フォト
2024年12月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ

« 2013年9月 | トップページ | 2013年11月 »

2013年10月

2013年10月31日 (木)

36協定を知らなかった:35.2%

昨日開かれた労働政策審議会労働条件分科会では、例の国家戦略特区から来た変な提案が早速審議され始めたようですが、それについては本ブログでさんざん述べたので、ここでは、昨日提示された「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」を紹介してきます。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/shiryo2-1_1.pdf

これは通常の調査とはちょっと違い、労働基準監督官が直接事業場に行って調べたものです。ただでさえ人が足りずに監督し切れていないのに、監督官に何やらせるんだ、ダンダリンが怒るぞ、とお思いかも知れませんが、これは調査であると同時に監督指導でもあって、選定した事業場に行って違反を見つけたらその場で指導して、是正勧告することもあるという、一粒で二度おいしい調査です。言い換えれば、権限のない人が会社の窓口に行って話を聞いて帰るだけというのとは違い、現実の姿が現れている調査であるということですね。

いろいろと面白い結果が載っていますが、やはり雇用維新の出井さんが

http://ameblo.jp/monozukuri-service/entry-11659503750.html(「36協定」?何それ?喰えるの?)

で紹介しているこれが、今の日本の実態をよく示しているのでしょうね。

・・・「時間外労働・休日労働に関する労使協定をいずれも締結していない」事業場(注:全体の44.8%)のうち、時間外労働・休日労働に関する労使協定を締結していない理由(複数回答)については、「時間外労働・休日労働がない」が43.0%、「時間外労働・休日労働に関する労使協定の存在を知らなかった」が35.2%、「時間外労働・休日労働に関する労使協定の締結・届出を失念した」が14.0%となっている。

「知らなかった」と「失念した」で半分に達するというのが現在の日本の実情であるわけですよ。

「長期コマギレ契約OK法案」は?

朝日の澤路さんが悩んでいますが、

https://twitter.com/sawaji1965/status/395412461408354304

傍聴できませんでしたが、今日午前の労働条件分科会で無期転換ルールの改正が話し合われたようです。しかし、相変わらず勘違いしたままの記事が見られます。:非正規労働者の雇用期間延長案を議論 NHKニュース  。雇用期間の延長ではありません。

https://twitter.com/sawaji1965/status/395423177263697920

続き)しかし、この無期転換ルールの説明はやっぱり難しいですね。まして、なぜ、特区と関係しているのか。同僚が苦悩しています。

マスコミ感覚で言葉を作るとすると、「長期コマギレ契約OK法案」ってところでは?

労基法14条で、オリンピックのためのプロジェクトなら7年契約ができるのに、

第十四条  労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。

わざわざ労契法17条の趣旨に反するコマギレ契約をやらせようという法律です、

第十七条  ・・・
 使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。

ってのが、多分一番わかりやすい、と思いますよ。

2013年10月30日 (水)

女性が輝く社会のあり方研究会

本日、都内某所で女性労働問題について報告。

こういう内容で話しました。

「OL型女性労働モデルの形成と衰退とその後」

1 日本型雇用システムの「無限定正社員」は男性モデル
・職務、勤務地場所、時間の制限なく、企業の命令に従って働く(非ジョブ型)
・その代わり、新卒採用から定年まで雇用を保障する(メンバーシップ型)
・それを前提に若い頃から教育訓練して企業の色に育て上げる

2 それとは異なる旧式OL型女性労働モデル
・新卒採用から結婚退職までの短期的メンバーシップ
・男性無限定正社員の補助的業務(女房役)
・男性無限定正社員の嫁さん候補(社内結婚)
・それゆえ、四大卒は忌避、短大が良い

3 OL型女性労働モデルの衰退
・男女雇用機会均等法とコース別雇用管理
・無限定正社員モデルについてこれる女性のみの「総合職」
・それ以外の「一般職」・・・が辞めなくなってしまった!
・世知辛くも「一般職」の非正規への代替

4 ワーク・ライフ・バランスの笛吹けども・・・
・無限定正社員モデルにワーク・ライフ・バランスという文字はない
・育児休業というイベントの前後の日常は・・・
・短時間勤務の反対はフルタイム?オーバータイム?
・なのにもっと時間制約なく働けるようにせよという経営側の声
・無限定正社員か非正規かの究極の選択

5 男女共通のジョブ型正社員(限定正社員)
・不本意正社員からワーク・ライフ・バランスを求めて
・不本意非正規からそれなりの安定(仕事がある限り)を求めて
・不可能な「男並み」から可能な「男並み」へ

6 エリートモデルの女性「活用」論からの脱出を
(男女とも、エリート論はエリート論として区別して論じよう。ノンエリートを巻き込むのではなく)

実は、今まで労働の各分野について山のように書いたり喋ったりしてきていますが、女性労働問題プロパーを正面から取り上げたのはそれほどないんですね。

まとまったものとしては、『季刊労働法』に書いたこれくらいでしょうか。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/olgata.html(OL型女性労働モデルの形成と衰退)

安周永『日韓企業主義的雇用政策の分岐』の書評@大原社研雑誌

108030『大原社会問題研究所雑誌』(2013年9/10月号)に掲載されたわたくしの書評が同社研のHPにアップされたので、リンクしておきます。書評の対象は、安周永著『日韓企業主義的雇用政策の分岐――権力資源動員論から見た労働組合の戦略』です。

http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/659-660/659-660-10.pdf

・・・以上,政治学研究書に対する書評としてはいささか外在的な批判を並べすぎたかもしれない。本稿における評者の批判の相当部分は,著者が日本の雇用政策,労働法政策を研究する上で参照した論者の議論に対してこそ向けられるべきものであり,それを本書評で並べたことはあまり適切ではなかったかもしれない。
日本においては雇用政策や労働法をめぐる政治過程を正面から分析した政治学の業績はいまだに極めて少ないし,ましてやそのテーマでどの国とでも政策決定過程を比較分析したものはほとんど見当たらない中で,著者が日韓比較を試みたことは極めて大きな意義を有することは間違いない。
ただ,雇用政策や労働法の研究からその政策過程分析に手を出してきた評者としては,権力資源動員論という分析枠組をどう考えるかといった政治学的視点からの書評はそもそも能力の範囲外であり,本稿のような書評とならざるを得なかったことをお断りしておきたい。

2013年10月29日 (火)

『久野治オーラルヒストリー』

梅崎グループによる労働関係オーラルヒストリーの一環ですが、それとともに本書は、インタビュワの鈴木誠さんの三菱電機労務史研究の一環でもあります。

JILPTアシスタントフェローの鈴木誠さんの三菱電機研究論文については本エントリの末尾にリンクをしておきますが、まずはこの久野治という方はどういう人かというと、1923年生まれで。1937年に高等小学校卒で三菱電機名古屋製作所に見習い工として入社、その後兵役にとられて九死に一生、復員後組合活動に活躍し、最後は電機労連副委員長、IMFJC事務局次長となった戦後組合運動の生き証人です。

戦前見習い工として賃上げ要求をして獲得した話も面白いですが、マクロ労働史の観点からは、やはり、戦前左翼系のインテリが労務幹部として採用されたことが、戦後の労使協調路線の導火線になっているという筋道がくっきりと見えて興味深いところです。

・・・三菱電機という会社が面白い会社というのは、人事労務については実はすばらしい人がいたのです。あなたも書かれたと思いますが、三木忠彦という人がいたのです。自分の息子にレーニンという名前を付けているのです(笑)。

・・・三木さんという人は、会社は当時の言葉で言うと社会民主主義です。共産主義ではないのです。ないのですが、会社の幹部は共産党と言っていたのです。それがありがたいことにほとんどどこの会社も採用しない者を、岩崎さんが採用していたのです。・・・この方が三菱電機の労使関係の骨格を作る人です。

労使協議制は、三菱電機ができた。・・・

戦争が終わり、そうすると三木さんというのが、・・・本社の勤労部長になるのです・終戦直後の労働組合はご存じだと思うけれども、ものすごい労働争議だから、日立も55日のストライキをやる。東芝も毎日のようにストライキをやって、赤い東芝と言われていたのです。私たちだけやっていないのです。三菱だけやっていないのです。

・・・それは三菱だけは労使協議制だったのです。よそはみんないきなり団体交渉です。日立も東芝も団体交渉です。要求を出す。呑むか呑まないか。満額の回答がなければ何月何日からストライキということで、要求と同時にスト宣言もしているわけです。その間に話をして妥協点がないわけです。要求を呑まなかったラストをやるという考え方です。そういう考え方で要するに戦う姿勢を非常に日立や東芝は持ったけれど、三菱は最低でも1か月話し合うということです。

・・・JPCです。生産性本部ができることによって、労働者の意見を聞いて経営を運営していくという思想が出てくるのです。昭和30年になってはじめて三菱電機の労使協議制の考え方が世間として認められるようになってくるのです。・・・

左翼的な人事労務幹部の下で、対決型でなく労使協調型の組合運動が育ち、それが他社に影響を及ぼしていく、という、日本型労使関係の輪廻の糸車が見えるようです。

電機連合自体の中で、その「影響」がどのようなものであったかを、久野さんはこのように淡々と語ります。

・・・僕が東芝の教育をやるのはそこから来るのです。東芝の中に行って、・・・。・・・東芝は川崎が中心だから近いということと、東芝名は徹底的に左翼にやられたから、多少その反動もあって僕らの考え方が入りやすいという形で、東芝には扇会という組織を作って、そこに私の労働組合主義という考え方をずっと植え付けていったのです。この扇会の組織は今も出せないのです。何で出せないかというと、共産党が不当労働行為だということで裁判所に持って行っているのです。

・・・それで、私が出会ったのが関西では松下電器、今のパナソニックです。そして三洋です。こちらの方へ来れば東芝と、これだけの者をまず何とかわれわれの陣営に入れようと思ってやりかけたのです。それが後にIMF-JCという組織になってくるわけです。・・・IMF-JCも一晩にしてできたわけではないのです。その前後にそういう運動があったのです。

八幡製鉄の宮田学校の話は有名ですが、電機産業におけるこういう話は、あまりはっきりとは語られてこなかったように思います。こういう嵌め絵パズルができあがっていく感じは、やはり梅崎グループのオーラルに共通のものですね。

それにしても、やや戻りますが、三木さんの弟子の中側俊一郎さんについてのこういう話も、三菱電機という会社の不思議さを物語っていますね。

・・・中川さんという人もご存じのように東大の新人会にいて、どこも採用されないのです。昨日は留置所に放り込まれたと言うぐらいの人だから、そういう人がどこにも行くところがないときに、ありがたいことに三菱電機に有名な大内兵衛のお兄さんが常務でいたわけです。そのお兄さんに「一人使ってもらいたい人がいる」「誰やそれは」「共産党みたいなヤツだ」、その時に社長の言葉がふるっておるのです。どう言ったかというと、「新人会で留置所2日、3日放り込まれているヤツは、そんなものはまだ小物だ。うちはもっと大物を採用しておる」、これは昭和11年の話です。・・・

この「共産党みたいなヤツ」の下で構築されていった労使協議制が、「共産党が不当労働行為だということで裁判所に持って行」くしくみを生み出していくこの輪廻転生の妙にこそ、労使関係というものの不思議さ、おもしろさが凝縮しているのですね。

(参考)

鈴木誠さんの論文

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2008/02-03/pdf/093-107.pdf(戦後型学歴身分制から能力主義的人事処遇制度へ──三菱電機の1968年人事処遇制度改訂

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2010/02-03/pdf/069-084.pdf(能力主義下における職務給・能率給―三菱電機1968年人事処遇制度改訂のもう一つの側面)

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2012/07/pdf/070-087.pdf(「新職能資格制度」と職務重視型能力主義の再編成――三菱電機の1978年人事処遇制度改訂)

2013年10月27日 (日)

りっぴぃさんの拙著批評に寄せて

Chuko女性弁護士の「りっぴぃ」さんが、拙著『若者と労働』への違和感をつぶやかれています。

https://twitter.com/rippy08/status/394023693480779777

濱口さんの「若者と労働」。新書だから細かいことを書けないのは仕方ないのでしょうが,私がどこか違和感を持ってしまっていたのは,「古き良き日本型雇用」みたいなのがあった,というのが所与の前提とされている点もあるかも。

https://twitter.com/rippy08/status/394024257916633088

承前)「日本型雇用」といわれるもの(若年期に就職して長期継続雇用,定昇あり,年功序列,みたいなの)が適用されていたのは,実はそんなに「みんな」ではないですよね。男性に限っても,思われているよりは少ない,という記憶(正確な数字は覚えてません・・・(>_<))

https://twitter.com/rippy08/status/394024659852619776

承前)ただし,「日本型雇用」の「恩恵」に浴していた人(「正社員」として就職した人の妻子など)は確かに多かった,らしいので(これまた,数字は覚えてない),前提として間違ってはいないんでしょうが。でもなー,何だかなー

https://twitter.com/rippy08/status/394024986358194176

承前)労働関係の話でもいちいちもにょもにょするのは,私自身の女性性が関わっている,というか,個人的感情です。なかなかこういう個人的感情を切り離して議論できないので,学習会とかでもいつもモヤモヤしつつも発言できず・・・とかなりがちです。

112483「若者」論という新書ゆえに、きちんとそこまで展開できていませんが、『日本の雇用と労働法』では、「第5章 日本型雇用システムの周辺と外部」において、女性労働者、非正規労働者、中小企業労働者について、それなりに記述をしておりますので、もし、そういう人々の存在を無視しているかのような記述と感じられたのであれば、併せてお読みいただければ幸いです。

端的にわかりやすく書くと言うことは、その分何かを書かずに済ませてしまうということでもあるわけで、りっぴぃさんのような批評は当然ではあるのですが、書かれていないことはすべて考えていないことというわけではありません。

とりあえず、女性労働については、もう少し突っ込んで書いた文章があります。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/olgata.html(OL型女性労働モデルの形成と衰退)

日本の労働問題についての研究は、主として重化学工業の男性ブルーカラー労働者を対象として行われてきました。しかしながら産業化初期から戦争直前に至るまで、日本の雇用労働者の半数以上は女性でしたし、現在もまた労働力の女性化が進みつつあります。女性労働者に対する労務管理を抜きにして日本の労務管理を語ることはできません。しかし、日本型雇用システムが確立するまでの、主として繊維工業を中心とする女性労働と、日本型雇用システムが確立した後の、主として事務作業を中心とする女性労働とでは、その意味合いが全く異なっています。また、近年の女性労働を考える上では、非正規労働者としての就労形態が重要な意味を持ちます。
 いずれにしても、女性労働者は正規労働者であっても、企業へのメンバーシップを中核概念とする日本型雇用システムの中では異分子的な存在であり続けました。逆にいえば、女性労働者の視点から日本型雇用システムを見ることで、その意味合いをよく理解することができます。

