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2014年3月15日 (土)

『Vistas Adecco』36号の記事がアップされました

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『Vistas Adecco』36号に載った「キーワードで読み解く2014年の雇用と労働」がアデコ社のサイトにアップされました。

http://www.adecco.co.jp/vistas/adeccos_eye/36/

主としてわたくしと経済学者の安藤至大さんが解説をしています。

キーワードは、「解雇特区」「限定正社員」「新卒採用」「派遣法」「高齢者雇用」「女性雇用」「障害者雇用」の7つ。

それぞれについて、わたくしの発言と安藤さんの発言を互い違いに並べる形です。厳密さよりもできるだけわかりやすい説明を心がけました。

解雇特区 解雇ではなく雇用形態そのものを見直す方向に

地域を限定して解雇ルールを緩和する国家戦略特区、通称「解雇特区」。昨年秋より検討が進められてきたが、現在は見送りとなっている。労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏は、この発想には難しい側面があったと分析する。

 

「本来、『特区』とは、政府が何らかの規制をその地域内だけ外そうというもの。けれど日本にはそもそも解雇規制は存在せず、存在しない規制を外す、という議論は難しいものがあったのです」

 

日本大学大学院の安藤至大氏も「日本は解雇できない国ではない」とした上で、「できる解雇」と「できない解雇」があると解説する。

 

前者は①懲戒解雇(労働者が労使の信頼関係を損ねた場合など)②普通解雇(労働者が休暇中に事故にあい業務遂行が困難になった場合など)③整理解雇(事業が衰退し労働者が従事する仕事がなくなった場合など)の3つ。これらの理由があれば「証拠を提示して手続きを踏めば、規定上の解雇は可能です」(安藤氏)。一方、「できない解雇」とは、労働者が契約通りの労働力を提供しているにも関わらず、組合に入ったなどの理由で解雇する場合だ。不当解雇や恣意的解雇とみなされ、無効になる可能性が高い。「日本の解雇ルールはシンプル。労働者が労働力を提供していれば、解雇できません。ただシンプルゆえに解釈が難しく、規定外の『解雇』を『できる解雇』として展開するケースがあり、それが労使の争いの元になっています」(安藤氏)

 

濱口氏は、前述の「労働力が提供できているか」の判断が難しいのは、ひとえに日本型の雇用慣行が背景にあると指摘する。「欧米は個々の従業員の仕事の範囲や契約条件が明確。その仕事がなくなった、もしくは労働者のスキル不足が明らかな場合であれば解雇ができます。しかし日本の場合、契約書に各人の仕事の範囲は明記されていないことが多い。そのため1つの仕事がなくなった場合でも、他の仕事を与える努力はしたのかと判断されがちなのです」(濱口氏)

 

安藤氏は、解雇特区とは、この雇用契約の“満了条件”をこれまでにないものにするのが狙いだったと言う。「たとえば赤字が3期続いた場合、解雇が可能となるなどの条件を、雇用契約時に結ぶことができるのが、『特区』が持つ意味合いでした」。濱口氏も、「欧米並みの整理解雇を実現できるようにするには、解雇規制をどうこうではなく、雇用契約を見直していくしかありません」と話す。解雇特区を発端に浮彫りとなった日本の雇用契約のあり方。次ページの「限定正社員」問題とも絡み合いながら2014年も、正社員の雇用契約をめぐる議論に形を変え、進むことが予想される。

 

 

限定正社員 賛否両論の限定正社員 導入するメリットとは

 

2014年、雇用をめぐる話題として最大のキーワードが「限定正社員」だ。もっとも、これは新しい雇用形態ではない。「これまでにもあった転勤のない『地域限定社員』や、職種が限定された『職種別採用』も限定正社員の一種」であり、一部企業では定着した雇用形態だ。それがなぜ、急速に議論の対象になっているのか?「それは、解雇の問題と絡んでくるからです」と安藤氏は言う。

 

この仕組みは、地域や職種などを限定した上で雇用契約を結ぶことだが、雇用保証の範囲も限定的にならざるを得ない面がある。たとえば「地域限定社員が勤務する支店がその地域から撤退する場合は、契約は終了となる(解雇する)」などと雇用契約に書き込めるかどうかが議論されている。そして、この議論が「限定正社員=解雇されやすい社員」との印象を与え、一部からの反発につながっている。しかし限定正社員は本当に解雇しやすい形態なのだろうか?

