本日規制改革会議雇用WGにて意見陳述
本日、政府の規制改革会議雇用ワーキンググループにお呼び頂き、労働時間規制の在り方について意見を述べて参りました。
まだ内閣府のHPには上がっていないようですが、アドバンスニュースが早速報じていますので、そちらを:
http://www.advance-news.co.jp/news/2013/10/post-958.html(識者3人からヒアリング 規制改革会議雇用WG)
政府の規制改革会議雇用ワーキング・グループ(WG、鶴光太郎座長)は11日、労働時間法制について有識者からヒアリングした。意見を述べたのは鶴座長自身と東大社会科学研究所の水町勇一郎教授、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎統括研究員の3氏。3氏とも欧米の制度と日本を比較しながら、問題点や改革の方向性について持論を述べた。
日本の労働時間規制は労働基準法などによる形式的な規制はあるものの、実質的な規制は弱いというのが実情で、長時間労働や過労死の要因の一つになっており、新たな規制が必要との声が強まっている。雇用WGでも、3月の発足時から重要テーマの一つに据えていた。
すでに、6月に出した答申の中に「企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制等労働時間法制の見直し」を盛り込み、閣議決定されたことから、これを受けた労働政策審議会の労働条件分科会で9月から議論が始まっている。
このため、雇用WGとしては、次回以降も労組など関係団体からのヒアリングを予定、11月中の意見集約を予定しているが、閣議決定はしない見通し。2007年当時、労政審でホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間規制の適用免除制度)の導入を決めたところ、労組などが「残業代ゼロ法案」などと呼んで反対してお流れになった経緯もあり、慎重な姿勢を崩していない。
私が述べたのは、6,7年前のホワイトカラーエグゼンプションが問題になっていた頃に、雑誌『世界』等で繰り返し主張していたことと何ら変わりません。
物理的労働時間規制の強化と残業代規制の緩和の両方が必要という主張です。
そのうちアップされると思いますが、本日私が使った説明メモです。
規制改革会議雇用ワーキング・グループ第11回会合 2013/10/11
「労働時間規制に関する3つの大誤解」 濱口桂一郎
1 「日本の労働時間規制は厳しい」
2 「労働時間の規制緩和はワークライフバランスに役立つ」
3 「残業代ゼロ法案はけしからん」→すべて間違い。しかし、マスコミも、政治家も、場合によっては学者までこの間違いに乗っている。
1 日本の労働時間規制は厳しいのか?
・いうまでもなく、労働時間規制とは物理的労働時間の規制である。残業代をいかに規制しようが、それは賃金規制に過ぎない。
・現行労働基準法上、年少者を除けば物理的労働時間の上限は存在しない。(かつては女子に存在)
・労基法32条の上限(1日8時間、週40時間)は36条の労使協定によって法律上上限なく延長できる。
・いわゆる「限度基準」が大臣告示で存在するが、「労働契約に対して強行的補充的効力を有するようなものではない」(菅野)。
・その限度基準にも、適用除外がある。
・それゆえに、日本は約1世紀前のILO第1号条約(週48時間)も批准できない。
・事実上、日本で意味があるのは残業代規制のみ。(組合の残業拒否戦術への活用を別にすれば)では、他の先進諸国は?
・アメリカは残業代規制のみで物理的労働時間規制が存在しない。
・EUは指令で物理的労働時間を規制し、28加盟国で国内法化されている。
・週労働時間規制は「時間外労働を含め」48時間。残業代を払おうが払うまいが関係ない。
→救急病院の医師たちの不活動待機時間を欧州司法裁判所が労働時間と判断したため、彼らを個別適用除外にせざるを得なくなった。なぜなら、残業代を払おうが払うまいが関係なく、長時間労働が禁止されるから。(日本では「残業代払え」にしかならない)
・休日規制(週1日)も変形労働時間制も、それを超えることが禁止される絶対的労働時間規制。超えたら休日手当や残業代を払えばいい日本とは異なる。
・とりわけ健康確保のために、1日11時間の休息期間が義務づけられている。→「日本の労働時間規制は厳しい」は間違い。アメリカと並んで、世界で最も労働時間規制の緩い国の一つ。
2 労働時間の規制を緩和すればワークライフバランスに役立つのか?
・かつての規制改革・民間開放推進会議の答申は、「仕事と育児の両立を可能にする多様な働き方の推進」という節の筆頭に「労働時間規制の適用除外制度の整備拡充」という項目を挙げていた。
・これは、労働基準法の法的性格に対する根本的誤解に由来する。
・労働基準法の名宛人は使用者であり、その規定は「1日8時間、週40時間以上働かせてはならない」という意味でしかない。「1日8時間、週40時間まで働け」などという意味は全くない。
・就業規則的意味を持つ国家公務員法における勤務時間規定とごっちゃにしてはならない。
・労基法の上限の範囲内で、どんなに短く働くことも、十分に可能である。
・上限規定の緩和には、より長く働かせることが可能になるという以上の意味はあり得ない。
・ワークライフバランスとの関係での柔軟化の障害になり得るのは、就業規則の必要的記載事項としての始業・終業時刻等。物理的労働時間の上限規制ではない。→「労働時間の規制緩和はワークライフバランスに役立つ」は間違い。
3 残業代ゼロ法案はけしからんのか?
・物理的労働時間規制が極小化された日本で、唯一法律上の武器として駆使されているのが残業代規制(労基法37条)。
・いわゆる労働時間訴訟なるものも、中身はほとんどすべて「残業代払え」。
・労基法37条も、労働時間規制と一緒くたに、適用除外は「管理監督者」など。
・(労基法の本来の趣旨であったはずの)物理的労働時間規制からすれば、適用除外は真に自律的に働く者に厳格に限定されるべき。
・しかし、残業代という賃金規制にまで、同じ基準をあてはめると、とりわけ職能資格制の下では矛盾が生じうる。
・管理職並みの高給ではあるが管理職ではない者に残業代を払うと公平感に反し、払わないと法律に反する。
・近年の成果主義賃金制度の下でも、時間内であれば規制がないのに、時間外になると厳格に時間に比例した残業代の支払いが要求され、不公平感をもたらしうる。
・企画業務型裁量労働制やいわゆるホワイトカラーエグゼンプションとは、実はこういう残業代規制の問題点を解決するためのものであったはず。(経団連の提言)
・ところが残業代規制と物理的労働時間規制がごっちゃになり、労働側から「過労死促進」との(きわめてまっとうな)批判を呼び起こした。
・それをさらに歪めたのは、マスコミや政治家が(過重労働はそっちのけで)もっぱら「残業代ゼロ法案」として批判したこと。
・このため、真の目的であり、それ自体はまっとうであった、残業代規制の合理化ということが、世間的には一番口にできないタブーになってしまった。
・そのため、6年後のいまになっても、虚構のワークライフバランス論を持ち出さざるを得ない状況が続いている。→「残業代ゼロ法案はけしからん」は間違い。
(参考)
http://homepage3.nifty.com/hamachan/sekaiexemption.html(「ホワイトカラーエグゼンプションの虚構と真実」 『世界』2007年3月号)
http://homepage3.nifty.com/hamachan/johororenjikan.html(「労働時間規制は何のためにあるのか」 『情報労連REPORT』2008年12月号)
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