・・・・・・・

4910200371038なお、先日紹介した『エコノミスト』臨時増刊号(10月14日号)に、わたくしとともに寄稿しているみずほ総研の藤森克彦さんの「女性の活躍促進に、就業の多様化を ワークライフバランスの推進もカギ」が、みずほ総研のサイトにアップされているので、それも紹介しておきます。基本的な視角がわたくしとよく似ていますので。

http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/contribution/2013/economist131014.html

このように、主要先進国と比べると、日本社会は依然として「男性稼ぎ主モデル」が根強く、女性の就業促進には厚い壁があることがうかがえる。女性の就業を妨げる根底には、どのような要因があるのだろうか。

筆者は、日本で女性の就業を妨げる要因は、長期雇用を特徴とする日本独特の雇用契約にあるとみている。この点、労働分野の研究者である濱口桂一郎氏が本質的な指摘をしている。すなわち、企業が社員を採用する際に、欧米では「職務(ジョブ)」が先にあってそれに合った人をあてがうが、日本では会社の一員(メンバー)にふさわしい人を選んで採用し、その人に職務をあてがう。

つまり、日本の雇用契約は「メンバーシップ型」の契約となっていて、社員は会社のメンバーとして採用され、長期雇用が重視される。そして長期雇用は、生活給込みの年功賃金と共に「男性稼ぎ主モデル」の基盤となり、人々の生活を安定させてきた。

一方、長期雇用などによる「生活安定機能」は、長時間労働、配置転換、転勤といった「企業による強い拘束」とセットで提供されてきた。すなわち、正社員の雇用を守るには、企業は不況期に最適な正社員数にしておけばよい。そして景気が良くなり生産量を増やす必要が生じたならば、正社員数を増やすのではなく、残業時間を増やすことで対応していく。

つまり、日本の雇用システムには、正社員の長期雇用を守るために、あらかじめ長時間労働が織り込まれている。また、配置転換や転勤も、不要となった部署の社員を別の部署に異動させることによって、正社員の雇用を守る役割を果たしてきた。

このように、「生活安定機能」と「企業による強い拘束」をセットで提供してきた雇用システムは、「男性は仕事、女性は家事」という役割分担を前提にする上では、実にうまく機能してきた。

しかし、「共働き世帯」が増えてくると、「企業による強い拘束」は支障が大きい。例えば、夫婦が共に正社員であれば、双方に長時間労働が課せられ、家事・育児の時間を捻出することが難しくなる。その結果、女性を中心に「仕事を続けるか、出産・育児を諦めるか」という二者択一が迫られる。また、夫に転勤が命じられれば、仕事を持つ妻は「仕事を辞めて夫についていくか、別居をするか」といった選択を迫られることにもなる。

欧米諸国では、人事、経理、企画、営業といった「職務(ジョブ)」を前提にして、人をあてがう「ジョブ型」の雇用契約となっている。そのため、当該職務がなくなれば、解雇はやむを得ないと考えられている。その代わり、「職務」の範囲を超えた残業、配置転換、転勤は行われない。「企業による拘束」は弱いので、「共働き」を行いやすい雇用システムとなっている。・・・・・

2013年10月26日 (土)

金子良事『日本の賃金を歴史から考える』(旬報社)の広告

13378もうすぐ刊行される本の広告です。

http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/874

本ブログでも時々やり合って皆様を楽しませてきた金子良事さんの単著です。タイトルは『日本の賃金を歴史から考える』なんですが、左の写真の帯の文句にあるように

このタイトルは過小広告!
賃金だけでなく日本の雇用の全体像を歴史を軸に描き出した名著

です。

って、この帯の文句は、誰かと思えば私が言ってるんですが。

どれくらい過小広告かは、この目次を見ればわかりますよ。これくらい広く目配りして日本の労働史を描いた本はあまりないはず。

はじめに
第1章 二つの賃金
仕事と報酬
雇用における報酬の貨幣化の発生
工場労働者の登場
近世から近代への連続性は日本だけのことか?
工場法の世界
報酬にたいする二つの考え方―感謝報恩と受取権利
賞与金(ボーナス)の一つの系譜
富士紡の利益分配制度
 コラム1 報酬の金銭化

第2章 工場労働者によって形成される雇用社会
日本近代の二つの変革
生活面での変革
工場のなかの社会
株式会社制度の定着
株式会社における賃金制度
株式会社における身分
工場労働者の規律をつくる
仕事の直接的な対価という性格が強かった職工の賃金
 コラム2 ブルーカラーとホワイトカラーの協力体制

第3章 第一次世界大戦と賃金制度を決める主要プレイヤーの登場
賃金制度を決める主要プレイヤー
鈴木文治による友愛会の結成
生計費と賃金の関係
人事部と経営(賃金)コンサルタントの登場
「管理の科学」の形成
科学的管理法の登場
能率技師とソーシャル・ワーカー
科学的管理法の導入と福利厚生制度の充実
科学的管理法の成果と賃金
 コラム3 近代的労務管理と安全運動

第4章 日本的賃金の誕生
「日本的賃金」
ソーシャル・ダンピング論
低賃金論としての日本の賃金
戦時日本的賃金論
戦時日本的賃金論の前提1―「能率」思想
戦時日本的賃金論の前提2―能率賃金≒科学的管理法の探求
戦時日本的賃金論の前提3―生活賃金
賃金カーブによる年功賃金―「標準賃金」
日本的賃金論
 コラム4 賃金とプロパガンダ

第5章 基本給を中心とした賃金体系
  「賃金体系」
異なる時代の前提条件
賃金体系に核(コア)である基本給
第二改革期の変化1―出来高賃金から基本給+能率給へ
戦前の賃金形態―時間による固定給と出来高賃金
常傭給あるいは戦前の基本給?
固定給における査定
複線的な賃金体系の成立
臨時産業合理局『賃金制度』の改革案
第二改革期の変化2―日給月給と月俸の融合
職務給から職能資格給へ
階級(身分)制度から職能資格制度への転用
ブロードバンディング(broad banding)
労働組合のグローバル化の必要
コラム5 査定制度と公平性

第6章 雇用類型と組織
日本的雇用の議論の前提
日本的雇用論の派生形であるメンバーシップ型雇用論
トレード型雇用とジョブ型雇用
伝統を引き継いでいるヨーロッパのトレード型、新しい日本のメンバーシップ型
トレード・ユニオニズム
変容したプロフェッション
経済学の伝統的な二つの賃金仮説
人的資本論
内部労働市場と外部労働市場
組織と信用
資格制度
 コラム6 人的資本と組織の経済学

第7章 賃金政策と賃金決定機構
賃金政策と賃金決定機構との距離
賃金統制のはじまり―熟練工の移動防止と高賃金の抑制
価格等統制令と賃金臨時措置令の不備
第二次賃金統制令と「賃金総額制限方式」―統制から外されたもの
労働運動の興隆と戦後の賃金決定方式の誕生
官公庁の機構改革と600円賃金
労使交渉による賃金ベース協定
公務員の賃金ベース―所得政策と参照水準
物価と賃金―消費者物価指数(CPI)の登場
生活給賃金から能率給賃金へという転換
個別賃金要求方式の登場
定期昇給とベース・アップ
春闘のはじまり
春闘の展開
生産性と賃金
計画経済の時代
生産性基準原理と所得政策
熊谷委員会の所得政策に込められた思想
一九七五年春闘の帰結―日本型所得政策の誕生と戦後賃金政策の終わり
長期賃金計画と逆生産性基準原理
 コラム7 大きなストーリー

第8章 社会生活のなかの賃金
マタイ書20章
完全雇用政策
賃金ではなく所得である理由
三つの賃金格差の解消?
社会問題にされなかったもう一つの賃金格差―男女別賃金格差
社会問題にならなかった低賃金
生活の変貌と農業の縮小
低収入でもニーズがある請負仕事
最低賃金法と家内労働法
請負と雇用―労働者性の有無
賃上げだけを求めていた時代の終焉と個別賃金要求方式の興隆
主婦パートの興隆
労働条件を切り下げる頑迷なボランティア精神
標準世帯を前提とした社会保障―103万円の壁と130万円の壁
工場法から男女雇用機会均等法まで
平等への道―ペイ・エクイティと職務分析
女性の非正規化と男性への波及
生活賃金の難しさ
 コラム8 絶対的な正しさと相対的な正しさ

賃金を学習を進めるためのリーディング案内
あとがき


本日、ウェークアップぷらすに出演

本日朝、読売テレビの「ウェークアップ!ぷらす」に出演しました。

http://www.ytv.co.jp/wakeup/

「限定正社員で変わる!?日本人の働き方」というコーナーで、派遣ユニオンの関根秀一郎さんとの共演です。

関根さんのツイートで紹介されているので、それを引用しておきます。

https://twitter.com/shusekine

これからウェークアップ!プラスに出演予定。濱口桂一郎先生と「限定正社員」について話します。ぜひご覧ください。

今日は午後から派遣ユニオンの大会なので、大阪から飛んで帰ります。

濱口さんが言っている限定正社員と、規制改革会議が言っている限定正社員は、違うんですよね。規制改革会議は、解雇ルールの緩和をめざしています。

ありがとうございます。でも、時間がすごく短かったです。もっと言いたいことがあるのに!

バラエティ番組の1コーナーとしては結構長めだったのでしょうが、言いたいことをちゃんというにはとても短いという感じです。

上にも書いてあるように、関根さんは今日派遣ユニオンの大会だというのに、当日の朝のテレビ出演のため、昨夜台風迫る中新幹線で大阪に向かい、途中で新幹線が止まって、着いたのは深夜、駅前のタクシーは長蛇の列だったそうです。

そして番組終了とともに空港に向けて飛んでいきました。

2013年10月25日 (金)

EUにおける労働政策の形成と展開@『JIL雑誌』

New『日本労働研究雑誌』11月号が出ました。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/new/

労働判例この1年は道幸哲也、和田肇両氏です。わたしがジュリストで評釈したマンナ運輸事件判決に対して、和田さんが「どうしても賛成できない」と猛烈に反対しているのが、大変興味を惹かれました。

特集は「国際機関と労働政策」で、

ILOにおける国際労働基準の形成と適用監視  林 雅彦(前ILO駐日事務所次長)

EUにおける労働政策の形成と展開  濱口 桂一郎(JILPT統括研究員)

OECDにおける労働政策の形成と展開  三谷 直紀(岡山商科大学経済学部経済学科教授)

国際機関における企業行動指針の形成と展開──CSR企業行動指針の策定を中心として  青木 崇(愛知淑徳大学キャリアセンター助教)

という構成です。わたくしがEUについて書いています。中身は概観論文なので、それほど目新しいことは書いていません。


田中萬年さんへのとりあえずの応答

田中萬年さんから「宜しくご批判、ご教示下さい」と宿題をいただきました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/10/post-f815.html#comment-101754992

ご無沙汰しています。
 私は労働問題の専門書には近寄りがたかったのですが、最近、私にも理解できる解説書として濱口桂一郎さんの評判の三新書、『新しい労働社会』(岩波新書、2009年)、『日本の雇用と労働法』(日経文庫、2011年)、『若者と労働』(中公新書ラクレ、2013年)を学習出来るようになり、マクロな労働問題も少し理解できるようになりました。三新書は私のように労働問題の専門家でない者に労働問題の理論的学習を可能にした有りがたい著書です。
 濱口さんの三新書を学ぶことによって職業訓練の理解と整理もこれまでよりも一段高めて考えることが出来るようになったと考えています。
 そしてまた、一方ではその整理による欠点も見えてきました。
 そこで濱口さんの論では欠落している職業訓練の問題について述べてみました。私がこれまで整理してきた労働者保護-生産増強の思想軸を交差させて分析すべき事を述べました。
  「『労働基準法』における職業訓練理念の混迷-労働者保護と生産増強の思想軸の必要性-」を2013年10月25日にアップしました。オリジナルです。ご省らの上、宜しくご批判、ご教示下さい。

この論文はこちらにありますが、

http://www.geocities.jp/t11943nen/ronbun/KIJYUNHOUkonmei.PDF

疑問として提起されている点について、きちんとした回答にはなりませんが、とりあえずの応答としてごく簡単なメモ書きをしておきます。

なお、職業教育訓練に関しては、新書の記述はいずれもごく簡略ですが、その元になった

http://homepage3.nifty.com/hamachan/dualsystem.html(「デュアルシステムと人材養成の法政策」 『季刊労働法』第213号)

ではもう少し詳しく書いていますので、主としてそれを引用する形で応答します。

<1>の「戦後の1947年に制定された労働基準法は企業内教育訓練には消極的」との指摘は妥当なのか疑問がある。

<2>の「技能者の養成は本来公的な職業教育の充実によって達成すべきものであるという立場に立っていました」はより疑問が大きい。

については、

戦後1947年に制定された労働基準法は、第7章として技能者養成の規定を設けました。制定過程を見ると、前年4月の第2次案で徒弟雇傭の認可制が打ち出され、雇用期間、賃金、労働時間などの適用除外も示されています。その後徐々に規定が拡充され、6月の第4次案では徒弟とは「使用者と生活を共にして技能を修得する目的を以て使用される未成年の労働者」との定義規定がおかれましたが、8月の第6次案ではこれが「使用者は徒弟、見習、養成工その他何等の名称を以てするに拘わらず技能の習得を目的とする未成年を酷使してはならない」という所謂徒弟禁止規定に変わり、技能の習得を目的とする未成年者の使用を資格を有する者が行政官庁の許可を受けて行う場合に限定しました。重要な変更は11月の第8次案で規制対象が未成年者から労働者一般に広げられたことで、章題もそれまでの徒弟から技能者の養成に変わっています。

この規定の趣旨は当時の質疑応答集に明確に表れています。「技能者の養成は、職業教育の充実によって、相当その目的を達成することができると考えるが、義務教育以上に進学のできない者については、矢張り労働の過程で技能を習得させることが必要であり、又ある種の職業にあつては、その性質上、学校教育だけでは、練達せる技能者を養成することが期待できない部門があるので、これを全面的に禁止することは我が国の現状に鑑み適当でない」云々。つまり、学制改革による公的な職業教育こそが、従来一般的であった企業内人材養成に代わるべきシステムであるという思想が背後にあり、技能者養成制度はやむを得ない限りの代替物という考え方だったわけです。

次に、

<3>の「教育界では普通教育が偏重され、職業高校は沈滞してしまいました」の論は微妙な説明である。「沈滞してしまいました」はその前には隆盛だった、と言うことを意味してもいるようだが、それは何時頃かが問題となるからだ。

