西谷敏『労働法[第2版]』
西谷敏『労働法[第2版]』(日本評論社)をお送りいただきました。言うまでもなく関西労働法界の中心的存在である西谷さんのテキストですが、5年前の初版が約600ページだったのが、なんと700ページを超える分量に膨れあがっています。
http://www.nippyo.co.jp/book/6351.html
全体にかなり細かく構成が変わったり、新たな書き込みがされたりしていますが、やはり今回の改訂の中心は、「第11章 非典型労働関係」でしょう。初版では「第10章 非典型労働関係」はパートタイムと派遣だけで、始めにごく簡単な概観があるだけで、非正規の中心である有期労働は、労働契約の成立の最後の期間のところと、労働契約の終了の解雇の次に雇止めとして書かれていただけですが、これがずっしりと入ってきています。
それは労働契約法の改正があったので当然とも言えますが、この章の最初に「非正規労働者の実態と法的課題」という節が設けられ、その法的課題の「非正規労働者の将来像」という中に「限定正社員(ジョブ型正社員)」についても約1ページにわたって論じられています。
ここは、現下の議論の焦点の一つでもあり、ややもすれば既存のメンバーシップ感覚にどっぷりつかってジョブ型を否定する議論が横行しがちであるだけに、こういうバランス感覚を持ちつつ批判的な記述は(とりわけジョブ型に批判的な人々にこそ)読まれるべきでしょう。
・・・勤務地や職種を限定するという雇用のあり方は、ヨーロッパ諸国で広く見られるところであり、日本でも、コース別雇用管理における一般職をはじめとして、さまざまな形で職種や勤務地を限定された正社員が存在する。無限定名配置転換が大きな問題となっている今日、正社員全体の働き方をこうした方向に改革していくというのであれば、望ましいことと言える。
しかし、現在政策として打ち出されている「限定正社員」構想は、企業への全面奉仕を求められる正社員の働き方や、非正規労働者の低賃金と不安定雇用を前提とした上で、その中間に新たな階層を創り出そうとするものである。
・・・正規・非正規問題を改革する基本的な方向は、正社員の働き方と非正規労働者の待遇を、いずれもディーセント・ワークの名にふさわしいものに変革しつつ、その接近を図っていくことである。実現に時間がかかるにしても、そうした方向そのものは明確化される必要がある。
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