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2014年2月26日 (水)

わかっている人とわかっていない人

『労基旬報』2月25日号に掲載した「わかっている人とわかっていない人」です。

 一昨年末の総選挙で自民党が大勝し、第二次安倍内閣が成立してから、内閣や内閣府の会議体主導でいくつもの労働法制改革が進められている。経済財政諮問会議、規制改革会議、産業競争力会議、国家戦略特区ワーキンググループなどである。この動きに批判的な人々は、これらすべてを十把一絡げに批判する傾向があるようである。しかし、その議論の中身をよく見れば、雇用労働問題の筋道がわかった上で規制改革に向けた議論を展開している人々と、まったくわかっていないまま乱暴な議論を振り回している人々の間に大きな落差があることがわかる。

 筆者が昨年雑誌『世界』5月号に「労使双方が納得する解雇規制とは何か」を書いたときには、経済財政諮問会議や規制改革会議の議論を評価しつつ、産業競争力会議の議論を批判した。それは、前者が日本における整理解雇の難しさを日本の「正社員」の負っている無限定の義務と裏腹の関係にあるものと適切に捉え、単なる規制緩和ではなく雇用システム改革として問題を提起していたからである。それに対して当時の産業競争力会議は、日本の雇用保障が厳しすぎるという一方的な認識に立っていた。

 しかしその後、産業競争力会議の認識もシフトしてきており、昨年12月の雇用・人材分科会中間整理「世界でトップレベルの雇用環境・働き方の実現を目指して」は、多様な正社員の普及・拡大や働き過ぎ改善に目配りした労働時間規制の見直しなど、まっとうな方向を目指すようになってきている。昨年11月に筆者が有識者として意見を述べたこともあるのか知れないが、「わかっていない人」から「わかっている人」に変わってきたという強い印象を与える。

 そうした中で、依然として「わかっていない人」が議論を引っ張り、労働政策にノイズを混入させ続けているのが、国家戦略特区ワーキンググループである。昨年9月に八田達夫座長の名で出された「規制改革提案に関する現時点での検討状況」では、「契約締結時に、解雇の要件・手続きを契約条項で明確化できるようにする。仮に裁判になった際に契約条項が裁判規範となることを法定する」などと、民事法の基本がわかっていない提案がされていた。これに対し厚生労働省から「裁判になったときは、その後の人事管理・労務管理などを含め、総合判断せざるを無い(契約書面は、労使双方にとって有効でない)」という当たり前の指摘を受けたことに対して、「不当労働行為や契約強要・不履行などに対する監視機能強化を特区内で行うなら、検討可能」という意味不明の見解を示していた。同WGの八田座長は、解雇権濫用法理と不当労働行為の区別もつかないで議論をしていたらしい。

 さらに、その提案の後ろの方には「上記の特例措置に伴い、不当労働行為、契約の押しつけや不履行などがなされることのないよう、特区内の労働基準監督署を体制強化し、労働者保護を欠くことのないよう万全を期す」という文章がついている。解雇権濫用法理も不当労働行為も労働基準監督官には何らの権限もないのだが、この高名な経済学者にとっては、そんな細かなことはどうでもよいようである。学部レベルの労働法の試験でこんなたわごとを書けば直ちに落第必死だが、それでも政府の政策決定の中枢にあって、世の中を振り回すことができるのであるから、ありがたい話である(振り回される方にとってはありがたくないだろうが)。

 このトピックは結局個別紛争防止のための事業主への援助に縮小されて無害なものになったが、国家戦略特区法に残って現在労政審で進められている労働契約法の見直し作業をもたらしたのが、有期契約の5年無期化条項の見直しである。それ自体はいろいろな意見のあるところだろう。しかし、八田氏の論拠は「例えば、これからオリンピックまでのプロジェクトを実施する企業が、7年間限定で更新する代わりに無期転換権を発生させることなく高い待遇を提示し優秀な人材を集めることは、現行制度上はできない」というところにあった。労働法を少しでもかじった人なら「はぁ?」というところである。現行法(労働基準法第14条)でも、プロジェクトのための雇用なら5年であろうが10年であろうがその期間を定めた労働契約を締結することが可能で、その場合反復更新はしていないのだから、5年経とうが10年経とうが無期化することもあり得ない。八田氏の脳内に生息する「優秀な人材」とは、労働基準法で認められた7年契約の有期雇用で雇われることを嫌って、わざわざ1年刻みの短い有期契約にして、1年ごとに小刻みに更新して、何年目に切られるかも知れない不安定な状態にあることを選好する生き物であるらしい。

 こういう無知な人の思いつきによって一国の労働法政策が左右されているというのは、先進国の中ではあまり例がないように思われる。

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