について、

一方、本来の道とされたはずの職業教育ですが、新制高等学校は総合制が原則とされたため、普通教育偏重の傾向が生じ、戦前の実業学校を受け継ぐ職業高校は沈滞してしまいました。1949年の教育刷新審議会建議「職業教育の振興方策について」は、新制高校の画一化を避け、職業教育単独校を多数設置することや、企業・産業団体との共同教育組織を設けるべしと訴えました。1951年に関係者の運動で産業教育振興法が議員立法として制定されて、ようやく単独職業高校が増加し、職業教育も充実し始めたということです。しかしその後も教育界では、普通教育を本来の姿と考え、職業教育を継子扱いする発想が牢固として残っていたようです。

この「沈滞」という言葉は、産業教育振興法について書かれた資料にあった表現なので、当時の職業郁関係者たちの認識を表していると見ることができます。沈滞する前とはいつかといえば、それは中学校、高等女学校と並ぶ中等学校として実業学校が存在した戦前でしょう。

上のように整理しても、未だ、「労働基準法」の職業訓練問題の整理は完全では無い。それは、ジョブ型の典型とも言える徒弟制の理念的位置づけの問題である。

そうは認識されていなかったし、現にそうではなかったからでしょう。

労働基準法立案者の念頭にあった徒弟制とは、

徒弟制は年少者が親方の家庭に長年住み込んで、技能のみならず、しつけ、社会常識等の訓練を受け、5~6年後の年季明けに職人となり、さらに恵まれたものは後に親方になるという徳川時代以来の私的訓練制度です。

・・・この職人徒弟制に対して、明治以降洋式工業の導入に伴って、未経験の若年労働者を見習職工として採用し、熟練職工の下で技能の習得を行っていく工場徒弟制が拡大していきます。しかし、例えば『職工事情』などを見ると、きちんと技術の習得をさせるよりも雑用や使い走りに利用することが多く、徒弟というより少年工に過ぎないのが実情で、少し技術を覚えると他の工場に転じて渡り職工になるという状態だったようです。

・・・上述のような明治期の徒弟制の実態に対して、公的な職工養成システムを確立することで対応しようという動きが早くから行われています。

あるべきジョブ型社会システム(公的な職業教育)からは否定されるべき存在であったのです。

なお、

なお、濱口さんの理解できない学校職業教育の整理として、濱口氏が中等職業教育の始まりは東京職工学校としている(『日本の雇用と労働法』100ページ)ことがある。「職工学校」という名称から生じる誤解である。

当該ページを見ても、「公的職業教育の出発点」とは書いていますが、「中等職業教育の始まり」とは書いていません。

もちろん、公的職業教育の出発点という位置づけが適切であるか否かという議論はありうると思いますが、少なくとも、

東京職工学校は…尋常中学校卒業程度を入学資格とする学校で、実際においては最初から専門学校であって、これを中等工業学校とみることは出来ない。

というのは何ら関係がないように思われます。

以上、拙速な応答ですが。

竹信三恵子『家事労働ハラスメント』

S1449もと朝日新聞記者で、いまは和光大学で教えている竹信三恵子さんから『家事労働ハラスメント―― 生きづらさの根にあるもの ――』(岩波新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1310/sin_k732.html

食事の支度や後片付け,洗濯,掃除,育児に親の介護…….本来,だれもが必要とする「暮らしの営み」のはずの労働が,不公正な分配によって,どのように生きづらさや貧困を招き寄せていくのか.終わりなき「見えない労働」を担う人びとが,社会から不当に締め出されている実態に光をあて,直面する困難から抜け出す道を内外にさぐる

竹信さんが自らの経験から見つけ出したこのテーゼをさまざまな事例を使いながら展開した本です。

・・・そのころの私は、家事と育児と会社の長時間労働のはざまで、なぜこんなに働きにくいのかと悩み続けていた。悩んだあげく、私はその苦しさの根に、家事労働という仕事を、労働時間でも社会政策でもまったく考慮せず、とにかく家庭や女性に丸投げさえしておけば収まると思い込んでいる日本企業の労務管理や政府の社会政策があると思い当たった。

「そのころ」というのは1999年から2001年当時で、十数年前に雑誌に連載したものなんですね。何でそれが今頃というと、

・・・だが、出版社へ企画を持ち込むと、反応はさっぱりだった。

で、ようやくいまになって日の眼を見たということのようです。

どれも同じようなしょうもない本は山のように出るのに、こういうのは出さないというあたりが、日本の出版界なんですかね。


2013年10月24日 (木)

海老原嗣生『日本で働くのは本当に損なのか』

Isbn9784569815022海老原嗣生さんより新著『日本で働くのは本当に損なのか』(PHPビジネス新書)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。そして今回は、とりわけありがとうございます。

http://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-81502-2

ブラック企業、終身雇用の崩壊、うつ病の増加……。それでも滅私奉公を続けますか?

 なぜ日本人は、上司や会社の悪口を言うのか、なぜ日本人は、なかなか転職しないのか、なぜ日本では、女性活用が進まないのか―欧米型雇用と比較して日本型雇用の本質を鋭く分析し、まことしやかに信じられている常識を覆す。

 内容例を挙げると、◎日本には人事異動があるが、なぜ欧米にはないのか ◎欧米ではなぜ若者の雇用デモが頻発するのか? 日本の若者は大人しいのか? ◎日本では先輩が呑みに誘うのに、欧米では誘わないのか? ◎欧米と日本、どちらが学歴社会なのでしょうか 等々

 また日本型雇用問題への解決策も提示する。

 そして『ブラック企業』がベストセラーとなった今野晴貴氏が本書を解説―「雇用システムの問題を『立場を超えて』説明しようと務めている」

 学生から、管理職まで、企業の雇用問題を知る上で必読の一冊!

本書は、現段階の海老原テーゼを全面展開した「ほんとにほんとのこれ一冊」ですね。

そして、そのテーゼは、わたくしが繰り返し論じているところと、ほとんど同じです。ほんとに、本書を読みながらそのありとあらゆる部分に、「そうそうそうなんだよ」と繰り返し繰り返しつぶやいている自分に気がつくほどです。

そのほんの一例を「はじめに」から、日本型雇用の特徴をなす「公理」として示している部分:

・・・その公理とは、-

1)給与は「仕事」ではなく「人」で決まる。

2)正社員とは誰もが幹部候補であり、原則出世していく。

このどちらもが、日本固有のもので、他国においては(例外としては存在しますが)一般的ではないものなのです。

そのたった二つの公理から、日本特有の雇用の特徴が次々と生み出されていきます。

・・・・・・・・・

こんな話がすべて、「公理」を元に説明できる。・・・

この本では、この二つの公理が生み出す功罪を明らかにしていきたいと思っています。

「ジョブ」と「メンバーシップ」からすべてをコロラリーとして説明するわたくしと極めてよく似ている、という点だけではなく、それで「功罪」を明らかにするというところにこそ注目して欲しいと思います。

そう、売らんかな主義の評論家になればなるほど、「功罪」を客観的に論ずるというスタンスが薄れていき、ひたすら「功」ばかりを言いつのったり、「罪」ばかりをあげつらったりしがちです。そういう議論は、確かに表層的なマスコミ受けはするし、ネット上では人気を博したりするでしょうが、地に足のついた議論をしようとする人々にとっては、有害以外のなにものでもありません。

海老原理論の醍醐味は、なによりもこの「功罪」の論じ方の妙味にこそあるといってもいいでしょう。

さて、本書では、今野晴貴さんの解説の前に著者による「おわりに」がありますが、ここでわたくしとのある意味でエールの交換のような記述があります。

・・・二つ目は、件の濱口桂一郎さんとの度重なるセッション。雑誌やセミナーで、もう七回ほど氏とは意見を交わさせていただきました。そして、話し込むほどに、これほど雇用に関して見方が一致する人が世の中にいるのか、と嬉しく感じていたのです。

しかも、氏の言葉のセンス。日本型職務契約のことを「メンバーシップ型雇用」、総合職=全員幹部候補生に関しては「誰もがエリートを夢見る社会」、四十代定年制を議論したときには「日本型階段を残したまま、それについていけない人を切り捨てるだけ」と冷水を浴びせ、解雇権緩和のセミナーでは「会社の一員になるという労働観から、会社とは職務でのみつながるという欧米的常識への移行がまず必要」とばっさり。この本でもこうした氏の言葉・理論・概念をいくつか借用しています。

こんな感化を受けてきた人間としては、オマージュ的なものが書きたく、その中に、氏と解釈が異なるいくつかの側面も織り込んで、挑戦をしてみたいと思ったこと。それが二つ目の理由になります。・・・

いやいや、海老原さんにオマージュと言われると裸足で逃げ出しますが、全体が私とのエール交換になっていることは上で述べたとおりです。

最後に載っている今野晴貴さんの解説も大変深くて、一見対照的な立場にいるように見える海老原さんと今野さんが、真摯に現実に真正面から向かい合おうとするその姿勢において、まったく一致していることを見事に物語っています。

そう、雇用、労働に関する本には、ポジショントークで、ある現実を誇張し、別の現実を無視するていのものが結構多いのですが、そうじゃない本当に信頼できる論者というのはどういう人々であるかを、この解説は浮き彫りにしています。

「賃金に関する政労使協議」@『労基旬報』

『労基旬報』10月25日号に、「賃金に関する政労使協議」を寄稿しました。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roukijunpo131025.html

 安倍内閣はデフレ脱却を旗印に掲げ、「異次元」の金融緩和を中心とし、「国土強靱化」などの財政支出も併せた積極的な経済政策を打ち出してきました。世界的に見ると、こうした積極的金融・財政政策を主張するのは社会民主党をはじめとした左派勢力であって、右派勢力の方が緊縮的政策を主張するのが常識ですが、日本ではなぜか経済政策における左右の対立が逆転してしまっており、このこと自体が外国人に説明するのが大変困難を感じるところです。とはいえ、諸外国でも経済政策の対立図式はそれほど固定的ではなく、景気の状況判断によって保守派がケインジアンになったり、革新派が緊縮派になったりすることもよくあります。

 とはいえ、労使の賃金交渉に手を突っ込んで、賃金を引き上げろとか引き上げるなというような話は、それが労使自治を犯すものであることからも、そう簡単に手を出せる話ではないというのが、やはり世界の常識でしょう。もっとも、オイルショック後のインフレと不況が組み合わさったスタグフレーションを収めるために、政府が労働組合に賃金の抑制を頼むということは、先進国共通にかなり見られたことも確かです。そのもっとも有名な実例が、オランダの政労使協議で合意に達したいわゆるワッセナー合意です。減税と時短と賃金抑制の三方一両損を各側が呑むことで、その後のオランダ経済の回復に大いに貢献したと評されています。

 そういう賃金抑制への介入の例はありますが、政府が労使に対してもっと賃金を引き上げろと発破をかけたなどという話は聞いたことがありません。よほど労働側寄りの社会民主主義政権でも、そこまで踏み込むことはいささか腰が引けるのではないでしょうか。それをあえて行おうとしているのが、日本の保守政権である安倍内閣だというのですから、これを外国人に説明するのはさらに困難を極めることになります。政府が介入しなければならないくらい、労働組合が賃金の引き上げを求めなくなってしまっているというのであれば、もはや理解することは困難でしょう。

 去る9月20日に安倍内閣は第1回の「経済の好循環実現に向けた政労使会議」を開催し、間接的な表現ながら経済界に賃上げを要請しました。この会議が今後どういう形で動いていくかはわかりませんが、世界の常識からするとかなり異例の政労使協議であることは間違いありません。そういう異例の事態を必要とするほど、現在の日本の労働社会のありようが異例になってしまっているということなのかも知れません。
 

日本人、学歴高すぎ?@朝日 にコメント

今朝の朝日新聞の教育面に、「日本人、学歴高すぎ? 仕事に必要以上に「ある」・・・3割」という記事が載っていますが、

http://www.asahi.com/articles/TKY201310230447.html()日本人、学歴高すぎ? 仕事上の必要以上に「ある」3割

仕事に必要な学歴より、自分の学歴の方が高い「オーバー・クォリフィケーション」の状態にある人が日本では3割超-。経済協力開発機構(OECD)が発表した国際成人力調査(PIAAC)で、そんな結果が出た。23の参加国・地域で最多だった。・・・

この記事は具体的な数値データを並べた上で、2人の識者のコメントを載せています。

1人目は教育社会学者として、本田由紀さんが、

「学歴がスキルの水準を示す指標として機能していないことの表れではないか。高校や専門学校、大学教育の質が保証されておらず、同じ学歴でもスキルの分散が大きいのが日本の現状だ」

と述べています。

2人目は不肖わたくしが、

「日本では就職してから、仕事を覚えていくスタイルが一般的。企業は潜在力を求めるのでオーバー・クォリフィケーションの人が多くなる。一方、一度就職のシステムからこぼれ落ちると、それなりのクォリフィケーションがあっても発揮する場が与えられない社会構造になっている」

と述べています。

このコメントはやや言葉足らず気味ですが、拙著『若者と労働』に詳しくその社会構造の絵解きをしていますので、関心のある方は是非。

2013年10月23日 (水)

韓国が「仕事・学習デュアルシステム」を導入

韓国といえば、近年日本を超えて大学進学率が急上昇し、就職できない若者が大量に発生するという事態が伝えられていましたが、他の分野と同様、やたらに政策のスピードが速く、先月には「仕事・学習デュアルシステム」が導入されたそうです。

http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2013_10/korea_01.htm

政府は9月11日、「韓国型仕事・学習デュアルシステムの導入計画」を経済関係閣僚会議で決定し、発表した。この計画は、人材のミスマッチや企業の再教育などの問題を解決することを目的としている。大学に進学する代わりに企業へ就職した後、週2日は学校で学習し、3日は企業で実務教育を受けて大学の学位や資格を取得することができる教育訓練制度が導入される。

このデュアルシステムは、企業が訓練生を労働者として採用し、連携学校などでの理論教育や企業での実践的なトレーニングを行った後、評価を経て、学歴や資格を認める制度であり、世界的に普及している「仕事ベースの学習(Work based learning)」の1つである。週に1~2日は学校で学習し、3~4日は企業で実務を学ぶドイツのデュアルシステムを韓国の実情に合わせたものである。

例えば、特殊分野の職業教育を集中的に行う特性化高校の3年生2学期の在学生が関連企業に就職して体系的な教育を受け、評価・認証プロセスを通過すると、教育のレベルと期間に応じて高校、専門学校や4年制大学の学位や資格が認められる。また、昇進や賃金の面でも同じレベルの一般的な学校の卒業生と同等の待遇で企業に就職できるというのが今回の計画の骨子である。

政府は今年、140億ウォンの予算(雇用福祉基金)を投入して50社の企業で試験的にこのシステムを運用する。来年は500億ウォンの予算を配分してデュアルシステムの定着に注力する。2017年までに対象企業を1万社に増やし、合計10万人の雇用を創出する計画である。

