大山典宏『生活保護vs子どもの貧困』
大山典宏さんより、『生活保護vs子どもの貧困』(PHP新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-81545-9
正直言って、生活保護をめぐって様々な議論が繰り広げられている中で、これこそ真にリアルな議論だと強く感じさせる本です。ご存じの通り、埼玉県で生活保護行政の先端にあって、いくつもの試みを展開してきた著者であるからこそ言える、地に足のついた議論だと思います。
受給がバレたらいじめられ、一方、働く母親の下では困窮する子どもたちの真実。
派遣村、保護費によるギャンブル禁止条例、芸能人の母親による受給の発覚……生活保護をめぐる問題はあとを絶たない。激しいバッシングが起こるなか、2013年8月、ついに保護基準の引き下げが決定された。最大で10パーセントの削減が受給家庭を直撃する。
しかし、生活保護の是非が取り沙汰される陰で、不幸になっている存在を忘れてはいないだろうか。ほんとうに目を向けるべきもの、それは子どもたちだ。困窮家庭に育った子どもは、十分な教育環境もなく、社会に出ても安定した職には就きにくい。さらに母子家庭の半数以上が貧困状態にあり、小中学生の6人に1人が就学援助を受けているなど、日本社会が抱える悲惨な現実がそこにはある。
制度の賛否については活発に議論されるが、それだけで「貧困の連鎖」を断ち切れるのか。長年、行政でのサポートと民間でのボランティア活動に取り組み、双方の立場で貧困問題に取り組む著者だからこそ語れる、知られざる現場の生の声をレポートする。
大きく前半は、財務省や生活保護バッシングするマスコミなどに代表される「適正化モデル」と、日弁連や支援NPOなどに代表される「人権モデル」の対立構図を詳細に描き出した上で、
・・・こうしてみていくと、人権モデルにしても、適正化モデルにしても、もっともだと思う点や合理的な意見もある一方で、単一のモデルでは解決し得ない課題があることがわかってきます。
ディベートのようにお互いの弱点をたたき合い、国民の感情をうまく汲み取ることができた側が、自分たちの思うように制度をつくりかえる。数年単位で立場が逆転し、そのたびに制度は激しく揺れ動く。これでは現場は疲弊し、制度への信頼は失われてしまいます。
それは誰にとっても不幸なことです。
と、生活保護行政の現場にいる人ならではの真摯な言葉があり、そういう対立図式ではなく、
・・・現実的に解決可能な、多くの人が合意できる課題から優先的に取り組んでいく
という「統合モデル」を唱道されるのです。
その「多くの人が合意できる課題」として、本書の後半で力説されるのが、本書のタイトルの後半部分である「子どもの貧困」であるわけですが、著者の大山さんが現場からこの問題にいかに取り組んできたかは、本ブログでも何回も紹介してきたところです。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_d0c9.html(湯浅誠『反貧困』をめぐって)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/post_ea5a.html(生活保護が危ない)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-4287.html(埼玉県が生活保護家庭の教育支援へ)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/200-f0ab.html(『生活保護200万人時代の処方箋~埼玉県の挑戦~』)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-d137.html(埼玉県生活保護受給家庭の高校生にも学習教室)
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早速ご紹介いただきありがとうございました。
『若者と労働』で描かれたメンバーシップ型とジョブ型の雇用形態の違いは、今まで漠然と感じていた両者の違いがきちんと整理されており、とても読み応えがありました。
丁寧な議論で課題を浮き彫りにし、政策形成につなげていく。その姿勢にはいつも感銘を受けております。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
投稿: 大山 典宏 | 2013年11月20日 (水) 21時44分
こちらこそ、いつもありがとうございます。
大山さんが指摘されている、子どもの貧困対策法を軸に据えて、今回の生活保護法改正と生活困窮者自立支援法を考えるという姿勢が、もっと多くの人々に共有されることを願いたいと思います。
投稿: hamachan | 2013年11月21日 (木) 00時23分