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2013年12月26日 (木)

産業競争力会議雇用・人材分科会中間整理

本日、靖国参拝報道に押しのけられてしまってほとんど注目されていませんが、産業競争力会議雇用・人材分科会が中間整理を取りまとめて公表しています。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/bunka/koyou/dai6/siryou2.pdf

盛りだくさんにいろんなことが書かれていますが、まずは目次をみると、

はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
総論~目指すべき働き方と社会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
Ⅰ.「柔軟で多様な働き方ができる社会」の構築 ・・・・・・・・・・・・・ 5
1.「多様な正社員」の普及・拡大
○「多様な正社員」の普及・拡大に向けた実効性のある方策の検討・実施
2.ジョブ・カード、キャリア・コンサルティングによる職務・能力の明確化
○「ジョブ・カード」の抜本見直し(ジョブ・カードから「キャリア・パスポート(仮称)」へ)
○キャリア・コンサルティングの体制整備
3.健康、ワーク・ライフ・バランスの確保と創造性発揮を両立させる労働時間規制への見直し
○「働きすぎ」の改善
○時間で測れない創造的な働き方の実現
○テレワーク等の在宅勤務に適合した規制のあり方
4.公平・公正な働き方の実現
○正規・非正規の格差の是正
5.予見可能性の高い紛争解決システムの構築
○「労働審判」事例等の分析・整理・公表
○透明で客観的な労働紛争解決システムの構築
Ⅱ.「企業外でも能力を高め、適職に移動できる社会」の構築 ・・・・・・・10
1.再教育・再訓練の仕組みの改革
○職業訓練の質の向上
2.官民協働による外部労働市場のマッチング機能の強化
○民間人材ビジネスの取組の評価・機能の向上
○ハローワークの質の向上(インセンティブ設計の強化)
○地方自治体の職業紹介機関等との連携強化
Ⅲ.「全員参加により能力が発揮される社会」の構築 ・・・・・・・・・・・11
1.高齢者の活躍促進
○有期労働契約の無期転換のあり方の検討
2.女性の活躍促進
○政府一丸となった施策の総動員
3.外国人材の活躍促進
○技能実習制度の見直し
○外国人材受け入れのための検討
Ⅳ.その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

このうち、最初の総論を読み始めると、冒頭からメンバーシップ型からジョブ型へというおなじみの枠組みが出てきます。

従来の「日本的雇用システム」は、企業と個人とが包括的な雇用契約を結び、「就社」する「メンバーシップ型」の働き方を基本とするものである。「終身雇用・長期雇用」、「年功的昇進・賃金体系」、「企業別労働組合」をその特徴とし、働き手は「終身雇用」等と引き換えに、長時間労働、配置転換、転勤命令等の「無限定な」働き方を受け入れてきた。
このシステムは、高度経済成長の原動力となったが、外部労働市場や教育・訓練システムの活性化が図られず、また、グローバルに通用するプロフェッショナルの育成にも不向きであった。さらに、労働契約に関わるルールも予見可能性が低いと指摘されてきた。

・・・主として家庭で家事・子育てに専念する主婦に支えられた男性が「無限定に」働くという従来の「日本的雇用システム」は、こうした「前向きに働きたい者」のチャンスを制約し、その高い能力を埋もれさせてしまうおそれがある。また、核家族化が進む中で、働く男性・女性が子育てや親の介護に直面しながら働くケースも増えてくると考えられ、さらに、女性の就業参加の増大や経済環境の変化の中で、男性も働き方の「無限定」性を緩和し、仕事以外の生活や自らの能力開発のための時間を確保していくことが必要になるが、従来の雇用システムはその足かせとなりかねない。

・・・以上のように、メンバーシップ型の働き方を基軸とする従来の日本的雇用システムを維持するだけでは、働き手の多様化や企業を取り巻く環境変化に伴い生じてきた様々な課題に十分に対応できなくなってきている。職務等が限定されたジョブ型の働き方を拡大し、日本の強みとグローバル・スタンダードを兼ね備えた、新たな「日本的就業システム」を構築していかなければならない。

