社労士は悪者か?
POSSEの今野晴貴さんが
https://twitter.com/konno_haruki/status/468343837547458561
違憲の可能性も有ると思います
とまで言っているので何事かと思うと、労働弁護士の佐々木亮さんと、社労士の権限拡大に否定的な見解を述べあっているようです。
社会保険労務士が、労働関係の裁判で補佐人として出廷できて発言できるという制度ができる方向で進んでるらしいが・・・。全然、知らなかった。日弁連は反対しないのかな??
ブラック企業対策らしいが、たぶん逆効果になると思う。使用者側のめちゃくちゃな主張を「補佐」する社労士が裁判所を跋扈することになろう。こんなもの、ブラック企業対策でも何でもありません。
社労士さんにも色々いますので、一くくりには言えませんが、少なくとも私の経験上言えることは、労働事件を扱っていると社労士さんが使用者を誤った方向へ導いている例は枚挙にいとまがございません。残念ながら。もちろん弁護士にもいますが、そりゃ数とその質が違う。
https://twitter.com/konno_haruki
社労士に対する規制緩和で労働問題を解決するなど、虚構である。社労士はそもそも「労働のプロ」ではない。経営者の労務手続きの「代行者」としての職域なのである。拙著『ブラック企業ビジネス』参照。もちろん、中には凄腕の社労士もいるが、それは「特別」に努力されているからなのだ。
かといって、社労士が労働側でまったく役立たないなどとは思っていない。心ある社労士は、独力で労働者の権利擁護の力を獲得している一方で、悪徳な弁護士は労働者や経営者を食い物にしている(『ブラック企業ビジネス』に詳しい)。だから、業界内の「質」の確保が重要なのである。
断っておきたいのは、「弁護士ならよいのか」ということです。弁護士の中にも悪徳だったり、労働問題解決の能力がなく、労働者、経営者を食い物にしているものは大勢いる。だが、少なくとも、弁護士会には労働側のしっかりとした組織があり、ノウハウも蓄積している。これは、社労士会にはほとんどない
確認ですが「社労士は悪だ」とは一言も言っていません。弁護士にも問題があるのも承知です。しかし、社労士は増えすぎて仕事が足りず、目を付けたのが「ビジネス」としての労働問題でした。金儲けのために、すでに違法な指南をする社労士が多数います。だから、まずは質の向上をしてほしいのです。
はっきりいうが、社労士のせいで人生が狂った労働者は膨大にいるであろう。嘘の法的知識で適当にあきらめさせる。「相談料」目当てで行政の下請けをして、実際には能力がないので嘘ばかりつく。私が受けた相談では、枚挙にいとまがない。業務拡大などという前に、この現状を改善すべきである。
弁護士の佐々木さんだけでなく、今野さんまで社労士に対してかなり否定的な意見を述べていますね。
その社労士法の議員立法による改正案はまだ公にはなっていないようですが、特定社労士の篠塚さんがブログでかなり詳しく紹介しています。
http://sr-partners.net/archives/51941304.html(第8次社労士法改正で社労士に法廷陳述権が与えられるかも)
自民党案は大きく3つある。1つは,民間型ADR(裁判外紛争解決手続)における特定社労士の代理権の付与に紛争の目的価額60万円以内という制限を120万円まで拡大すること。なお,行政型ADR(都道府県労働局や道府県労働委員会のあっせんなど)における特定社労士の代理権には従来通り制限はない。
2つ目は,地方裁判所以上の審級における社労士の出廷陳述権の付与である。非訟事件も対象となるので労働審判の審判廷においても陳述権がある。ただし,弁護士が受任している側に立っての陳述に限る。裁判長や労働審判委員会の許可は不要なので,社労士は権利として出廷し陳述が可能となる。
3つ目は,社労士法人に2名の社労士が社員として必要とされているが,それを一人社員でも認める。
篠塚さんも言うように、どちらかと言えばやや遠慮気味の案ですが、佐々木さんや今野さんは認めるべきではないという意見のようです。
確かに、今野さんの『ブラック企業ビジネス』にあるように、悪徳社労士はいっぱいいるのでしょうけど、同書にもあるように悪徳弁護士もいっぱいいるのに、社労士だけ目の敵にするのは、佐々木さんとのやりとりとはいえ、いかにもアンフェアな感を与えます。
現にろくでもない社労士がいるからといっていい方向に進もうとしている社労士の頭を叩くようなやり方がいいのかどうか、今後どういう姿を展望していくのかという観点からすると、いかにも後ろ向きという印象です。
