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2013年11月25日 (月)

「人間力」シューカツがもたらすブラック企業@『BLT』12月号

201312JILPTの雑誌『ビジネス・レーバー・トレンド』(BLT)の12月号は、「大学生の就活と採用」を特集しています。

http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2013/12/index.htm

労働政策フォーラム 「大学新卒者の就職問題を考える―大学・企業・行政の取り組み」
基調報告 大学新卒者の就職難の実態 伊藤実 JILPT特任研究員
研究報告 若年者雇用支援施策の利用実態 ――中小企業調査から 岩脇千裕 JILPT副主任研究員
事例報告 「新卒応援ハローワーク」からみた学生・既卒者の就職問題 田口勝美 ハローワーク新宿東京新卒応援ハローワーク室長
<グローバル化>という名の黒船――世界で活かす日本のちから 三栗谷俊明 国際教養大学キャリア開発センターセンター長
トッパン・フォームズの新卒採用の取り組み 坂田甲一 トッパン・フォームズ株式会社取締役総務本部長
東京ニュース通信社の新卒採用の取り組み 奥山卓 株式会社東京ニュース通信社代表取締役社長
パネルディスカッション コーディネーター伊藤実 JILPT特任研究員

そこに、毎度おなじみの有識者アンケートがあり、13人がそれぞれ1ページずつ言いたいことを言っておりますが、その最後にわたくしも登場しております。

<有識者アンケート> 大学新卒者の就職とその後の職場定着にまつわる課題
有賀 健・京都大学経済研究所教授
居神 浩・神戸国際大学経済学部教授
浦坂 純子・同志社大学社会学部教授
大貫いづみ・法政大学キャリアセンターキャリアアドバイザー
玄田 有史・東京大学社会科学研究所教授
小島 貴子・東洋大学理工学部准教授
坂爪 洋美・和光大学現代人間学部教授
白木 三秀・早稲田大学政治経済学術院教授
末廣 啓子・宇都宮大学キャリア教育・就職支援センター教授
菅山 真次・東北学院大学経営学部教授
髙橋 潔・神戸大学大学院経営学研究科教授
夏目 孝吉・日本生産性本部就業力センター長
濱口桂一郎・JILPT統括研究員

題して、「「人間力」シューカツがもたらすブラック企業」。『若者と労働』で書いたことを1ページに集約しています。

 この特集は「大学新卒者の就職・定着」をテーマにしているが、もちろん現実の日本社会で圧倒的に多くの大学生たちによって繰り広げられているのは、特定の「職」(ジョブ)に「就」くために、それに必要な技能や資格を得て、自分がその職にふさわしいことを売り込もうとするという意味での世界共通の「就職」活動ではない。本誌の読者が若き日に行ったと同じように、ある会社の一員(メンバー)になるために、その命ずる仕事なら何でもやる意欲と「能力」があることを売り込もうとする「入社」活動である。シューカツと呼ばれる現象はいかなる意味でも「職」と関係がない。それが日本の若者の諸外国の若者と比べたときの幸運と不運をともども産み出している。

 幸運とは、すぐに仕事がこなせるような技能がなくても、いやむしろそんなものはない方が、会社の色に染まった人材として育成できるからと、好んで採用してもらえるという点である。多くの日本人が、これが世界の若者にとって信じがたいような幸運であることを知らない。会社への唯一の入口である欠員補充において、仕事のできる壮年層や中高年層と比べられ、仕事ができないから採用してもらえず、大量の失業者として労働市場に投げ出されていく世界の若者たちにとって、新卒一括採用で採用され、会社の費用で教育訓練してもらえる日本の若者ほど羨ましい存在はないだろう。

 それゆえに、ほんの十年前まで、日本政府に若者雇用対策という分野自体が存在しなかった。雇用対策はもっぱら就職が困難な中高年向けであって、若者こそが雇用対策のメインターゲットであった欧米とはまったく対照的であった。

 しかし、幸運の裏側には不運が張り付いている。かくも羨ましい新卒一括採用という表玄関から「入社」し損ねた若者には、どんなに技能や資格を身につけても、仕事ができるようになっても、「入社」できなかった人間というレッテルが貼られてしまう。九〇年代の不況期に「入社」の枠から溢れてしまったいわゆる就職氷河期世代は、その後の景気回復期にも、技能がないがゆえに好んで採用されていく後輩たちに置いてけぼりを食らうしかなかった。諸外国であれば、「就職」がうまくいかなかった若者たちのために国が職業訓練をほどこし、企業に採用してもらいやすくするというのが、若者雇用対策のアルファでありオメガである。しかし皮肉なことに、「入社」型社会というのは、そういう政策がもっとも効かないように巧みに仕組まれた社会でもあったのだ。

 具体的な「職」の技能や資格が意味を持たない「入社」型社会で採用されるか否かを決める基準は何だろうか。上で述べた会社の仕事を何でもやる意欲と「能力」。人事管理の世界では(特定の職務とは切り離された)「職務遂行能力」と呼ばれるこの「能力」が、シューカツの世界では「人間力」と呼ばれている。かつてなら「入社」してから上司や先輩の指導の下でOJTを繰り返しながらじわじわと身につけていくものとされていたこの「人間力」が、「入社」枠の狭まった今日のシューカツの世界では、それによって「入社」できるか否かが決定されてしまうほどの存在になってしまった。

 だが、考えてみれば若者にとってこれほど残酷な試練はない。「お前はこれ(この仕事)ができないから不採用なのだ」と言われれば、ではそれ(その仕事)ができるようになろうと決意して努力することが可能だ。国がそれを手助けすることもできる。しかし、「お前は会社のどんな仕事でもこなせる可能性のある人間、つまり「デキル」人間じゃない、と判断したんだ」と言われてしまった若者は、何をどう頑張ればいいのかすらわからないまま途方に暮れるしかないだろう。幸運の裏に張り付いた不運は、同じくらい根深いのである。

 こうした「人間力」シューカツの世界で、落ちこぼれかかった若者を正社員として採用してくれる救世主に見えるのが、ブラック企業の役回りということになる。全人格的評価で自己否定を強いられてきた若者を(長期雇用の中で時間をかけて育成していくことを前提にすれば不釣り合いなほど)大量に採用し、ときにカリスマ的な魅力を発散する経営者と同じように生活のすべてを会社のために捧げることを求め、新卒採用なのだから特定の職に向けた技能が乏しいのはわかっているのに「即戦力」として成果を出すことを要求し、結果的に異常な長時間労働やパワハラ等の溢れるる職場を産み出していく企業の群れである。その病理の原因は、しかし、その異常な職場にしがみつかざるを得ない若者たちのおかれた窮境にこそある。

 表面に現れた法違反を摘発するだけでは、その根深さに対処することは難しい。それは、日本の若者の幸運と裏腹のその不運が、そのまた裏腹にある幸運なはずの正社員の世界ににじみ出た現象だからだ。

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