、昨年この産業競争力会議で示された政策体系がほぼそのまま『日本再興戦略』として閣議決定されたことからもわかるように、その影響力は極めて大きなものがあり、とりあえず現時点でその内容についてきちんと分析し、政策の在り方としての評価を行っておく必要は高い。
 なお、昨年来産業競争力会議を始め、規制改革会議や国家戦略特区ワーキンググループなど政府中枢に置かれた会議体が雇用労働分野の規制改革について積極的に議論を展開し、そのかなりのものが次第に実行に移されつつあるが、その全体像については紙数の関係では本稿では省略する。私の視点からのその概観は、6月刊行の『季刊労働法』245号所収の「労働政策過程をどう評価するか」を参照いただきたい。

1 2つの長谷川ペーパー

2 「働き過ぎ防止」を謳いながら、それができない仕組み

3 とらえどころのない「新しい労働時間制度」

4 予見可能性の高い労働紛争解決システムとは?

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労働契約の特徴とそれを取り巻く社会保障など諸基盤に関する国際比較についての調査

内閣府委託調査の『労働契約の特徴とそれを取り巻く社会保障など諸基盤に関する国際比較についての調査』のことが、ここに書かれていますね。

http://terueda.wordpress.com/2014/07/11/%e5%8a%b4%e5%83%8d%e5%a5%91%e7%b4%84%e3%81%ae%e6%97%a5%e7%b1%b3%e6%ac%a7%e6%af%94%e8%bc%83/(労働契約の日米欧比較)

昨今、採用や雇用に関して、「ジョブ型」「メンバーシップ型」という言葉が飛び交うようになっています。

「ジョブ型」とは「仕事に人をはりつける」、つまりポジションがあってそこに誰をはめていこうかと考えるやり方。

一方「メンバーシップ型」は「人に仕事をはりつける」、つまり、人がいて彼・彼女に何のポジション・役割を果たしてもらおうかと考えるやり方です。

どちらにも一長一短があります。

日本では「メンバーシップ型」が現在も主流です。採用については潜在力を考慮した新規採用をメインに、スキルはジョブローテーションの中で伸ばせばよいと考えます。若くてスキル不足でも採用される可能性が高いといえます。

欧米では前者が主流です。採用ではスキル・経験を考慮した中途採用がメイン。スキル不足の人にはタフですが、スキルがあれば有利になるでしょう。

今後、失業なき労働移動を可能とするために、つまりドンドン採用されやすく転職しやすいように、「ジョブ型労働市場」の整備をもっと進める必要があるとされています。

解雇への制約があまりに強いと感じている経営側の事情もあるでしょう。

そうした背景の下、以下の点について欧州と米国の実情はどうなのか、調査を行いました。

・雇用の入口
  新卒採用、労働契約
・雇用中の在り方
  ジョブ、勤務場所、勤務時間、長期雇用、賃金、企業内教育訓練
・雇用の出口
  労働契約の終了

日本が良い方向に向かう一助になれば大変うれしく思います。

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柴田悠「自殺率に対する積極的労働市場政策の効果」

4910044090348本ブログでも何回か取り上げてきた若手社会学者の柴田悠さんが、『社会学評論』257号に「自殺率に対する積極的労働市場政策の効果――OECD26ヵ国1980~2007年のパネルデータ分析」という論文を書かれています。

日本では、1998年以降、貧困や孤立といった社会的状況によって自殺に追い込まれる人々が増えた。憲法第13条において「国民の生命の権利を最大限尊重すべき」とされている日本政府には、社会政策によってそのような状況を改善し、不本意な自殺を予防する責務がある。では、どのような社会政策が自殺の予防に有効なのか。

本稿では、公的な職業訓練・就職支援・雇用助成を実施する「積極的労働市場政策(ALMP)」に着目した。ALMPは、「孤立した貧困者」を他者(支援スタッフや訓練参加者)や労働市場へと繋ぎ止め、社会経済的に包摂する機能を持つ。自殺に最も追い込まれやすいのが「孤立した貧困者」であるならば、日本においてALMPは彼らの自殺を予防できるのだろうか。そこで本稿は、この問いに対して実証的に答えることを目的とした。・・・・・・・

その結果、結論は、

・・・自殺率の増減の一部は、失業率上昇率の増減(貧困者の増減)と、離婚率の増減と新規結婚率の減増(孤立者の増減)、ALMP支出の減増(孤立した貧困者の放置/包摂)によって説明できた。またそれらの要因は、日本での1991~2006年の自殺率変動(前年値からの変化)のおよそ10~32%を説明した。他方でALMP以外の社会政策は、有意な自殺予防効果を示さなかった。

ということです。

柴田さんの冷静な論文のタッチから少し離れて、ややジャーナリスティックな言い回しをしてみると、公的な職業訓練や就職支援は、自殺から人々を守る効果があるんです!他のすべての社会政策には-そう、この論文で分析されている他の公的支出には、人々を自殺から救う効果がないのに!

なお、柴田さんは今年の4月から立命館大学の産業社会学部で准教授になられたようです。

http://research-db.ritsumei.ac.jp/Profiles/112/0011103/profile.html

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毎日新聞で書評

26184472_1本日の毎日新聞の書評欄で、中村達也さんによる拙著『日本の雇用と中高年』への書評が載っています。

http://sp.mainichi.jp/shimen/news/m20140713ddm015070022000c.html

冒頭、

二〇一二年の大(おお)晦日(みそか)、全国紙の第一面に、こんな見出しが躍っていたのをご記憶だろうか。「配属先は『追い出し部屋』」。日本を代表する電機メーカーで進められていた、中高年リストラの生々しい実態報告である。・・・・・・著者がかねて指摘してきたように、日本の雇用契約はEU(欧州連合)諸国の「ジョブ型」のそれとは異なり、「メンバーシップ型」であるがゆえに、こうした部署への配置転換を拒否することができないのである。・・・

というところから私の議論を丁寧に説明していきます。

・・・そこで著者は、中高年対策として、「ジョブ型正社員」を提案する。つまり、「メンバーシップ型」を前提とした年功序列型賃金ではなく、担当する職務に応じた処遇である。ただし留意すべきは、子供の養育費や教育費や住居費など、年功序列型賃金で生活給として企業が受け持ってきたその部分がそぎ落とされることになる。その部分を、社会保障を通じてカバーするというのが大前提。つまり、「ジョブ型正社員」プラス社会保障。そのためにも、中高年から「ジョブ型正社員」というルートを準備しておくことが必要だというのである。もしも「ジョブ型正社員」が制度化されて職務が明確化されるならば、「追い出し部屋」のような曖昧な職務に配置転換されることもなければ、定年後の不安定で条件の悪い非正規の働き方を免れることにもなるというのである。・・・

最後のところで、

・・・国際比較という横糸と、戦後の労務管理史という縦糸を組み合わせて中高年対策を織り上げた、じっくりと味読に足る一冊。

と高い評価をいただきました。ありがとうございます。

(追記)

なお本日、民主党の国会議員である岸本周平さんのブログでも、拙著が取り上げられています。ホワイトカラーエグゼンプションの話の流れで取り上げられているのですが、

http://blog.shuheikishimoto.jp/archives/54881968.htmlホワイトカラー・エグゼンプションとは何か?

 一方、濱口桂一郎先生の「日本の雇用と中高年」(ちくま新書、2014年5月)を読むと、戦後の日本の労働政策の変化が判りやすく書かれています。

 1960年代までは、欧米型の「ジョブ型(職務給)社会」を目指していたのですが、石油危機の70年代以降、「職務の限定のない雇用契約」を特色とする「日本型雇用」が肯定されるようになりました。

 その中で、「同一価値労働、同一賃金」の原則は放棄され、年功序列賃金や家族手当など、中高年になれば支出が増える家計を企業がサポートするようになりました。

 80年代以降、「ジャパン・アズ・ナンバー1」などと、日本型の経営方法がほめそやされる中、「日本型雇用」も反省されること無く続きました。

 ヨーローッパでは、あくまでも「同一価値労働、同一賃金」を原則に、家計支出の増加には子ども手当など社会保障で政府が手当しています。

 正規の職員間ですら「同一価値労働、同一賃金」の哲学が無かった日本に、非正規雇用に対して「同一価値労働、同一賃金」を適用するのは難しいのかもしれません。

 また、今、企業が家計を支援できなくなっているにもかかわらず、政府の社会保障施策が遅れていることが、いろんなところで「貧困」問題を生んでいるように思います。

 また、日本でも一時期、定年制は年齢による差別なので廃止すべきだという動きがありましたが、その後、定年制延長、継続雇用などによる方向に動いています。これが、本当に中高年の雇用の保障になるのかは疑問です。

 多くの先進国では、定年制は、年齢による差別なので違法だとされています。

 一律の規制よりも、個人の多様性に基づく柔軟な制度が望まれます。

 もう一度、「同一価値労働、同一賃金」のジョブ型(職務給)社会を目指し、非正規雇用や中高年の雇用改善への挑戦をすべきではないでしょうか。そのためにも、社会保障改革は避けては通れない考えます。

国会で質疑をされる際には、是非とも正しい認識に基づいて的確に突っ込んでいただきたいと切に思います。

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これからの予定いくつか

これからの予定がいくつかすでにネット上に公開されていますので、まとめて紹介しておきます。

http://jaiop.sakura.ne.jp/event-info/405.html (産業・組織心理学会)

第114回 部門別研究会 ー人事部門ー

ディーセントワークをめざして:働き方 と 働かせ方 のギャップを探る

2014年7月26日(土)13時30分~16時30分

筑波大学東京キャンパス文京校舎1階119講義室

話題提供者

独立行政法人 労働政策研究・研修機構 濱口 桂一郎 氏

「ジョブ型雇用とワーク・ライフ・バランス」

株式会社 金財情報システム 山内 柳子 氏

「非正規社員の雇用と活用に関する試み:銀行業界の事例に基づいて」

キューアンドエー株式会社 金川 裕一 氏

「従業員が幸せに働ける人事制度を目指して」

http://jane.or.jp/event/10089/新経済連盟

経営層向け有識者懇談会 (「知識社会型新たな就労環境実現PT」主催)

開催日時 2014年07月31日 16:30~18:00

開催場所 株式会社ドリコム セミナールーム 目黒区下目黒1丁目8-1 アルコタワー17F

講師:独立行政法人 労働政策研究・研修機構労使関係部門 統括研究員 濱口 桂一郎 様

「雇用システム改革と雇用法制の誤解」 

日本型雇用システムと、労働時間規制、限定正社員(ジョブ型正社員)、労働契約などの雇用法制について解説いただき、懇談します。

http://www.city.niigata.lg.jp/shisei/koho/kohoshi/shiho/backnumber/h26/shiho140713/2_02.html (新潟市)

 若年無業者の自立を支援する新潟地域若者サポートステーション(通称サポステ)の開所7周年を記念し、「あらためてサポステの意義を考える」と題したシンポジウムを開催します。

 第1部は、独立行政法人労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎さん=写真=が「若者支援問題 整理と展望」をテーマに講演します。

 第2部のパネルディスカッションでは、4人のパネリストがサポステの活動を振り返り、これからの就労支援の在り方を考えます。

日時 8月8日(金曜)午後1時半から4時半

会場 万代市民会館(中央区東万代町9)

http://www.roudou-kk.co.jp/meeting/archives/2014reikai/006244.html (労働開発研究会)

第2656回労働法学研究会「アベノミクスの労働政策をどう捉えるか」

アベノミクスの成長戦略では、雇用制度改革の推進が強調され、雇用分野に影響する様々な話題が日々報じられています。政府が決定した新たな成長戦略において、多様な正社員制度の普及・拡大やフレックスタイム制度の見直しに加えて、健康確保や仕事と生活の調和を図りつつ、時間ではなく成果で評価される働き方を希望する働き手のニーズに応える、新たな労働時間制度を創設することとしました。また、「少なくとも年収1千万円以上」の高度な専門職を対象に、労働時間ではなく成果に応じた賃金制度を導入し、企業の競争力強化を目指す、いわゆるホワイトカラー・エグゼンプションと呼ばれる制度の導入も来年の通常国会をめどに予定しています。

