リリー・レッドベター『賃金差別を許さない』
リリー・レッドベター著、中窪裕也訳『賃金差別を許さない』(岩波書店)を訳者の中窪さんよりお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?head=y&isbn=ISBN4-00-023883
「わが社は女性を必要としていないのに,なぜ働きに来たのか」――やっと就職した憧れの会社には性差別が蔓延していた.しかし,自らの誇りと家族の生活を守るために,彼女は働き続けた.賃金差別に泣き寝入りせず,巨大企業に一人で立ち向かい,オバマ政権下でアメリカにおける「平等賃金の祖母」となった女性の波乱に満ちた自伝.
というわけで、2009年に成立したレッドベター公正賃金法のもとになったリリー・レッドベターの自伝ですが、中窪裕也さんが訳者というのもやや意外でした。原題は「Grace and Grit」で、『品位と気概』といったタイトルです。
その「品位と気概」がよく現れている一節を・・・。
私が初めて正式の成績評価を受けたのは、1981年のことだった。最終仕上げの監督者になってから1年がたっていた。部課の主任監督者であるジェフと、彼の狭苦しいオフィスで話をした。そこで明らかになったのは、私が、自分に対する暗黙の期待、いわば女性が何を提供すべきだと考えられているかという点を、理解していないという事実だった。ジェフは、最終仕上げの機械について、私にいくつかの質問をした。その間、彼は煙草を何本も吸い続け、私が正しく答えると、驚いたような表情を見せた。
続いてジェフは、出し抜けに、自分がいかにグッドイヤーでうまくやってきたかという自慢話を始めた。自分の妻が、アクロンにいる会社中枢の偉い人々に個人的なコネを持っていることも、詳細に説明した。ようやくジェフの自慢話が終わったので、いよいよ仕事の話に戻る者と思った。私の実績や将来についてだ。しかし、彼の口から出たのは、「そうだな。君の成績は12人中の11番目だ。もっと良い評価がほしければ、ラマダ・インのホテルで会うことにしよう」という言葉だった。
私はあっけにとられ、しばらく彼を見つめていた。もちろん冗談のはずだ。このような品のない会話には、もう慣れっこになっていた。けれども、ジェフは私をしっかりと見つめ返し、答えを求めていた。まるで、機械についての質問を、もう一つしたかのようだった。
私は時計に目をやった。彼のオフィスに入ってから、1時間以上が過ぎていた。
私は答えた。「おっしゃっていることが、よく理解できないのですが」
彼は、私に向かって煙草の煙を吹き出すと、先ほどと同じ言葉を繰り返した。こめかみがズキズキと脈打ち、激しい怒りを感じた。私は、自分自身に言い聞かせていた。しっかり息をして考えなさい。後で悔やむようなことはしないように、と。・・・
私は尋ねた。「私の仕事に対して、どうやったら、そんな評価が下せるのですか?」
「いいか、リリー。ここでは、君が良い仕事をすることよりも、ボスたちが君を気に入ることの方が重要なんだ」彼の片方の鼻の穴から、煙の断片が漂い出て行った。・・・
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