そりゃ、確かにネット上にも池田信夫なんかに心酔して私を罵倒するような社労士もいるようですが、真面目に労働問題を解決しようと日夜研鑽を積んでいる社労士の方々もいっぱいいるわけで、あまり味噌もくそも一緒にした議論はしない方がいいと思います。
特に今野さんは、良心的な社労士ともっと連携していけなければいけないのですから、職業的利害からして反対する立場の弁護士と同じ言い方をするのはどうかと思いますよ。ブラック弁護士は許すけれど、ブラック社労士は駄目といってるように受け取られかねない危険性を感じます。
将来のあるべき姿という点では、私は韓国の公認労務士という制度を日本でも真面目に考えたらどうかと考えています。
だいぶ以前ですが、日本労働法学会で「東アジアにおける労働紛争処理システム」の大シンポジウムをやったときに、こういうエントリを書いたことがあります。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-0eb2.html(韓国・台湾の紛争解決システムから学ぶこと)
たとえば、李鋋先生の報告で、韓国では公認労務士制度(日本の社会保険労務士みたいなもの)があるのですが、2008年から経済的弱者のために(集団よりも最近は個別紛争の方が多くなっている)労働委員会における事件代理を「指定労務士制度」として、政府の支援により行っているという点は、不当解雇に関する判定的解決が現在では裁判ではなく労働委員会における救済によって行われているということを考えると、実質的に個別紛争解決への労働者への補助ということができるでしょうし、日本の「法テラス」のもとになった「法律扶助公団」が年間10万件以上もの利用があり、その大部分が賃金や退職金の不払い事案だということからすると、大きな意味を持つ援助になっていると思われます。
日本の場合、職業的にライバル関係にある弁護士は当然として、連合も社労士の権限拡大に慎重な姿勢で、これはいままでの社労士がほとんどすべて使用者のためのサービス提供者として行動してきたことからやむを得ない面もあるのですが、わたしはむしろ社労士を労働者のためのサービスも提供しうるちゃんとした社会的専門職として確立していくことを考えた方がいいと思います。そのためにどういう制度的担保が必要かなど、検討すべき課題はいろいろありますが。
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» 社労士法改正に対応できない労組が問題 [シジフォス]
今回の「社労士法改正」については、業界ネタとしては、すでに完了していると思うが、疑問がなかなか解明されないので、頭の整理のために記しておく。すでに、濱口さんがヘソの部分を「社労士は悪者か?」として書いているが、法案自体がよく見えなかった。また、業界の話題としては、なぜ共産党も含むほとんどの政党が賛成のスタンスを取ったのかにもある。同時に、これまで一貫して強行に反対姿勢をとってきた「弁護士会」の姿が見えなかったことも訝しい。自分の整理がてら、関連記事を集めておく(本音は気が進まないが…)。
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とても勉強になりました。特に最後の部分。
ありがとうございます!
投稿: 三堀紗也華 | 2016年4月15日 (金) 10時29分
こうして知らなかった過去のエントリを読ませていただきますと主と本ブログの訪問者の所作を理解できるようです。
主から呼び捨てのI氏はもとより、「貧乏物語」を現代語に訳したS氏も、経緯は存じませんが、人として否定されるような姿勢(わたくしとは無関係で理解しがたい金銭コメント)は、毎度の訪問者は許容した同期状態ブログなのだなあとまたもびっくりいたしました。
そういたしますと、稚拙というか、かえってあまりに実直ともいえ、許される範疇は越えておりましたから拒絶に同意いたしますが、某氏のそれは訪問者間の見知らぬものへの同じ文言パターンの失敬を繰り返す快楽コメント主とどのように実際識別されるのか?、主は要は労働のルールを知らせるブログを主催されながら、興味本位含め趣旨に無知なる訪問者の需要レベルはSNSにあるマクロ格差(供給はミクロですから)であることを認識されながらも、ときとして(知れば知るほどに)発散をファンにより許容されてきたのだなあと感じました。
たとえば○○chanファンなどど堂々と枕詞を使われるコメントをみて、どなたもヒヤッとされないのでしょうか?