 また、その他の労働政策においても、女性の活躍促進に向けた対策、働き過ぎ防止策、など、働く個人に大変身近な問題であり、高い関心が寄せられています。また一方で、産業競争力会議や規制改革会議の審議の在り方に対し、労働政策専門の議論の場を通さず規制緩和等が進められることへの強い懸念もあります。人事担当者はこの状況をどう理解し、また今後についてどのような対応を検討するべきなのでしょうか。

 そこで本例会では、労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口先生を講師にお招きし、アベノミクスの雇用制度改革を中心に、雇用をめぐる政策と今後への影響について解説いただきます。ぜひご利用ください。

日  時:平成26年8月27日(水)

時  間:15:00-17:00

会  場:高田馬場センタービル 3F

http://www.jshrm.org/event/cofarence_5698.html (日本人材マネジメント協会)

JSHRM2014年度コンファレンス 多様化する「働き易さ」と「働き甲斐」~日本の人事の再生~

<期日>2014年9月6日(土)10:00~17:30(終了後、懇親会~19:00)

<会場>(株)内田洋行 新川本社(東京ユビキタス協創広場 CANVAS)

<テーマ>多様化する「働き易さ」と「働き甲斐」~日本の人事の再生~

年功賃金、終身雇用等を前提として、企業に働く男子正社員の「働き易さ」「働き甲斐」を最大化すべく構築されてきた日本の人事制度は、企業内外の環境変化により、その見直しが必要となっています。

終身雇用を前提としていない非正規社員、主体的にキャリアチェンジを望む若手社員、仕事と家庭との両立に苦労する女性社員、事業構造改革で活躍の場を失った中高年社員・・・。

こうした多様な状況、多様なニーズの存在する企業において、「働き易さ」「働き甲斐」を創出するための人事制度についても多様化が求められます。

人事部門(人事担当者)はいかに対応していけば良いのでしょうか。

《基調講演》10:10~11:40

●「日本の人事の『働き易さ』『働き甲斐』を再検討する ≪パートⅠ≫」

日本の現在の労働市場の一般的動向、将来に向けて日本の労働市場の変化の要素について語っていただきます。

独立行政法人労働政策研究・研修機構 主席統括研究員 濱口 桂一郎氏

《トークセッション》13:00~14:50

●「日本の人事の『働き易さ』『働き甲斐』を再検討する ≪パートⅡ≫~当事者の実態から~」

若手、女性、中高年という3タイプの社員に関し、それぞれについての「働き易さ」、「働き甲斐」とは何かを探るべく、現在の日本企業、日本の人事(制度)が持つ、「働き難さ」、「働き甲斐のなさ」について、3人のパネリストに外部目線で語っていただきます。

◆若者にとって:株式会社TBSテレビ 編成局コンテンツ戦略部 柳内 啓司氏

◆女性にとって:株式会社グローバルステージ 代表取締役/一般社団法人日本ワーキングママ協会 代表理事/働くママ支援プロジェクト『キラきゃりママ』 代表 大洲 早生李氏

◆中高年社員にとって:保険会社社員 ◆楠木 新氏

http://matome.naver.jp/odai/2140088047612289101/2140094122257804803NPO現代の理論・社会フォーラム「現代の労働研究会」

安倍政権の雇用労働政策は労働者派遣法の改悪や残業代ゼロに見られるように、労基法第1条「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」という戦後労働法の理念を根本からひっくり返すものです。それは集団的自衛権の容認にみられる解釈改憲に共通するものです。

 こうした流れの中をいかにとらえ、いかに闘っていくのか、私たちの可能性はどこにあるのか、それぞれの分野でのエキスパートを講師に以下の研究会を開催しますので、ご案内をいたします。お忙しいとは存じますが、ご参加をよろしくお願いします。

 9月27日 「安倍政権の雇用政策(仮題)」講師 濱口桂一郎 労働政策研究・研修機構主席統括研究員

http://jasps.org/conference_index.html (社会政策学会)

  日付:2014年10月11日(土)-10月12日(日)

 会場:岡山大学津島キャンパス

 10月11日(土):共通論題:社会政策としての労働規制―ヨーロッパ労働社会との比較-

  座長:森建資(帝京大)

  報 告 者:濱口桂一郎(労働政策研究・研修機構)

          田中洋子(筑波大)

          菅沼隆(立教大)

  コメンテータ:戸室健作(山形大)

           清山玲(茨城大)

http://www.jla.or.jp/tabid/400/Default.aspx (全国図書館大会)

開催期間  2014年10月31日(金)~11月1日(土)

開催地   東京都

開催会場 明治大学駿河台キャンパス アカデミーコモン、リバティタワー 

http://eusa-japan.org/contents_JPN/frame_conference_jpn.htm (日本EU学会)

開催日: 2014年11月8日(土)・9日(日)

共通論題:  EUの連帯

開催校: 立正大学 (大崎キャンパス)

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若者とおじさんの光景

https://twitter.com/shika_shika_man/status/487472187545092096

Chuko隣のベンチで"若者と労働"って本読んでる子がいるけど、平日の昼間にそんな本読んでないでまずは働いてみるのが一番だとおじさんは思うよ

平日の昼間にビールを飲みながら、『若者と労働』を読んで自分のこれからの道筋を真面目に考えようとしている若者をDISるしか能のないおじさんの方が、その若い子よりも百万倍心配なんですが。

26184472_1 まあ、そういうおじさん向けには『日本の雇用と中高年』もありますのであわせてご購読のほどをお願い申し上げます。

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(あのとき・それから)昭和33年 終身雇用 会社と従業員は共同体

本日の朝日新聞夕刊の4面の「あのときそれから」に「昭和33年 終身雇用 会社と従業員は共同体」という記事が載っています。

http://www.asahi.com/articles/DA3S11239036.html

 いったん入社すれば定年まで同じ会社で働き続ける「終身雇用」。日本独自とされ、日本的経営の中核だといわれた。だが、その四字熟語は、実は一種の外来語なのだ。

 1958(昭和33)年、米国人のフォード財団研究員ジェームズ・アベグレンが「日本の経営」(原題は「The Japanese Factory」)を出版。その中で「会社は従業員を定年まで解雇せず、従業員は転職しない」雇用慣行を「permanent employment system」と表現、当時、神戸大学助教授だった占部都美(うらべ・くによし)が「終身雇用」と訳した。同書は終身雇用、年功序列賃金、企業内組合を欧米にない日本独自の経営方式と指摘、ベストセラーとなった。

 アベグレンは日本電気など大小53の工場を1年半かけて訪ね、人事や給与、管理制度を丹念に調べた。調査に協力した住友電工元会長の川上哲郎さん(85)は「累進課税で社長と工員の給与格差は実質10倍もなく、住宅不足で社宅に住む社長もいることにアベグレンは驚いていた」と振り返る。「終身雇用、年功序列賃金を基盤に労使協調を実現し、単なる利益追求の組織ではなく、共同体として一体感のある組織運営をしているとアベグレンは分析した」

 終身雇用という言葉は瞬く間に日本社会に定着する。翌年、日経連は「定年制度の研究」を著し「終身雇用こそ日米の企業活動を分かつ決定的な相異点」と表現。61年2月には国会審議に初登場。社会党議員が「終身雇用の年功序列賃金で初任給が低く抑えられている」とただした。

 「当時、日本は終身雇用社会ではなかった」と指摘するのは、明治大学特別招聘教授の野村正實さん(66)だ。農家や自営業が勤労者の7割を占め、残る被雇用者の中で3分の1程度が大企業に終身雇用形態で雇われていたに過ぎなかった。

 多くの中小零細企業の従業員の勤続年数は短く、大量の臨時工が雇用の調整弁の役割を果たしていた。「高度経済成長に伴って正社員雇用が激増、終身雇用社会を形作っていったのが実態だ」という。

 ではなぜ「日本は終身雇用」という“常識“が広まったのか。「江戸時代以来、藩主と家来、商家の主人と使用人の関係を律する永年勤続を尊ぶ価値観が前提にあった。そこに終身雇用というキャッチフレーズが与えられ、全ての会社と全ての従業員の間で成立すべき望ましい雇用関係という価値規範となったからだ」と野村さんは言う。

 アベグレンの直弟子である経営コンサルタント澤田宏之さん(60)は「終身雇用で会社と従業員の関係は安定し、政治的・社会的安定の基盤となった。未熟な社会福祉を企業の安定雇用が補う点も国の政策と合致した。戦勝国アメリカの学者が、東洋の遅れた敗戦国のこうした特質を指摘して、日本人に自信を与えてくれた」と分析する。

 終身雇用、年功序列、企業内組合は70年代に日本的経営の「三種の神器」と呼ばれるようになる。その日本的経営は経済成長を続けた80年代には世界の模範とされたが、90年代以降の不況下、人件費の削減を迫られた企業にとって、終身解雇は一転して弱点となった。そして現在、終身雇用の崩壊、非正規社員の急増は、年金制度などの社会的基盤を揺るがし始めている。

労働政策研究・研修機構主席統括研究員の濱口桂一郎さん(55)は「総合職的に働き、年功で賃金が上がり、会社の幹部候補生として生きる正社員像を転換し、雇用期間に定めがなく、職務、労働時間、就業場所を限定した正社員を増やすことが求められている」と話す。

最後のパラグラフの私のコメントは毎度おなじみのものですが、労働関係に詳しい人ほど、はじめの方の記述に疑問を感じるかもしれません。

アベグレンの本で「終身雇用」の原語が「permanent employment system」であったとされていることに、「あれ?確かLifetime Commitmentの訳だったんじゃないの?」と思った人が多いはずです。

でもね、これはそちらの方が原典に当たらずに世間の噂をそのまま信じてきた思い込み。この記事を書いた畑川剛毅さんは、アベグレンの原書と訳書を照らし合わせながら、Lifetime Commitmentは「終身関係」と訳されており、「終身雇用制度」と訳されている部分の原語はpermanent employment system」であることを確認されています。

これもまた、原典に当たらず思い込みで物事を語ってしまうことの罠を感じさせる一つの例と言えましょう。

ちなみに、この記事が「終身雇用」という言葉が日本に定着した年として指定している1958年(昭和33年)というのは、私が生まれた年でもあります。

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外国人労働問題をどう考えるか

WEB労政時報に掲載した「外国人労働問題をどう考えるか 」のうち、是非伝えておきたい部分をこちらに載せておきます。全文はリンク先を。

https://www.rosei.jp/readers/hr/article.php?entry_no=242(外国人労働問題をどう考えるか )

・・・・・・・・・

・・・ こうした外国人労働政策の転換の根拠のような形で示されているのが5月15日の経済財政諮問会議に提出された「選択する未来」委員会による中間整理です。
※経済財政諮問会議専門調査会「選択する未来」委員会『未来への選択』⇒公表資料はこちら
 http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2014/0515/shiryo_05_2.pdf
 
それによると、今後50年間人口減少が続き、今のままでは人口急減・超高齢社会が到来します。そこで、「人口減少下において成長力を高めていくため、高度人材をはじめ外国人材について国民的議論を進めつつ戦略的に受け入れ、外国人材との交流を成長・発展に活かしていく」(上記リンクの本文9ページ参照)というのです。
 
 その議論自体はおかしなものではないと思います。しかし、そこに付けられた「外国人一般について定住化を進める等の移民政策ではない」(同ページ参照)という注釈がかえって話をおかしくしているように思われます。
 人口減少を補うために外国人労働力を導入すると言いながら、一方でそれは移民政策ではないと言う。移民ではないということは、言い換えれば長期間使い続けながら日本人として扱わないよ、永遠によそ者として扱うよ、と言っているに等しいのです。そのような政策が持続可能なものといえるのでしょうか。
 おそらく、移民を入れると言ってしまうと猛烈な反発を食らう危険性があるので、移民ではない外国人労働力なんだということで切り抜けたいということなのでしょうが、移民でない、つまり日本人としての権利を認められないまま長期的に外国人労働者として膨大な人口が日本に存在し続けるということの潜在的なリスクをどこまで理解しているのか、大変気になります。
 
