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2014年4月28日 (月)

「解雇ルールの整備」@損保労連『GENKI』4月号

109損保労連の『GENKI』4月号が送られてきました。

http://www.fniu.or.jp/kikanshi/index.html

今号には、わたくしは「解雇ルールの整備」を寄稿しています。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/genki1404.html

 昨年来、労働分野の規制改革の議論が盛んになるなかで、その本丸と目されているのが解雇規制の緩和です。しかしながら、官邸主導の会議体である規制改革会議や産業競争力会議などでの議論内容を見ると、必ずしも正しい認識のもと論議が進められていないようにも思えます。また政治家やマスコミ報道、評論家などにおいても、正しい認識にもとづいていないことが窺われる発言や言説が数多く見受けられます。
 そもそも、日本の解雇規制は、彼らが主張するように、本当に厳しいのでしょうか。
解雇規制について、実定法上では、労働契約法第16条で次のように規定しているにすぎません。

(解雇)
第十六条  解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。 

 
これはヨーロッパ諸国の解雇に関する規定と比べて、なんら厳しいわけではありません。たとえば、ドイツでは、解雇は社会的正当性がなければ無効とされていますし、フランスでも同様に、解雇には真実かつ重大な事由が必要とされているほか、イギリスでも不公正な理由で解雇された被用者を救済する制度があります。
 では何が違うのでしょうか。GENKI106号(2013年10月発行)「ジョブ型正社員とは何か?」でも述べたように、日本型正社員は職務も勤務地も労働時間も制限がない代わりに、仕事が少なくなったりなくなったりしたときでも、社内での配転が可能である限り、解雇が正当と認められにくいだけなのです。つまり解雇「規制」が厳しいのではなく、日本の雇用システムの問題なのです。
 この労働契約法第16条を「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない権利濫用があったとしても有効」と改正(改悪?)することは、法理からして不可能ですし、たとえ同条を削除しても、当該条文が規定された2003年以前に戻るだけで、状況は変わりません。そもそも、根っこの権利濫用法理は民法1条3項に明記されており、まさかそれを削除することはできないでしょう。
 ここで皮肉となりますが、もし仮に欧州並みに解雇「規制」を設けるのであれば、その例外(解雇できる場合)についても同じように明確化する必要があり、例えば次のような条文が考えられます。
なお、規制改革と言えば、規制緩和を一般的にはイメージされますが、緩和するだけでなく、こうした規制を明確化するというのも立派な規制改革となるでしょう。

(解雇)
第○条 使用者は次の各号の場合を除き労働者を解雇してはならない。
一 労働者が重大な非行を行った場合。
二 労働者が労働契約に定める職務を遂行する能力に欠ける場合。
三 企業経営上の理由により労働契約に定める職務が消滅または縮小する場合。ただし職務が縮小する場合には、解雇対象者は公正に選定しなければならない。
 前項第三号の場合、過半数労働組合または従業員を代表する者に誠実に協議をしなければならない。

 
 さて、ここまで述べてきたことは、実は出るところへ出たときのルールに過ぎません。中小零細企業を中心とした現実の労働社会においては、裁判所に持ち込めば適用されるであろう判例法理とはかけ離れたレベルで解雇が自由奔放に行われています。年間数十万件の解雇紛争を労働裁判所で処理している西欧諸国に比べ、日本で解雇が裁判沙汰になるのは年間1600件程度に過ぎず、圧倒的に多くの解雇事件は法廷にまで持ち込まれて来ないのです。解雇をはじめとする雇用終了関係について、全国の労働局に寄せられる相談件数は年間10万件にも上りますが、そのうちあっせんを申請したのは約4000件弱です。 
そこで、筆者は、主に中小零細企業などで生じる裁判所にまで持ち込まれない個別労働紛争とその解決の実態を探るため、都道府県労働局におけるあっせん事案の内容を分析し、2012年に『日本の雇用終了』(労働政策研究・研修機構)を公刊しました。
 労働局のあっせんは任意の手続であり、参加を強制することはできないことから、事案の約4割には会社側が参加せず、結果として、解決に至るのは全体の3割に過ぎません。こうした制度の不安定さを反映して、解決金の水準で最も多いのは10万円台であり、約8割が50万円以下での解決となっています。もちろん、膨大な費用と機会費用をつぎ込んで裁判闘争に持ち込めば、解雇無効の判決を得られるのかもしれませんが、明日の食い扶持を探さなければならない圧倒的多数の中小零細企業労働者にとって、それはほとんど絵に描いた餅に過ぎないのです。
 ここに、法廷に持ち込まれる事案だけを見ている法学者や弁護士には見えにくい、解雇の金銭補償の持つ意味が浮かび上がってきます。たとえばドイツでは、解雇が無効と判断された場合に労使いずれかの申し立てにより、補償金と引き替えに雇用関係の解消を命じることができ、その額は原則12か月分、50歳以上なら15か月分、55歳以上なら18か月分とされています。またスウェーデンでは、違法無効な解雇について使用者が復職を拒否したときは、金銭賠償を命じることができるとされていますが、その水準は、勤続5年未満で6ヶ月分、5年以上10年未満で24ヶ月分、10年以上で32ヶ月分とされています。
先に述べた現実の労働社会の実態をふまえれば、規定の内容にもよりますが、こうした金銭補償基準が法定されることが、ごく一部の大企業正社員を除き、不公正な解雇に晒されている圧倒的多数の中小零細企業の労働者にとっては、むしろ福音となるとも考えられるのではないでしょうか。

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