雇用システム論に基づく労働契約法制のいいパンフレット
昨日の労政審労働条件分科会に、例の国家戦略特区で使われるという雇用指針(案)が示されたようです。
ざっと見たところ、雇用システム論を踏まえて日本の労働契約法制全般にわたって、大変簡にして要を得たパンフレットに仕上がっているようです。これは特区だけで使うのはもったいないですね。
最初の総論のところで、次のように内部労働市場型と外部労働市場型の違いを明確にした上で、判例法理がそうした人事管理の違いを踏まえて形成されてきたものであることを明らかにしています。
○ 典型的な日本企業にみられる人事労務管理について、以下のような「内部労働市場型」の特徴が指摘されることが多い。
① 毎年、定期的に新規学校卒業者が職務や勤務地を限定せずに採用され、定年制の下比較的長期間の勤続がみられ、仕事の習熟度や経験年数等を考慮した人事・賃金制度の下で昇格・昇給が行われていること
② 幅広く配置転換や出向が行われること
③ 就業規則により統一的な労働条件の設定がなされること
④ 景気後退期等においては、所定外労働の縮減・停止、新規採用の縮減・停止、休業、配置転換・出向等の方法により雇用調整が行われ、なお雇用を終了せざるを得ない場合、整理解雇に至る前に、労使協議の上で、退職金の割増し等による早期退職希望の募集、退職勧奨が行われること
※ 上記については、一般論であり、個々の企業により実態が異なる。○ これに対して、日本においても外資系企業や長期雇用システムを前提としない新規開業直後の企業をはじめ「外部労働市場型」の人事労務管理が行われている企業もみられる。こうした企業については以下のような特徴が指摘されることが多い。
① 空きポストの発生時に随時、社内公募や外部からの中途採用が行われ、必ずしも長期間の勤続を前提としていないこと
② 職務記述書により職務が明確にされるとともに、人事異動の範囲が広くないこと。
③ 労働者個々人ごとに労働契約書において職務に応じた賃金等の労働条件の設定が詳細に行われること
④ 特定のポストのために雇用された従業員について、そのポストが喪失した場合に、一定の手続や金銭的な補償、再就職の支援(以下「退職パッケージ」という。)を行った上で、解雇が行われること
※ 上記については、一般論であり、個々の企業により実態が異なる。○ 日本の雇用ルールをめぐる個別の判断においては、信義誠実の原則や権利濫用の禁止といった一般原則の下、例えば解雇については、客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性といった価値判断基準(規範的要件)が用いられる。裁判所は、このような価値判断基準(規範的要件)を用いるに当たって、他の要素とともに、上述のような内部労働市場型の人事労務管理を行う企業(以下単に「内部労働市場型の人事労務管理を行う企業」という。)と上述のような外部労働市場型の人事労務管理を行う企業(以下単に「外部労働市場型の人事労務管理を行う企業」という。)との間の人事労務管理の相違を考慮した上で判断することがある。
具体的には、
① 内部労働市場型の人事労務管理を行う企業については、使用者が行った配置転換や出向が人事権の濫用に当たらないとされるケースが多く、その一方で、解雇に当たっては幅広く配置転換等の回避努力が使用者に求められる傾向にある。
② 外部労働市場型の人事労務管理を行う企業においては、解雇に当たって退職パッケージを提供する場合には、使用者に対して、幅広い配置転換等の解雇回避努力が求められる程度は、内部労働市場型の人事労務管理を行う企業と比べて少ない傾向にある。○ 上記の内部労働市場型の人事労務管理を行う企業、外部労働市場型の人事労務管理を行う企業のそれぞれの特徴は、あくまで一般的な整理であり、個々の企業の実態により特徴の組み合わせは異なる。また、例えば内部労働市場型の人事労務管理を行う企業であっても、部門やポストによっては外部労働市場型に近い人事労務管理を行う場合もあり、必ずしも二者択一ではない。
併せて、上記の個別判断の傾向はあくまで一般論であり、個々の事案毎に、経済や産業の情勢、使用者の経営状況や労務管理の状況等を考慮して、判断がなされる。裁判例を分析・類型化した本指針についても同様である。○ なお、この指針は、主としていわゆる正規雇用の労働者をめぐる裁判例の分析・分類や関連する制度を記載しているが、非正規雇用の労働者については、正規雇用の労働者とは異なる人事労務管理が行われることが多いことから、非正規雇用労働者に関する法令(※)が適用される場合や、雇用ルールの個別の判断に当たって正規雇用の労働者とは異なる判断がなされる場合もある。
○ なお、日本においては、行政機関への相談件数をみても一定数の解雇が行われていることが確認できる(※1)。
解雇について紛争に至った場合でも、訴訟で争われる事案は比較的少なく、都道府県労働局に設置される紛争調整委員会によるあっせん、労働審判制度による調停、審判(※2)等により迅速で柔軟な解決が行われている。
また、解雇について訴訟に至った場合には、解雇の有効・無効、すなわち労働契約上の権利を有する地位を確認する判断がなされる判決が下されるが、実際には、判決に至る事案は少なく、多くは和解手続により金銭の支払いと引き替えに労働者が合意解約する等、柔軟な解決が図られている(※3)。
なお、最終的に判決に至った事案では、認容判決と棄却・却下判決の割合は、ほぼ同程度である(※4)。
この総論を踏まえて、以下各論で、各分野ごとに雇用慣行とそれに対応する判例法理を説明していきます。
Ⅱ 各論
1 労働契約の成立
(1)採用の自由・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
(2)採用内定の取消し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(3)試用期間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
2 労働契約の展開
(1)労働条件の設定、変更・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
(2)配転・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
(3)出向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
(4)懲戒権・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
(5)懲戒解雇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
3 労働契約の終了
(1)解雇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
(2)普通解雇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
(3)整理解雇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
(4)特別な事由による解雇制限等・・・・・・・・・・・・・・・33
(5)退職勧奨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
(6)雇止め・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
(7)退職願の撤回・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
(8)退職後の競業避止義務・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
ここだけでも、労働法のいいテキストです。
こういうのをちゃんと読んで、日本はどんなに頑張っても解雇することができない国だなどというウソを振りまくおかしな評論家諸氏に惑わされないようにするのが、一番大事なことでしょう。
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