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« Tomさんの『中高年』本書評 | トップページ | 『週刊東洋経済』6月7日号 »

2014年6月 2日 (月)

雇用形態に関わる報告書2つ

労働政策研究・研修機構(JILPT)から、雇用形態に関わる報告書が2つ出されています。

Maeura一つ目は『雇用ポートフォリオ編成のメカニズム』。前浦穂高さんと野村かすみさんによる研究報告書です。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2014/0166.htm

前浦さんがここ数年取り組んできた雇用ポートフォリオの編成の研究の総まとめです。

政策的インプリケーションを3点提示しています。

1つは、正社員登用の可能性である。日本企業の雇用ポートフォリオは、主に財務(利益など)、業務量、戦略のいずれかによって編成される。そのため非正規労働者から正社員への登用を目的として、人材育成に力を入れても、正社員登用につながるとは限らない。正社員枠は、スキルとは別の論理(財務、業務量、戦略)によって決定されるからである。正社員登用の可能性(正社員枠)を拡大するには、非正規労働者の登用先として、限定正社員を活用することが考えられる。

2つは、均衡処遇の実現である。これまでは、雇用区分と業務内容、処遇の水準が対応し、それが組織内の秩序を形成していたため、雇用形態の違いによって、処遇に対する納得性が得られていた。しかし非正規労働者の活用が進み、正社員の業務の一部を担うなどの職域の拡大が発生すると、処遇に対する納得性が失われる可能性がある。こうした問題を未然に防ぐためには、非正規労働者に発言機会を与え、企業もしくは労働組合が職場の働く実態を定期的にチェックする必要がある。

3つは、非正規労働者の人材育成である。非正規労働者の人材育成の重要性は、組織内外でキャリアアップすることにある。ただし非正規労働者の人材育成は、企業の必要性に応じて行われる。非正規労働者に教育訓練機会を確保し、マクロの人的資源形成を促進するためには、企業内で行われる教育訓練を尊重しながらも、官民が協力し合って、非正規労働者の人材育成について真剣に取り組む必要がある。

Onoもう一つは『非正規雇用者の企業・職場における活用と正社員登用の可能性』です。

http://www.jil.go.jp/institute/chosa/2014/14-137.htm

こちらは小野晶子さんを中心に、奥田栄二さん、上の前浦さんも参加しています。

非正規雇用のポートフォリオは、「直接雇用型」、「直・間混合型」、「委託・分業型」の3つに類型化できる。「直接雇用型」では、人材ポートフォリオで正社員比率が低いケースがみられ、これらの職場は少数の正社員と多数のパート・アルバイトで要員が編成されている。パートやアルバイトが中心となる「直接雇用型」は、経済制約的理由から人件費を圧縮するためや、日、週、月での繁閑に対応するために活用するところが多く見られる一方で、法制度に関する影響から、近年、派遣労働の活用から直接雇用に切り替えているケースがみられた。

「直・間混合型」では、派遣労働を入職ルートとして機能させ、後に直接雇用に転換するケースがみられ、事業所の根幹となる事業に従事する派遣社員は、契約社員を経て正社員への登用ルートにつながるケースが多い。一方、後方業務やコールセンターなど、根幹でない事業として分業されて、間接雇用化している場合は、登用にはつながらない。このことは「委託・分業型」と通じており、派遣労働と業務請負会社の社員とが非正規雇用の中心となる職場では、分業化が進んでおり、ほとんど正社員登用がなくなる。

正社員比率が20~50%程度と低いケースでは、現在の正社員数に対して「不足」感を感じている。その中で、今後正社員を増やす見込みがあるところは、非正規雇用者も含めて、人材の確保に苦慮しているところである。これらの事業所の特性を一言で言えば「肉体的に楽ではない仕事」が中心であり、労働供給側が需要に反応しづらい業務である。一方、正社員数に「不足」感を感じていながらも、今後も現状維持やさらに減らす意向を持つ企業・事業所では、近年の業績悪化がみられ、正社員を採用するには、業績が立ち直ることが不可欠となる。ただ、小売業やファストフードなど、業績に関係なく恒常的に店舗利益の導出のために正社員比率を抑制している業種では、今後も正社員への需要は横ばいか減少傾向にあると推測される。