 ミクロなレベルで似た例を挙げれば、長期的に使う正社員じゃないんだ、臨時的に手伝ってもらう非正規なんだということで、10年も20年も非正規労働者を使い続けるのと似たような事態を、今度は国家的レベルでしかも外国人という下手をすれば外交問題になりかねない人々を素材にして実施していくことともいえます。
 「人口急減・超高齢社会」において、それを補う労働力を外国人労働者でもって充てるということは、日本の労働力の基幹部分をかなりの程度外国人労働者が担うということです。非正規労働者の基幹化ならぬ、外国人労働者の基幹化ということが議論されるようになる可能性も高いでしょう。下手をすれば、所長や店長は日本人だが、その下で働くのはみんな外国人ばかりなどという事態も考えられないではありません(現在の流通・サービス業における非正規の基幹化のように)。
 
 そういう社会において、なお移民ではないと言い続け、彼らに日本人としての権利を認めず、よそ者扱いし続けようという政策のリスクを、ここらでじっくりと考え直す必要性があるのではないでしょうか。彼らに、日本人としての権利を与えるとともに日本人としての義務も課していくという議論が、今日の日本にほとんど見られないことの潜在的な恐ろしさを、誰かがちゃんと論じてほしいと思います。

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工藤啓/西田亮介『無業社会』

16038 工藤啓/西田亮介『無業社会』をざっと読みました。彼らがまとめた『若年無業者白書』の内容を一般向けにまとめたもの。NPOを率いる工藤さんと、雇用問題とはちょっと違う視点からの研究者である西田さんのコラボレーションがうまくかみあっています。

http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=16038

工藤さん担当の無業に立ち至った若者たちのストーリーは、POSSEのブラック企業の話を彷彿とさせるのがけっこうありますね。

特にケース1、「大卒後、超有名企業に入社も憧れた「ビジョン」と乖離する現場で苦悩」とか、ケース3「初心者歓迎のIT企業に就職も教育無し・休み無し・突然の退職勧奨」とか。

西田さんの社会学的分析は、拙著や今野さんの本とも共通するものが多いように感じました。「一度こぼれ落ちると圧倒的に不利になるシステム」という表現も出てきますね。

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JILPT研究員募集(労働法、労働経済)

労働政策研究・研修機構のHPに、任期付き研究員の募集要項がアップされています。

http://www.jil.go.jp/information/koubo/kenkyuin/2014/01.htm(労働法専攻)

http://www.jil.go.jp/information/koubo/kenkyuin/2014/02.htm (労働経済専攻)

関心のある方はリンク先をどうぞ。

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大阪市立大学創造都市研究科夏季連続シンポジウム

大阪市立大学創造都市研究科の夏季連続シンポジウムの案内が同HPに載っているので、こちらでも紹介しておきます。

http://www.gscc.osaka-cu.ac.jp/events/2014/symp_140702.html

【都市公共政策研究分野シンポジウム】

日時:2014年7月11日(金)18:30-21:20

場所:大阪市立大学文化交流センターホール

テーマ:どうなる雇用と社会保障――アべノ・ミックスの行方

講師:濱口桂一郎(労働政策研究・研修機構統括研究員)

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『日本の雇用と・・・』2冊の書評

途中までよく似たタイトルの拙著『日本の雇用と中高年』と『日本の雇用と労働法』に、それぞれ書評が付きました。どちらも特定社会保険労務士の方です。

41mvhocvlまず、近著『日本の雇用と中高年』に、WEB労政時報の「人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評」で、和田泰明さんが書評を書かれています。

https://www.rosei.jp/readers/article.php?entry_no=63029

 同著者の『新しい労働社会』『日本の雇用と労働法』『若者と労働』に続く新書第4弾です。日本の雇用社会は「ジョブ型」ではなく「メンバーシップ型」であり、それが時代の変化とともに歪みが生じているとの現状認識がいずれも出発点です。そして今回は中高年問題、すなわち、中高年労働者がその人件費の高さゆえに企業から排出されやすく、排出されると再就職しにくいという問題を取り上げ、戦後日本の雇用システムと雇用政策の流れを概観しています。・・・

と、内容を紹介していった上で、最後に、

 日本の若者雇用問題の解決策として、入り口から「ジョブ型正社員」をスタンダードとしてみるという考えは、それがどれぐらい定着していくかは分かりませんが、処方箋としては中高年問題の解決において「ジョブ型正社員」の考え方を採り入れるよりはシンプルなように思われ、逆に言えば、それだけ中高年の方は問題が複雑であるという気がします。

 その意味で、第5章を深耕した著者の次著を期待したいと思いますが、こうした期待は著者一人に委ねるものではなく、実務者も含めたさまざまな人々の議論が活性化するのが望ましいのでしょう。そうした議論に加わる契機として、実務者である人事パーソンが本書を手にするのもいいのではないでしょうか。

と宿題をいただいてしまいました。いや、第5章は問題提起の最初のとっかかりで、それをどう展開していくかが大問題なんです。

112483もう一つ、こちらは松本利浩さんの「特定社会保険労務士ブログ」で、旧著『日本の雇用と労働法』が取り上げられています。

http://www.tokutei-sr.com/blog/2014/07/post-160.php

ちょっと時間がかかりましたが、濱口桂一郎さんの「日本の雇用と労働法」を読了しました。
前著「新しい労働社会」でも指摘されていましたが、日本型雇用システムの本質はメンバーシップ契約であること。
それに対し、労働法制はジョブ型を前提としたものが構築され、現実社会と法制度との間に乖離が生じていたところ、その隙間を埋めるように戦後の判例法理が作用してきたこと。
以上の展開を、雇用関係の様々な局面から明らかにしていきますが、膨大な資料を参照したのでしょう、なかなか鮮やかな腕前です。

このあとのところで、読まれる前はわたくしの現実認識に対して必ずしも評価されていなかったことを明かされています。

・・・実は、濱口さんは労働の現場、特に中小零細企業の現場をあまりご存知ないのではと思っていたのですが、以下の記述を読んでそんな心配も無用だったと感心してしまいました。
「(メンバーシップ性が希薄な中小企業では、)総じて、大企業型の安定したメンバーシップとは異なりますが、ある種の濃厚な人間関係によって組織が動くことが多いのです。そして、そのことがジョブ型原理に立脚した合同労組のような外部の労働組合に対して中小企業経営者が猛烈な抵抗を示しがちな理由でもあるといえます」

中小零細企業の現場で働いたことはありませんが、その現場から上がってきた膨大な労働紛争事案の資料をかなり細かく読んで、大体こんなところだろうなという勘どころはある程度理解しているつもりではあります。

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オタワでオワタ、TPP労働分野

オタワですよ、オワタじゃないですよ。いや、オワタんですけど。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF0800F_Y4A700C1EAF000/TPP、労働分野の貿易ルールづくりで事実上決着

 【オタワ=北爪匡】環太平洋経済連携協定(TPP)参加12カ国は現地時間の7日午後(日本時間8日未明)、労働分野の貿易ルールづくりで事実上決着した。児童労働や強制労働でつくられた製品の貿易を禁じ、違反国には貿易を停止する制裁を加える案で一致した。一部新興国が反発していた労働分野が事実上決着し、TPP交渉全体にも弾みがつきそうだ。

 カナダのオタワで開催中の首席交渉官会合で7日、労働分野のルール内容が了承された。TPPは関税や知的財産権など21分野で交渉するが、個別分野の協議が事実上決着するのは初めて。労働分野は制裁内容の厳しさに一部新興国の反発があったが、制裁前に協議の場をもうける譲歩案を日米など先進国が示した。

 日本の交渉関係者は労働分野のルールについて、「ほかの交渉分野との調整もあるが、追加の議論が必要ない所まで持って行けた」と説明する。

日本ではなぜかほとんど関心が持たれていませんでしたがTPP交渉の一つの焦点がこの労働分野。かつてILOを舞台にせめぎ合った貿易と労働基準の問題が転々してTPPの論点に入っていたんです。途上国の低劣な労働条件で生産された安い製品によるソーシャル・ダンピングを防止しようというのは先進国の労働組合の共通の関心事項ですが、それを一定程度受け入れることで、国内市場を奪われて雇用が失われることを恐れる労働者の支持を取り付けようという政治構図です。

TPPにはこういう側面もあるということを、政治家やマスコミも理解しておいた方が良いと思います。国家戦略特区などと称して労働条件をわざと引き下げることも、いつまでもできると思わない方がいいですよ

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/tpp-a0fb.html(金属労協のTPP早期参加論)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/tpp-814d.html(連合のTPPに関する見解その他)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/tpp-4d4b.html(TPP:その危惧は杞憂だと思われます)

(追記)

今年2月の記事ですが、アメリカ通商代表部が「TPPは労働基準を改善するんだよ」と言っているという記事。労働組合向けの発言ですが、民主党政権としてはこの部分で労働組合に恩を売っておく必要はあるわけです。

http://www.law360.com/articles/508561/us-trade-rep-says-tpp-will-raise-labor-standardsUS Trade Rep Says TPP Will Raise Labor Standard

おそらく、上の記事にある児童労働や強制労働だけではなく、昨年末に公表されたTPP交渉の状況に書かれている「貿易・投資の促進を目的とした労働基準の緩和の禁止」が盛り込まれたと思われますので、そうすると海外からの投資を促進するためと称して、国家戦略特別区域で労働基準法の定める労働条件を引き下げようなんていうのはもろにTPP協定違反ということになりそうですね。

特区特区と騒いでおられる自分では賢明だと思っている方々にその自覚があるかどうかはよくわかりませんが。

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壁はたやすく壊れない

さて、昨日は国内某所で某勉強会で講演と懇談。

細かいことは語れませんが、なかなか『壁を壊す』のは難しいんだなあ、という感想でした。

某業界のいかにもこれな某社がああで、いかにもあれな某社があこうという対照の妙もなかなか。

何のことかわからんって?いや、わからんようにいうとるんよ。

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原田泰・齊藤誠編著『徹底分析アベノミクス―成果と課題』

9784502097508_240いろんな立場のエコノミストがいろんなことをてんでに語っている本という風情です。

http://www.biz-book.jp/%E5%BE%B9%E5%BA%95%E5%88%86%E6%9E%90%E3%82%A2%E3%83%99%E3%83%8E%E3%83%9F%E3%82%AF%E3%82%B9%E2%80%95%E6%88%90%E6%9E%9C%E3%81%A8%E8%AA%B2%E9%A1%8C/isbn/978-4-502-09750-8

政策実行されてから1年が経過したアベノミクス。その成果に関しては様々な議論がある。本書では、推進派、慎重派の代表的な論客達がアベノミクスの現状と展望を評価した。

高橋洋一とか竹中平蔵とか、突っ込みたくなる人も顔を並べていますが、そういうのはほっておいて、ここでは第10章の「雇用維持から労働支援雇用政策へ」。書いているのは小峰隆夫さんです。

ここで小峰さんは、産業競争力会議や規制改革会議がジョブ型正社員と言っているのに対して、そんな一部だけじゃなくそもそも正社員をみんなジョブ型雇用にするべきだというようなことを言っていますね。

経済学者の議論でもジョブ型とかメンバーシップ型という言葉がごく普通に使われるようになってきているということでしょうか

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『月刊労働組合』7月号で拙著書評

Gr1407労働大学調査研究所が発行している『月刊労働組合』7月号に、拙著『日本の雇用と中高年』の書評が載っています。評者は松本重延さんという方です。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/20140708112539876.pdf

雑誌の性格から当然ですが、第5章に焦点を当てて紹介しています。

・・・第5章では、場当たり的な高齢者雇用政策の行き詰まりを解決する方法として、「ジョブ型労働社会」を提言する。ここでいう「ジョブ型正社員」は、中高年の職務(ジョブ)経験を生かし、評価する雇用制度である。これは、安倍内閣が進めようとしている「限定正社員」制度と一部重なる部分があるため、労働界からの疑問や批判もありそうだ。