それに伴い、企業がカスタマイズされたトレーニングプログラムを開発できるよう、専門家による助言提供や現場トレーナーを対象とする教授法教育などの支援を行う。参加する学生に対しては、兵役に就く代わりに国家産業育成のため研究・生産・製造などに従事する産業技能要員や専門研究要員として優遇するとともに理論教育を提供し、後に進学する大学の授業料を減免する。仕事・学習デュアルシステムに参加する大学等は、政府の財政支援事業(専門大学の特性化、産学協力機構(LINC)事業など)の対象に優先的に選抜される。また、デュアルシステムに参加する学生と企業の権利・義務を盛り込んだ法律を制定し、労働条件や労働安全などの保護システムを構築する。

このシステムの導入により、就職予備軍の労働者は不必要な資格を取得することなく迅速に就業し、企業現場の実務に関する教育・訓練を受けることができる。迅速かつ容易に自分の職務能力を向上させ、必要な資格と大卒の学歴などを一緒に取得することができると期待されている。また、企業は質の高い人材を事前に選抜する機会を得る。訓練を通じた企業ビジョンの共有や現場への早期適応を支援することにより、労働者の長期勤続を促し不必要な再教育コストを削減できると期待されている。

国家レベルでは、大学進学に伴う機会費用、教育費用や大卒過剰学歴問題等に伴う社会的なコストを経済成長の原動力に転換することができる。さらに、能力に応じて就業・昇進が可能な能力中心社会の実現に寄与することが期待されている。

バン・ハナム雇用労働部長官は、「システムが定着するよう現場の声に耳を傾け、継続的に制度を補完し、政府が目指す能力中心社会を実現するよう最善を尽くす」と述べた。

労働政策のどの分野でも、日本の方がずいぶん早くからああするかこうするかという議論をえんえんと繰り広げている間に、あとからやって来た韓国が先にその政策をやってしまうという現象が多く観察されますが、これもその一例でしょうか。

先日韓国から来た研究者とお話しした際も、この政策論議と実行の日韓逆転現象が話題になりました。大統領制でトップダウンの仕組みだから、というのがとりあえずの答えですが、もう少し社会風潮みたいなものもあるのかも知れません。

西谷敏『労働法[第2版]』

06351西谷敏『労働法[第2版]』(日本評論社)をお送りいただきました。言うまでもなく関西労働法界の中心的存在である西谷さんのテキストですが、5年前の初版が約600ページだったのが、なんと700ページを超える分量に膨れあがっています。

http://www.nippyo.co.jp/book/6351.html

全体にかなり細かく構成が変わったり、新たな書き込みがされたりしていますが、やはり今回の改訂の中心は、「第11章 非典型労働関係」でしょう。初版では「第10章 非典型労働関係」はパートタイムと派遣だけで、始めにごく簡単な概観があるだけで、非正規の中心である有期労働は、労働契約の成立の最後の期間のところと、労働契約の終了の解雇の次に雇止めとして書かれていただけですが、これがずっしりと入ってきています。

それは労働契約法の改正があったので当然とも言えますが、この章の最初に「非正規労働者の実態と法的課題」という節が設けられ、その法的課題の「非正規労働者の将来像」という中に「限定正社員(ジョブ型正社員)」についても約1ページにわたって論じられています。

ここは、現下の議論の焦点の一つでもあり、ややもすれば既存のメンバーシップ感覚にどっぷりつかってジョブ型を否定する議論が横行しがちであるだけに、こういうバランス感覚を持ちつつ批判的な記述は(とりわけジョブ型に批判的な人々にこそ)読まれるべきでしょう。

・・・勤務地や職種を限定するという雇用のあり方は、ヨーロッパ諸国で広く見られるところであり、日本でも、コース別雇用管理における一般職をはじめとして、さまざまな形で職種や勤務地を限定された正社員が存在する。無限定名配置転換が大きな問題となっている今日、正社員全体の働き方をこうした方向に改革していくというのであれば、望ましいことと言える。

しかし、現在政策として打ち出されている「限定正社員」構想は、企業への全面奉仕を求められる正社員の働き方や、非正規労働者の低賃金と不安定雇用を前提とした上で、その中間に新たな階層を創り出そうとするものである。

・・・正規・非正規問題を改革する基本的な方向は、正社員の働き方と非正規労働者の待遇を、いずれもディーセント・ワークの名にふさわしいものに変革しつつ、その接近を図っていくことである。実現に時間がかかるにしても、そうした方向そのものは明確化される必要がある。


2013年10月22日 (火)

インドネシア訪日団へのレクチュア

本日、インドネシア政府の労働行政担当者らの訪日団に対して、日本における三者構成原則の歴史と最近の動向についてレクチュアいたしました。

第一次大戦後のILO総会に日本の労働者代表を送る際の混乱から始まって、戦前戦後の進展、さらに近年の規制改革会議福井秀夫氏による三者構成原則への正面批判、民主党政権の「政治主導」の労働者を無視した帰結、そして今年に入ってからの特区騒ぎや、一方で政労使協議による賃上げ問題など、一通り喋って2時間ほどになりましたな。

賃上げ政労使協議については、その直前に某方面から興味深い話を聞いていたりしましたが、もちろんそれはこちらの胸の内で。

『日本労働法学会誌』122号

Isbn9784589035462『日本労働法学会誌』122号が送られてきました。5月に鹿児島大学で行われた125回大会の記録などです。

http://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-03546-2

《特別講演》
私の研究遍歴
 ―労働者の人格権をめぐって…………角田邦重

《シンポジウムⅠ》職場のメンタルヘルスと法
シンポジウムの趣旨と総括
   …………………………鎌田耕一・三柴丈典
使用者の健康配慮義務と労働者のメンタルヘ
 ルス情報…………………………………水島郁子
メンタルヘルス不調者の処遇をめぐる法律問題
 ―休職に関する法理の検討を中心に
   ………………………………………坂井岳夫
諸外国のメンタルヘルスと法……………三柴丈典

《シンポジウムⅡ》公務における「自律的労
 使関係制度」の確立の意義と課題
シンポジウムの趣旨と総括………………根本 到
公務における自律的労使関係制度と議会統制
   ………………………………………清水 敏
公務員の労働基本権と勤務条件法定主義との
 調整のあり方
 ―国公労法案を素材にして……………岡田俊宏
公務員法における法律・条例事項と協約事項
 ―公法学の視点から……………………下井康史

《シンポジウムⅢ》貧困と生活保障
 ―労働法と社会保障法の新たな連携
  シンポジウムの趣旨と総括…………石田 眞
〈報告要旨〉雇用と社会保障の新たな連携
 ―日本型生活保障の解体をふまえて
   ………………………………………宮本太郎
貧困と生活保障
 ―労働法の視点から……………………島田陽一
貧困と生活保障
 ―社会保障法の観点から………………菊池馨実

《個別報告》
イギリスにおけるハラスメントからの保護法
 とその周辺動向
 ―職場におけるdignityの保護 ………滝原啓允
企業組織再編と労働関係の帰趨
 ―ドイツ法における実体規制・手続規制の
  分析……………………………………成田史子
平等な賃金支払いの法理
 ―ドイツにおける労働法上の平等取扱い原
  則を手掛かりとして…………………島田裕子

《回顧と展望》
違法な労働者派遣と黙示の労働契約の成否
 ―マツダ防府工場事件・山口地判平25・3・13
   ………………………………………山本陽大
高年法上の継続雇用制度における再雇用拒否
 ―津田電気計器事件・最一小判平24・11・29
   ………………………………………富永晃一
国家公務員による政治的文書配布行為につい
 ての政治的行為制限違反の成否
 ―堀越事件・最二小判平24・12・7/世田谷
  事件・最二小判平24・12・7 ………川田琢之

《追悼》
久保敬治先生から教わったこと…………小嶌典明

日本学術会議報告………………………浅倉むつ子

日本労働法学会第125回大会記事
日本労働法学会第126回大会案内
日本労働法学会規約
SUMMARY

JILPTの山本陽大さんがマツダ派遣事件の評釈を書いていますが、ちょうど同時に、労弁塩見こと塩見卓也さんも名古屋大学の紀要に同じ事件の評釈を書いていて、そのスタンスがある面で対照的でもあり、読み比べると面白いと思います。

後藤和智『「あいつらは自分たちとは違う」という病』

9784284503426後藤和智さんより新著『「あいつらは自分たちとは違う」という病』(日本図書センター)をお送りいただきました。

若者へのバッシングも擁護ももういらない!
『「若者論」を疑え!』『お前が若者を語るな!』から5年……
繰り返される不毛な議論を終わらせるために! 著者渾身の1冊!

「今の若い世代は自分たちとは違う異常な世代だ」「自分たちの世代は上の世代とは違う特殊な世代だ」……
このような議論が根拠もなく繰り返されて、日本の世代論は社会に対する視点を失ってきました。今こそ、このような世代論の形成の経緯と問題点が問われるべきときです。

というわけで、後藤さん流のインチキ若者論叩き総棚卸しという感じです。

正直言って、労働社会政策に直接関わらないあたりは、こんなアホな言説が垂れ流されてきたのか、といささか人ごとのように改めて感心しますが、それが労働社会関係の言説分析に至ると、まさにわたくし自身がその劣化言説退治にてんてこ舞いしている当の世界につながってきます。どうしようもない連中がウヨウヨしてますからな。

ただ、わたくしの関心からすると、あれこれ手当たり次第に叩いている感があり、かえって話が拡散しすぎている感もあります。読み終えて、あまり印象に残った話がないのは、そのためかも知れません。

2013年10月21日 (月)

『若者と労働』への書評

Chuko本日(といっても暦日では既に昨日ですが)は、一橋大学で日本労働法学会だったのですが、大シンポのテーマが「債権法改正と労働法」という玄人的テーマだったので、本ブログではパス。

例によって、最近数日の拙著『若者と労働』への書評から、

「愛知県 名古屋 丸の内 弁護士加藤英男の弁護士日誌余白メモ」という長いタイトルのブログから、

http://ameblo.jp/bengoshi-kato-hideo/entry-11640899798.html(ヤフーニュース:「学歴選別強まる就活の裏側~中位大学以下はエントリーすらできない?」)

濱口桂一郎「若者と労働」(中公ラクレ) は、キレイ事抜きに、日本の社会、労働事情を示す「メンバーシップ型社会」の中での現実を顕わにしている。

何とかどこかに潜り込めた時代ではなくなった今、どこの大学に入学するか、入学後どう過ごすのか、戦略的、ないし、投資的な思考でプランニングするべきだろう。
残念ながら、中位大学以下の学生とカテゴライズされてしまいそうならば、他の選択肢を探さないといけない。
「メンバーシップ型」社会ではない企業、職種の中で、しかも、ブラック企業でないところに就職し、そこでも冷や飯食いの使い捨て面子にならないため、また、使い捨てされそうになったら自分から飛び出して行けるように、常に学び続けて行かねばならない。

「作業日誌」さんのかなり長めの突っ込んだ書評、

http://re10.hatenablog.com/entry/2013/10/20/191543(1020 ジム2回目)

・・・ 濱口桂一郎さんの「ジョブ型社員」と「メンバーシップ型社員」の区別は、台風の日に無理して出社しようとすることを説明するかもしれないな、と思いました。・・・

・・・ジョブ型なら「あなたの仕事はこれです」における「仕事」が成立しない日は休むのが合理的になりますが、「あなたの仕事」が曖昧で、対応能力=従順さが要求されるメンバーシップ型においては、「あるかもしれない仕事」に対応するために無理して出社するのも了解可能かもしれない、と思われるわけです・・・

この間にもっといろいろと書かれていますが、最後のところで、

『若者と労働』はそれにしても、面白い本です。若い人はこの本を読んで、多少広いパースペクティブから、「就活」を捉えたらいいんじゃないかな、と思います。ある種まだ、私たちの社会は若い人の就職に関しては、というか職に就くということ「だけ」に関していえば諸外国に比べはるかにイージーである、というようなことは知っておいてよいかもしれません(即戦力!は、実態を指示するというよりは、スローガンなんです)。

と推薦していただいております。

131039145988913400963ついでに、4年前の旧著『新しい労働社会』にも、改めて「もっと早く読んでおけば良かった」というご感想を述べていただいているブログが、

http://www.tokutei-sr.com/blog/2013/10/post-64.php(特定社会保険労務士ドットコム(千葉県佐倉市))

濱口桂一郎さんの「新しい労働社会 雇用システムの再構築へ」を読了しました。
感想は、一言で「もっと早く読んでおけば良かった」。
これは、労働問題に関わる者にとっての必読書です。
デフォルトルールとオプトアウト、勤務間インターバル制度、期間比例原則(プロ・ラータ・テンポリス)、フレクシキュリティ、職業的レリバンス(意義)、デュアルシステム、二つの正義(交換の正義と分配の正義)、ワークフェアまたはアクティベーション、社会的統合(ソーシャルインクルージョン)、メイク・ワーク・ペイ(働くことが得になるような社会)、産業民主主義やステークホルダー民主主義、ILOの三者構成原則などなど、刺激的なアイディアで一杯です。

2013年10月20日 (日)

『福祉+α 5福祉と労働・雇用』総論への短評

120806先月刊行されたわたくしの編著による『福祉+α 5福祉と労働・雇用』(ミネルヴァ書房)について、ツイートで短評を頂きました。

わたくしの書いた総論「福祉と労働・雇用のはざまで」についてのコメントですが、

https://twitter.com/scutum13/status/391545412680560640

濱口桂一郎編著「福祉と労働・雇用」、編著者の総論を読んだが、身がよじれるような奇妙な感覚だった。

https://twitter.com/scutum13/status/391546074369777665

正規雇用になって、自分が直面している仕事上の環境に必死に適応しようとしている自らの現実的な状況と、日本のねじれまくった雇用・福祉システムの指摘はなかなか、それこそ「ねじれ」という感覚になる。

https://twitter.com/scutum13/status/391547216155779073

これ70~80年代の日本的雇用全盛期に青年期をすごした方が読むともう自分の過ごしてきたシステムの前提部分の矛盾を完全に指摘されるものだから、頭がおかしくなっちゃうんじゃないかと思う。

https://twitter.com/scutum13/status/391547784785977344

ちなみに「自分が直面している仕事上の環境」とは目標管理制度によって強制される職務遂行能力への自己評価、上司による評価と、それを元にした目標達成へのプレッシャー、それと全く別軸で、居住地域と職務の無限定性。

https://twitter.com/scutum13/status/391548213330579456

日本的雇用、福祉システムの矛盾を知ったりするよりも職場の現実に適応する方が、現実的に優先順位が高いから、もう読むのやめちゃおう!となりかねない。

https://twitter.com/scutum13/status/391548262697545728

まいった。

いや、読むのをやめちゃわないでくださいね。

以下のように、若手研究者による優れた各論が目白押しに並んでいます。

はしがき 濱口桂一郎
総論 福祉と労働・雇用のはざまで 濱口桂一郎
1 雇用保険と生活保護の間にある「空白地帯」と就労支援 岩名(宮寺)由佳
2 高齢者の雇用対策と所得保障制度のあり方 金明中
3 学校から職業への移行 堀有喜衣
4 障害者の福祉と雇用 長谷川珠子
5 女性雇用と児童福祉と「子育て支援」 武石恵美子
6 労働時間と家庭生活 池田心豪
7 労災補償と健康保険と「過労死・過労自殺」 笠木映里
8 年功賃金をめぐる言説と児童手当制度 北明美
9 最低賃金と生活保護と「ベーシック・インカム」 神吉知郁子
10 非正規雇用と社会保険との亀裂 永瀬伸子
11 医療従事者の長時間労働 中島勧
12 外国人「労働者」と外国人「住民」 橋本由紀