正社員登用は恒常的に実施している企業・事業所と、一過的に実施したところに分けられる。恒常的に実施しているところでは、正社員は新卒よりも中途採用や内部登用といったルートで確保されていて、地域採用枠があったり、事業所が実質的に採用権限を持っていたりする場合が多い。こういったケースでは、企業・事業所の正社員数に占める登用者数の割合が高い。

正社員登用の対象者の属性をみると、男女で特徴が表れる。男性の場合は、現業職と技術職であり、リーダー職や工程管理などの責任が課される内容となる。年齢は20~30歳代と女性に比べて若年に偏る。女性の場合は、店舗での接客などがある職種や事務職が中心で、リーダー職や従前の仕事を踏襲しながら習熟度を上げていく傾向にある。年齢は20~40歳代と幅広く、どちらかといえば子育て後に入職してくる場合が多い。

正社員登用を行っている企業・事業所の正社員へ乗り入れ時の賃金をみると、月給レベルでは登用前後で大きく変動しないように設定されているケースがほとんどである。年収レベルでみれば、非正規雇用の時に支給されていなかった、あるいは少額だった賞与分での上昇がみられる。多くのケースで登用直前の非正規雇用時の年収は、250万円程度であり、それに50万円程度の賞与が加算されて、300万円程度になるというのが本調査からみえたイメージである。

正社員登用を実施しているケースの中には、正社員と非正規雇用の業務と賃金が大幅に重複しているケースがみられる(「均等待遇モデル」(図表1))。このケースでは、従前の業務をそのまま踏襲し正社員に移っており、正社員登用が頻繁で量的に多い。賃金は、一般的な正社員の賃金体系とは異なり、職種別賃金となっていて、業務内容に伴って変動する(業務が変わらなければ変動しない)。他方、多くのケースは非正規雇用が正社員の下位の階層として位置づけられており(「雇用形態階層モデル」(図表2))、正社員に登用されるとリーダー職に就くなど、ステップが上がることを前提に正社員登用への要件が厳しく、狭き門となっている状況がみられる。賃金面からみると、乗り入れ側の正社員の賃金が職能資格制度で決定されていて、勤続年数に従ってある程度上昇傾向にあり、総額人件費のコントロールの観点からも量的に多く登用するのが難しい状況であることが推察される。

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その上で、政策的インプリケーションとして、

以上のことから、正社員登用を積極的に実施している企業の特色として、非正規雇用者と正社員の業務が完全に分業化しておらず、乗り入れできる「汽水域」的な仕事の領域と賃金レンジの重複部分があることが挙げられる。地域採用での現業職のニーズは大きいとみられ、地域拠点が独自に正社員の採用権限(枠)を持つことで、正社員登用が活発になると思われる。特に男性については、本社が採用するホワイトカラー層とは別のニーズが地域特色豊かにあると思われる。産業特性的には、非正規雇用を多く活用している小売業や飲食サービス業等においては、非正規雇用への教育訓練や正社員登用制度が整っているが、量的に正社員登用数が多いとはいえない。これは恒常的に正社員数を抑制して非正規雇用を活用する経営モデルが根底にあることを考えれば自明のことでもある。正社員を雇用することが、コスト面での大きなハードルと考えているところは、労働契約法の有期法制の影響から、今後、非正規雇用と同様の労働条件を踏襲して、雇用期間を無期化するという流れが加速するかもしれない。これを「正社員」と名称付けするかは各社の判断であろうが、「正社員」の雇用区分が多様化することが予測される。

対象分野としてかなり重なるところもありますが、どちらも大変興味深い内容ですので、関心のある向きは是非リンク先を見てください。

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