しかし、現在の中高年の雇用不安や、企業の思いのままにリストラされ、人生を左右される現実をそのままにしてよいのか、という指摘は説得性がある。

「近年の『追い出し部屋』をめぐる動きを見ると、多くの中高年が信じてきたように、ジョブ無限定こそが雇用安定の基盤であるどころか、・・・『貴方に適した職務はないという結論に達しました』等と平然と言われてしまうのが実態」と指摘。そして、「そこに配転されても雇用契約上文句が言えないような労働者がその雇用形態にしがみついている」点にこそ問題の所在がある、という。

「ジョブ型正社員」は、そうした呪縛から中高年を救済する方法だと著者は言う。しかし、どんな制度を作っても、労働者が使用者に従属したままでは、労働者の権利は守れないという現実は、肝に銘じなければならない。


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幸せのバランス(GliEquilibristi)

12 イタリア映画を見てきました。

http://www.action-peli.com/balance/index.html

ローマ市の職員で福祉課に勤め、妻(エレナ)と二人の子供と穏やかな生活を送っていたジュリオ(40歳)。ふとしたはずみで、同僚の女性に送ったメールから、彼女との浮気がエレナの知るところとなり、夫婦仲は険悪に…。話し合いをして、子供のために、仲の良い夫婦を装うと努力することにしたが、ある日、注文を間違った50代のピザ配達員に同情したジュリオが、エレナの嫌いなアンチョビ・ピザを受け取ってしまったことで、ついにエレナが爆発!子供たちの前で大げんかをしてしまう。「もう繕うことはできない」と言うエレナ。それに対してジュリオは、「君が正しい。私が家を出る」と宣言する。

思春期の娘カミラは、不器用な父親が心配でならず、部屋探しを手伝い、頻繁に連絡して、つながりを保とうとする。だが、限度を超えた借金をし、夜のバイトをしても支払いが追いつかない、ギリギリの二重生活の中で、ジュリオは疲弊し、次第に無口になっていく。それは、安定した職つき平穏に暮らして来たジュリオ本人にとっても、初めて直面する厳しい現実だった…。

中年男性がホームレスになっていく話、といっても、日本で想像するのとは全然違って、妻や娘、息子たちはちゃんと元の家でそれなりに生活しているんですね。離婚が不可能に近いイタリア故に、出て行った夫(父)は、娘のバルセロナ旅行の費用も一生懸命稼いで捻出しながらも、安宿からも逃げて、みじめな車上生活に陥っていくのです。

このあたり、社会のあり方の違いがくっきりと浮かび上がってくる感じがします。

Camila1邦題の「幸せのバランス」はいささか意味不明。原題の「GliEquilibristi」は、「綱渡り」という意味だそうですが、それをひねったタイトルにした方が良かった感じがします。

あと、娘のカミラ役の女優が超かわいい。

今は新宿のK's cinemaだけで上映してます。

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国家パターナリズムの縮減と企業パターナリズムの膨張

Profilehamachanと一字違いのyamachanブログで、大内伸哉さんの『君の働き方に未来はあるか』(光文社新書)の書評が書かれています。

http://social-udonjin.hatenablog.com/entry/2014/07/06/132622

20140109160417ビジネス書・自己啓発書コーナーに置いてある本かと勘違いするタイトルであるが、これは労働法の専門家が書いた新書である。

ここでyamachanさんが違和感を感じているのは、大内さんの使う「パターナリズム」という言葉の使い方であるようです。

ただ、「(労働法の)保護は努力する意欲を引き下げます。」という一文だけはどうしても納得することができない。例えば、最低限の労働条件を確保するための規定である労働基準法が、労働者の努力する意欲を引き下げているようなケースを、私には具体的な問題として想像することができないからである。

この一節のあとに、政府(労働法)から正社員に対する「パターナリズム」についての具体的記述はない。その代わり、企業から正社員に対する「パターナリズム」として、終身雇傭・年功賃金の代償として、正社員の利益が損なわれてきた面があることを強調する。具体的には過労による健康障害や、頻繁な転勤や長時間の残業によるワーク・ライフ・バランスの破壊といったことである。これらの主張は戦後大企業の人事管理の実像を適切にとらえたものであろう。

しかしながら、これらは企業の人事管理の話であり、労働基準法をはじめとする「労働法」とは直接的に関係はない。当然のことだが、労働基準法は最低限の労働条件を定めたものであり、企業によるパターナリズムを規定しているものではない。彼は、労働法と企業の人事管理を同一のものとして意図的に混同している可能性が高い

この指摘は、大内さんの著書に対する批判として正鵠を得ているだけではなく、近時の雇用労働問題をめぐる議論のかなりの部分についての、とりわけエコノミストサイドからの批判のかなりの部分にも同じように当てはまるように思われます。

労働法は確かに国家のパターナリズムです。

労働基準法第32条なんか、全然健康にも影響がなさそうな1日8時間1週40時間などという異常に少ない労働時間の物理的上限を定めて、それを超えて働かせたら懲役刑まで科するぞと脅しているのですから、もし全国の労働基準監督官たちがこれをそのまま適用してバシバシしばきあげているとすれば、それはまさしく国家のパターナリズムと評されてしかるべきでしょう。

ところがそんなことはほとんど行われていません。じゃあ、どれくらい長時間労働になったらそろそろ国家のパターナリズムが始動し始めるのかというと・・・・・、どこまで行っても動き出さないのですね、これが。36協定を結んで、残業代を払っている限り、国家が実定法でやるぞと宣言しているはずの国家のパターナリズムは動かないのです。

ほとんど動かない国家のパターナリズムが「努力する意欲を引き下げる」というのは、前段階の因果関係の当否が正しいか正しくないにかかわらず議論として正しいものとは言いがたいでしょう。

では何が?という議論の土俵に乗れば、それは第一次的には労基法37条の残業代割増規定だと言うことになるわけですが、経営サイドの本音をよく見れば、それは管理職にならないけど年功制で高給になってしまっている中高年平社員の問題なので(詳しくは拙著『日本の雇用と中高年』参照)、その仕事の価値よりも高い給料を年功制故に払っている企業の人事管理の問題に帰着します。つまり、国家ではなく企業のパターナリズムが自分で生み出している矛盾なのです。

いうまでもなく、日本国の労働法制は企業に最低賃金以上を支払えという最低限の国家パターナリズムは押しつけていますが、それを超えて年功的に昇給させろとか、中高年なんだから女房子供を養えるだけの給料を払えなどという企業パターナリズムを強制するようなことはありません。そんなのは企業が勝手にやっているのです(戦時体制下を除く)。

極限まで収縮した国家パターナリズムの横で、極限まで膨張した企業パターナリズムが自分自身の毒に自家中毒している姿を見て、国家がケシカラン、国家パターナリズムをやめろと叫ぶことで、何事が解決するのか、そういう問題であるわけです。

これと全く同じ問題構造が、これと同じく近時の法政策の焦点になっている解雇「規制」にも当てはまります。

先日のみずほ総研のコンファレンスで申し述べたとおりですが、日本の国家実定法はそもそも、一般的に解雇を規制する法規定を有してすらいません。よくわかっていない人が諸悪の根源と称したがる労働契約法第16条は、そもそも解雇には正当な理由が必要だという正当事由説ですらなく、解雇は一般的にはできるんだけれども、特にひでぇ奴は権利濫用で無効だと言っているだけです。

法形式論的に言えば、実は現在の日本は未だに原則は解雇自由なのです。ただ、例外として「客観的に合理的」とか「社会通念上相当」云々という要件で権利が濫用されたと判断されたら無効になるというだけです。その意味では、少なくとも欧州諸国と比べれば、日本の国家パターナリズムは大変縮減されています。

それなのに、なぜ日本の大企業が正社員を解雇するのが大変困難であるのかといえば、これまた繰り返し説いてきたように、企業自身のパターナリズムによって、職務や勤務地の無限定による雇用保障の極大化を約束してきているからで、、ここでもやはり、企業を悩ませているのは国家パターナリズムなどではなく、極限まで膨張した企業パターナリズムが自分自身の毒に自家中毒している姿であるわけです。

国家パターナリズムであれ、企業パターナリズムであれ、それらに対して肯定的に評価するか、否定的に評価するかは、論者それぞれに様々な立場があり得るところであり、それは賛成反対はあっても正しい正しくないという議論を安易にすべきではありません。

しかし、国家パターナリズムと企業パターナリズムを混同し、極限まで縮減した国家パターナリズムの横で極限まで膨張した企業パターナリズムが自己中毒しているのを解決するために、肝心の企業パターナリズムをほったらかしにして、すでに極限まで縮減されている国家パターナリズムの更なる縮減『のみ』を叫ぶのは、価値判断の方向性如何に関わらず、それ自体として正しい議論とは言いがたいように思われます。

yamachanさんの指摘は、その点を明確に摘示するものといえるでしょう。

そういう議論の仕方の一帰結が、企業パターナリズムによって生み出された高すぎる残業代問題を解決するために、(すでにほとんど縮減している)国家パターナリズムたる労働時間規制の適用除外という手法を使おうとし、しかも、その条件として規制改革会議が提示していた労働時間の物理的上限規制の導入という最低限の国家パターナリズムの導入に対しては、経営サイドの猛烈な反発-いうまでもなくそれは経済界主流派の「長期蓄積能力活用型」を断固として維持するぞという強い信念に基づいているわけですが-によってあえなく実質的に削除されるという事態であるわけです。

極限まで収縮した国家パターナリズムをさらに縮減しようとしつつ、極限まで膨張した企業パターナリズムには一本も指を触れさせたくないという、この奇妙な姿に、両者を混同する議論の行き着く姿が見えるのではないでしょうか。

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「過労死防止法」成立@読売新聞

本日の読売新聞の37面、社会保障欄に、大津和夫記者の「「過労死防止法」成立」という記事が載っています。

働き過ぎで命を落とすことのない社会を目指す「過労死等防止対策推進法」が成立した。国に対策の責任があることが明記され、過労死が個人ではなく、社会全体の問題とされた点が特徴だ。今後、どんな対策が求められるのだろうか。

いろんな実例などについて述べたあとで、この記事は上限のない労働時間という問題に切り込んでいます。

・・・今後の焦点は、長時間労働の是正だ。「労働時間に絶対的な上限規制がない」現状が厳しく問われそうだ。

 労働基準法は、1日8時間、週40時間を超えて労働者を働かせてはいけないと定めている。だが、残業代の支払いを前提に、労使で協定(「36協定」)を結べば、残業させることができる。その際、月45時間などと一定の目安はあるが、目安を超えて協定を結んでも罰則はない。また、これとは別に、特別の協定を結べば、1年のうち半年までなら無制限に働かせることもできる。

 厚生労働省の13年度労働時間等総合実態調査によると、大企業の94%、中小企業の43%が36協定を結んでいる。このうち、大企業の62%、中小企業の26%が特別の協定も結んでいる。週40時間という法定労働時間は実質的な規制になっていないのが現実だ。

 政府は、成長戦略の一環で、働いた時間に関係なく、成果に応じて賃金を払う労働時間制度の導入を打ち出している。だらだらと仕事をして残業代をもらうのではなく、効率的な働き方を促すのが狙いだ。ただ、残業代という歯止めがなくなれば、長時間労働が助長される恐れもある。

 一方、英国やフランスでは、健康上の観点から、「残業を含めて原則週48時間」という労働時間の上限規制のほか、24時間につき最低連続で11時間、休息時間を設けることを定めている。国際比較で見ると、週50時間以上働く人の割合は、日本は31.7%に上るが、英国は12.1%、フランスは9%となっている。

 労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎・主席統括研究員は「問題なのは、長時間労働が違法ではないという点だ。そのため、取り締まりも難しい。欧州のように労働時間の上限を設け、『仕事と生命の調和』が図れるような環境を整えるべきだ。仕事の範囲が無限定になりがちな正社員のあり方も見直していく必要がある」と話している。 

私の発言はこれに尽きていますが、欧州の状況について一点だけ。

EU指令は時間外労働含めて週48時間という物理的上限を定めていますが、イギリスは個人ベースでオプトアウト可能なので事実上適用されていません(個人ごとに36協定を結んでいるようなもの)。ただ、毎日11時間の休息時間は適用されるので、実際にはこちらが上限になっています。

