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2014年2月28日 (金)

世界標準に近づく派遣労働規制@損保労連『GENKI』2月号

108損保労連の機関誌『GENKI』2月号に「世界標準に近づく派遣労働規制」を寄稿しました。

ちょうど、派遣法改正案が労政審に諮問されたときでもあり、新聞報道とは違った観点からこの問題を考える上で役に立つのではないかと思います。

「世界標準に近づく派遣労働規制」

 2014年1月29日の労働政策審議会(※1)において、労働者派遣法改正に向けた報告書が取りまとめられました。今回の見直しの出発点は、2012年(民主党政権時代)の改正の際に、いわゆる「専門業務」に該当するか否かによって、派遣期間の取扱いが大きく変わる現行制度のあり方について、「今後、検討・議論を開始すべき」とした国会附帯決議にさかのぼります。この付帯決議を受けて、改正法が施行された2012年10月に学識経験者からなる「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」が設置され、この研究会において派遣法のあり方に関する論議が進められてきました(筆者も有識者としてヒアリングを受け、欧州の現状などを説明しています)。この研究会での論議は、2013年8月に研究会報告書としてとりまとめられ、これを受けて、直ちに労働政策審議会での審議が開始され、今日に至っています。

 この研究会の論議過程においては、これまで筆者が繰り返し主張してきた法制度の根本を左右するような論点が打ち出されています。それは、派遣法について、世界各国では、派遣労働者保護を主目的としているのに対し、日本では、日本的雇用慣行の中にいる常用労働者(いわゆる正規社員)を代替しないこと、すわわち「常用代替の防止」を主目的としている点についてです。

 このため、最初に派遣法が制定された当時(1985年)のロジックは、新規学卒から定年退職までの終身雇用慣行の中に入らないような労働者だけに派遣という働き方を認めるというものでした。それを法律上の論理としては、「専門的業務は、専門性が高いがゆえに常用代替しない」「特別な雇用管理だから常用代替しない」と言ったわけです。しかし、その専門性が高いとされた「専門的業務」の中身は、主に結婚・妊娠・出産などを契機に退職した元女性社員たちの「事務的書記的労働」でした。そして、「ファイリング」という職業分類表にも登場しない「業務」が最大の派遣専門業務となったのは、その間の論理的隙間を埋めるものであり、後には事務職なら最低限のスキルである「事務用機器操作」が専門業務としてその隙間を埋めました。このようなごまかしが世間で通用したのは、女性社員は新規学卒から結婚退職までの短期雇用という社会風潮のもと、女性社員の代替は常用代替にはならないと認識されていたからでしょう。

その後、ILO181号条約の制定を受けて行われた1999年の派遣法改正でも、常用代替防止の思想は維持されています。この時の改正において、専門業務だから常用代替しないというフィクションを維持したまま付け加えられたのは、専門業務ではなく、それゆえ常用代替する危険性のある一般業務について、派遣期間を限定するから常用代替の危険性が少なくなるという新たなロジックです。この期間制限は、欧州などで見られる「雇用契約は無期契約が原則であるから、有期契約の期間を限定して無期雇用への転換を図るべき」という発想によるものではまったくありません。これは単に、派遣労働者本人とは関係のない派遣会社による派遣先に対する派遣サービスの上限を定めているにすぎないのです。そして、こうした歪みが露呈したのが有名な「いよぎん事件(※2)」です。裁判所は、派遣法は常用代替防止が目的だからといって雇止め法理の適用を認めませんでした。つまりは、日本の派遣法は、派遣労働者を法の保護の対象外とすることを要求しているのです。

先の研究会報告では、この問題についても斬り込んではいるものの、常用代替防止という考え方を全面的に転換するのではなく、その中身を部分的に入れ替えることで対応しようとしています。それを研究会報告では、「再構成した常用代替防止」と呼んでいますが、常用代替の防止と派遣労働者の保護という異なる考え方のものを無理に同じ言葉の下に入れ込もうとしたきらいがあり、かえって混乱を招いているようにも見えます。

 具体的には、まず、無期雇用派遣については「派遣労働の中でも雇用の安定やキャリアアップの点で優位であること」から「常用代替防止の対象外」としたこと、くわえて有期雇用派遣については「個人が特定の仕事に有期雇用派遣として固定されないこと」を目的とするとともに、従来通り「派遣先の常用労働者が有期雇用派遣に代替されないことという派遣先レベルの常用代替防止」も維持するとした点です。少なくとも、前2者については、日本の派遣法が制定された当初に考えられていた「常用代替防止」ではなく、むしろヨーロッパで一般的な無期雇用原則の考え方であると言えます。それをなお「常用代替防止」という名で呼び、旧来型のものと一緒にしてしまうことが、議論の構図をすっきりさせない原因となっているのではと思います。

 その一方で筆者は、研究会報告や労働政策審議会での審議において、欧州諸国で派遣を論じるときには当然の前提がなおざりにされているようにも見え、物足りなさを感じています。それは、世界の派遣事業者団体であるCIETT(国際人材派遣事業団体連合)が繰り返し強調している「ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」と「労使パートナーシップ(協調型労使関係)」という前提です。残念ながら日本では、労使いずれの側からも派遣に関してディーセントワークと労使パートナーシップという言葉が語られることはありません。これは、派遣法において「常用代替防止」が議論の中心を占めてきたがゆえの帰結です。

 ここで、筆者はむしろ、労使パートナーシップを通じたディーセントワークの実現に向けて、近年非正規労働法制に関して繰り返し論じられてきている集団的労使関係システムの活用について、派遣業界が先鞭をつけることができないかと考えています。厚生労働省の「非正規雇用のビジョンに関する懇談会」や「今後のパートタイム労働対策に関する研究会」の報告書でも強調されている集団的労使関係システムを通じた均等待遇という新たな枠組みの設定にむけた試みです。それは、産別労働組合主導の形で派遣労働者を組織化していくという形でもあり得るでしょうし、派遣会社主導で派遣労働者代表制を構築するという形でもあり得るのではと思います。

 また、今回の論議の中で派遣業界にとって、大きな影響を及ぼす可能性があるのが、すべての派遣事業を許可制(※3)にするという方針です。ここに踏み込んだことは日本の派遣業界を先進諸国並みに透明かつ健全なものにしていくうえで極めて重要ではないかと思われます。くわえて、無期雇用の派遣労働者について個人単位及び派遣先単位の期間制限の例外とするという方針とが合わさることで、定期的な許可更新や無期雇用への対応などによる負担から、多くの零細派遣会社の経営が立ちゆかなくなることが想定されます。

 しかしながら、派遣法はそもそも派遣会社が使用者としての責任を負うことを前提として作られており、これは本来的には、相当程度の派遣先顧客企業を有することによって、個々の派遣の発生消滅をつなぎながら全体として派遣就労がおおむね継続されていけるような企業体力を企業に求めるものです。その意味では、過度に零細派遣会社が多い日本の派遣労働市場は、さらなる透明化、健全化が必要な状態にあるとも言えますし、もっと大手や中堅の派遣会社に集約されていくことが望ましいとも言えるのではないでしょうか。そして、そのような形で派遣会社が集約されていくことが、集団的労使関係システムの確立を通じた均等待遇をはじめとしたディーセントワークの実現をもたらす大前提ともなるはずです。

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