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集団的労使関係の構築@『損保労連GENKI』6月号

110『損保労連ホットラインGENKI』6月号に、「集団的労使関係の再構築について」 を寄稿しました。

「集団的労使関係の再構築について」
 
 近年、労働者派遣法、解雇法制、非正規労働、ジョブ型正社員、労働時間規制など、労働法制をめぐる話題が目白押しです。筆者も新聞テレビなどマスコミから解説を求められることがしばしばあります。こうした機会に「これからの労働法制の課題は何でしょうか?」という質問をよく受けますが、これに対し筆者は必ずといって良いほど「集団的労使関係システムのあり方をめぐる問題でしょう」と答えています。現時点では政労使いずれの側においても、集団的労使関係システムのあり方や改革について、政策課題のアジェンダには挙げられていませんが、現在議論されている様々な課題の背後には、この問題が影を潜めていると考えるからです。
 この集団的労使関係について、ここ数年、政府の各研究会では、さまざまな問題提起がされており、非正規労働者の均等処遇問題に関しては一定の方向性が示されています。例えば、2011年に「今後のパートタイム労働対策に関する研究会」や2012年に「非正規雇用のビジョンに関する懇談会」で取りまとめられた報告書では、非正規労働者の処遇改善のために「集団的労使関係システムが企業内の全ての労働者に効果的に機能する仕組みの整備が必要」であることが提示されています。また2013年に取りまとめられた独立行政法人労働政策研究・研修機構の「様々な雇用形態にある者を含む労働者全体の意見集約のための集団的労使関係法制に関する研究会」の報告書では、現在の集団的発言チャネルである過半数労働組合と過半数労働者の課題として、前者には非正規労働者などへの非組合員への配慮、後者には過半数代表者における交渉力の強化やその正当性の確保などを課題として挙げるとともに、その課題解決に向けたシナリオとして、 次のことが提示されています 。

(1) 現行の過半数代表制の枠組を維持しつつ、過半数労働組合や過半数代表者の機能の強化を図る方策
(2) 新たな従業員代表制を整備し、法定基準の解除機能等を担わせる方策

 
また、法制面からも、2012年に改正された労働契約法第20条では、「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」が掲げられており、これを企業や職場レベルで法の趣旨に則った対応を行っていくうえでは、労働側の交渉者がそこで働く非正規労働者を代表していくことは不可欠であり、むしろその立場を代表せずに労使交渉すすめていくことはもはや許されない状況になっているものと考えます。
以上のように、集団的労使関係システムのあり方は、非正規労働者の均等処遇の問題のみを取り上げても論議を尽くしていくべき重要な問題ではあります。
 一方で、昨年来の第2次安倍内閣による労働法制の見直しの動きのなかで、集団的労使関係の再構築の必要性を高めるさらに重大な論点が浮上してきました。「新たな労働時間制度」という名の下に打ち出されようとしている仕組みです。これについては本誌12月号でも述べたとおり、労働時間規制と賃金規制の2つの論点があります。
1つめの労働時間規制の論点からは、まず何よりも長時間過重労働の趨勢を打開するために、1日の勤務と次の日の勤務の間に決まった休息時間を確保するいわゆる勤務間インターバル規制など、物理的労働時間規制を強力に進めることが必要です。こちらは集団的労使関係というよりも労働基準監督システムの強化が必要でしょう。
 また2つめの賃金規制の論点からは、賃金と時間のリンクを外し、成果で処遇を決めていくという賃金制度の問題について、それが単なる人件費削減の手段として用いられることなく、労働者相互間の公平感覚に沿った形で運用されるためにも、強力な交渉力を持つ集団的労使関係の担保が不可欠です。しかしながら、この点において、現行の36協定における(労働組合ではない)過半数代表者による労使関係の実態を踏まえれば、その実効性は絶望的といわざるを得ません。長時間労働に対しては労働者側も容認的な社会ゆえに、事実上会社指名に近いような状況が黙認されてきたわけですが、時間外手当をどうするかという賃金問題に関してはとても現行システムのままで耐えられる状況ではありません。
 この点については、政府の規制改革会議や産業競争力会議も十分に認識しており、その対処として「新たな労働時間制度」においては「当初は過半数組合のある企業に限定する」という項目を盛り込んでいます。
ただし、ここでの「当初は」との記載は言い換えれば過半数組合のない企業にも今後拡大していくことを意味するものです。現在の組合組織率(2013年6月末時点の組織率17.7%「厚生労働省調査」)の状況をふまえれば、「労働者が組合を作らないからといって、なぜ我々の会社が差別されなければならないのか」という労働組合のない企業からの不満をいつまでも抑えることができるとは思えませんので、当然の帰結であろうと考えます。
このように、労働時間制度は、非正規労働者の処遇の問題以上に労働組合としての決断を迫られる正念場になると考えますし、今までの延長線上の議論だけで済む問題ではなくなりつつあります。
 過去、労働契約法制定の際に、就業規則の不利益変更や解雇の金銭解決に関して労使委員会の活用が提起されたこともありますが、労働組合の組織率が低下し続けるなか、あらためて労働者の利益に関わる集団的な枠組みをどのように再構築していくのかが、個別政策課題を貫く中期的課題のアジェンダとして浮かび上がってきつつあるのです。

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