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細波水波さんの拙著書評

26184472_1私の本を丁寧に読み書評していただいてきている細波水波さんが、『日本の雇用と中高年』についても、まさに読んで欲しいと思っていたところを的確に読んでいただいており、とてもありがたい思いです。

http://yaplog.jp/mizunami/archive/638

はじめは、

濱口桂一郎先生の新書4冊目。大内先生のと一緒に買ったんだけど、なんとなく後回しになってました。基本スタンスは(当たり前だけど)これまでの本と大きく変わるわけではないところですが、中高年に焦点を置いた歴史はやっぱり知らないことがいっぱい。昔の中高年は35歳からだった!とかね。

と、やや枝葉みたいなことから書かれていますが、

これまでの(ブログも含めて)言説にたぶんなくて(少なくとも私は気づいてなくて)ううむ、と考えさせられたのは、小池和男の知的熟練論に対する批判の部分。もちろんこの本だけで自分として小池和男を否定しようとまでは思わないんだけど、理論は実態を後から説明するものだという大前提で、すべてを説明しきれない理論の穴を示される。何もかもを説明するのは難しい、だけど、現実が絶対に先にあるから修正すべきは理論の方で。もちろんそれで説明できる部分もたくさんあるから、すべてを否定するということではなくて、さてそこで。まあもちろん、(仮に現実がある理論に基づこうという意思によっていたとしても)現実がすべて理論通りに行くわけじゃないけれども。目から鱗だったので、考えるきっかけを貰えたのはありがたいことでありました。

と、本書の一番買いたかったところを見事に指摘していただいています。

正直言いますと、本書は読者のレベルに応じて二層構造になっていまして、表層部分は、まさに40歳定年制だの、中高年の既得権のせいで若者がひどい目に遭っているだのといった俗論を批判している部分ですが、批判相手の議論が表層的なだけに、その批判も所詮は相手のレベルの低さをからかうだけの表層的なものになっています。もちろんそれはそれで楽しめるように書いてるつもりですが、所詮はそれだけ。

そのも一つ奥の方にプロ仕様で用意してあるのが、まさにこの細波水波さんが指摘している小池和男理論に対する批判です。これは、それ自体がよくできた理論であるだけでなく、日本の雇用のかなりの部分を見事に説明できてしまっている理論であり、さらに小池さんが労働社会関係の多くの研究者が大変尊敬している権威でもあるだけに、表層部分のような適当なやり方ではいきません。しかし、日本の中高年問題の根幹に位置するのは、本書でも述べたようにまさにこの小池理論のある側面における正しさへの信頼が、その正しさが適用しきれないところまで及びすぎている点にあるとすれば、そこを批判しないで日本の中高年問題を語ることはできないと思い定めたわけです。その意味で、この部分を読み解いていただいているのは、だいたい労働関係者ですね。

そのため、批判の仕方はやや入り組んでいまして、小池さん自身の著書における、日本の企業の高齢者の扱い方への批判をそのまま引用して、それが日本の雇用のあり方の良さを高く評価する小池理論自体過度の拡大適用を内在的に否定するものになっていることを示そうとする形になっています。

ちなみに、最後で、

・・・・・・・ところで、この手の本にあとがきというか締めがないのって、すごく落ち着かないんですけど~!

あとがきもなければまえがきもありません。まあ、まえがきの代わりに長めの序章がありますが。

これは、正直に告白しますと、原稿が紙数オーバーで、本文も数枚削って、あとがきはあきらめたという経緯です。

(参考)

細波水波さんの拙著書評を改めて紹介しておきますと、

http://yaplog.jp/mizunami/archive/441 (2011.01.22)

131039145988913400963 濱口桂一郎、官僚にして教授でブロガー、いつもブログに説得されてて「本」くらい説得されずに読んでみよう!・・・と思いつつさくっと読んだ後、そんな感想も書けずにはやもう1年と半分近くが経ちました。

しかしこの読書記は、読んだ本は全部残すんだって決意からなるのに喉に小骨みたいなもので、読み直して何度目かの再チャレンジです(笑)。

ってことで説得されないところを探して第4章、オビにもある(産業)民主主義の本分。

・・・対策は、現実的でなきゃならない。おっしゃるとおりでだから簡単じゃない。

とりあえず、こういう本や学生時代の労働法の授業やなんやかやが、いまの現実の組合活動じゃなくてそれらが、そりゃ不満もなくはないけど私に組合費をそれなりに納得して払わせ続けている、貴重な動機付けであるのでした。

(どーでもいーけど結局説得されてばかりだなぁ・・・。)
112483 ・・・知っている話だけでそれなりのストーリーは描けてしまって、しかし蓋を開けると全然違うリアルなストーリーがそこにある。勉強しなくちゃなあ、と思わされると同時に、これがすんなり読めるお買い得な新書だからありがたい。歴史に知識に謙虚でなくてはと思う以前に単純に面白いのです。
・・・ちなみに、語られる授業レジュメと思って読むのが吉です。現状を皮肉に描写する表現が、著者の主張と受け取られないか、老婆心ながら心配です。

Chuko ・・・ブログを読み1・2冊目を読んでいればすごく新しい話はなく、読む前に(hamachan先生ご案内の)いくつかのブログで「若者に薦めたい/薦めて大丈夫か」なんて書評を読んでいたのでどんな過激な(?)と思っていたのですが特段過激な話でもなく。就職活動をする学生が、この本を読んで自分を客観化できるならば、ぜひお勧め。少なくとも面接の場で若者が基準法を語り出すようなものにはなってないはず(それをするのが就職にマイナスとなるだろう現状の是非はともかく。)。

と、いずれも深く突っ込んだ書評です。

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今度はEU競争法と労働法が衝突?

過去10年間、ラヴァル判決やヴァイキング判決など、EU市場統合をめざす事業設立の自由、サービス提供の自由と集団的労使関係法に基づく労働基本権とりわけスト権との衝突がEU労働法のホットなテーマとなってきましたが、

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roujun1204.htmlEUにおける経済的自由と労働基本権の相克への一解決案@『労働法律旬報』2012年4月下旬号

また少し別の場所でやはり労働基本権それも今度は団体交渉権労働協約締結権と衝突するネタが出てきそうな雰囲気です。今度の敵役はEU統合のヒーロー役である競争法。

http://curia.europa.eu/juris/document/document.jsf?text=&docid=143248&pageIndex=0&doclang=EN&mode=lst&dir=&occ=first&part=1&cid=35406FNV Kunsten Informatie en Media v Staat der Nederlanden

これは判決が出たとか法務官意見が出たという段階ではなく、昨年7月22日に欧州司法裁判所に事案がかけられたというものなのですが、

Must the competition rules of European Union law be interpreted as meaning that a provision in a collective labour agreement concluded between associations of employers and associations of employees, which provides that self-employed persons who, on the basis of a contract for professional services, perform the same work for an employer as the workers who come within the scope of that collective labour agreement must receive a specific minimum fee, falls outside the scope of Article 101 TFEU, specifically on the ground that that provision occurs in a collective labour agreement?

If the answer to the first question is in the negative, does that provision then fall outside the scope of Article 101 TFEU in the case where that provision is (also) intended to improve the working conditions of the employees who come within the scope of the collective labour agreement, and is it also relevant in that regard whether those working conditions are thereby improved directly or only indirectly?

EU競争法は、使用者団体と労働者団体との間で締結された労働協約が、その適用対象たる労働者と同じ労務を、プロフェッショナルサービス契約に基づき提供する自営業者にも、協約に定める最低賃金(料金)を支払わなければならないと規定するのは、それが労働協約だからと言う理由で、EU運営条約第101条の適用対象外であるのか?

もしそうじゃないとすれば、その規定は労働協約の適用範囲の労働者の労働条件を改善しようと意図したものである場合にはEU運営条約第101条の適用対象外なのか?そして、そうした労働条件を直接改善しようとするものか間接的なものかに関わりがあるのか?

このEU運営条約第101条というのは、EU競争法の神聖なる規定で、

Article 101

(ex Article 81 TEC)

1. The following shall be prohibited as incompatible with the internal market: all agreements between undertakings, decisions by associations of undertakings and concerted practices which may affect trade between Member States and which have as their object or effect the prevention, restriction or distortion of competition within the internal market, and in particular those which:

(a) directly or indirectly fix purchase or selling prices or any other trading conditions;

(b) limit or control production, markets, technical development, or investment;

(c) share markets or sources of supply;

(d) apply dissimilar conditions to equivalent transactions with other trading parties, thereby placing them at a competitive disadvantage;

(e) make the conclusion of contracts subject to acceptance by the other parties of supplementary obligations which, by their nature or according to commercial usage, have no connection with the subject of such contracts.

2. Any agreements or decisions prohibited pursuant to this Article shall be automatically void.

3. The provisions of paragraph 1 may, however, be declared inapplicable in the case of:

- any agreement or category of agreements between undertakings,

- any decision or category of decisions by associations of undertakings,

- any concerted practice or category of concerted practices,

which contributes to improving the production or distribution of goods or to promoting technical or economic progress, while allowing consumers a fair share of the resulting benefit, and which does not:

(a) impose on the undertakings concerned restrictions which are not indispensable to the attainment of these objectives;

(b) afford such undertakings the possibility of eliminating competition in respect of a substantial part of the products in question.

一〇一条

(八一条) 〔修正〕

一.加盟国間の貿易に影響を及ぼし、域内市場内における競争の妨害、制限または歪曲を目標とするか、または結果として起こす企業間の協約、企業の連合による決定および協調的行為は、 すべて、域内市場とは両立しえないものとして禁止される。特に以下のものを含む。

(a)買取価格、販売価格またはその他のあらゆる売買条件を直接的あるいは間接的に固定するもの  

生産、市場、技術開発または投資を制限あるいは統制するもの  

市場または供給源を分配するもの

等価の取引とは異なる条件を売買相手に請求した結果、競争に不利益をもたらすもの

本来的にまたは商慣習上において契約の主旨とは関連しない補足的義務を売買相手に受諾させることにより契約を結ぶもの

二.本条によって禁止された協約または決定は、すべて自動的に無効となる。

三.しかしながら以下の場合には、一項の規定が適用されない旨を表明することができる。

―協調的行為あるいはこれに類するもの

―企業の連合においてなされた決定あるいはこれに類するもの

―企業間の協約あるいはこれに類するもの

であり、 かつ、 商品の生産または流通の改善もしくは技術的、経済的向上の促進に貢献するとともに、その結果生じた利益を消費者が適正に享受できるもの 

ただし、以下はこれにあたらない。  

これらの目標を達成するための必要以上の制限を関係企業に課すもの

当該産品の主要な部分について、競争を排除する可能性を関係企業に与えるもの

というものです。自営業者であれば自身が企業ですから当然競争法の適用対象になるわけですが、とはいえ労働者と同じ労務を個人請負という契約形式で提供しているような場合、そういう「自営業者」も労働協約による規制に含めなければ尻抜けになってしまいます。

そう、これは、日本では労組法上の労働者性という形で論じられているのと通じる話が、労働協約を素材にして問題になっているわけですね。

これもまた、競争法はEU法制の根幹をなす大きな柱であるのに対して、労働協約法制は禁じられてはいないものの、EUレベルでの立法化が抑制されてきた分野であることは確かなので、素直にいけばまたぞろEU市場主義が集団的労使関係をつぶしに来たか、みたいな話になるかもしれません。

来る7月18日に第1回口頭弁論が開かれることになったということなので、話はこれからですが、いろんな意味で注目に値する裁判だと思います。

 

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藤野豊・石原剛志=編・解説『戦後初期人身売買・子ども労働問題資料集成』

Humantraffic全10巻、19万6千円という代物なので、個人で買うような本ではありませんが、これはなかなか面白そう。

http://rikkapress.wordpress.com/

一九四五年。戦争は終わったが、女性たち子どもたちの戦争は終わっていなかった。

かつて帝国主義戦争遂行のため男たちの慰安に使用され、あるいは年季奉公や勤労動員という名で安い労働力として搾取されてきた、女性たち子どもたちは、敗戦後も生活困窮によって奴隷的労働を強制された。

戦後史の盲点を衝く貴重資料群を復刻!