2013年10月19日 (土)

経済産業省の委託事業仕様書に・・・

経済産業省のホームページの入札情報のところに、「各国の働き方の実態から見た労働法制・雇用制度に関する調査」ってのが載っています、

http://www.meti.go.jp/information_2/data/201310150002.html

なんで「民間の経済活力の向上及び対外経済関係の円滑な発展を中心とする経済及び産業の発展並びに鉱物資源及びエネルギーの安定的かつ効率的な供給の確保を図ることを任務とする」はずの経済産業省が「労働法制・雇用制度」の調査をするんだ、ってのはとりあえず置いといて、

その「仕様書」を覗いてみたところ、「背景と目的」として次のように書かれてました。

http://www.meti.go.jp/information_2/downloadfiles/2013101514250003.pdf

平成25年6月14日、政府は、「日本再興戦略」を閣議決定した。同戦略で、産業競争力会議や規制改革会議の答申を踏まえ、我が国の経済成長を確実に実現していくため、人材こそが我が国の世界に誇る最大の資源であるとして、戦後の高度経済成長の時代に作られた雇用システムを大胆に変え、少子高齢化に歯止めをかけ潜在成長率を高めることとし、様々な規制・制度改革等の施策を打ち出している。

その中で、「多様な働き方実現」のため、個人がそれぞれのライフスタイルや希望に応じて、社会での活躍の場を見出せるよう、例えば、企画業務型裁量労働制を始めとした労働時間法制の見直しや、職務等に着目した「多様な正社員」モデルの普及・促進を図るための労働条件の明示等、雇用管理上の留意点についての取りまとめ等が検討対象とされている。

加えて「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策転換(失業なき労働移動の実現)」を大きな柱の一つとして、失業なき労働移動を円滑にサポートできる労働市場の充実など、早急に対応策を検討することが重要とされている。

他方、各国の就業形態や労働市場の在り方は、労働者の勤労意識や職業観を基盤とする個人のライフスタイル・ワークスタイル、雇用形態がメンバーシップ型かジョブ型かといった雇用慣行の差異などの様々な要因が相互に影響を与えながら変化してきている。

本事業においては、各国の就業形態や労働市場の形式に伴う働き方の実態を明確化するとともに、それらを取り巻く労働法制・雇用制度(とりわけ「労働時間制度」、「労働市場円滑化に関する制度」)について、体系的に調査、整理し、日本における多様な働き方の実現のための検討材料とする。

なんだか、いろんな話がてんこ盛りになっていますが、メンバーシップ型とかジョブ型という言葉も顔を出しているようです。

この後の「委託調査事業の内容」にも、

日本及び海外各国の、メンバーシップ型・ジョブ型といった慣行的雇用システム及びそれに伴う採用の在り方や転職、解雇の実態など、働き方の実態について明らかにするとともに、それらを取り巻く労働法制等の特徴、関連制度の概要や状況等について整理する。・・・

日本及び海外各国における労働者の転職意欲や企業への忠誠心・依存心等の職業観、メンバーシップ型・ジョブ型といった慣行的雇用システムやそれに伴う終身雇用や年功序列制度等、労働市場の流動システムに影響を与えている働き方の実態、社会的背景について比較により明らかにするとともに、それらを取り巻く労働市場円滑化に関する法制度(職業訓練・能力開発、失業保険等の雇用保険制度、解雇規制等)等の概況、状況等について調査し、日本と各国における定性的・定量的比較を行う。・・・

などという表現が。

こういうのを見てまた怒りの炎を燃え立たせる人々もいそうです。

2013年10月18日 (金)

「有期雇用の特例」に魅力を感じる人はいるのか?

例の特区騒動が、一応決着したようです。

第10回日本経済再生本部に提出された「国家戦略特区における規制改革事項等の検討方針(案)」によると、

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/dai10/siryou.pdf

雇用の部分はこうなっています。まず、一番声高に騒いでいた解雇の話は、

(1) 雇用条件の明確化

・ 新規開業直後の企業及びグローバル企業等が、我が国の雇用ルールを的確に理解し、予見可能性を高めることにより、紛争を生じることなく事業展開することが容易となるよう、「雇用労働相談センター(仮称)」を設置する。

・ また、裁判例の分析・類型化による「雇用ガイドライン」を活用し、個別労働関係紛争の未然防止、予見可能性の向上を図る。

・ 本センターは、特区毎に設置する統合推進本部の下に置くものとし、本センターでは、新規開業直後の企業及びグローバル企業の投資判断等に資するため、企業からの要請に応じ、雇用管理や労働契約事項が上記ガイドラインに沿っているかどうかなど、具体的事例に即した相談、助言サービスを事前段階から実施する。

・ 以上の趣旨を、臨時国会に提出する特区関連法案の中に盛り込む。

どれも、まことにけっこうなことですが、雇用条件の明確化は新規開業企業やグローバル企業だけではなく、全国どこでもどんな企業でも必要なことのはずではあります。

ま、これこそ、特区から全国展開していくべき望ましい政策というべきでありましょうか。

次の有期の話は、どうもおかしな話になっているように見えます。

(2) 有期雇用の特例

・ 例えば、これからオリンピックまでのプロジェクトを実施する企業が、7年間限定で更新する代わりに無期転換権を発生させることなく高い待遇を提示し優秀な人材を集めることは、現行制度上はできない。

・ したがって、新規開業直後の企業やグローバル企業をはじめとする企業等の中で重要かつ時限的な事業に従事している有期労働者であって、「高度な専門的知識等を有している者」で「比較的高収入を得ている者」などを対象に、無期転換申込権発生までの期間の在り方、その際に労働契約が適切に行われるための必要な措置等について、全国規模の規制改革として労働政策審議会において早急に検討を行い、その結果を踏まえ、平成26年通常国会に所要の法案を提出する。

・ 以上の趣旨を、臨時国会に提出する特区関連法案の中に盛り込む。

はじめのポツは、昨日のエントリで述べた労働基準法第14条第1項本文の規定を知らないで書いているとは思えないので、

第十四条  労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。

つまり、

・・・現行法でも、プロジェクトのための雇用なら5年であろうが10年であろうがその期間を定めた労働契約を締結することが可能で、その場合反復更新はしていないのだから、5年経とうが10年経とうが無期化することもあり得ないわけなんですがね。

この検討方針の認識では、たとえば7年間のプロジェクトに必要な人材を、労働基準法で認められた7年契約の有期雇用で雇うことをあえてしないで、わざわざ1年刻みの短い有期契約にして、1年ごとに小刻みに更新して、そのくせ無期にすることも嫌がって、それで7年目まで使い続けたいというニーズに、わざわざ対応しなければならないということなんでしょうね。

よく理解できないのは、それが「7年間限定で更新する代わりに無期転換権を発生させることなく高い待遇を提示し優秀な人材を集めることは、現行制度上はできない」という理屈になっていることです。

いや、1年刻みで、何年目に切られるかも知れない不安定な状態におくよりも、プロジェクトが予定されている7年間という長期間、安心してじっくりと仕事をしてね、更新なしだからそれで終わりだけど、という方が、その集められるはずの「優秀な人材」氏にとっても、はるかに「高い待遇を提示」していることになるんじゃないかと思うんですが、何故それを嫌がるのでしょうか。

7年契約で雇おうと思えばいくらでもできるのに、、必死にそれを免れたがるような企業に、わざわざ雇われたがる「優秀な人材」って、どういう人かしら。そんな企業に魅力を感じる人なんているのかしら、と次々に疑問がわいてきます。

言うまでもなく、はじめから7年間限定なのだから、メンバーシップ型正社員みたいに定年まで責任を負うわけじゃない。あくまでもプロジェクトの期間だけの有期雇用でプロジェクト終了後は後腐れもないのに、それを嫌がる本当の理由を是非聞いてみたいところです。

ま、そういうあまりにも当たり前の疑問は、「全国規模の規制改革として労働政策審議会において早急に検討を行」う中で、審議会の委員の皆様方から提示されると思われますので、誰かそれにきちんと答えられる人(少なくとも厚生労働省の担当者ではないはず)を呼び出して、ちゃんと答えてもらう必要がありそうですね。

まさか、さんざんぱら役人相手に岩盤の何のとわめき散らしていた御仁が、いざ公労使三者構成の審議会で説明を求められて逃げ回るなどという醜態をさらすことはないと信じていますが。

2013年10月17日 (木)

第1回経済の好循環実現検討専門チーム会議の議事要旨

去る9月24日に、わたくしも呼ばれた内閣府の「経済の好循環実現検討専門チーム」の第1回会議の議事要旨が、内閣府のHPにアップされていました。

http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/k-s-kouzou/shiryou/1thgijiyoshi.pdf

議事要旨なので、大筋だけですが、大体どんな議論がされたかはわかると思います。

○吉川座長より議事の進行に続いて事務局より資料説明。

○山田調査部長のプレゼンテーション概要は以下のとおり

・デフレと賃金は強い相関関係を持っている。
・10年以上にわたり賃金が下落基調にあったのは先進国では日本だけである。
・アメリカでは、新規事業創造で価格を引き上げ、高賃金で優秀な人材を獲得するビジネスモデル、雇用は不安定。ヨーロッパでは、ブランド差別化で高価格を維持、労働組合が強いので、高賃金を高価格で吸収するビジネスモデル、副作用として高失業。
・日本は、賃金が上がらなくとも雇用が維持されればいいというビジネスモデル。
・日本の賃金下落が続いたのはビジネスモデルの違いに起因。
・日本では、バブル崩壊後の不況下、労使の関係が変化。労使とも賃金抑制・雇用維持を志向する中、春闘を通じて賃金水準を底上げする機能が消滅。
・大企業とりわけ製造業・大企業の行動様式が日本経済全体に及ぼす影響が大きく、産業別・規模別にみると、賃金の動きは大企業・製造業が他部門に先行している。
・大企業・製造業の実質生産性の上昇、付加価値生産性の低下の背景は、採算がとれないような事業を整理できていないことによる。
・事業再編を好景気時にやりやすくし、賃金が生産性に見合って上がっていくという労使の
暗黙の合意というものをもう一回復活させることが重要。
・プロフェッショナル労働市場が発達した米国では好況期には転職が活発化して賃金が上昇、企業横断的労働組合の力の強い欧州では労使交渉で賃金が上昇しているが、日本はいずれの状況にもなく、政による仕掛けづくりが必要。
・「縮小均衡」から脱出できなければ共倒れになるという、労使の危機意識共有が必要。

濱口統括研究員のプレゼンテーション概要は以下のとおり

・EUでは、制度や政策については公労使の3者で協議して決め、賃金決定は労使の2者で決定する(条約で労働社会政策については、労使団体に協議し、合意すれば指令となる仕組み。条約上で、賃金に関することは権限から除外)。
・EUでは、生産性を上回る賃金上昇の抑制が課題となってきている。
・賃金上昇を抑制しようとする経営側に対し、労働側はデフレに陥る危険性を指摘しており、日本とは逆の議論。

○事務局説明及び委員プレゼンテーションに関する意見交換

・労使自治のもとでは、デフレ脱却のための賃上げは、労組や企業からは出てこない。
・近年、個社の賃金決定において、他社の対応や物価動向の影響が弱まり、代わりに利益率等が重視されるようになっている。こうしたなか、足元の利益率の上昇にはマクロ政策が多分に寄与しており、デフレ脱却のための賃上げに向けて、政府が努力することが合理的。
・労使に、ガラス張りで議論する場を提供することは、社会に情報を行き渡らせることに繋がる。
・平均賃金の議論では、労働者の構成が重要。生活者は一人当たり賃金で考えるが、企業は時間当たり賃金で考える。実質賃金について、生活者はCPIとの関連で名目賃金を考えるが、企業は生産物の価格との相対関係で名目賃金水準を考える。
・大企業の労働分配率は2008年以降上昇している。賃金を引き上げることで、今後、労働分配率が上昇するのか、それとも、消費増加→企業収益の増加に繋がることで、労働分配率が下がるのかがポイント。
・労働分配率は景気変動を受けた循環的な動きを示す面もある。90年代に労働分配率が上昇しているのは、単に不況の影響。
・生産性は実質で考えがちであるが、賃金の原資は付加価値である点を踏まえると、名目で考えることも必要。実質の生産性の高い伸びに名目が連動しないこと、すなわち、技術で勝って事業で負けているのが日本企業の問題。
・顕在化しているニーズだけでなく、新たなニーズを創出する必要もある。
・労働の移動先がなければ労働移動はできない。移動先を示す必要がある。
・移動先を作るのは、正に企業の役割。
・サービスの生産性が高まらないのは、サービスに対する対価がきちんと支払われないため。
・生産性はモノとカネを分けて考える必要。非製造業は製造業以上にカネの伸びが低い。非製造業の生産性の向上は人減らしではなく、マーケットをどう拡大し、売り上げをどう増やすかがポイント。
・サービス業でもプロダクトイノベーションはある。例えば、鉄道事業では、付加価値ある特別列車が満員になるという事例がみられる。行列ができるラーメン屋も同様。消費者のニーズをつかむことが重要。宅急便は郵便小包があるなか、(消費者ニーズをうまくつかみ)急成長した。
・ドイツでは賃金上昇が抑制される一方で、労働時間のフレキシビリティーが高まっている。結果的にうまくいっているといわれるが、労働側が賃上げ要求を抑制したわけではない。しっかり要求し交渉した結果。
・ドイツモデルがうまくいっていると言われるのは、デュアルシステムがうまく機能することで、フランス等と比べて若者の失業が少ないから。デュアルシステムとは、労働市場に出る前に、企業等で経験を積む仕組み。通常は高校生を対象とするが、近年は進学率の上昇から専門大学生が増えている。

○最後に吉川座長より、次回の予定について連絡があった。

興味深かったのは、それぞれのプレゼンの後の議論で、サービスの生産性の話になったことです。それも、「サービスの生産性が高まらないのは、サービスに対する対価がきちんと支払われないため」というような、まさに本ブログでも論じてきた問題がこういう場できちんと議論されたことに、いささか感動しました。

この後、10月4日には2回目の会議が開かれているようで、その議事要旨もアップされています。

http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/k-s-kouzou/shiryou/2thgijiyoshi.pdf

これを読むと、とりわけ脇田成さんのプレゼン内容が興味深いですね。

雇用特区は断念、有期は10年へ?