では、それが具体的な政策提言にどう表れているか、そこが問題です。

最初の多様な正社員の項は、まさにわたくしの議論に沿って、ジョブ型正社員の促進とそのためのジョブ型インフラの整備を訴えています。

1.「多様な正社員」の普及・拡大
職務内容が明確にされた「ジョブ型正社員」等の多様な正社員となる機会が、多くの企業で生み出されるようにする。これにより、働き方の二極化は解消し、意欲と能力のある女性・高齢者や、子育てや親の介護に直面する等により「無限定」で働き続けることが困難な働き手も活き活きと活躍し、経済・社会に貢献できるようにする。

ちなみにこれへの注釈として、こういういい方もしています。

多様な正社員普及の大前提は、労使双方が契約締結等の場面において互いの権利義務関係を明確にする、「契約社会」にふさわしい行動様式を確立することである。

これこそ、労働法本来のコモンセンスでしょう。

それが成り立つためにはジョブ型の社会インフラが不可欠です。

2.ジョブ・カード、キャリア・コンサルティングによる職務・能力の明確化
女性・高齢者等を含む多様な人材が、その希望等に応じた雇用機会を得るためには、職務・能力の明確化を図ることが必要条件である。その上で、自己研鑽、キャリアアップにつなげることが期待される。このため、ジョブ・カードを抜本的に見直し、その利用率を向上させることにより、広く労働者や学生等がそれを活用し、自ら職務・能力等の明確化を図ることを習慣化する。

そして、さらにその先に

現在の「ジョブ・カード」を抜本的に見直し、1つの「キャリア・パスポート(仮称)」を学生段階から職業生活を通じて所有し、自身の職務や実績・経験、能力等の明確化を図ることができるとともに、社会全体で共有が可能となるような仕組みを新たに構築する。

という目標を示しています。仕事というレッテルをぶら下げる社会ですね。

次の「健康、ワーク・ライフ・バランスの確保と創造性発揮を両立させる労働時間規制への見直し」は、しかしながら、依然としてこれまでのホワイトカラーエグゼンプションの間違いを繰り返している面があります。

いや、まず冒頭、ここから入るセンスは悪くない。今日放送されるはずだったNHKの録画撮りで、私はそう言ったのですよ。

○ 「働きすぎ」の改善
・ 我が国労働者の労働時間は依然として各国と比べても長く、年次有給休暇の取得率についても低い水準にとどまっている。6こうした点は、長年課題とされながら改善が図られていない。事業場内での過重労働に関するPDCAサイクルを構築し、管理職と従業員の双方が、時間を効率的に活用する意欲を高めることを基盤として、年次有給休暇の取得促進、時間外労働削減について、例えば、割増賃金のあり方、労働時間の量的上限規制のあり方(一定期間における最長労働時間の設定、勤務時間の間に一定の休息期間を設けるインターバル規制等)、労使間のイニシアティブのあり方(使用者による休日・年次有給休暇取得に向けた実効的な仕組み)等、様々な政策手法を組み合わせる等による抜本的な方策について、総合的に検討を行う。

ここにはちゃんと、労働時間の量的上限規制のあり方(一定期間における最長労働時間の設定、勤務時間の間に一定の休息期間を設けるインターバル規制等)も明示されています。過労死防止法案とのリンクにもなりうるところです。

ところがその次の「時間で測れない創造的な働き方の実現」が、これまでの議論のしっぽをぬぐい切れていないようです。

○ 時間で測れない創造的な働き方の実現
・ IT化やグローバル化が進展し、柔軟な発想が求められる今日、「時間に縛られる」働き方からの脱却が求められており、労働時間の長さで成果を測り、賃金を支払うことは、企業側にとっても、働く側にとっても、必ずしも現状や実態に見合わない状況が生じてきている。このため、一律の労働時間管理がなじまず、自ら時間配分等を行うことで創造的に働くことができる労働者(例えば、職務の範囲が明確で、高い職業能力を持つ労働者)に適合した、弾力的な労働時間制度(時間で測れない創造的な働き方ができる世界トップレベルの労働時間制度)を構築7する。その際、適用労働者の範囲のほか、休日・休息の確保や、事業場内での過重労働に関するPDCAサイクルの構築等、健康確保措置のあり方を含めた具体化を図る。