敗戦後、民主主義社会建設の名のもとGHQにより公娼が廃止され、児童の労働への明確な基準が決定したが、生活困窮が直接人身売買に結びつく日本社会の土壌は容易に変化しなかった。
本編集復刻版は、第Ⅰ部 人身売買編 では女性や子どもの人身売買に関する雑誌記事や公文書資料を含む一九四五年より六〇年頃までの貴重資料を収録し、第Ⅱ部 子ども労働編 では年少労働と呼ばれた子ども労働の実態を明らかにすると同時に不当労働や脱法と呼べるような年少労働の問題を示すパンフレットや書籍の資料を収録した。
グローバルな規模で展開する現在の人身売買や子ども労働あるいは不当労働の問題を照らすためにも、高度経済成長前夜、日本国憲法のもと奴隷的労働を強いられた女性や子どもの実態を明らかにする貴重な歴史的資料として復刻する。
児童福祉史・児童教育史・女性史のみならず労働史・占領期研究等、人権の問題に取り組むすべての人々・研究機関に呈するものである。

いやこれに収録されている資料のリストを眺めていたら、

http://rikkapress.files.wordpress.com/2013/11/humantraffic.pdf

本ブログでかつて紹介した労働省婦人少年局の資料も載っているのですね、当然ですが。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-97de.html(年少者の不当雇用慣行実態調査報告@婦人少年局)

旧労働省の婦人少年局というところは、むかしは非常に熱心に女性や子どもたちの労働実態の調査をやっていたのです。とりわけ、今ではほとんど忘れ去られているでしょうが、年少者の不当雇用慣行について、1950年代の半ばごろにその実態を暴いた報告書は、東北地方、九州地方、近畿地方、関東甲信越地方の4分冊として、刊行されています。

おそらく今では役所の中でも誰も知らないであろうこの報告書を、ちょっと紹介してみましょう。今ではみんながうるわしく描き出す「三丁目の夕日」のちょっと前の時期の、日本社会の凄絶な実態をちょっとの間だけでも思い出すために。

やはり、人身売買の本家といえば東北地方で、1950年代にもこういうケースが結構あったようです。・・・

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『立法学のフロンティア』第3巻

201407041240000まだナカニシヤのHPに画像がアップされていないので、汚い写真で申し訳ありませんが。

予告していた『立法学のフロンティア』第3巻 井田良・松原芳博 編『立法実践の変革』(ナカニシヤ出版)が届きました。

http://www.nakanishiya.co.jp/modules/myalbum/viewcat.php?cid=14&num=1&orderby=lidA&pos=68

刊行にあたって

序――各法領域の立法実践とその改革の方途
井田良・松原芳博

第I部 総論

第1章 「より良き立法」へのプロジェクト――ハート=サックス<The Legal Process>再読
高見勝利

第2章 立法における法・政策・政治の交錯とその「質」をめぐる対応のあり方
川﨑政司

第3章 責任プロセスにおける立法者――選挙・熟議・説明責任
瀧川裕英

第II部 刑事立法

第4章 近年における刑事立法の活性化とその評価
井田 良

第5章 立法化の時代における立法学
松原芳博

第6章 裁判員制度の立法学的意義
亀井源太郎

第III部 民事立法

第7章 民法(債権法)改正過程と立法過程の在り方
山田八千子

第8章 家族制度改革における立法の位置
大島梨沙

第IV部 社会経済立法

第9章 会社法改正の力学
中東正文

第10章 最近の労働法における立法学的問題
奥田香子・中窪裕也

第11章 労働立法と三者構成原則
濱口桂一郎

わたくしの第11章の内容は次の通りです。

一 労働法における立法学の出発
 1)労働立法過程における三者構成原則をめぐる議論の提起
 2)労働法学における三者構成原則についての議論の展開
二 日本における三者構成原則の展開
三 三者構成原則の基盤としての二者構成労使自治原則
四 EUにおける労働立法システム
五 民主制原理としての三者構成原則
六 三者構成原則と憲法第28条


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実践的な職業教育を行う高等教育機関@教育再生実行会議

昨日の教育再生実行会議で、「今後の学制等の在り方について」という第5次提言が出されたようです。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/pdf/dai5_1.pdf

そのうち、本ブログにとって大変強い関心をもっているのは、「実践的な職業教育を行う高等教育機関」に関する部分です。

(3)実践的な職業教育を行う高等教育機関を制度化する。また、高等教育機関における編入学等の柔軟化を図る。

職業教育は、若者が自らの夢や志を考え、目的意識を持って実践的な職業能力を身に付けられるようにするとともに、産業構造の変化や技術革新等に対応して一層充実を図ることが必要です。特に、高等教育段階では、社会的需要に応じた質の高い職業人の養成が望まれますが、ⅰ)大学や短期大学は、学術研究を基にした教育を基本とし、企業等と連携した実践的な職業教育を行うことに特化した仕組みにはなっていない、ⅱ)高等専門学校は、中学校卒業後からの5年一貫教育を行うことを特色とするものであり、高等学校卒業段階の若者や社会人に対する職業教育には十分に対応していない、ⅲ)専修学校専門課程(専門学校)は、教育の質が制度上担保されていないこともあり、必ずしも適切な社会的評価を得られていない、などの課題が指摘されています。こうした課題を踏まえ、大学、高等専門学校、専門学校4、高等学校等における職業教育を充実するとともに、質の高い実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化が求められます。
また、学習者が、目的意識に応じて、自らの学びを柔軟に発展させるとともに、様々な分野に挑戦していくことができるよう、高等教育機関の間での進路変更の柔軟化を図ることが必要です。

2011年に中教審が提言しながら、その後専修学校の枠内に押し込められた職業高等教育機関が再度打ち出されているのです。

具体的には、

(職業教育の充実、強化)

○ 高等学校段階における職業教育の充実のため、国及び地方公共団体は、卓越した職業教育を行う高等学校(専門高校)への支援を充実し、更なるレベルアップを図る。学習や学校生活に課題を抱える生徒に対しても、社会に貢献し責任を果たしながら自己実現を図る社会人となることができるよう、学力向上や就職支援のための指導員の配置充実等を図る。また、地方公共団体と学校、関係機関が連携し、中途退学者も含め、新たな挑戦に臨む進路変更希望者に対する転学、再修学や就職のための相談・支援を行う体制を構築する。

○ 高等学校段階から5年間かけて行われる職業教育の効果は高いことから、国及び高等専門学校は、産業構造の変化やグローバル化等に対応した実践的・創造的技術者を養成することができるよう、教育内容の改善に取り組むことと併せ、新分野への展開に向けて現在の学科構成5を見直す。また、国、地方公共団体等は、高等学校や専修学校高等課程と専門学校や短期大学との連携、高等学校専攻科の活用を推進する。

○ 社会・経済の変化に伴う人材需要に即応した質の高い職業人を育成するとともに、専門高校卒業者の進学機会や社会人の学び直しの機会の拡大に資するため、国は、実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関を制度化する。これにより、学校教育において多様なキャリア形成を図ることができるようにし、高等教育における職業教育の体系を確立する。具体化に当たっては、社会人の学び直しの需要や産業界の人材需要、所要の財源の確保等を勘案して検討する。

(高等教育機関における編入学等の柔軟化)

○ 能力や意欲に応じた学びの発展やその後の進路変更に対応できるよう、国は、大学への飛び入学制度の活用実態等も踏まえて高等学校の早期卒業を制度化するとともに、学制の異なる国からの留学生受入れなど、国際化に対応できるよう、大学及び大学院入学資格において課している12年又は16年の課程の修了要件を緩和する。

○ 高等学校卒業後の進路をより柔軟にするため、大学は、短期大学、専門学校からの編入学や学部間の転学、社会人の学び直し等の機会の拡大を図る。国は、高等学校専攻科修了者について、高等教育としての質保証の仕組みを確保した上で大学への編入学の途を開く。

○ 国は、厳格な成績評価・卒業認定の下、大学学部・大学院の早期卒業制度及び飛び入学制度が一層活用されるようにするとともに、学士課程及び修士課程の修業年限の在り方について検討し、大学における学士・修士の一貫した教育課程を導入しやすくする。早期卒業及び飛び入学の推進、編入学や転学、社会人の学び直し等の機会の拡大に際しては、国立大学法人運営費交付金や私学助成における運用の見直しや支援を行う。

○ 国は、省庁の枠を越え、意欲ある学生が更なる学びの機会が得られるよう、職業能力開発大学校・短期大学校における学修を大学の単位認定の対象とするとともに、これらの職業能力開発施設から大学への編入学についても途を開くよう検討する。

一つ一つを論評しませんが、こういう高等教育段階での職業教育への方向性は先進世界共通のものであり、OECDでも繰り返し提起されているだけではなく、とりわけ日本のようなジョブなきメンバーシップへの適応性ばかりが強調される社会においてこそ、その重要性が確認されるべきでしょう。

先週、政学労使の4者構成で日EUシンポジウムに出席するとともに、その前段階としてフィンランドを訪問し、ノキアの労使の話を聞いてきたということは、ちらと書きましたが、その時にまた、ヘルシンキの隣のエスポー市のオムニアという職業専門学校、「科学と芸術と技術がビジネスにであう場所」アールト大学、起業活動を支援するアーバンミルなどを訪れています。

その時に聞いた話などからしても、職業教育を毛嫌いする日本のアカデミアの偏屈さを痛感しましたし、あれほどフィンランドフィンランドと大騒ぎしている日本の教育関係者から、彼らにとって一番大事で外国人に見せたい職業教育の部分がすっぽり抜け落ちている不可思議さも感じたところです。

何なんですかね。

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佐藤博樹,大木栄一編『人材サービス産業の新しい役割』

L16433 佐藤博樹,大木栄一編『人材サービス産業の新しい役割 -- 就業機会とキャリアの質向上のために』(有斐閣)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641164338

派遣・請負就業の比重が高まり,職業紹介業を通じた転職なども増える中,人材サービス産業は存在感を増す一方である。この産業は,現代日本でいかなる社会的機能を果たしているか。広範な実証研究で明らかにし,働く人・企業双方のために克服すべき課題に迫る。

東大社会科学研究所の人材フォーラムの最後の成果となるようです。前身の人材ビジネス研究寄付研究部門以来の研究成果の最終決算ということでしょうか。

序 章 労働市場における需給調整の担い手としての人材サービス産業(佐藤博樹)

第1部 人材サービス産業による就業機会の質向上─働く人々の視点

 第1章 事務系派遣スタッフのキャリア(島貫智行)

 第2章 どうすれば時給が上がるのか(松浦民恵)

 第3章 生産職種の請負・派遣社員の就業意識(佐野嘉秀)

 第4章 生産分野の派遣スタッフの仕事・労働条件とキャリア,就労意識(島貫智行)

第2部 人材サービス産業が担う社会的機能─企業経営の視点

 第5章 派遣会社の機能と課題(大木栄一・豊島竹男・横山重宏)

 第6章 事務系派遣営業所の運営と課題(島貫智行)

 第7章 派遣労働市場と労働派遣専門26業務適正化プラン(小林徹)

 第8章 派遣先企業における管理職の人事管理と派遣スタッフの活用(大木栄一・平田薫)

 第9章 生産請負・派遣企業の雇用維持と事業方針・人事管理(佐野嘉秀・大木栄一)

 第10章 職業紹介担当者の能力ならびにスキル(坂爪洋美)

 第11章 未就職卒業者を対象とした人材ビジネス企業のマッチング機能(山路崇正)

