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« 主務大臣に求める「新たな規制の特例措置」ってのを見せてくれないかな | トップページ | 第1回経済の好循環実現検討専門チーム会議の議事要旨 »

2013年10月17日 (木)

雇用特区は断念、有期は10年へ?

いろんな新聞がてんでにいろんなことを報じており、しかも読めば読むほど、書いてる記者のリテラシーに問題があるのか、そのソースになった政府のどこかの労働担当じゃない機関の中の人のリテラシーに問題があるのか、意味不明の記述がてんこ盛りで、解きほぐすのに苦労しますが、ミステリーでも読むつもりで見ていきましょうか。

まず、読売が報じたこれ。

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20131016-OYT1T01460.htm?from=ylist(雇用規制緩和特区、断念へ…厚労省の反発に配慮)

政府は16日、成長戦略の柱に位置づける「国家戦略特区」で導入する規制緩和について、焦点となっていた「解雇ルール」など、検討してきた雇用に関する全3項目を見送る方針を固めた。

安倍首相は16日、首相官邸で菅官房長官、甘利経済再生相、新藤総務相と協議し、こうした方針を大筋で了承し、詳細を詰めるよう指示した。

既に労働時間は諦めると報じられていたし、今朝の朝日でも有期は特区を諦めると出ていたので、昨日のエントリの通り法理論上不可能な解雇権濫用法理の特例措置を設ける特区しか残っておらず、それはそもそも理論的に無理なので、全部消えるのはまことに論理的な帰結といえましょう。

ただ、日経新聞は妙なことを報じていて、朝日も似たことを報じています。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1603W_W3A011C1MM8000/?dg=1有期雇用10年に延長 特区での解雇は対象絞る

政府は16日、有期雇用の期間を最長5年から最長10年に延長する方針を固めた。企業の雇い止めを防ぎ、パートや契約社員が5年を超えて働きやすくする狙いからで、来年の通常国会に労働契約法の改正案を提出する。解雇ルールを柔軟に設定できる政策は地域限定の「国家戦略特区」で、対象企業などを絞り込むことになった。

こちらは労働契約法18条による民事上の強行規定ですから、変えることは可能ですが、特区ではなく、全国でやるという話のようです。

で、その全国ベースの有期10年という話ですが、朝日によると、

・・・しかし、厚労省が特区内外で労働規制に差を付けることに難色を示し、全国一律での見直し案が浮上。これを受け、政府は、臨時国会に提出する国家戦略特区の関連法案では特区での導入を見送る方針。

来年の通常国会で制度改正を目指す方向性を盛り込むが、労働界の強い反発も予想され、実現までのハードルは高そうだ。・・・

現状でも、労働契約期間の上限は原則3年が、専門職なら5年なので、その反復更新の無期化の期限が原則5年が10年になるというのは、理屈としてあり得ないことではないとも言えます。

ただ、どうも記事を読む限り、労働法制がちゃんとわかっていないのではないかと思われるふしがあり、例えば日経には、

・・・例えば2020年の東京五輪に向けて企業が施設整備などのプロジェクトを手がけた場合、現行では有期の契約社員やパートを雇っても五年超で無期雇用に転換するか、新たな人材に切り替える必要がある。10年に延ばせば、企業は同じ人材でプロジェクトを進められる。・・・

などと書いているんですが、いや、現行法でも、プロジェクトのための雇用なら5年であろうが10年であろうがその期間を定めた労働契約を締結することが可能で、その場合反復更新はしていないのだから、5年経とうが10年経とうが無期化することもあり得ないわけなんですがね。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO049.html

第十四条  労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。

法学部の試験でこんなことを書いたらそれだけで落第間違いなしですが、それでも新聞記者や政府の中の人が務まってしまうというのですから、日本はいい国です。

なお、日経がまだ未練たらたらな解雇の話は、朝日によると、

・・・一方、政府が雇用契約のガイドラインを作り、解雇のルールを明確にする仕組みは、文言を「雇用条件の明確化」に変え、関連法案に盛り込むことなどで調整が続いている。

ということで、なんだい、これって、例のジョブ型正社員ないし限定正社員の契約ルールという話じゃないですか。契約に職務や勤務地が明確に限定され、それを遵守することによって、結果的に整理解雇が客観的に合理的と判断されるシチュエーションが増えるという話と、解雇規制の特例措置って話とは、もはや何の関係もない別の物語と言うべきでしょう。

一方で、そのジョブ型正社員を目の敵のように攻撃してやまない経済評論家諸氏は、こちらのジョブ型ルールにはどういう態度で臨まれるのか、これまた興味深いところです。

(追記)

で、新聞記者のリテラシーの違いを見せつけながら、話はこうして大団円に収束していくのであった・・・ということのようでありますな。

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013101701001959.html(政府、解雇規制の緩和見送る 外資企業向け雇用相談強化)

政府は17日、地域限定で規制を緩和する「国家戦略特区」で、解雇の条件や手続きを明確化し、従業員を解雇しやすくする制度の導入を見送る方針を固めた。厚生労働省が「雇用ルールを特区だけで変えるべきではない」と反対し、野党や労働組合が「解雇特区だ」と反発したことなどに配慮した。

外資系やベンチャー企業向けに、雇用ルールの相談に応じる組織を特区内で整備する。解雇など雇用ルールが分かりにくいとの指摘があり、相談体制を整備する。解雇規制の緩和見送りが固まったことで、労働特区は決着。当初案より大幅に縮小する。

始めから、存在しない実定法上の積極的な解雇規制を、あると信じ込んでドンキホーテよろしくやたらめったらに切り込んでみたあげく、そもそも始めから論理的に不能な解であったという恥ずかしい結論を表に出さないために、野党や厚労省の反発で諦めたことにして引っ込めるという武士の情けで、一件落着ということにしてもらったようであります。

そのおかげで、枯れ尾花を幽霊だと騒いで日銭を稼いでいる連中は、まだ当分の間、阿漕な日銭稼ぎの稼業が続けられるのでありましょうな。

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コメント

有期上限10年説は、だいぶ前から鶴先生あたりが仰っていたと記憶しますが、JILPT報告書 No.126 「有期契約労働者の契約・雇用管理に関するヒアリング調査結果」によると、人事の実務家は否定的な反応だったと記憶。10年先までの見通しなど立てようもないなか、使用者側にだけ長期の雇用義務が生ずるわけで。
調査は労契法成立前のものですが、現時点でも、労契法18条「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が・・・期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは」云々を潜脱するために、あえて5年超の雇用契約を選ぶ企業がどれほどあるのやら、と思います。
それにしても、日経記事、「東京オリンピック云々」には、あきれるのを通り越して情けなくなりました。労基法についての信じがたい無知を恥ずかしげもなく一面記事で露わにしているわけで。

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