大内伸哉『解雇改革』
大内伸哉さんの新著『解雇改革 日本型雇用の未来を考える』(中央経済社)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。
解雇論議が再燃を見せる今、気鋭の労働法学者である著者が、日本の解雇法制の現状と問題点を丁寧に解説し、ビジネスの現場の論理を踏まえた実践的な提言を行います。
非常に包括的に、というのはいろんな意味で、たとえば経済学や人事労務管理論における議論もたくさん活用しながら、という意味もあるし、欧米諸国の解雇法制を横断的に見ながら、という意味もあるし、労働法学者の議論にありがちな、やや視野が狭いのでは?という感じとは正反対の、非常に包括的に、今日の法政策課題としての解雇問題に正面から取り組んだ本です。
そしてまた、基本的な認識についても、わたくしときわめて重なる点が多いです。アメリカを除いて、世界中どこでも解雇に正当な理由を求めるのが普通なので、その点では日本は何ら特別ではないが、むしろ、経済上の理由のように、本来正当な理由がある場合であっても、日本型雇用システムにおいて、長期雇用の期待があるために解雇が制限される点に特殊性があるのだ、そして、それは会社の人事権に刃向かったような場合に雇用保障が消滅することと裏表の関係にあるのだ、ということは、まさにわたくしが力説してきたところです。
では、hamachanは大内説に賛成なのか、というと、いささか疑問の残る点があります。それは、上の点で、労使でルールを作り、雇用が継続する期待の範囲を明確化するという提言の「労使」ってところにあります。期待の範囲の明確化というのは、まさにたとえば職務や勤務地限定の正社員について、その職務や事業所がなくなったら配転の努力義務はないよ、と明確化するというような話ですから賛成ですが、それをどの「労使」が決めるのか、という問題です。
実はここが、ご存じの通りもっとも強硬な従業員代表制否定論者の大内さんは、使用者が定める就業規則に書かせて、裁判所がチェックするという話になっているんですね。それでは「労使」になるのか、ということで、労働者はみんな労働組合を作る権利があるんだから、といえばその通りですが、そこはそういうものではないだろう、と思うわけで、ここは大変根深い話になります。
わたしはむしろ、労働条件変更と並んで、この解雇問題が集団的労使関係システムの議論の一つの入り口になると思っているのですが。(先日、都内某所で痛飲しつつ喚いていた話とつながりますね)
何にせよ、今日の労働法政策の注目論点である解雇問題について、まず第一に読まれるべき基本書といっていいと思われます。
ご本人のブログでの紹介もリンクしておきます。
http://souchi.cocolog-nifty.com/blog/2013/11/post-5c50.html
労働法の専門研究者は別として,今後,解雇のことを論じる場合には,この本を読んでいなければ話題についていけないでしょう。タイトルは,もともとは「解雇法制のグランドデザイン」でした。内容的には,まさにそういうものとなっています。いろいろ批判されることは覚悟のうえです。でも,少しでも多くの人が,この問題に関心をもってもらえれば,それでいいのです。解雇のことは,どうしても冷静な議論が難しくなります。冷静に政策論をすると,どうなるのかを,本書を読んでじっくり考えてもらえれば著者としてのこの上ない喜びです。
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