このうち、法政策という観点から興味深いのは、例の専門26業務適正化プラン、いわゆる長妻プランの影響を分析した第7章の論文でしょうか。

あと、職業紹介担当者の能力とスキルを分析した第10章の坂爪論文は、大変面白いものでした。

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日弁連会長声明のどうしようもなさ

本日、日弁連が「「日本再興戦略」改訂2014の雇用規制緩和に反対する会長声明」を発表してますけど、読んでそのあまりのレベルの低さに涙が出てきました。

http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2014/20140703.html

労働法制をわかっていない産業競争力会議がいうならまだいい。労働法制をわかっていないマスコミがいうならまだいい。

でも、法律家の右代表のはずの日弁連会長の声明がこのレベルですか・・・。

これは、本日のみずほ総研のコンファレンスをお聴きになっていた方にとっては、そこで私が喋ったことの繰り返しになりますし、本ブログ何回も繰り返してきたことでもありますが、何が法規制において問題とすべき事柄であり、何がそうではないかという問題の仕分けが、根本的にねじけているという、産業競争力会議はじめとするそして多くのマスコミ報道に共通する欠点が、なんの修正すらもなくこの会長声明にそのまま露呈しているという点にこそ、今日の日本の最大の問題があるのでしょう。

特に、改訂戦略では、一定の年収要件等を満たす労働者を対象として、労働時間と賃金とを切り離し、実際に働いた時間と関係なく成果に応じた賃金のみを支払えばよいとする制度が、新たに提案されている。これは「働き方のニーズに応える」ものとされているが、このような制度が立法化されれば、適用対象者においては長時間労働を抑制する法律上の歯止めがなくなり、使用者が労働者に対して、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた際限のない長時間の労働を命じることが合法とされ、更には休日を取らずに働くことを命じることも許されるということになりかねない。また、これにより労働者の心身の健康悪化や、過労死・過労自殺の増加を助長することにもなりかねないのであり、このような制度が労働者のニーズに応えるものでないことは明らかである。労働者の命と健康を犠牲にして企業の収益を確保し、経済成長を達成しようという発想は厳しく批判されなければならない。

いうまでもなく、日本国の法律制度において、「労働時間と賃金とを切り離し、実際に働いた時間と関係なく成果に応じた賃金のみを支払えばよいとする制度」は何ら禁止されていません。そういう賃金制度が良いかどうかは労使が決めれば良いことであり、導入して失敗しようがどうしようが、それをとやかくいう法規制はどこにもありません。

午後2時に出勤してきて、2時間だけ働いて4時にはさっさと帰っちゃう人に成果を上げたからといって50万円払って、9時から6時まで8時間フルに働いた人にあんまり成果が上がっていないからと30万しか払わないのも、法律上全く合法です。法定労働時間内というたった一つの条件のもとで。

日本国の実定法上、それ以上働かせたら違法であって、懲役刑すら規定されているような悪いことを、それでもあえてやらせるというような例外的な状況では、そうでない状況が出てきます。時間外労働時間に比例した時間外割増賃金を支払わなければならなくなります。ただし、何回も強調しますが、それはいかなる意味でも、特定の賃金制度が良いとか悪いとか、許すとか許さないとかいうような話とは関係がありません。本来悪いはずの時間外労働をあえてやらせることに対する罰金として課されているお金が、あたかも時間に比例した賃金を払えと命じているように勝手に見えるだけです。そんな賃金イデオロギーは、労働基準法のどこにも存在しません。もしあるというのなら、なぜ法定労働時間の枠内であればそれが全く自由に許されているのか説明が付かないでしょう。

こういう労働法の基本をわきまえていればすぐわかるようなことが、産業競争力会議やマスコミの人々に全然理解されないのは、そもそも日本国の実定法が法定労働時間を超えて働かせることを懲役刑まで用意して禁止しているということが、現実の労働社会では空想科学小説以上の幻想か妄想と思われているからでしょう。そう、そこにこの問題のコアがあるのです。

こういうことを一生懸命説明してきている立場からすると、労働法制の基本を全くわきまえない人々と全く同じ認識に立脚しているように見えるこの会長声明は、情けないの一言に尽きます。

日本の労働時間法制の最大の問題はどこにあると思っているのか、「このような制度が立法化されれば、適用対象者においては長時間労働を抑制する法律上の歯止めがなくなり」って、そもそも今の日本に「長時間労働を抑制する法律上の歯止め」があると思っているのでしょうか。残業代はそれ自体はいかなる意味でも「長時間労働を抑制する法律上の歯止め」ではありません。休日手当を払わせている現在において「休日を取らずに働くことを命じることも許される」という状況にないというのでしょうか。一種の間接強制であるとはいえるでしょうが、あたかもそれだけがあるべき労働時間規制であり、それさえあれば長時間労働は存在し得ないかのようなこの言い方には、今過労死防止促進法が成立することの意味が全く抜け落ちているように思えます。

こうやって、現行法上も(法定労働時間の枠内である限り)何ら違法でもなく全く自由にやれる「労働時間と賃金とを切り離し、実際に働いた時間と関係なく成果に応じた賃金のみを支払えばよいとする制度」を、あたかも現行法で禁止されているかのごとく間違って描き出し、それを解禁するためと称して、本来論理的にはなんの関係もない労働時間規制の問題に持ち込むという、産業競争力会議の誤った議論の土俵に、何ら批判もないまま、そのまますっぽりと収まって、ただ価値判断の方向性だけを逆向きにしただけの薄っぺらな批判を展開するのが、日本の法律家の代表の責務なのか、悲しくなります。

こうやって、日弁連会長の立派なお墨付きを得て、ますますよくわかっていないマスコミの議論は、「労働時間と賃金とを切り離し、実際に働いた時間と関係なく成果に応じた賃金のみを支払えばよいとする制度」を認めるべきか否かなどという虚構の議論にはまり込んでいくわけです。一番大事なことをどこかに置き忘れながら・・・。

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アベノミクスの労働政策をどう捉えるか@労働法学研究会

8月27日の労働法学研究会の案内が労働開発研究会のHPに載っていますので、こちらでも紹介しておきます。

http://www.roudou-kk.co.jp/meeting/archives/2014reikai/006244.html

アベノミクスの成長戦略では、雇用制度改革の推進が強調され、雇用分野に影響する様々な話題が日々報じられています。政府が決定した新たな成長戦略において、多様な正社員制度の普及・拡大やフレックスタイム制度の見直しに加えて、健康確保や仕事と生活の調和を図りつつ、時間ではなく成果で評価される働き方を希望する働き手のニーズに応える、新たな労働時間制度を創設することとしました。また、「少なくとも年収1千万円以上」の高度な専門職を対象に、労働時間ではなく成果に応じた賃金制度を導入し、企業の競争力強化を目指す、いわゆるホワイトカラー・エグゼンプションと呼ばれる制度の導入も来年の通常国会をめどに予定しています。

 また、その他の労働政策においても、女性の活躍促進に向けた対策、働き過ぎ防止策、など、働く個人に大変身近な問題であり、高い関心が寄せられています。また一方で、産業競争力会議や規制改革会議の審議の在り方に対し、労働政策専門の議論の場を通さず規制緩和等が進められることへの強い懸念もあります。人事担当者はこの状況をどう理解し、また今後についてどのような対応を検討するべきなのでしょうか。

 そこで本例会では、労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口先生を講師にお招きし、アベノミクスの雇用制度改革を中心に、雇用をめぐる政策と今後への影響について解説いただきます。ぜひご利用ください。

時間・場所等はリンク先をどうぞ。

 

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『月刊連合』7月号

201407cover『月刊連合』7月号をお送りいただきました。特集は「外国人労働の論点」です。今年に入ってから、労働時間やらの話の横でどんどん進んでいった外国人労働者導入拡大の話について、きちんと議論を尽くしておくべき時期であることは間違いありません。

ニッポンの「人手不足」
「外国人材活用」が特効薬なの?

■人手不足の現場から

[建設連合]
野村昭典 建設連合書記長

[日本介護クラフトユニオン(UAゼンセン)]
染川 朗 日本介護クラフトユニオン事務局長
村上久美子 日本介護クラフトユニオン政策部長

■外国人労働者支援の現場から

[連合愛媛]
杉本宗之 連合愛媛会長

[連合大阪ハートフルユニオン]
酒井恭輔 連合大阪ハートフルユニオン書記長

[JAM]
奥山義彦 JAM組織部門組織グループ副グループ長 全国オルグ

■外国人労働の論点

後藤純一 慶応義塾大学総合政策学部教授

■連合の考え方

新谷信幸 連合総合労働局長

是非それぞれの記事を読んでいただきたいのですが、私がとても気になるのは、これから人口が激減するぞ、超高齢社会になるぞ、だから外国人労働を入れなければ間に合わないぞ、というマクロな議論を根拠にするのであれば、移民じゃないなどというごまかしはやめた方が良いという点です。

恒常的に必要な基幹的労働力を、しかし建前としてはテンポラリーにその時だけ調達する労働力ということにして大量に使って、気がついたら非正規労働者が基幹的労働力としてあふれていた、と言う事態の二の舞にならないように、マクロ的に整合性ある政策議論をしていかないと、とてもまずいのではないかと思ってます。

基幹労働力が外国人ばかりで、しかも一時的に滞在しているだけという建前で事実上長期に労働しているなどという、どこかの中東の首長国みたいな事態が一般化していくことのリスクを、誰かがもう少しまじめに、妙な感情論に振り回されるのではない形で、ちゃんとやっていかなければいけないはずです。

外国出身の労働者を権利も義務も皆含めて日本国民としてインクルードしていく覚悟のないまま、テンポラリーな恒常的労働力として外国人を使い続けられるというごまかしの議論から、そろそろ脱却すべき時期なのでしょう。

・・・、というようなことを感じました。

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『産政研フォーラム』102号に拙著書評

41mvhocvl中部産政研の『産政研フォーラム』102号をお送りいただきました。ありがとうございます。

その巻末に拙著書評が。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/20140701133928810.pdf

・・・話題の限定正社員、ホワイトカラー・エグゼンプションなど、雇用・労働問題を考える上でも読んでおきたい一冊。

とのことであります。


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大山典宏『隠された貧困 生活保護で救われる人たち』

9784594070700大山典宏さんの『隠された貧困 生活保護で救われる人たち』(扶桑社新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.fusosha.co.jp/books/detail/4111

生活保護受給者数217万人。その受給者の中には様々な背景をもつ生活困窮者がいる。
児童福祉施設出身者、薬物依存者、高齢犯罪者、外国人貧困者、元ホームレス。
貧困問題が取上げられる際にも決して語られることがなく、社会から「排除」された状態の人たち。生活保護を受けることで救われた彼らがどのように生きてきて、現在、何を感じているのか。そして、彼らを社会に戻していくためには、どうすればよいのか。
社会福祉のエキスパートが厳しい立場に置かれた人たちの支援の現場をルポする。

本ブログでも何回か取り上げてきた大山さんですが、今回はちょっと違う観点から、

・・・しかし、こうした活動の中で、徐々に違和感を覚えるようになっていきました。

メディアで伝えるのは、多くの人が共感する、わかりやすい生活困窮者です。・・・

よく言えば、わかりやすい、悪い言い方をすればステレオタイプな取材の在り方に、「何か違うな」という気持ちがぬぐえずにいました。・・・

都合の悪いもの、説明が付かないものを切り落としているのではないか。現場はもっとドロドロとしていて、割り切れないものも多いのに、「それは、まあ、置いておきましょう」と誤魔化してはいないだろうか。違和感は澱のように溜まっていきました。

もっと、現場に近い、生々しい声を集めよう。もっと周縁にいる、厳しい人たちの声を聞こう。何より自分の違和感を解消したくて、当事者や支援団体のもとに足を運び、耳を澄ませました。・・・

こうしてできあがった本書は、前著の『生活保護vsワーキングプア』『生活保護vs子供の貧困』とはひと味も二味も違った作品になっています。

第一章 児童養護施設出身者 「私のことを必要としてくれた」
第二章 高齢犯罪者 「息子たちに手紙を書いています」
第三章 薬物依存者 「認めてもらえる場所がある」
第四章 外国人貧困者 「なぜ、外国人なのに保護が受けられるんですか」
第五章 ホームレス・孤立高齢者 「続かないんだよね」
第六章 生活保護から見えるもの                               

冒頭に出てくる児童養護施設出身者の話は、実は大山さんが今現在取り組んでいる課題でもあるようです。彼のプロフィールに曰く:

