シングルマザーに必要なのは、「企業戦士型経済的自立」というよりも「ワーク・ライフ・バランス(WLB)型経済的自立」である@周燕飛
JILPTの周燕飛さんが、『母子世帯のワーク・ライフと経済的自立』(JILPT)を刊行しました。
http://www.jil.go.jp/institute/sosho/singlemothers/index.htm
「福祉から就業へ」、母子世帯政策は2000年代以降に大きく転換。しかし、実際は母子世帯への福祉給付が引き続き増加。シングルマザーへの就業支援策は本当に効果があったのか。就業で経済的自立は理想論に過ぎないのか。母子世帯の貧困問題は解消できるのか。調査データと緻密な分析に基づき、労働経済学的視点からその問題点と解決策に鋭く斬り込む。
内容は周さんが過去数年間取り組んできたシングルマザー研究の現段階での集成ですが、経済学的分析を駆使した研究書ではありますが、切れ味の良い周さんらしい記述があちこちにあって面白く読めます。
周さんがこの問題に手を染めたのは、2007年にたまたま厚生労働省から研究要請があったという偶然からですが、その後、当初はシングルマザーの正社員就業促進こそが王道と考えていたのが、実は正社員になりたくないシングルマザーがはるかに多いことを発見し、このエントリのタイトルにあるように、
「企業戦士型経済的自立」というよりも「ワーク・ライフ・バランス(WLB)型経済的自立」
を探求する方向に進んでいったということです。
序章 福祉から就業への政策転換
第1部 現状編
第1章 母子世帯の増加要因、就業と経済的困難
第2章 経済的自立の現状とその規定要因
第2部 公的就業支援
第3章 就業支援制度の中身と期待される効果
第4章 自治体の取組み
第3部 支援事業への評価
第5章 公的就業支援はどこまで有効か
第6章 パソコンスキルは本当に有用か
第4部 WLB型経済的自立
第7章 正社員就業はなぜ希望されないのか
第8章 就業と自立に向けての奮闘-事例報告
第9章 養育費と父親の扶養責任のあり方-日米豪比較を含めて-
序章の最後のところの記述を引用しておきますと、
・・・しかしながら、母親の就業所得の向上に頼って経済的自立を目指すことも、一定の限界がある。例えば、高年齢、低学歴または疾病等の関係で専門資格を目指すような職業訓練を受けることができないシングルマザーが大勢いる。また、多くのシングルマザー(特に低年齢児の母親)が、子供との時間を大切にしたいため、フルタイム・正社員就業をそもそも希望していない。さらに、シングルマザーはそうでない女性と比べ、家事時間と睡眠時間が少なく、勤労時間が長くなっている。これ以上母親の余暇時間を犠牲にして経済的自立を目指すことは現実的ではない。
したがって、シングルマザーに必要なのは「企業戦士型経済的自立」というよりも「ワーク・ライフ・バランス(WLB)型経済的自立」ではなかろうか。WLB型経済的自立と貧困解消を同時に実現するためには、中長期的には正社員と非正社員間、男女間の賃金格差の解消、就業スタイルの多様化等の雇用システムの改革が必要不可欠である。短期的には、母子世帯に対する就業支援の継続をはじめ、シングルマザーへの婚活支援、親権決め基準の見直し、児童扶養手当制度の継続・拡大、養育費の強制徴収制度などの導入も検討すべきである。
周さんが中心になってまとめた報告書については本ブログでも一昨年紹介していますが、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/jilpt-3520.html(周燕飛編『シングルマザーの就業と経済的自立』@JILPT )
彼女の肉声を聞きたい方はこちらをどうぞ
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