本ブログは決してガイドラインではないのですし、へたすれば空気を読むに長けた方の自主的なフォワード・ガイダンス・コメントありきの危険性もあると違和感を感じました。
投稿: kohchan | 2017年2月11日 (土) 20時14分
少なくとも、このエントリの趣旨とは殆ど関係のなさそうなコメントですね。
というか、本エントリの趣旨には殆ど関心が感じられないコメント言うべきか。
社労士の権限拡大問題という、労働関係者にとってはそれなりに関心のある話題に殆ど関係のないコメントをわざわざこのエントリへのコメントというかたちでつけられる趣旨が今ひとつ理解できておりません。
とはいえ、一応公開はしておきますが、いささか限界事例と言うべきでしょう。
本ブログは、後にその名が有名になったので「hamachanブログ」と称するようになりましたが、開始時はただの「EU労働法政策雑記帳」でしたし、今日でもあくまでも労働法政策に関わる話題を取り上げる専門ブログであるつもりでありまして、それ以上でもそれ以下でもないつもりです。
そこのところをご理解いただけないのは残念というしかありません。
投稿: hamachan | 2017年2月11日 (土) 20時37分
濱口様
おっしゃりとおり、エントリとは別次元のコメントです。
どこに書き綴ったことを張り付ければよいかなあと、ご指摘されることは理解しながら、お送りいたした。
以前も書き綴りましたが、濱口さんの貢献は多大で、この分野でのわたくしのような素人には例えば先般の”年次時有給休休暇…”エントリにはまさに目を開かされた思いをいたしました。
様々なエントリ紹介と解説、問題提起はすばらしいがため、ある固有名詞や返信コメントに見受けられた反応に疑問を持っておりましたので、冒頭のとおり、このエントリにて発信させていただいた次第です。
これこそ動的平衡かもしれませんが、他意はありません。
投稿: kohchan | 2017年2月12日 (日) 07時09分
私の池田信夫氏に対する態度を問題にしたいのであれば、有名な「3法則」エントリをはじめとして、正面から論じたエントリがいくらでもあるのに、こういう絡めて・・・というより絡んですらいないようなエントリのコメント欄にわざわざ書き込むのは、他意がないといわれてもそう素直に受け取れないところがあります。少なくとも不愉快にさせることがわかっているのにわざとやっていると受け取られるものであることは確かでしょう。
絡んですらいないというのは、「真面目に労働問題を解決しようと日夜研鑽を積んでいる社労士の方々」と対比して、「池田信夫なんかに心酔して私を罵倒するような社労士」を持ち出しているだけの一節からわざわざ「ある固有名詞や返信コメントに見受けられた反応」だけを見いだそうとするわざとらしさです。
「他意はありません」では了解しかねるような絡まなさです。
前の「阿波」さんも若干誤解していたような感がありましたが、本ブログはあくまでも、わたくしの私的な、労働法政策に関わるトピックを主として取り扱うブログであって、公的な言論の場でも何でもありません。まあ、「あごら」と称してあたかも公的な場であるかのように演じながらまったく反対の運営方針をとっている人もいるようですが、そういうのは別にして、私的なブログである以上、その趣旨に従ってコメントを選別するものであることは、念のため確認しておきます。
もし広く一般に訴えたいことがあるのであれば、人のブログのコメント欄などではなく、御自分でブログなり何なりを立ち上げて論じれば良いことです。
投稿: hamachan | 2017年2月12日 (日) 10時06分
ご意志は確認しました。受け取り方への同意ではありませんが失礼いたしました。
また、以前より申し上げておりましたコメント掲載の選別主義(善し悪しではありません)も濱口さんの個人的ブログにて規定される旨を表明いただき、ありがとうございます。
投稿: kohchan | 2017年2月12日 (日) 11時22分