EU・日本SPAと人権条項
時事通信が、「EU、日本に「人権条項」要求=侵害なら経済連携協定停止」という記事を配信したので、ネットの一部が盛り上がっているようですが、
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201405/2014050500353&g=pol
【ブリュッセル時事】欧州連合(EU)と日本が、貿易自由化に向けた経済連携協定(EPA)と同時並行で締結交渉を行っている戦略的パートナーシップ協定(SPA)に、日本で人権侵害や民主主義に反する事態が起きた場合、EPAを停止できるとの「人権条項」を設けるようEUが主張していることが5日、分かった。日本は猛反発しており、EPAをめぐる一連の交渉で今後の大きな懸案になりそうだ。・・・
例によって、圧倒的に多くのネット民が、ソースに当たらずにあれこれ言い合うという状況になっているようなので、この動きの元になっていると思われる欧州議会の決議を紹介しておきます。これは、去る4月17日に欧州議会総会で可決されたものです。
http://www.europarl.europa.eu/sides/getDoc.do?type=REPORT&mode=XML&reference=A7-2014-0244&language=EN(European Parliament’s recommendation to the Council, the Commission and the European External Action Service on the negotiations of the EU-Japan Strategic Partnership agreement)
このうち、人権という言葉が出てくるところを抜き出しますと、
D. whereas the EU and Japan share the values of democracy, the rule of law and the promotion of human rights, all of which should form the core part of any agreement between the two parties, aiming to provide a solid framework for that relationship;
D EUと日本は民主主義、法の支配、人権の促進という価値観を共有し、その関係の堅固な枠組みを提供することを目指し、そのすべてが両者の間のいかなる協定についても中核をなすべきであるので、
Human rights and fundamental freedoms
(q) to reaffirm the shared values of respect for human rights, democracy, fundamental freedoms, good governance and the rule of law, and to work together for the global promotion and protection of these values;
(r) to promote gender equality as a crucial element of democracy;
(s) to negotiate a provision in the agreement including reciprocal conditionality and political clauses on human rights and democracy, reconfirming the mutual commitment to these values; to adopt appropriate safeguards to ensure the stability of the agreement and that such a provision cannot be abused by either side; to insist that such conditionality should form part of the Strategic Partnership Agreement with Japan, in the spirit of the EU’s common approach on the matter;
人権と基本的自由
(q)人権の尊重、民主主義、基本的自由、良き統治及び法の支配という共有の価値観を再確認し、これら価値観を世界的に促進し、保護することに向けて活動し、
(r)民主主義の最重要の要素である男女平等を促進し、
(s)人権と民主主義に関する相互条件と政治条項を含む協定の規定を交渉してこれら価値観への相互のコミットメントを再確認し、協定の安定性を守るための適切なセーフガードを採択してそのような条件がいずれかの側から乱用されないようにし、そのような条件がEUのこの問題への共通のアプローチの精神に則って日本との戦略的パートナーシップ協定の一部となるよう主張する。
ということのようです。
いろいろ議論するのはいいのですが、いったいどこの国と価値観を共有しているのかと思うような議論は、世界中の人々が見ているという前提でされた方がよろしかろうとは思われます。
« ワレサ 連帯の男 | トップページ | 過労死等防止対策推進法案(仮称) »
>男女平等
政府や社会保障受益者の都合で女性を「活用」したり、家庭にいる時間を奪うとか、専業主婦へのヘイトスピーチを行うなどの「差別」はやめていただきたい。
投稿: 山本たかし | 2014年5月 6日 (火) 14時01分
(r)民主主義の最重要の要素である男女平等を促進し、
この辺が男女の役割分担を認める日本の社会的価値観を合わないように思います。