1974年埼玉県生まれ。埼玉県職員。立命館大学大学院政策科学研究科、日本社会事業大学大学院 福祉マネジメント研究科(専門職大学院)修了。福祉事務所の生活保護ケースワーカー、児童相談所の児童福祉司などの現場経験ののち、県庁の社会福祉課で生活保護受給者の自立支援事業の企画運営に携わる。2014年度からはこども安全課で児童養護施設退所者を支援する「未来へのスタート応援事業」の立ち上げに挑戦中。このほか、内閣府子どもの貧困対策に関する検討会構成員(オブザーバー)、 日本社会事業大学非常勤講師など、貧困問題の専門家として幅広い活動を続けている。社会福祉士。

今年度から、まさに第1章に出てくるような児童養護施設退所者を支援する事業に取り組んでいるのですね。

前著もそうでしたが、本書を読み進めていくと、warm heart cool head という言葉が思い浮かびます。

とかく、cool heartな(一部)経済評論家とwarm headな(一部)運動家の対立図式に陥りがちなこの問題を、現場目線で一歩一歩解決していくのは、大山さんのような現場のwarm heart cool headな努力なのだろうな、というのが何度目かの感想です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_d0c9.html(湯浅誠『反貧困』をめぐって)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-4287.html(埼玉県が生活保護家庭の教育支援へ)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/200-f0ab.html(『生活保護200万人時代の処方箋~埼玉県の挑戦~』)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/11/vs-cbf1.html(大山典宏『生活保護vs子どもの貧困』)

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外国人メイドとマタハラの間・・・

Hyoshi23というわけで、『POSSE』23号のメイン特集の少子化とマタハラなんですが、

「マタハラがあぶり出す「標準労働者」の歪み―求められる身体性回復の労働運動」竹信三恵子(ジャーナリスト・和光大学教授)

 「マタハラのもと、何が起こっているか?―現代女性労働を取り巻く影」小林美希(労働経済ジャーナリスト)

 「シングルマザーの現状にみる少子化の論点」藤原千沙(法政大学准教授)

 「法律はマタハラの歯止めになるか?」浅倉むつ子(早稲田大学大学院教授)

 「「ブラック国家」とは何か―ブラックバイト、マタニティ・ハラスメント、国家政策の変容の連鎖」今野晴貴(NPO法人POSSE代表)

 「15分でわかる少子化×マタハラ――少子化・女性労働・マタハラ」

いやもちろん、ここでいわれていることは全部正しい。正しいんだけど、・・・。

ここで各氏が述べていることでもあるんですが、まさに今安倍内閣の看板の一つとして進められようとしている「女性の活躍」っていうスローガンと、この労働現場のマタハラとを、どうひとつながりの話として読み解いていくのか、ってのが重要なポイントだと思うのですね。

その意味では、もちろん竹信さんが指摘する「柔軟な働き方」の称揚にもそれが現れているのですが、とりわけ露骨に出てきているのが、「女性の活躍促進、家事支援ニーズへの対応のための外国人家事支援人材の活用」というものですね。

外国人メイドを使うことで「活躍」できる女性って、一体どこのどんな人々なのか、少なくとも、本誌で紹介されるようなマタハラに悩まされる女性たちとはかなり違う次元に生きている人々なのでしょう。

「女性の活躍」という(余程お馬鹿なねとうよでない限り誰も正面切って反対できない)正しい看板を掲げて、かくも露骨に(正しい意味で)階級的な利害をむき出しにした政策が出されてくることに対して、それ自体がかつて階級的正義の仮面に隠された女性差別を暴くイデオロギー批判として強烈に強みをもっていたフェミニズムがむしろイデオロギー擁護的機能を担ってしまっているのではないか、などと下手なことを言うとそれこそ猛攻撃を受けそうですが、このあたりをもう少しきちんと議論していかないと、まずいんじゃないかな、と思ってます。

もちろん、誰かさんみたいにうかつに「「女性の活躍」はもうやめよう」などと馬鹿なことを言っちゃいけませんが・・・。


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『POSSE』23号

Hyoshi23

本日のクロ現にも登場していたNPO法人POSSEの『POSSE』23号をお送りいただきました。

http://www.npoposse.jp/magazine/no23.html

今号も盛りだくさんの内容ですが、まずメイン特集は「そして誰もいなくなった? 少子化×マタハラ」です。

 「マタハラがあぶり出す「標準労働者」の歪み―求められる身体性回復の労働運動」竹信三恵子(ジャーナリスト・和光大学教授)

 「マタハラのもと、何が起こっているか?―現代女性労働を取り巻く影」小林美希(労働経済ジャーナリスト)

 「シングルマザーの現状にみる少子化の論点」藤原千沙(法政大学准教授)

 「法律はマタハラの歯止めになるか?」浅倉むつ子(早稲田大学大学院教授)

 「「ブラック国家」とは何か―ブラックバイト、マタニティ・ハラスメント、国家政策の変容の連鎖」今野晴貴(NPO法人POSSE代表)

 「15分でわかる少子化×マタハラ――少子化・女性労働・マタハラ」

で、間に例の長谷川ペーパー批判の鼎談を挟んで、

 「いま、動き始める「労働改革」―「長谷川ペーパー」から見える「改革」推進派の思惑と私たちの対抗策」 今野晴貴(ブラック企業対策プロジェクト共同代表)×森岡孝二(関西大学名誉教授)×佐々木亮(ブラック企業被害対策弁護団代表)

2つのミニ特集が続きます。まず、「教員とキャリア教育のこれから」。

 「若者の労働実態を踏まえた労働法教育を」川村遼平(NPO法人POSSE事務局長)

 「いま求められる労働法教育―調査から見える効果について」本田由紀(東京大学大学院教授)

 「ブラック企業を受容させる装置としての就活」今岡直之(POSSE事務局)

 「教育職場の実態と教職員組合の課題」今野晴貴(NPO法人POSSE代表)

 「さまよえるキャリア教育 第2回 若者の勤労観・職業観への懸念から導入されたキャリア教育」上西充子(法政大学教授)

次が、「被災地仙台の今」。

 「『断絶の都市センダイ―ブラック国家・日本の縮図』刊行に寄せて」渡辺寛人(仙台POSSE代表)

 「自立を阻害する塩竈市の生活保護行政の実態」川久保尭弘(仙台POSSE事務局)

 「被災地はこれからも 第9回 3.11追悼イベントを通して見る、仮設住宅住民の生活の変化」竹中亮介(仙台POSSEスタッフ)

ときましたが、実は巻頭にとんでもないのが載っていました。いや、トンデモということじゃなくって、褒め言葉としての「とんでもない」なんですが、

◆新連載

 「社会学居酒屋談義 第1夜 客観性と価値自由」仁平典宏(東京大学准教授)

 「文化と労働 NO.1 『アナと雪の女王』におけるポストフェミニズムと労働」河野真太郎(一橋大学准教授)

その他の連載は、

 「社労士にできること、やれること 第1回」篠塚祐二(パートナーズ特定社労士事務所所長・社会保険労務士)

 「西洋解雇規制事情 第参回 英吉利(イギリス)編」小宮文人(専修大学法科大学院教授)

 「ともに挑む、ユニオン 団交file.4 高額の費用がかかる長期間の海外インターンシップ」北出 茂(地域労組おおさか青年部書記長)

 「労働相談ダイアリー File.19 働くときに持っておきたい選択肢」川村遼平(NPO法人POSSE事務局長)

 「はたらくっきんぐ! 第7回 貧乏メシ」藤代薫(女子栄養大学在籍)

 「ブラック企業のリアル vol.08 日本料理店」

 「世界の社会運動から No.7 フランス/文化関連の不安定労働者たちによるストライキ」ベルンハルト・シュミット

 「労働と思想 23 アダム・スミス―ネイション・ステイトの誕生」小谷英生(群馬大学講師)

 「京都POSSE ノート 第1 頁 自己紹介」遠藤めぐみ(京都POSSE事務局)

どれも時宜に適した特集や記事ですが、ここではあえてメジャー記事を外して、まず労働側社労士の篠塚祐二さんの「社労士にできること、やれること」。社労士の業務拡大の中で、労働側にたって紛争事案に入っていった篠塚さんの今までの推移が描かれています。

はじめに戻って、仁平典宏さんの「社会学居酒屋談義」。どれほどとんでもないかは、ぜひ直に読んでくださいね。

次の河野真太郎さんのアナ雪分析は、最近話題になった某ボツ原稿に比べても、二重三重四重くらいに踏みいったすごいものになってます。

メイン特集等についてはまた改めて。

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本日のNHKクロ現

先日放送された(生で見た人はほとんどいないであろう)「視点・論点」の収録にNHKに行ったとき、収録後ついでに(笑)ということでクローズアップ現代のスタッフに聞かれていろいろとお話しをしたのですが、その時の成果(?)が本日放送されるようです。

http://www.nhk.or.jp/gendai/yotei/#3523(働き方はどう変わる ~“残業代ゼロ”の課題~)

Photo352316月下旬に閣議決定される国の成長戦略で、新しい労働時間制度が盛り込まれた。残業代や休日・深夜手当を無くし、給与を「労働時間」でなく「仕事の成果」で決めるという制度だ。経済界では、無駄な残業代の削減と生産性の向上につながるという期待が高まる一方、労働組合からは、今後適用の範囲や業種が広がると、低賃金・長時間労働につながりかねないと反発の声が挙がっている。残業が常態化し、先進国の中で生産性が最低クラスとされる日本人の働き方をいかに変えていくか。現場取材をもとに、新制度導入のメリット・デメリットを整理しながら、私たちの将来の働き方について考えていく。

私の話を聞けば聞くほど、それはまとめるのが難しいですねえ、と頭を抱えていたディレクターさん、とても適切な人を見つけ出したようです。

出演者 安藤 至大 さん(日本大学准教授)

安藤さんは労働経済学者ですが、多分多くの労働法学者よりも(そしてほとんど全てのケーザイ学者や評論家よりも)この問題について的確なことを言っています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/06/post-1115.html(労働時間に上限の設定を@安藤至大)

(追記)

なんだか、番組のコンセプトが成果主義推しに傾きすぎで、安藤さんの話もいささか曖昧な感じでしたね。

途中で世田谷区のNPOってのが出てきて、見ていると今野さんもコメントしていました。

ということで、上の『POSSE』23号の話題に続く・・・・。

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メンバーシップ型日本教師の栄光と憂鬱

既に旧聞ですが、わたくしが訪欧中の先週、

http://www.asahi.com/articles/ASG6T5S3KG6TUTIL04D.html(日本の先生、世界一多忙なのに指導には胸張れない)

経済協力開発機構(OECD)は25日、中学校教員の勤務環境などの国際調査結果を発表した。日本の教員は指導への自信が参加国・地域の中で最も低く、勤務時間は最も長かった。理解が遅い子に合わせた指導をする割合やICT(情報通信技術)を利用する割合は低い。多忙な中、指導に集中できずにいる教員のすがたが浮かび上がる。

・・・一方、1週間の勤務時間は53・9時間(平均38・3時間)で最長。内訳をみると、部活などの課外指導が7・7時間(同2・1時間)、一般事務が5・5時間(同2・9時間)と飛び抜けて長かった。授業は17・7時間で平均(19・3時間)を下回った。

という記事が出ていました。

もとのOECDのサイトには、

http://www.oecd.org/education/teachers-love-their-job-but-feel-undervalued-unsupported-and-unrecognised.htm(Teachers love their job but feel undervalued, unsupported and unrecognised, says OECD)

このページの下に「Compare your country - TALIS Teacher Survey」(あなたの国を比べてみよう)というコーナーがあって、一番右側のタブの「Time Use」で、日本を選択してみましょう。

日本の教師が、教師のジョブの中核であるはずの教える時間(teaching)がとても少ない方なのに、事務仕事(Administrative work)がとても多く、とりわけ課外活動(Extracurricular activities)が飛び抜けて多いことが視覚的によくわかります。

ついでに、先週訪問したフィンランドを選択して比べてみると、教える時間以外の全ての時間でフィンランドが最も少ない国の一つであることがわかります。

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Administrative work

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Extracurricular activities

ある意味で、教育というジョブに専念できないメンバーシップ型日本教師の栄光と憂鬱が見事に映し出されているといえないこともないですね。

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