いろんな新聞がてんでにいろんなことを報じており、しかも読めば読むほど、書いてる記者のリテラシーに問題があるのか、そのソースになった政府のどこかの労働担当じゃない機関の中の人のリテラシーに問題があるのか、意味不明の記述がてんこ盛りで、解きほぐすのに苦労しますが、ミステリーでも読むつもりで見ていきましょうか。

まず、読売が報じたこれ。

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20131016-OYT1T01460.htm?from=ylist(雇用規制緩和特区、断念へ…厚労省の反発に配慮)

政府は16日、成長戦略の柱に位置づける「国家戦略特区」で導入する規制緩和について、焦点となっていた「解雇ルール」など、検討してきた雇用に関する全3項目を見送る方針を固めた。

安倍首相は16日、首相官邸で菅官房長官、甘利経済再生相、新藤総務相と協議し、こうした方針を大筋で了承し、詳細を詰めるよう指示した。

既に労働時間は諦めると報じられていたし、今朝の朝日でも有期は特区を諦めると出ていたので、昨日のエントリの通り法理論上不可能な解雇権濫用法理の特例措置を設ける特区しか残っておらず、それはそもそも理論的に無理なので、全部消えるのはまことに論理的な帰結といえましょう。

ただ、日経新聞は妙なことを報じていて、朝日も似たことを報じています。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1603W_W3A011C1MM8000/?dg=1有期雇用10年に延長 特区での解雇は対象絞る

政府は16日、有期雇用の期間を最長5年から最長10年に延長する方針を固めた。企業の雇い止めを防ぎ、パートや契約社員が5年を超えて働きやすくする狙いからで、来年の通常国会に労働契約法の改正案を提出する。解雇ルールを柔軟に設定できる政策は地域限定の「国家戦略特区」で、対象企業などを絞り込むことになった。

こちらは労働契約法18条による民事上の強行規定ですから、変えることは可能ですが、特区ではなく、全国でやるという話のようです。

で、その全国ベースの有期10年という話ですが、朝日によると、

・・・しかし、厚労省が特区内外で労働規制に差を付けることに難色を示し、全国一律での見直し案が浮上。これを受け、政府は、臨時国会に提出する国家戦略特区の関連法案では特区での導入を見送る方針。

来年の通常国会で制度改正を目指す方向性を盛り込むが、労働界の強い反発も予想され、実現までのハードルは高そうだ。・・・

現状でも、労働契約期間の上限は原則3年が、専門職なら5年なので、その反復更新の無期化の期限が原則5年が10年になるというのは、理屈としてあり得ないことではないとも言えます。

ただ、どうも記事を読む限り、労働法制がちゃんとわかっていないのではないかと思われるふしがあり、例えば日経には、

・・・例えば2020年の東京五輪に向けて企業が施設整備などのプロジェクトを手がけた場合、現行では有期の契約社員やパートを雇っても五年超で無期雇用に転換するか、新たな人材に切り替える必要がある。10年に延ばせば、企業は同じ人材でプロジェクトを進められる。・・・

などと書いているんですが、いや、現行法でも、プロジェクトのための雇用なら5年であろうが10年であろうがその期間を定めた労働契約を締結することが可能で、その場合反復更新はしていないのだから、5年経とうが10年経とうが無期化することもあり得ないわけなんですがね。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO049.html

第十四条  労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。

法学部の試験でこんなことを書いたらそれだけで落第間違いなしですが、それでも新聞記者や政府の中の人が務まってしまうというのですから、日本はいい国です。

なお、日経がまだ未練たらたらな解雇の話は、朝日によると、

・・・一方、政府が雇用契約のガイドラインを作り、解雇のルールを明確にする仕組みは、文言を「雇用条件の明確化」に変え、関連法案に盛り込むことなどで調整が続いている。

ということで、なんだい、これって、例のジョブ型正社員ないし限定正社員の契約ルールという話じゃないですか。契約に職務や勤務地が明確に限定され、それを遵守することによって、結果的に整理解雇が客観的に合理的と判断されるシチュエーションが増えるという話と、解雇規制の特例措置って話とは、もはや何の関係もない別の物語と言うべきでしょう。

一方で、そのジョブ型正社員を目の敵のように攻撃してやまない経済評論家諸氏は、こちらのジョブ型ルールにはどういう態度で臨まれるのか、これまた興味深いところです。

(追記)

で、新聞記者のリテラシーの違いを見せつけながら、話はこうして大団円に収束していくのであった・・・ということのようでありますな。

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013101701001959.html(政府、解雇規制の緩和見送る 外資企業向け雇用相談強化)

政府は17日、地域限定で規制を緩和する「国家戦略特区」で、解雇の条件や手続きを明確化し、従業員を解雇しやすくする制度の導入を見送る方針を固めた。厚生労働省が「雇用ルールを特区だけで変えるべきではない」と反対し、野党や労働組合が「解雇特区だ」と反発したことなどに配慮した。

外資系やベンチャー企業向けに、雇用ルールの相談に応じる組織を特区内で整備する。解雇など雇用ルールが分かりにくいとの指摘があり、相談体制を整備する。解雇規制の緩和見送りが固まったことで、労働特区は決着。当初案より大幅に縮小する。

始めから、存在しない実定法上の積極的な解雇規制を、あると信じ込んでドンキホーテよろしくやたらめったらに切り込んでみたあげく、そもそも始めから論理的に不能な解であったという恥ずかしい結論を表に出さないために、野党や厚労省の反発で諦めたことにして引っ込めるという武士の情けで、一件落着ということにしてもらったようであります。

そのおかげで、枯れ尾花を幽霊だと騒いで日銭を稼いでいる連中は、まだ当分の間、阿漕な日銭稼ぎの稼業が続けられるのでありましょうな。

2013年10月16日 (水)

主務大臣に求める「新たな規制の特例措置」ってのを見せてくれないかな

法律の条文に則して厳密に論理的に物事を考えるという訓練を受けていない人々が、ふわふわした新聞記事程度のことばだけであれこれもてあそんでいると、今みたいな事態になるんだなあ・・・という典型か。

昨日のエントリで紹介した産業競争力強化法案の具体的な文言があるのだから、それに即して、その雇用特区だか解雇特区だかで、具体的にどういう特例措置の求めの文書を、どの主務大臣に出そうというつもりなのか、耳をそろえてきちんと出してくれれば、できるできないもちゃんと言いようもあるのですけどねえ。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/10/post-4898.html(産業競争力強化法案)

http://www.meti.go.jp/press/2013/10/20131015001/20131015001-2.pdf(産業競争力強化法案要綱)

新たな規制の特例措置の適用を受けて新事業活動を実施しようとする者は、主務大臣に対し、当該新たな規制の特例措置の整備を求めることができるものとすること。

この法律において「規制の特例措置」とは、法律により規定された規制についての別に法律で定める法律の特例に関する措置及び政令又は主務省令により規定された規制についての政令等で規定する政令等の特例に関する措置であって、認定新事業活動計画に従って実施する新事業活動について適用されるものをいうものとすること。

この規定からして、その「規制の特例措置」というのは、「法律により規定された規制」か「政令又は主務省令により規定された規制」でなければならない。法律、政令、省令の第何条第何項と、ちゃんと指定できなければならない。

あまりにも当然のことながら、ここがちゃんとわかっているかどうかがかなり疑わしい人々が結構います。「そんなこと言ったって、現に日本ではなかなか解雇できないじゃないか!それを何とかするのがおまえの仕事だろ!」という無茶振りは、残念ながらこの法律の枠組みには載らない。法律上は解雇できることになっているのに、我が社では正社員に対してなかなかそうできないというのは、この法律でいう「法律により規定された規制」か「政令又は主務省令により規定された規制」ではないのですから。

いや、労働契約法第16条がその「法律により規定された規制」だっ、と次に言い出す人が出てくるわけですが、そうすると、それは論理必然的に、

第十六条  解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

の特例措置を設けろという話になるわけです。

「特例措置」というのは、原則たるこの労働契約法第16条の例外を作るという話以外ではあり得ませんね。論理的に。

ということは、(ガイドラインに定める等の)ある条件に該当する場合には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合であっても、その権利を濫用したものであっても、無効とならない。」とするということ以外ではあり得ませんね。

もし、、(ガイドラインに定める等の)ある条件に該当する場合には、上の規定の客観的に合理的な理由に該当するとか、社会通念上相当ということにするということを言いたいんであれば、それはそれで言いたいことはよくわかるんですが、とはいえ論理的には、それは「法律により規定された規制」の「特例措置」ではあり得ないのです。だって、それは労働契約法16条の論理的射程範囲内なのですから。客観的に合理的な理由であったり社会通念上相当であれば、権利濫用じゃないんだから、解雇していいんだよ!と、労働契約法16条はちゃんとお墨付きを出してくれているのです。条文をよく読んでね。そこのところがどこまでよくわかって言っているのか、はなはだ疑問を呈したくなるような法学的論理性の欠如した方々がうようよしていらっしゃるようですけど。

そもそも、法の基礎理論からして、権利濫用法理にせよ、信義誠実の原則にせよ、「公の秩序と善良の風俗」(いわゆる「公序良俗」)にせよ、こういったデウスアキスマキナ的な一般規定は、産業競争力強化法に基づいて特例措置を設けることができるような「規制」ではないわけです。そして、河野太郎氏にせよ、池田信夫氏にせよ、なぜか民法90条の公序良俗規定については(特段の根拠を示すこともなく)特区といえども特例措置を設けることができるような規制ではないと(適切に)理解しているのに、それと法論理的には全く同型的であるところの権利濫用法理については、産業競争力強化法に基づき「規制の特例措置」を設けることが可能であると思い込んでしまっているわけですね。

ま、何にせよ、こうして法案も出たことだし、これでいったい何ができるものなのか、実際にやってみればいいのではないでしょうかね。

法律の規定からすると、まずは「新たな規制の特例措置の適用を受けて新事業活動を実施しようとする者」が主務大臣に対してちゃんとこういう「規制の特例措置」を作ってくれと求めるところから始まるようなので、具体的にその求める文書とやらを起草して示していただけると大変有り難い。法律、政令、省令のどこをどういう風に特例を設けるのかを、明確に示した文書をね。

それが、(こういうのは客観的に合理的な理由とするというような)権利濫用法理の論理的射程範囲内に収まるような話であれば、「規制の特例措置」に該当しないので、中身の審査以前にそもそも取り上げることが不可能ということになります。少なくともこの産業競争力強化法の枠組みを使うのである限りは。

一方、そこに、権利濫用法理の適用を除外する云々とか書いてあったら、主務大臣は厚生労働大臣であるとともにより一層民法を所管する法務大臣ですから、こういう一般条項の「規制の特例措置」が可能であるかどうか、公序良俗なんかと一緒に、法制審議会ででもじっくり審議してもらえるのではないでしょうか。

物理的労働時間規制を強力に進めよ!@『情報労連REPORT』10月号

2013_10_2情報労連の機関誌『情報労連REPORT』の2013年10月号は「働く人を守る日本に!」という特集で、その中にわたくしも登場しています。これは電子ブックですが、

http://www.joho.or.jp/up_report/2013/10/_SWF_Window.html

わたくしの文章はこちらにもアップしてあります。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/johororen1310.html

6年前と同じ問題意識
 
 今年6月に閣議決定された「日本再興戦略」では、労働時間法制については「ワーク・ライフ・バランスや労働生産性向上の観点から、総合的に議論し、1年を目途に結論を得る」とのみ書かれ、具体的な方向性は示されていない。しかしながら、規制改革会議で示された検討課題としては、「企画業務型裁量労働制にかかる対象業務・対象労働者の拡大」「企画業務型裁量労働制にかかる手続の簡素化」「事務系や研究開発系等の労働者の働き方に適した労働時間制度の創設」といった項目が並んでおり、6年前にホワイトカラーエグゼンプションが話題になったときと似たような問題意識が感じられる。
 
「プロフェッショナル労働制」?
 
 一方、「日本再興戦略」では、「大胆な規制改革等を実行するための突破口として」「国家戦略特区」を創設することが謳われており、その検討を行う国家戦略特区ワーキンググループでは、有識者からのヒアリングとして、「労働時間規制の適用除外」や「労働時間規制の見直し」が提示されている。公式のものではないが、一部新聞では秋の臨時国会に提出予定の産業競争力強化法案にプロフェッショナル労働制(仮称)を可能にする仕組みを盛り込むと報じられた(日経8月14日)。厚生労働省が反発する記事が続いたので、経済産業省の勇み足リークと思われるが、政府の一部がどういう考え方をしているかが窺える。
 こうした動きに対して、筆者は6年前のホワイトカラーエグゼンプション騒動のデジャビュを感じつつ、その間に何の進歩も見られないことに嘆息を漏らさざるを得ない。筆者は当時いくつかの雑誌で、マスコミや一部政治家が問題視した「残業代ゼロ法案」という点こそがこの制度の本来の趣旨であり、それは労働時間と賃金のリンクを外して成果に見合った報酬を払うという観点からは正当性があるのであって、むしろ問題は労働時間が無制限に長くなって労働者の健康に悪影響を与えないようにするための歯止めとして実労働時間規制を確立することにこそある、と主張した。
 
異常に緩い労働時間規制
 
 そもそも、規制緩和派の認識は根本からずれている。彼らは日本の労働時間規制が極めて厳しいと認識しているが故に、それを大幅に緩和するべきだと信じているようである。しかし、こと物理的労働時間規制に関する限り、それはまったく間違っている。日本の労働時間規制は世界的に異常なまでに緩いのである。周知の通り、過半数組合または過半数代表者との労使協定さえあれば、事実上無制限の時間外休日労働が許されるのであり、(かつての女子と)年少者を除けば、法律上の労働時間の上限は存在しない。それゆえに、日本はいまだにILOの労働時間関係条約をただの一つも批准できないままなのである。世界一緩い労働時間規制をどうやってさらに緩和しようというのだろうか。
 ところが、労働基準法第4章に含まれるある規定は、確かに世界的に見てかなり厳格である。それは時間外・休日労働や深夜労働の割増賃金規制であって、物理的労働時間規制とは関係がないが、管理監督者でない限り法定労働時間を超えたら割増賃金を時間比例で払えと義務づけている。どんなに高給の労働者であっても、それに応じた高い割増を払わなければならないというのは、何が何でも守らなければならない正義とまで言えるかどうかは疑問であろう。
 
