小林リズム『どこにでもいる普通の女子大生が新卒入社した会社で地獄を見てたった8日で辞めた話』
たまたま送っていただいた本ですが、思わず引き込まれて一気に読み切ってしまいました。
左の表紙に写っているのは、著者自身です。ふむ、確かに少し前まで「どこにでもいる普通の女子大生」をやっていたような雰囲気の方ですね。
どういう本かというと、この長ったらしいタイトルの通りなんですが、この版元の紹介文が生ぬるくて、いらいらしてくるような、何ともシュールな体験がこれでもかと描かれています。
正社員という肩書を捨てたら、学生にも戻れない。それはとても危ういことだと思う。
家賃や食費などの生活費をやりくりして自分の手で生活していけるのか、自信はない。
先の見通しもまったくない。だけど……。
正社員でなくなったって、社会に認めてもらえなくたって、私は私だ。
誰かの期待する人生を生きているわけじゃない。
私のなかから奪われるものは、きっとない。
いや、著者が伝えたいことはそういうことなんでしょうけど、本書の真骨頂は、彼女が内定してから入社して8日目に辞めるに至るまでの、名前不詳の「代表」氏の信じがたいほどの言動のあれこれ。
社員たちを発達障害だと罵りながら、そんな奴らを雇ってやっている自分を崇拝させている「代表」が、焼き肉屋に誘った著者に語った言葉:
「男はなぁ、穴に入れたいと思うとんのや」
「男が穴に入れたいのは、人間の真理や。普遍的なことやからそれは変わらん。ワシは嘘をつきたくないんや」
「あの、よくわからないというか・・・・・・・」
「それを話してどうするんですか?」
「何言うとんのや。真理やからそれは知らなあかんやろ。小林はそういう真理がようわからんと思うから、教えてやっとんのや」
「・・・・・・真理って、何のためになるんですか?」
「真理は会社の経営理念と一緒や。これがわからんかったら営業に出せへん」
この調子が延々と続きます。新入女子社員3人組は入社後毎朝6時半に来て、代表氏の「真理」「経営理念」の講義を聴かされることになるのですが、この早朝講義の中身がまた:
「おまえら新卒社員に教えたってくれや」
「こいつら見とるとムラムラするやろ」
と、男性先輩社員3人組とのやりとりが続いて、その最後の台詞が:
「男はなぁ、精子をばらまきたいと思っとる。ワシはお前らを片っ端からやり捨てしたいんや」
代表はそう言って、おしぼりを机に押しつけ、講義を締めくくった。
いや、これが、残業代なしに早朝受けさせられる「経営理念」の講義なんですな。
この会社、著者によれば、現在でも
やる気にあふれたベンチャー企業として就職サイトに掲載され、新卒生や中途採用でも募集している。希望に満ちた会社として手招きしている
そうです。いや、ブラックなどという月並みな形容詞では褒め言葉になってしまうようなトンデモ企業ですが、それでもリクルート業界では優良企業として今でも通用しているんでしょうな・・・。
(追記)
そしてとっても重要な追記。
この入社からたった8日で辞めちゃった彼女たちが、この会社の説明会で、何も知らない学生さんたちに語った言葉:
「実はな、君たちの先輩になる奴らがきとるんや.あいつらにも聞いてみようと思うわ。どや、この会社は?」
代表がオカちゃんに話を振った。
「他の会社では味わえないベンチャー企業の良さを、、肌で感じることができるんじゃないかなぁと思います。私も最初は不安でした」
・・・オカちゃんが話し終えて、自然と私に視線が集まる。私は口を開いた。
「とても風通しが良い会社だと思います。代表が直接話を聞いてくれるので、すごく働きやすいです。この会社を選んでとてもよかったと思います」
学生はまっすぐ私を見つめてくる。私は彼らを見つめ返す。
胃がキリキリした。私は、この子たちに嘘をついている。代表に気に入られるために、彼らに言葉を発している。・・・・・・
かくして、「新卒入社した会社で地獄を見てたった8日で辞めた」どこにでもいる普通の女子大生が着々と再生産されていくわけであります。
« 常見陽平『「できる人」という幻想』 | トップページ | 大内伸哉編『有期労働契約の法理と政策』 »
セクハラまがいの「代表」氏の言動や経営理念、あるいはこのようなブラック企業がまかり通る我が国のリクルート業界は論外であるとして、
>正社員という肩書を捨てたら、学生にも戻れない。それはとても危ういことだと思う。家賃や食費などの生活費をやりくりして自分の手で生活していけるのか、自信はない。
>先の見通しもまったくない。だけど……。
>正社員でなくなったって、社会に認めてもらえなくたって、私は私だ。誰かの期待する人生を生きているわけじゃない。私のなかから奪われるものは、きっとない。
筆者の告白は、自分の人生に対して若い人達が抱く不安を表しているように思います。
先日、あるNPOの活動について紹介していただきました。彼らは東南アジアやインドなどの貧困国の子供達を救うための活動に従事しています。
そこで働く若い人の使命感、情熱、決断に感心しました。彼らは、自らエリートコースを外れ、ほとんど先の見通しもないようなNPOの活動に従事しています。大企業を退社してインターンシップ(給料はない)として、東南アジアやインドなどの貧困国に赴き、活動をしています。
インターンシップで働いた後は、その経験を活かしてどこかのNPOで働く、起業する、海外青年協力隊に参加する、・・・そうです。どこでもやっていけるという自信あるいは自分の人生を切り開いていくというあっけらかんとした逞しさには感心しました。
このような生き方を選択できるような人達は一握りだと思いますが、自分で自分の生き方を模索し決断するという逞しさが求められているのかもしれません。
投稿: hiro | 2014年4月16日 (水) 23時37分
ブラック会社に数社いました。
2度も新聞に掲載されましたが、法律違反て何?ぐらいの感覚です。
会社にいる弁護士、監査法人、税理士、厚生労働省OB、国税局OB、警察OB、銀行員OBみんな違法行為だと認識して、法律の抜け穴を伝授しています。見つかっても日本の法律ではこの人たち裁けないのも各人ご存じなので。
会社の命令通りにしてたら事件が発覚して罰金請求されて(会長と副社長有罪)個人の罰金だから会社が支払えない。給料から支払えと言われてました。みんな会社のせいで犯罪者にされたと怒っていました。
投稿: 桃 | 2014年4月19日 (土) 04時40分