いや、企業側が残業代を払いたくないと思っているのは、つまりこの制度を導入したいと持っているのは、そういうやたら高度な人の話じゃないでしょう。この部分は、かつて無知なマスコミや政治家に「残業代ゼロ法案」と批判されたトラウマで、ついつい綺麗ごとで書きはやしたくなる気もしはわかりますが、これではまたもやホワイトカラーエグゼンプションの二の舞を招きかねないと思います。もっと正直ベースで論じるべきではないのかと思いますね。

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(追記)

NHKニュースでちらりと放送されたようです。(リンク先に動画あり)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131227/k10014151301000.html

これについて独立行政法人、「労働政策研究・研修機構」の濱口桂一郎統括研究員は、長時間労働に歯止めがかからなくなると懸念を示しています。
濱口統括研究員は「今回の提言には働き過ぎの改善が盛り込まれているが、その一方で労働時間を弾力化するのは矛盾している。かつて“残業代ゼロ法案”と批判されたホワイトカラー・イグゼンプションの議論を引きずっているのではないか。働いた時間ではなく成果を重視した賃金制度に変えていくことは必要だが、労働時間はきちんと規制しなければ働き過ぎは抑えられない」と指摘しています。

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この後、「正規・非正規の格差の是正」の次に、「予見可能性の高い紛争解決システムの構築」という項目が挙げられています。これがなかなか興味深いことを指摘していまして、

我が国の労働紛争の解決システムは、あっせん、労働審判、訴訟からなるが、ともすれば、「メンバーシップ型」の労働者を念頭に置いた判例法理のみに焦点が当たっているとの指摘がある。言い換えれば、あっせんや労働審判についても、事例が蓄積されてきているが、その分析・整理が十分になされていないことから、日本の雇用慣行が不透明であると誤解を生じさせている。したがって、司法機関の協力を得つつ、訴訟における「和解」も含め、事例の整理・分析が進めば、我が国の紛争解決システム全体が透明化されることになる。

いや、まさにそれゆえにわたくしたちは労働局斡旋の分析をしたわけですよ。

○ 「労働審判」事例等の分析・整理・公表
・ 平成18 年度から施行されている労働審判制度について、解決事例も蓄積されてきていることから、匿名性に配慮しつつ、その分析・整理を行うことが期待される。また、都道府県労働局で個別労働紛争解決促進法に基づき実施しているあっせん事例や訴訟における「和解」について、匿名性に配慮しつつ、分析・整理を行い、その結果を活用するためのツールを整備する。

分析するだけじゃなくて、

・・・また、主要先進国において判決による金銭救済ができる仕組みが整備されていることを踏まえ、まずは、諸外国の関係制度・運用の状況について、中小企業で働く労働者の保護や、外国企業による対内直接投資等の観点を踏まえながら研究を進める。

金銭解決というと思考停止的に悪と叫ぶ人もいますが、まずは欧州諸国の状況をよく知ってもらうことから始めるべきなのでしょうね。

その先で、やや注目に値するのは、高齢者雇用の関係で、「定年制の廃止も含めた検討を行う」と述べているところでしょうか。これは皮肉で言っているんですが、少なくとも民主党政権時の国家戦略なんたらの40歳定年制とかいう奇妙な提案に比べるとずっとまともです。

ただし、「有期労働契約の無期転換のあり方の検討」というのは、本ブログでも何回か指摘したように、労働基準法で許される5年の有期労働契約を結べば一回きりで何の問題もないのに、わざわざ1年契約を何回も更新しようとするから、労働契約法18条に引っかかるように見えるだけだということを、よく理解していただく必要があるように思われます。

あと、「外国人材受け入れのための検討」については、下手に外国人を入れると日本人労働力を活用しようという意欲が失われ、結果的に労働問題を超えた社会不安問題を惹起しかねないという問題をよく認識しておく必要があります。

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