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2014年5月26日 (月)

高尾総司『健康管理は社員自身にやらせなさい』

Book_kenkokanri_img岡山大学医学部の高尾総司さんから近著『健康管理は社員自身にやらせなさい-労務管理によるメンタルヘルス対策の極意-』をいただきました。ありがとうございます。

http://hokenbunka.com/publication.html

 本書は、保健文化社の『健康管理』に連載中の「考察『しごとと健康』」の、2010年4月から2014年4月号掲載までを加筆修正し、人事・労務担当者に向けて分かりやすくまとめたものである。
 著者が提唱する、リスクマネジメントの観点から再構築した職場の健康管理は、メンタルヘルス対策、健康診断・事後措置、過重労働対策でも共通に活用できることから、 企業の人事担当者から好評を得ている。また本書に掲載のメンタル書式・ミニマムセットは、人事担当者の意見を反映されて作成されており、現場で即、使える貴重な材料である。ぜひとも活用いただきたい。

「健康管理は社員自身にやらせなさい」というタイトルも相当ですが、最初に浮かんだタイトルは「会社は健康管理をやめなさい」だったそうです。さすがに、『健康管理』という雑誌を出している出版社から出す本としては誤解を招くということで今のタイトルになったそうですが、高尾さんの言いたいことはむしろ「会社は健康管理をやめなさい」に近い感じです。

高尾さんについては、本ブログで以前に取り上げてきています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-0ea0.html(メンタルヘルス逆転の発想)

>高尾医師は「メンタルが悪いか否か」と「仕事が出来ているか否か」の二つの問題を混同してきたことがメンタルヘルス対応を難しくさせていると言い切る。

このエントリでは、『ビジネス・レーバー・トレンド』の記事が大変印象的だったので思わず一生懸命紹介したのですが、今回の本は、その思想を全面的に展開しています。

メンタル不調だからといって医療的考え方で対応しようとするからかえって話がこんがらがる。まず何よりも「職場は働く場所だ」という原則に立ち、業務遂行できているかどうかで判断し、業務遂行できていないなら休ませよ、会社は不完全労務提供を受領する義務はない。それをなまじ可哀想だと受領してしまうから、かえって安全配慮義務違反の種をまき散らしてしまう。リスクマネジメントの観点からも、リハビリ出社はやめた方がいい。通常勤務をしても症状増悪せずに一定期間安定継続して就業できるのでなければ復職させてはいけない・・・。

おそらく多くの人が読んでいくとすごく冷たい印象を受けると思うのですが、しかしそもそも雇用契約とは一定の労務の提供とその対価たる報酬の交換契約であるというジョブ型法制の原点に立ち返って考えれば、実にもってごく当たり前のことを語っているに過ぎないことがわかります。

本書のなかで高尾さんが、「もし中途採用だったら?」と問いかけているのが、問題のコアに近づいているのでしょう。中途採用の場合だったら聞けるのに、なぜ復職の場合には聞けないのか、というあたりですね。もう「仲間」になってしまっているからとしかいいようがないでしょう。

実は、このあたりの消息が、高尾さんの議論では必ずしもきちんと腑分けされきっていないようにも感じられるところがあります。

医療モデルでもってメンタルヘルスケアをしろと言うことで人事権が剥奪されたという言い方を高尾さんはするのですが、じつはむしろ、無限定な人事権と裏腹の関係にある無限定な人事義務こそが、メンタルヘルスでもって露呈してしまったのではないか、と私は思うのです。

もし契約で職務が厳密に限定されているのであれば、メンタル不調でその職務が遂行できないからほかのもっと楽な仕事をさせろという訳にはいきません。できないなら休職して、できるようになったら復職するというシンプルな話になります。

ところが日本的な無限定契約では、片山組事件的な意味での配置転換義務が会社に課されてしまいます。この何かできることがあればやらせるのが会社の責務というのは、何かできることがあればやらせることが会社の権利であるから存在するわけで、人事権があるからこそ、その裏面としての人事義務が課されてしまうという構図が、なおわかりやすいフィジカルにとどまっている間はまだ良かったけれど、それがメンタルヘルス不調の爆発的増大という状況のなかで、ここまで話をこじらせてしまったということなのではないでしょうか。

まあ、だからこそ、高尾さんのあまりにも冷淡に見える業務中心に考えるという発想が持つ意味が大きいのではないかと思うわけです。

 

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