 

「確かに『就業当初から業績が伸び悩み赤字が続くケースでは整理解雇できる』といった雇用契約を締結した場合は、正社員よりは不安定な形態になる可能性もあります。しかし会社側の一方的な都合で解雇できるかと言えば、全くそうではありません」(安藤氏)

 

前出の濱口氏は、むしろ柔軟な働き方が可能になるなど労働者側のメリットが大きい仕組みだと指摘する。「育児中の女性社員はもちろん、男性も今後は介護など職場以外の生活面で責任を負う局面は増えるはず。そういった時に転勤がない地域限定の働き方は、むしろ従業員のワークライフバランスを担保する上でも有効です」(濱口氏)

 

安藤氏は、そもそも「日本の正社員の“無限定”な働き方は時代の変化や諸外国の常識とは異なる」と言う。

「『どこにでも転勤します、どんな仕事でもやります』という無限定な働き方では、働く側も専門性を高めにくいですし、往々にしてワークライフバランスがとりにくくなってしまいます」(安藤氏)

会社側にとっても、その時々の事業の盛衰に伴い、柔軟に組織を変革できる人員配置にしておくことは、競争力を高める上でも重要なことだ。「職種や業務内容、責任範囲に限定がない働き方が当たり前だったことにより、日本人は、自分の職を得る“就職”という意識が低く、会社に“就社”する思想が強い。そのため、生涯のキャリアプランを描きにくく、会社に万一のことがあった場合など、変化に対応しにくい。雇用契約満了の基準が明確になることと、上記のような働き方と、どちらがより柔軟で、働く側も組織も向上できるのか、照らし合わせて議論する必要があります」(濱口氏)

ライフスタイルに合った、かつ専門性を高める働き方を選ぶか、会社に働き方を委ねるか。長きにわたって横たわってきた、無限定な働き方を考えなおすスタート地点に2014年がなりそうだ。

新卒採用 数々の疑問が呈されるも制度が変わるまでの道のりは険しい?

新卒一括採用は、日本独特の雇用慣行だ。学校を卒業した若者を、長期間の雇用を前提として、会社の中で教育していく。その間は転勤、配置転換など不特定な就業条件が生じる――濱口氏、安藤氏は、日本の新卒採用は世界に類がない、特別な雇用形態だと言う。「欧米の企業に新卒で採用されるのは、一部のエリートと呼ばれる人たち。多くの新卒者は、どこかの会社のポストに空きが出たら、その業務を遂行できる条件に合った人が応募し採用される。“座る椅子”、“その仕事”自体と契約するのが世界標準です」(安藤氏)

 

つまり欧米の会社員のほとんどが「限定正社員」にあたるのだ。一方で日本の新卒社員は、どんな役割にも対応できることを求められると濱口氏は指摘。「日本の企業は社員を、その時の経営状況や環境に応じて異動させ、活用してきました」(濱口氏)。そして、このやり方は高度経済成長期など、景気が上向いている時期には強みを発揮した。「企業の多くは、産業や景気の変動に合わせて人財の配置転換を行えたため、社会の変化に対応できた側面があります。新卒採用を毎年続ければ、安定した年齢別組織構造が維持できる、研修機会の提供が一律で効率が良い、人財管理がしやすいなどメリットも大きかったのです」(濱口氏)

 

しかしグローバル化と言われて久しい昨今では、この一括採用の弊害も指摘される。一つは新卒採用時に希望の仕事に就けなかった「学卒未就業者」が増加していることだ。初職でフリーターになると、社員同様の能力開発の機会を失い、結果としてフリーターのまま高齢化しがちだ。また年金保険料を支払えない人も多く、その分、国の社会保障費の財源は減っていく。さらに一括採用を堅持しようとすれば人財の流動化が停滞し、ダイバーシティ(社員の多様化)が進まず、それゆえ、現場でイノベーション(革新)が起こりにくく、グローバル化に対応できないなどの問題が指摘される。