また、労働規制なども日本人には当たり前でもEUから見ると人権侵害に見えることもあるので、問題が生じるでしょう。
日本の労働法制は比較的緩やかなので、米国に近い。それゆえ、米国と協定するほうが良い。
投稿: フルート | 2014年5月 6日 (火) 15時57分
>フルートさん
そうですね
「性差」や「生き方の自由」を認めず、「形式的平等」を強制する考えは、日本人から見れば奇異に感じられます。
能力と経済的余裕がある女性が「自由意思で」決めた生き方(家庭生活中心)すら差別撤廃の名のもとに抑圧するなら、却って自由権侵害という問題が生じます。
これはアファーマティブアクションの問題と同様、「権利の平等=自由」を重視する我が国とは完全に価値観が対立しています。
投稿: 山本たかし | 2014年5月 6日 (火) 19時29分
イギリスとEU政府が労働時間規制を巡って対立しているような緊張関係が日本とEUの間に生まれる恐れがありますね。
もちろん、加盟しているイギリスと外部である日本に立場上の違いはありますが、もし日本からの輸出が大幅に超過する事態になれば、EU側が労働条件が異なることに原因を求めて日本に規制強化を迫る恐れがあります。
しかし、少子高齢化で労働力が不足している日本で労働時間規制の強化なんてすれば、日本は衰退してしまうでしょう。また、男性がしっかり働いて妻子を養う日本の文化を壊すことになります。さらには、サービスの低下を招き、医療の悪化など深刻な問題にもなりかねません。現にイギリスでは医療体制の悪化が起きています。
日本の緩やかな労働法は、アメリカと同様、国の発展を支えてきました。EUに介入の余地を与える条約を締結すべきではありません。TPPを先行し、欧州との関係は向うからお願いしてくるまで待つべきです。(日中韓FTAも進めれば、アジア・太平洋で巨大な経済圏を作れるので、当面はそれで十分です。EUのようなややこしいエリアはおいておきましょう)
投稿: フルート | 2014年5月 7日 (水) 08時28分
少女が学校教育を受けるのがけしからんといって、マララさんを銃撃したり、少女ら何百人を誘拐して奴隷に売り飛ばすとか、イスラム急進派(ネトウヨならぬネトムスリム?)がアラーの名を掲げてやってるのを見て、我々非イスラム教徒が感じるような感じを、日本から発信されるメッセージによって日本以外のとりわけ欧米の人々が感じるようなことのないようにした方がいいのではないでしょうかね、というのはごく控えめな感想ではありますが、そういう感覚を共有することが実のところ一番難しいのかもしれません。
何にせよ、日本人がタリバンやボコ・ハラムを見るような目で見られるようになるのは、国益を損なうことこれ以上ないことだけは間違いありませんので、こんな場末のブログのコメント欄で吠えるのはともかく、あまり表舞台で声高に騒がれない方が日本のためかと存じます。
投稿: hamachan | 2014年5月 7日 (水) 23時06分
米国は国連の人権規約のうち社会権規約を批准していません。女子差別撤廃条約も批准していません。ILO条約もごく一部しか批准せず、連邦法上労働時間も上限規制はありません。労組に対する保護も薄いです。このように欧州とは全く違います。それでイスラム過激派と同じように見られているかというと、そんなことはないですよね。
イギリスでEU離脱運動をしている人たちもEUの労働指令に対する反発を公言していますが、それでイギリスがイスラム過激派と同じようにみられているということもありません。
人権について、自由権は世界の多くの国で共通認識となっていても、社会権については大きな違いがあります。
すなわち、「欧米」と一口で言うことはできず、アメリカと欧州(特に大陸や北欧)は全然違うので、欧州基準を拒否すればイスラム過激派と同じというのは論理の飛躍です。
日本はアメリカ側につけばいいだけです。
EU=西側世界 ではないんですよ。
アメリカではEUの社会主義的な政策が自由を制限し社会を衰退させているという批判が強くあります。その通りだと思います。
少なくとも、アメリカでは一般的な議論です。
アメリカと同調することでタリバンと同じように見られることは(少なくともアメリカでは)ありません。欧州の感覚というのはちょっと理解できないところですが、これまで通り日米同盟基軸で行くほうが日本のためになります。日本の社会は欧州のような社民主義よりアメリカの自由主義に近いですから。
投稿: フルート | 2014年5月 8日 (木) 08時00分
追記させていただくと、たしかにEUからみればアメリカもタリバン同様に理解できない社会なのかもしれませんが、アメリカから見ると欧州はソ連みたいに見えているようなんですよね。(すべてのアメリカ人がそう思っているわけではないですが、かなり広範に広まった見方です。医療保険改革を巡る議論には典型的に表れています)
アメリカとの条約には人権条項を求めていないと報道されていますが、それが事実なら、EUはアメリカとは人権を巡る考え方が異なるので無理だと思ってあきらめているのかもしれません。
日本=アメリカ ではないですが、労働規制、死刑を巡る議論、社会保障の少なさと自己責任を求める慣習、など日本はアメリカに近い状況にあるので、アメリカ側についたほうが良いと思うのですが。
少なくとも、世界はEUだけで来ているわけではないし、欧米=EUでもないので、EUに合わせる必要はないでしょう。アジア・太平洋地区での経済的、軍事的プレゼンスを持つ国がどこかを考えれば、なおさらです。
投稿: フルート | 2014年5月 8日 (木) 08時38分
>日本から発信されるメッセージによって日本以外のとりわけ欧米の人々が感じるようなことのないようにした方がいいのではないでしょうか
「男女平等」にたいして、「それが個人の自由意思に基づいているなら、どうぞどうぞ。高スキル労働するのも大学院にいくのも歓迎です。」と言っているだけです
これの何処が男女差別でイスラム過激派なのか??