忘れられた過労死予防
 
 ところが、6年前のホワイトカラーエグゼンプションは、「自律的な働き方」とか「自由度の高い働き方」といった虚構の議論で押し通そうとして失敗した。労働側は審議会で、過労死の懸念を繰り返し強調した。時間外手当は適用除外することはできても、過労死した労働者に対する労災補償は適用除外できないのである。
 このことは実は経営側もわかっていた。このとき経団連は「労働時間の概念を、賃金計算の基礎となる時間と健康確保のための在社時間や拘束時間とで分けて考えることが第一歩」だと述べていたのだ。
 ところが、マスコミや政治家はこの問題に対し、過労死防止という観点を忘れ去ったまま、もっぱら残業代ゼロ法案けしからんという批判しかしなかった。結果的に、本来の趣旨であったはずの労働時間と賃金の過度に厳格なリンケージの緩和という問題意識が残業代ゼロという悪事と見なされ、それを再度登場させるために再びワークライフバランスなどという偽善の言葉をまとわせることになってしまったように見える。
 従って、この問題を正しく処理していくために何より必要なのは、「残業代ゼロだからけしからん」という素人受けする議論に安易に乗らず、きちんと労働時間規制と賃金規制の本質に沿った議論を進めていくことである。
 
「働く人の健康」が規制の本質
 
 労働時間規制の本質とは何か?日本の労働法の原点である工場法は、女工哀史と呼ばれる悲惨な労働実態を少しでも改善するために制定されたものである。彼女たちは不衛生な職場で長時間・深夜労働を強いられ、多くが結核にかかって死んでいった。それをせめて1日12時間に制限するところから労働時間規制は始まったのである。戦後労基法の1日8時間1週48時間もその延長線上にあるはずなのだが、健康確保ではなく余暇の確保のためのものとされ、それゆえ36協定で無制限に労働時間を延長できることになってしまった。労働側が余暇よりも割賃による収入を選好するのであれば、それをとどめる仕組みはない。
 この(かつては男性のみに適用された)労働時間規制の歪みが男女均等法制とともに女性にまで拡大され、無制限の長時間労働の可能性にさらされることになった。健康のための労働時間規制という発想は日本の法制からほとんど失われてしまったのである。
 
勤務間インターバルの導入を
 
 現在、労働の現場ではますます長時間労働が蔓延し、過労死や過労自殺はいっこうに収まる気配が見られない。今年6月に公表された昨年度の脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況でも、脳・心臓疾患は338件(前年度比28件の増)、精神障害は475件(前年度比150件の増)と、増加の一途をたどっている。
 労働時間規制の本質に立ち返るならば、まず何よりもこの趨勢を逆転させるために、物理的労働時間規制を強力に進めることが必要である。その際、これまでの労働時間規制の流れとは一旦切り離して、健康確保のための規制として、毎日の休息時間(勤務間インターバル)規制を法制上の制度として打ち出していくことも重要な課題であると思われる。
 一方、賃金規制の本質とは、過度な低賃金の廃絶とともに、労働者間の賃金の公正さを確保することにある。額面の賃金額を無意味化するようなサービス残業の横行は断固としてなくしていかなければならないが、所定時間内の賃金額に大きな格差があることを前提とすると、管理監督者ではないがそれに近い高給を得ている労働者について時間外手当の割増率をどの程度まで守らせるべき正義と考えるかは、少なくとも立法論としては結論ありきではなく率直に議論することができるテーマではなかろうか。

ちなみに、わたくしの連載「hamachanの労働ニュースここがツボ!」は前号で終わり、今月号からは常見陽平さんの「愛と怒りのはたらく道」という連載が始まっています。

『若者と労働』への声

Chuko引き続き、拙著『若者と労働』を読まれた方によるブログエントリが、

まず、本ブログでも以前何回か取り上げた震災被災地から発信されている「hahnela03の日記」から、

http://d.hatena.ne.jp/hahnela03/20131013/1381673800(津波被災の記録129

第一章6の「周辺化されたジョブ型「就職」」に関連して、

標準労働者」に関しては地方で働く「労働者」の大半は「標準」ではありません。まして被災地での求人に大卒者が応募してるということもありません。
 被災地における「ジョブ」にしても、条件等で「地方自治体」の「有期雇用契約労働者」に進んでなっているのが現実の姿です。
 ハローワークも危惧する通り「事務職」を希望はしても「建設業」の経営者は「完成工事高(売上)」に寄与しない(入札に参加できない・現場を管理できない)方を採用することはありません。この部門を増す必要がないほど「生産性を向上」させたとも言えますが、「日本型高校就職システム」が機能しなくなっている面が表れているのかもしれません。・・・

本田由紀さんの議論をはさんで、

本田先生は為政者の問題としてとらえていますが、この時期は地方から大都市への流入が進みんだ結果として、人口の増加が見込まれたということや大学教育費の官民格差是正や専門学校も連動していると思います。
 地方においては、大学へ出したいという希望はむしろ都市部より強かったですし、霞が関においても地方出身者(大卒)の割合は増えていたと思います。その後の大都市の普通高校からの大学入学者数の増加がいくことで、都市と地方の関係が希薄になっていくこととも無縁ではないと思っています。
 また、問題は大学進学後に地方への回帰がほとんどない関係と職業高校の回帰が高い(但し、その学校の所在地周辺)ことが、中小企業への労働供給が減っているというのはあります。これが建設業は顕著なまでにでているので「供給制約」に至るのです。職業高校の統廃合により、少数ではあっても地元の中小企業への労働供給システムとしてか細く繋がっていたのが断たれました。被災地で顕著なのは、被災地以外の内陸部への就職希望はあっても被災地企業への大卒・職業高校からは皆無であります。労働供給システムと職の近接性き避けられないものなのでしょう。「職業教育」によって、中小企業の「教育・訓練」機能の補てんと労働者の有用性も確認するWIN WINの関係は、普通高校の教師の「実績」に対する評価要求と親の要求が結びついた結果だったのです。
 「希望学」に出てくる地元の高校を「大学みたいな高校に」という学校関係者とPTAの願望で「若者」と「中小企業」は混迷することになったのです。
 「希望学」がそういう意味では好ましくない方向性を与えた例でもあります。

あるいは、こういう鋭い指摘も、

第3章 「入社」のための教育システムにおいて「教育の職業的意義(レリバンス)」の低さを嘆いています。でも「若者」は克服しようと努力を惜しんではいないようです。当時の「職業高校」統合・廃止には、「イエ(家業)」文化の断絶という目的もあったのではないでしょうか。大卒から「センモン」へというのは、「イエ(家業)」とは無縁の世代ということでもありますから、彼らの要求する「ジョブ」をどの様に用意するかが問われるのでしょう。「復興」のための人材確保は大変ですよ、被災地の企業にそういう意識はほとんどないからです。

そして、建設業のありように対するこういう分析、

建設業は総合建設業(スーパーゼネコン・地場ゼネコン)は、「メンバーシップ型雇用」であり、専門工事業者は、「ジョブ型雇用」となっており、そういう構造が定着している産業においては、一定の賛成と反対があるでしょう。
 大企業でも企画管理部門と現業部門の在り方を明確に分離するということでは受け入れやすいのかもしれません。

 ただ、「建設業の供給制約」を説く「リフレ派の良心」は、技術者(建設業法等)「メンバーシップ型雇用」と技能工(職業訓練法)「ジョブ型雇用」の二重構造は理解して貰っていない節があります。土木と建築、電気設備、機械設備工事業者における、「一人親方」という存在についても理解がない。
 大学出身者の「技術者」と高卒等の「技能者」の不毛な対立(大半は、現場管理における作業内容の熟知度)により、「技術者」「技能者」双方が業界から去っていく傾向が強かったようですね。

 バブル崩壊後、あらゆる産業において「業者数が過大」であるという前提のもと建設業では「一人親方」並びに小零細業者の淘汰が行われてきました。ほとんどは専業ではなく一次産業との兼業者も多かったのです。そうして「ジョブ」は断絶していきました。
 
 「13歳のハローワーク」 「14歳からの仕事道」のような刺激的なものではなく現実的な「ジョブ型雇用」への道をどの様に開くべきかということで、交互に読まざるを得ないわけです。(正直、頭の整理が出来ないので、どこまで理解できるのやら)

 著者はどちらも厚労省出身でもあり、今後の労働力不足にたいして若年労働者が安心して働ける社会を願っており、元・下請事業者においても社会保険・労災等の恩恵を付与すべきであり「作業員→熟練職人→一人親方→作業員雇用の親方→起業(建設業者)」という流れを整備し直さないと「社会保険料等・税金」の脱法手段として「若者」が利用されることを危惧しています。解雇自由が叫ばれる寂しい世の中ではありますが、本来は「スキル(技能)」をどの様に評価すべきか、どのように習熟させるかなのでしょう。

 「18歳の一人親方」という未熟練労働者・経営者の存在を労働法に限らず税法や建設業法でも身分を正当に認知していない経営者にとっては、「社会保険・消費税増税」を免れる方法に目が無いようです。「ジョブ型雇用」は金がかかるとでも言いそうですね。 

続いて、kazuさんの「わたしのブログ」から、

http://plaza.rakuten.co.jp/kazuoshimizu/diary/201310150000/

今日の朝、職場でやっと「若者と職場」濱口桂一郎・中公新書ラクレを読み切りました。キャリア教育の戦後の流れがよく分かりました。その流で、いまの正規職員の一般職かが進んでいる事情もやっとわかりました。丁寧な文書で、わかりやすい本でした。

そして、先日御著書『人材派遣会社向け 図解 人材ビジネスを楽しくする101のしかけ』(秀和システム)をお送りいただいた

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/10/101-9ef7.html(山内栄人『図解 人材ビジネスを楽しくする101のしかけ』)

山内栄人さんにも、そのブログ「山内 栄人の現場改善コンサルBLOG」で、

http://ameblo.jp/kaizen-yamanouchi/entry-11638638635.html

詳しく書評頂いています。

Hamachan先生の本はこれまでも
読んでいますが、この本は
これまでの中で一番スッと
読めた本ですね。

・・・・・・・

この辺がズバズバユーモア
ブラックジョーク(先生らしい)
を交えてわかり易く
書かれた本です。

あとがきにも書かれていますが、

「現時点で若者の雇用について

語るべきことはほぼ語り尽くした」

とありますが、歴史から現状まで
ズトンと書かれています。

そして、未来のあり方としては

「メンバーシップ型」と「非正規」
の間に「ジョブ型正社員」をとの
着地です。

ほぼほぼ同感です。

ありがとうございます。

わたしのブログ(kazu)       

2013年10月15日 (火)

産業競争力強化法案

本日、産業競争力強化法案が閣議決定されたようです。

その法案要綱等5点セットが、経済産業省のHPに載っています。

http://www.meti.go.jp/press/2013/10/20131015001/20131015001-2.pdf

この法律は、我が国経済を再興すべく、我が国の産業を中長期にわたる低迷の状態から脱却させ、持続的発展の軌道に乗せるためには、経済社会情勢の変化に対応して、産業競争力を強化することが重要であることに鑑み、産業競争力の強化に関し、基本理念、国及び事業者の責務並びに産業競争力の強化に関する実行計画について定めることにより、産業競争力の強化に関する施策を総合的かつ一体的に推進するための態勢を整備するとともに、規制の特例措置の整備等及びこれを通じた規制改革を推進し、併せて、産業活動における新陳代謝の活性化を促進するための措置、株式会社産業革新機構に特定事業活動の支援等に関する業務を行わせるための措置及び中小企業の活力の再生を円滑化するための措置を講じ、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とすること

と、大変高邁な目的を掲げております。

で、その「規制の特例措置の整備」ですが、第8条に規定されています。

第八 新たな規制の特例措置の求め

一 新たな規制の特例措置の適用を受けて新事業活動を実施しようとする者は、主務大臣に対し、当該新たな規制の特例措置の整備を求めることができるものとすること。

二 主務大臣は、新たな規制の特例措置を講ずる必要があると認めるときは、遅滞なく、その旨及び新たな規制の特例措置の内容を、当該求めをした者に通知するとともに公表するものとすること。

三 主務大臣は、新たな規制の特例措置の整備の求めが、他の関係行政機関の長が所管する規制について特例措置を求めるものである場合には、新たな規制の特例措置を講ずる必要があると認めるときは、遅滞なく、当該関係行政機関の長に新たな規制の特例措置の整備を要請するとともに、その旨を当該求めをした者に通知するものとすること。

四 新たな規制の特例措置の整備を求められた主務大臣は、新たな規制の特例措置を講ずる必要がないと認めるときは、遅滞なく、その旨及びその理由を当該求めをした者に通知するものとすること。

五 関係行政機関の長は、当該要請を踏まえた新たな規制の特例措置を講ずることとするときは、遅滞なく、その旨及び新たな規制の特例措置の内容を主務大臣に通知するとともに、新たな規制の特例措置の内容を公表するものとすること。

六 関係行政機関の長は、当該要請を踏まえた新たな規制の特例措置を講じないこととするときは、遅滞なく、その旨及びその理由を当該要請をした主務大臣に通知するものとすること。

七 関係行政機関の長から通知を受けた主務大臣は、遅滞なく、その通知の内容を当該通知に係る規制の特例措置の求めをした者に通知するものとすること。

ほかにもいろいろと山のような規定がありますが、どれもかつての通産省的匂いがいっぱい漂う産業政策もので、これだけが(主としてよその官庁の規制についての)規制緩和ものという感じですね。

で、問題はここでいう「規制の特例措置」の定義です。第2条に定義規定があって、

この法律において「規制の特例措置」とは、法律により規定された規制についての別に法律で定める法律の特例に関する措置及び政令又は主務省令により規定された規制についての政令等で規定する政令等の特例に関する措置であって、認定新事業活動計画に従って実施する新事業活動について適用されるものをいうものとすること。

これを見る限り、「規制」そのものの定義はないようですね。

ただし、明文で「法律により規定された」「政令又は主務省令により規定された」とあるので、実定法令上のこの規定と明示できないような判例法やら慣習法がこの「規制」に当たらないことだけは間違いありません。日本型雇用システムそれ自体は、本法律上でも「規制」ではあり得ないのです。あまりにも当たり前ですが。

一方、労働基準法の労働時間規制がこの「規制」に当たることはいうまでもありませんし、労働契約法18条の「5年で無期」も、一定の要件に該当する法律関係に一定の法律効果を強行規定として与えようとするものですから民事効のみとはいえ「規制」には違いないでしょうが、問題は労働契約法16条の解雇権濫用法理をただそのまま書いただけの規定が、ここでいう「法律により規定された規制」なのかどうか、でしょうね。