 

現状の新卒一括採用とそれがもたらす影響を、一部解決できる施策として、「限定正社員の存在が期待されます。現場に入り技能を鍛えスキルなどを高めた上で、長期的な契約での就業形態へとステップアップしていく。新卒時に希望通りの就職がかなわなかった人が再チャレンジできる仕組みの一つとして、限定正社員は活用できる可能性があります」(安藤氏)

 

企業にイノベーションを起こすには、新卒採用の仕組みを見直し、欧米型の中途採用社会に変えることも検討していく必要があると主張する識者もいる。だが、濱口氏も安藤氏も「すぐ変えるのは難しい」と口を揃える。

 

「最初から戦力となる人財を採用するためには、教育機関の在り方を『実学志向』に変えていく必要がある。しかし現実的にそれは難しく、かつ企業としても採用の目的はさまざまなため、すべてが即戦力の人財を採用する、ということにならない」(濱口氏)

 

とはいえ、企業側も新卒者に過去のような手厚い研修を施す経営的な余裕はあまりない。イノベーションを起こす多様な人財も必要だ。加えて大卒の3割が3年以内に退職してしまうなど、採用のミスマッチの問題もある。昨今、新卒採用についてはインターンシップ制の導入など、新しい施策を取り入れる企業も増えている。2013年からは採用活動のスケジュールが変更になるなど、見直しの動きは続いている。新卒採用をめぐっては2014年も引き続き、模索が続く年になりそうだ。

 

派遣法 規制強化から緩和の方向で議論中 職の得やすさも追求する動きに

 

日雇い派遣の原則禁止など、いったんは規制強化の方向で改正がはかられた昨今の労働者派遣法。しかし2013年から再び規制緩和の動きが見られるようになっている。同年夏の、厚生労働省の有識者会議が出した報告書が議論の下地となっている。そのポイントはいくつかある。

 

一つは、「専門26種」という区分の撤廃。「派遣業務の契約は、原則として3年以内で、通訳や秘書など専門26業務に限ってはその制約がないというルールだったのが、『専門26業務』という区分そのものをなくそうという動きです。また働ける期限を見直す議論も起きています」(安藤氏)

 

二つ目は、「上限3年」のルールを見直すこと。有期雇用(契約)の派遣労働者の場合、3年を超える派遣では派遣先企業内で労使双方が同意すれば、同じ職場で派遣労働者を受け入れることができる。ただし3年ごとに人を交代させる必要がある。

 

また派遣労働者のキャリアアップを推進することが織り込まれた。さらに派遣事業を国の認可制にする案も盛り込まれるなど、派遣会社にとっては比較的厳しい内容の改正案となっている。

 

こうした動きについて濱口氏は、「かねて懸念していた『労働者をおきざりにした改正』ではなく、派遣労働者が仕事を得やすい環境にシフトするような方向での議論になっているのは望ましいことでしょう」と評価する。

 

安藤氏も、派遣会社が派遣登録者の職業能力開発や支援をする機能がますます求められるようになったことは正しい流れだと認める。さらに濱口氏、安藤氏が異口同音に話すのは日本における派遣会社数の多さ。今回の改正への流れが進むなかで、派遣会社の淘汰が起こると両氏とも指摘する。

 

2014年以降の派遣業界は、派遣社員の能力開発、研修システムの差で、市場に選ばれていく時代になりそうだ。

 

高齢者雇用 進むシニア世代の雇用 今後は賃金にスポットが

 

年金の満額受給年齢が65歳に引き上げられることに伴い、2013年4月に「高年齢者雇用安定法」が改正。本人が希望すれば65歳まで雇用することが義務付けられることとなった。法令では、継続雇用制度の創設か定年の撤廃もしくは引き上げのいずれかの対応が要求されているが、実際に運用が始まった昨年は、定年の引き上げや撤廃に踏み切る企業は少なく、多くは嘱託や契約社員などの雇用形態で再雇用し賃金を引き下げる対応策を採用している。「いったん60歳で定年とし、それまでの3分の1程度の給与で再雇用する場合がほとんど」(濱口氏)だ。

 