むしろ、「専業主婦は殺せ、潰せ」「女性が家庭に居るなんて許せない。甘えている。労働させろ」というほうが過激派だ。
こういう人が「欧米ガー反対しているから」という理由「だけ」で捕鯨反対しているんだろうな
投稿: 山本たかし | 2014年5月 8日 (木) 09時06分
外国と協調することで、利益が得られるなら、無暗に異文化の流入を否定する必要はないです。
しかし、我々の家庭と労働と税負担に対する不利益が加えられるなら、明白に「NO!」と言うべきではないですか。
さらに、日本に対する「男女差別社会」という非難は、人種的な偏見に基づいているとも、指摘しなければなりません(なぜなら、アメリカの専業主婦回帰志向については、何の批判も加えられていないのだから)
hamachanさんは、国の機関の人間なのだから、日本の制度を卑下したり、家族を解体するのではなく、外国の偏見にたいして、違うことには違うと言うべきだ。
投稿: 山本たかし | 2014年5月 8日 (木) 16時02分
EUが本当に、価値観が違う(EUの価値観を受け入れない)=タリバン と思い込んでいる人たちの集団だとしたら、あまりかかわらないほうがいいでしょう。文化の多様性を認めないのは望ましいことではないですから。
EUが条約を通じて価値観を押し付ける協定外交をアジアでまで展開しようとすれば、対立を生むと思います。
アジアはアフリカと違い経済的にそんなに弱くないし、独立国としての歴史も長い国が多いので、イデオロギー的な介入には反発するでしょう。
日本政府が反発しているという報道でしたが、事実だとすれば当然のことだと思いますね。
はっきりいって、アジアはあまりEUを必要としていません。せいぜい、有力な市場の一つ、くらいの感覚ですよ。
投稿: フルート | 2014年5月 9日 (金) 00時13分
http://www.euinjapan.jp/media/news/news2014/20140507/210016/">http://www.euinjapan.jp/media/news/news2014/20140507/210016/
何か文句があれば、こんな場末のブログのコメント欄でおだをあげていないで、官邸においでください。
ついでながら、日本とEUが「民主主義、法の支配、人権といった共通の価値」を共有していないとお考えの方は、どう見てもこれらの価値観を共有していなさそうなどこかの国に行かれた方が心地いいかもしれませんね。
なんにせよ、こういう話は労働法政策の専門ブログのコメント欄でいつまでもやってもらうような話ではないので、この続きは官邸に押しかけていただくことにして、以後このブログでは受け付けないことにします。
投稿: hamachan | 2014年5月 9日 (金) 21時09分
>むしろ、「専業主婦は殺せ、潰せ」「女性が家庭に居るなんて許せない
いや別に専業主婦がいけないというわけではなく、「サラリーマン・公務員の」専業主婦への保護が他と比べて「過度に」大きいのではないかと問題になっているだけでは。
>ついでながら、日本とEUが「民主主義、法の支配、人権といった共通の価値」を共有していないとお考えの方は、どう見てもこれらの価値観を共有していなさそうなどこかの国に行かれた方が心地いいかもしれませんね。
やはり中国や北朝鮮でしょうかね。実際死刑問題で共同戦線を張っています。
投稿: Executor | 2014年5月12日 (月) 23時52分
過労死がここまで問題になっているのに、「労働規制がゆるい」現状の方が望ましいと思っている方々が投稿者の中に複数おられることについて、かなり驚愕しました。男女平等については、教育を受ける権利は女性にも当然に与えられていますが(憲法の定める基本的人権だし)、職場での様々な扱いや、それ以前の問題として、雇用機会自体が、大いに不平等であるという、有形無形の差別が厳然と存在していることについて、まるで無感覚な男性が多いのかもしれないですね。今更の投稿で、失礼いたしました。
投稿: 遅ればせながら... | 2014年6月 7日 (土) 12時25分