常見陽平『普通に働け』
常見陽平さんから新著『普通に働け』(イースト新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.eastpress.co.jp/shosai.php?serial=1816
日本の雇用・労働をめぐる議論は、エリートかワーキングプアを対象としたものに偏りがちである。
そこには「普通の人」の「普通の働き方」が見落とされており、ブラック企業論争やノマド論争で可視化されたのは、私たちの「普通に働きたい」というこじれた感情であった。
しかし、「普通の人」とは誰か?
「普通の働き方」とは何か?
そもそも私たちは「普通」ということが、実はよく分かっていないのだ。
本書は豊富にデータを揃えながら「意識の高い」系言説のウソを暴き、私たちノンエリートのための働き方を考察する。
というわけで、内容は『僕たちはガンダムのジムである』のノンエリート論を、もう一度きちんとデータで基礎付けながら諄々と説き聞かせるように語った本ということになりましょうか。
読んでいくと、拙著『若者と労働』が繰り返し引用されていたりして、その問題意識が通底していることがよくわかります。
題名が「普通に働け」だからじゃないですが、あまりにも当たり前のことを語っているので、いかにそれ以外の論客たちがおかしなことを言っているかが逆に浮かび上がってくる本でもあります。
で、本書の最大の読みどころは、巻末の海老原嗣生さんの解説です。・・・なんて言っちゃっていいのかな?まあ、いいことにしておこう。ある意味で、常見さんの諄々と説き来たるところを、一言でまとめちゃっている解説なんですね、これが。
昨今の雇用をめぐる議論に対する痛烈な批判にもなっているこの海老原節の小節の切れ具合をどうぞ:
・・・雇用の世界には、実にいろんなタイプの論者がいます。「世代間格差」をドグマにまで昇華させている人もいるし、小泉改革以降のネオリベ改革を憎み、保護と規制を強めろという、純粋な左バッターもいるし、逆に、最低賃金をなくして解雇自由にすれば、今の就職難は解決すると力説するばりばりの右バッターも存在する。
ただ、そうした個々の主義信条の違いを超えて、けっこう共通する傾向が一つあります。
それは、極端なケースを持ち出して、これが世の中の趨勢だと論を進めるやり方。
まあ、貧困とか格差なんかのマイナスを捉える場面では、それも仕方がないでしょう。世の中で起きている最悪のケースを捉え、まだそれが大多数でないうちに、警鐘を鳴らす。そのためには、強弁もやむなしと考えるからです。
しかし、納得がいかないのは、その逆です。最良のケースを取り上げ、それが当然だ、そうしなきゃダメだ、という論法。それも、「普通の人もがんばればああなれる」もしくは「こんなこともできない今の日本は最悪」と帰結するような説。
そんな茶番を、けっこうアカデミズム的には一目置かれるような科学者や経済学者(といっても雇用の門外漢!)が先導しているのです。そして、マスコミがそれに追随する。さらに、そのモデルケースとなるような偶発的人物を、時代の寵児に仕立て上げる。・・・
いやあ、まさに「あるある」。あまりにも的確すぎて、二の句が継げないような見事な海老原節です。
そういうクレージーな日本の言論状況に対して、
・・・常見君は、返り血を恐れず、内角球を投げ続けました。
そう、本書は、
・・・当たり前の話を無視して、一部の極端に触れた例を出して、周囲を幻惑しながら、話を進めるまったく無益な論議に対して、「え?普通の人はどうすんの?それで解決すんの?」と懐をえぐる。それがこの書なんですね。
ちなみに、この海老原さんの解説のタイトルは、
[解説]誰もがエリートを夢見る社会
だったりします。え?どっかで聞いたことがあるような・・・。
« 解雇規制論議に見る律令法思想と市民法思想 | トップページ | 本日規制改革会議雇用WGにて意見陳述 »
コメント