また業務内容も「ある大手自動車メーカーでは、再雇用した人財に実業務とは異なるCSR的な活動(緑化活動など)を担当させているように、現役世代の仕事に影響することはほとんどない」(安藤氏)。それでもいまだに「シニア世代が優遇され、若年層にそのしわ寄せが来ている」と批判する声もある。だが濱口氏は、それはナンセンスだと喝破する。

 

「今後ますます、社会全体が高齢化して年金受給額が増えることは明白です。年金は現役世代の保険料で賄う賦課方式が基本ですから、年金を支えるためには、現役世代を増やすしかない。高齢者雇用に反対することは、年金を支える層を減らすことと同義。若者の負担がかえって増すだけです」(濱口氏)

 

もっとも今後「年金支給開始年齢は間違いなく、68歳、70歳と伸びていく」(濱口氏)。となれば、「60歳まで年功制で雇用し、年齢による賃金上昇形態を続けるには限界があります。

 

2014年からは前倒しで年功給の要素を減らし、成果による配分を行うなど、給与体系を変更していく必要が生じるでしょう」(濱口氏)

 

女性雇用 制度の整備などは少しずつ進行 完全な「底上げ」はこれから

 

ここ最近、女性の働き方に関する議論が活発化している。政府は「指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%程度とする」ことを目標に掲げた。また企業も女性社員が出産・育児と仕事を両立できる各種制度を整備。育休や短時間勤務制度(時短)、フレックス制などに加えて、託児所を完備し子連れで通勤できる会社も増えている。「制度としては、以前と比較すれば整備されつつあると思います」(濱口氏)。実際に、女性労働者の60%が第一子出産後に退職するという現象に歯止めがかかっている。

 

だが全体を見れば女性就業率は男性の80%にも及ばず、2013年の調査では8割の企業の女性管理職比率は1割以下という調査もある。

 

それは「女性が働きやすい風土ができていないからだ」と濱口氏は言う。

 

こうしたことから最近では、女性社員が入社して早い時期からリーダーシップを醸成する制度や、妊娠出産・育児などのライフイベントと重なる30代女性のキャリアを停滞させない制度の案も浮上している。

 

しかし「時短勤務を選択する女性社員が多いが、実際は『残業をしない』、というだけで、本質的な短時間勤務になっていない人が多い。また時短勤務でない人はフルタイムどころか残業することを受け入れるしかなく、働き方の選択肢がそれ以外にない状況。そこを改めるのが根本的な解決策です」(濱口氏)

 

また効率を上げて短時間でも成果を出せばきちんと評価されるように、評価や査定の仕組みも重要だ。その前提として「あなたの仕事はこれで、求められる目標はこれ」と欧米のように業務内容とミッションを明確にすることが大事だと、濱口氏は強調する。

 

一方、安藤氏は「時短勤務を選べば働き方が違うのだから昇進などにある程度の差が出ることは、当然のこと。短期的には、こうした状況を本人も周囲も納得して受け入れられるルールを導入すべきでしょう」と指摘する。

 

いずれにしても女性活用の鍵を握るのは、「評価基準の明確化」だ。

 

障がい者雇用 比率を上げることよりも働きがいを持てる職場を得ること

 

2016年から「改正障害者雇用促進法」が施行される。1976年から、身体障がい者の雇用が義務付けられ、達成できない企業は納付金の義務が生じる。これに加え16年4月からは「障がい者に対する差別の禁止」や「合理的配慮の義務化」、18年4月からは、精神障がい者の雇用が義務付けられる。

 

厚労省の調べでは、障がい者雇用率は現時点では低く(図参照)、法定雇用率を満たしていない企業は53%にのぼる。だが安藤氏は障がい者雇用での成功事例はあるとした上で「たとえば数字が読めない人でも計量できる装置を作るなど、どういう状況の人でも事務を遂行できるよう、仕事を作り変えることも必要でしょう」(安藤氏)。もっとも、そういった業務ばかりではないのも現実。「さまざまな人が活躍する企業と連携するなど、これまでにない方法も考える必要があります」(安藤氏)。雇用率を高めるだけなく、誰もがやりがいを持って働ける職場作りとは何か、今後さらなる議論が望まれる。

 

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