専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法案
国家戦略特区WGの八田達夫氏の見当外れの議論がなぜか転々と変貌したあげくに現在法案要綱にまで達した有期労働の特別措置法ですが、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/10/post-0d25.html(雇用特区は断念、有期は10年へ?)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/10/post-0e16.html(「有期雇用の特例」に魅力を感じる人はいるのか?)
労政審の審議の結果まとまった建議や法案要綱を見る限り、
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000037297.pdf(有期労働契約の無期転換ルールの特例等について)
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000037779.pdf(専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法案)
国家戦略WGな方々の見当外れの要求に形の上では応えつつ、現実社会の労働関係にはあまり実害の出ないように仕組んでいるようで、政労使三者構成原則が少しは役に立っているようではあります。
ただ今回の改正劇について興味深いのは、国家戦略WGな方々は別に関心を持っていなかったけれども、使用者サイドが強い関心を持っていた定年退職後の継続雇用による有期労働の反復更新への労働契約法の適用除外が、ちゃっかりとアジェンダに乗って、結果的に今回の改正のもっとも意味のある部分になってしまったというところでしょうか。
もしかしたら、使用者側にとっても大してありがたくもない専門知識なんちゃら労働者のところを使いにくい仕組みにする代わりに、使用者側が切実な高齢者のところはその要求を丸呑みするという取引が労使間であったのかもしれません。それは政治学的には大変合理的なディールでありましょう。
おそらく、今後労働実務関係で今時改正が取り上げられるときも、関心はもっぱらこちらに集中すると思われるので、ややフライング気味ですが、あり得べき誤解を解いておきたいと思います。
というのは、特定社会保険労務士の高井利哉さんがそのブログで、この改正を取り上げているのですが、いささか誤解を招く記述があるからです。
http://takai-sr.blog.so-net.ne.jp/2014-02-19(「高度専門職で高収入者」は10年で無期転換するが、「高年齢者」は永遠に無期転換しない [★ 労働契約法改正])
一方、定年退職後の高年齢者は通算契約期間の制限が設けられていません。つまり、定年退職後は、永遠に無期転換できないことになります。今は、定年退職後の有期雇用での再雇用期間が5年を超えると無期転換請求権が発生することが問題になっています。
高年齢者雇用安定法改正㉕ 再雇用5年超で無期契約に転換してしまう
「通算契約期間に算入しない」ことにした意図は定かではありませんが、このようなケースも考えられます。
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例えば、有期契約労働者が56歳からある会社で働き始めたとします。1年契約を3回更新して60歳になった時点では、通算契約期間は4年間です。今の法律では、更に1回契約を更新すれば、無期転換請求権が発生します。定年年齢後に無期契約労働者が生まれることになります。改正案では、「通算契約期間に算入しない」ことになりますので、60歳以後の有期契約期間はカウントされなくなります。この有期契約労働者に無期転換請求権が発生することはなくなります。
いやいや、適用除外されるのは60歳(以上)定年まで無期雇用で雇われていた人がその定年後有期契約で継続雇用された場合だけであって、「有期契約労働者が56歳からある会社で働き始め」て、60歳になっても、それはいかなる意味でも「定年」ではありませんから、本特別措置法による適用除外はなく、労働契約法18条が適用されます。
これはかなり単純な誤解なのですが、うっかりこういう誤解が広がるとまずいので、現段階で念のため言っておきます。
(追記)
高井さんがブログで訂正されています。
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ブログ記事の間違いをご指摘ただきありがとうございました。本日、訂正記事をアップいたしました。
この特例で、高年齢者の無期転換問題が全て解決するのではないか?と思ったのが、そもそもの間違いの元でした。
今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: 高井 利哉 | 2014年2月25日 (火) 09時01分