もしそれが「法律により規定された規制」だとすると、論理必然的に、民法1条3項の一般的な権利濫用法理も「法律により規定された規制」だし、その前の2項の信義誠実の原則も「法律により規定された規制」だし、そのまた前の第1項の公共の福祉原則も「法律により規定された規制」になるし、何でも使える魔法の杖、90条の公序良俗規定も「法律により規定された規制」ってことになるわけですが、そういう解釈なのか、法案を閣議決定する前に内閣法制局でとことん詰めた議論をしているはずなので、是非伺ってみたいところではあります。

もしそうだとすると、「新事業活動」のために邪魔であれば、信義誠実の原則も守らなくていいし、公共の福祉に従わなくてもいいし、公序良俗に反してもいいということも(論理的に)あり得るのか、その場合、主務大臣である法務大臣にその「規制」の特例措置を求めて、上のような手続が進行することになるのか、法学徒なら誰もが興味を惹かれるところではないでしょうか、ねえ。

(追記)

河野太郎衆議院議員が、そのブログで、この雇用特区を礼賛しているのですが、

http://www.taro.org/2013/10/post-1410.php(雇用特区について)

その中で、

この雇用特区に関して、例えば朝日新聞は「例えば「遅刻をすれば解雇」と約束し、実際に遅刻したら解雇できる」などと書いているが、そもそも、それは公序良俗に違反しているだろうし、特区が定めるガイドライン違反になるだろう。

これを見ると、どうも公序良俗という法の一般原則は特区といえども適用除外できないものと考えているようです。

しかし、もしそうであるなら、同じように法の一般原則である権利濫用法理も信義誠実の原則も、やはり特区といえども適用除外できないはずなんですね。

いや、権利濫用法理一般は適用除外できないけれども解雇権濫用法理は適用除外できるというのであれば、公序良俗一般は適用除外できないけれども雇用に関する(たとえば男女別定年制がそれだというような)公序良俗は適用除外できることになるのか、そっちはダメだというならそれはなぜなのか、きちんと論理を整理する必要がありそうに思えます。

(再追記)

と書いたときには、まさかものの見事に、公序良俗は適用除外できないけれども、権利濫用法理は適用除外できると、どんぴしゃの台詞をどや顔で吐く御仁が出てくるとはさすがに思わなかったですが、やはりこのあごらーな人がその役目を(無意識のうちに)買って出たようでありますな。

http://agora-web.jp/archives/1563572.html(「解雇特区」って何?)

民法には公序良俗に反する契約は無効とする規定があります(90条)。公序良俗というのはむずかしい言葉ですが、非常識な契約は(たとえ当事者が合意しても)無効になるという意味です。

民法には権利濫用はこれを許さないという規定(1条3項)もあります。解雇も原則としてできるのですが、例外的に客観的に合理的な理由がないようなひどい解雇は権利濫用として無効になるのです(労働契約法16条)が、それを目の敵にしている人が、こういう台詞を語るのを見ると、心和むものを感じますね。

いずれにせよ、よい子の皆さんは、法律に関するお勉強は、法律のことをよくわかっている人から聞くのが一番です。

老化した汎用iPS細胞と専用部品

4年前のエントリにコメントがついたので、改めて読み直してみて、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/post-58cf.html(従業員の能力は陳腐化・・・してますよ、半世紀前から)

思ったのは、半世紀前の職務能力陳腐化論に基づいた職務給論が衰退して、可塑的能力論に基づく職能給が広がって、さらにそれがもう一度デジャビュ的に批判されるというこの構図を、こういう風に比喩的に言えないか、と。

日本型雇用システムの「人材」観は、先日来、経団連や経済同友会に呼ばれたときにお話ししているように、どこ(の部署)にべたっと貼り付けても、周りの状況に適応してそこにふさわしく活動できる「何でもやります」型で、言ってみればiPS細胞みたいなもの。

iPS細胞のいろんな職務をこなしていける「汎用能力」が高ければ高いほど、企業にとっては欧米型ジョブ型労働者のような専用部品を、きちんとそれが当てはまる部署に差し込まなければならないという制約が少なくなり、内部的フレクシビリティをフルに享受できるので、日本型システムの競争力は極めて高いと評価されることになる。

ところで、iPS細胞の適応能力それ自体は、それまでどれだけいろんな職務を的確にこなせてきたかという事後的な形でしか評価できない。無理に(何でもやらせる前に何でもできるかを)事前評価しようとすると、好き嫌い的な主観的評価になってしまうから。

しかるに、iPS細胞も生き物なので、かつてはどこに貼り付けてもちゃんと活動できたiPS細胞も、中高年になるにつれて、徐々に老化現象が進み、「何でもできる」適応能力は減退せざるを得ない。

実を言えば、それ自体は日本だろうが欧米だろうが同じこと。ただし、そもそも一部のエリートを除けば労働者は「部品」であるジョブ型社会では、特定の箇所にのみ使える堅い部品として使っている限り、よほど老化してポキッと折れるのでない限り、それなりに安心して使い続けることができる。「部品」であることによるメリット。

ここが労働者を[部品]扱いしない「まことに人間的な」日本型システムの皮肉なところ。部品じゃなくiPS細胞として使い続けようとすれば、それが老化してどこに回しても若いときのようにすぐに適応して活動することができなくなると、「何にもできない」という不当とも言えるレッテルが貼られてしまう。

拙著で繰り返した、日本型システムでは若者がもっとも利益を得ており、中高年、高齢者になればなるほど不利益を被るというのは、こういうメカニズムが働いているわけですね。

「部品」であるがゆえに、それがちょうど合う箇所がない限り「部品」として採用してもらえない欧米の若者。しかし、「部品」であるがゆえに、その箇所がある限りよほど老化しない限り使い続けられる欧米の中高年。

対して「iPS細胞」であるがゆえに、どんな箇所でも「突っ込んどけ」で採用してもらえる日本の若者。しかし、「iPS細胞」であるがゆえに、ちょっと老化して「どこでも使い回しできる」柔軟性が低下したら、「どこでも使えないヤツ」とレッテルを貼られてしまう日本の中高年。

どっちが幸福でどっちが不幸なのかはともかく、物事はこれくらいの複眼で見なければならないということですね。変なのに煽られることなく。

中央公論社さん、学生さんが困ってます!

Chuko拙著を課題図書にする大学の先生がいるせいで、

https://twitter.com/reiko_215/status/389970281604710401

清水ゼミにエントリーした人!!レポート課題の本が生協に在庫ありません!!ちなみに立川ルミネのオリオン書房にもありません!!提出明日とあさってなのに!!なんてこった/(^o^)\

なんていう本??

濱口桂一郎「若者と労働」って本です(>_<)!****さんヘルプ!

濱口桂一郎の本あるけど違うやつだわwがんばれww

がんばれない(´;ω;`)(´;ω;`)(´;ω;`)

とか、

https://twitter.com/NnstLv/status/389642734094413824

まって、つんでる。本屋さん3件まわったけど若者と労働売ってない~

と悲鳴を上げる学生さんが続出しているような・・・。

おーい、中央公論社さーん、早く回してあげて。

2013年10月12日 (土)

最近の『若者と労働』評

Coverpic最近数日の間にも、雑誌、ツイートなどで拙著『若者と労働』への書評短評が。

まず、雑誌『労働調査』9月号のワンポイントブックレビューに、小熊信さんが書評を書かれています。

http://www.rochokyo.gr.jp/articles/br1309.pdf

・・・本書は、「若者の労働問題は何重にもねじれた議論の中でもみくちゃになっています」という書き出しではじまる。この“もみくちゃ”の典型として例示されているのが、「中高年が既得権にしがみついているために若者が失業や非正規労働を強いられ」(ている)、「若者は正社員として就職しようとせず、いつまでもフリーターとしてぶらぶらしている」といったものである。著者はこれらの議論を危険な“感情論”として退ける。そして、若者の労働問題を的確に分析するためには、日本型雇用システムと、それに密接に結びついている教育システムについて、それらの実態をきちんと理解することが不可欠であり、さらに、それらの実態を踏まえた処方箋が必要であることを主張する。そして、本書の最終章である第7章では、処方箋のひとつとして、現在、論争を巻き起こしている『ジョブ型正社員』について、その導入促進を提起している。・・・

ツイートで拙著に言及したものとしては、

https://twitter.com/nishizawa_t/status/387869307524644864

濱口桂一郎『若者と労働』(中公新書ラクレ)読了。目からウロコもの本だった。

https://twitter.com/ocha1978/status/387946458873622528

濱口桂一郎『若者と労働ー「入社」の仕組みから解きほぐす』(中公新書ラクレ)読了。ジョブ型正社員の見通しがやや楽観的すぎる点に違和感を覚えたが、全体として非常に面白い良書。安心して学生にも勧められる。

https://twitter.com/okae/status/388189794242535424

濱口桂一郎の『若者と労働』すげー面白い。日本型雇用システム、教育の職業的レリバンス、就活問題、色んなことが一本につながる感じ。

https://twitter.com/sinto28112485/status/388217438795358208

あんまり関係ないですが、ジョブ型労働社会の欧米とメンバーシップ型労働社会の日本と言う労働観の違いを指摘した本を読了しました。面白かったです。>若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす

https://twitter.com/flandot/status/388527850153717760

人物重視の就活システムや「人間力」という曖昧な基準で判断されるシステムに疑問を持った人、今年の8月に発売された「若者と労働」って本がオススメです その辺について詳しく書いてあります 俺も勉強し直します

https://twitter.com/k_dohsaka/status/388944127171129344

濱口桂一郎、若者と労働 ー 「入社」の仕組みから解きほぐす、おすすめです。

最後に、これは・・・と思ったのが、この本の出版元の中央公論社の「中公新書メールマガジン」第146号。

http://nyanazu.blog.shinobi.jp/%E6%9C%AA%E9%81%B8%E6%8A%9E/fw-%20%E4%B8%AD%E5%85%AC%E6%96%B0%E6%9B%B8%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%82%AC%E3%82%B8%E3%83%B3%E3%80%80%E7%AC%AC%EF%BC%91%EF%BC%94%EF%BC%96%E5%8F%B7

 かくいう私も10月1日付けの異動で、新書編集部を離れることになった。
 ちょうど8月担当刊『若者と労働』(濱口桂一郎・著)で、日本型正社員の特徴の一つを、「職務が限定されておらず、原則としてどんな仕事でも命じられれば従事する義務がある」こととしたが、はからずも自ら実証するかたちになってしまった。

(追記)

読書メーターにも「おかえ」さんによる本書の書評が、

http://book.akahoshitakuya.com/u/48826

良書。濱口氏の他の著書を読んでいたため、メンバーシップ型/ジョブ型の区分は知っていた。しかし、そういったメンバーシップ型の雇用システムと教育の職業的レリバンスの話が一本につながったのは目から鱗。ジョブ型正社員(限定正社員)の意義もよく分かったし、賛成。この意義はまだ殆どの人に理解されていないのではないか。

ブクログにもこの本の書評が追加、

http://booklog.jp/item/1/4121504658

10/13 : nogu-t 日本の雇用形態を歴史・法律を紐解いたり、欧米を中心にした諸外国などと比較しつつ、「入社」の仕組みから、どう働いてきたかについてまとめる。 (1章~2章) そのうえで、どういう教育システムが構築され、「入社」に結び付けようとしてきたか、その弊害、ひずみを追う (3章~4章) そして若者向けの雇用政策の変遷や、正社員の現在を追いつつ(5~6章)、どういった「働き方」が望まれるかを考える(7章)。 若者労働問題入門書、とでもいうべきか、置かれている現状を、 それがどういう道筋をたどってきたかも含めて、丁寧に解きほぐした一冊。

ついでに、4年前の『新しい労働社会』にもブクログで短評が。

http://booklog.jp/item/1/4004311942

10/13 : showide 雇用システムの転換期だとおもう。働く者のルールづくりには、働く者が関わるべき。

また、少し前ですが、『日本の雇用と労働法』についても、読書メーターで書評(プラス注文)が。

http://book.akahoshitakuya.com/b/4532112486

9/23:ねぎとろ 日本の雇用システムと法制度について、ジョブ型とメンバーシップ型の対比から解説するのは前著と同じだが、雇用システム(入退職・賃金・労使等)とその法制度の成立についてそれぞれ歴史的な背景から説き起こしているので、これを読むと他の労働本の理解が深まると思う。 労働問題について、とにかく規制緩和(あるいは強化)すればいいんだという安直な議論はこれを読むと出来なくなると思う。 不満を一点だけ挙げると、入門書なのだから参考文献の一覧か、次に読むべき本の紹介が欲しかった。

amazonで見ると、『若者と労働』だけでなく、『新しい労働社会』も『日本の雇用と労働法』も、労働部門でかなり売れてる本になっているようで、世間で関心が持続していることに感服するところです。読者の皆様には改めてお礼申し上げます。

広田他編『福祉国家と教育』

122097 広田照幸・橋本伸也・岩下誠編『福祉国家と教育 比較教育社会史の新たな展開に向けて』(昭和堂)を、執筆者の広田照幸・森直人さんよりお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.showado-kyoto.jp/book/b122097.html

近現代の教育・学校の展開をめぐる国家と社会の関係性を、福祉国家の変容と関連づけて構造的に取り出すことを試みる。

福祉と教育という、労働と並んで社会政策の基軸の2分野の関わりを歴史的に分析した本です。

第Ⅰ部 提議
近現代世界における国家・社会・教育
 (橋本伸也/関西学院大学文学部教授)

第Ⅱ部 応答と対論

1 「長い一八世紀のイギリス」における教育をめぐる国家と社会
 (岩下誠/青山学院大学教育人間科学部准教授)

2 日本近世公権力による人口と「いのち」への介入
 (沢山美果子/岡山大学大学院社会文化科学研究科客員研究員)

3 フランスにおける「公教育」とその多様な担い手
 ――19世紀前半の諸島学校をめぐって
 (前田更子/明治大学政治経済学部専任講師)

4 オスマン帝国における近代国家の形成と教育・福祉・慈善
 (秋葉淳/千葉大学大学院人文社会科学研究科准教授)

5 ドイツにおける社会国家形成と教育福祉専門職の成立―ジェンダーの視点から
 (小玉亮子/お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授)

6 前世紀転換期イングランドにおける教育の政治空間
 ――ロンドン学務委員会における女性議員を中心に
 (内山由理/首都大学東京大学院博士課程)

7 アメリカ型福祉国家における連帯の問題
 (長嶺宏作/日本大学国際関係学部助教)

8 福祉国家と教育の関係をどう考えるか
 (広田照幸/日本大学文理学部教授)

第Ⅲ部 討議

1 二〇世紀福祉レジームの形成と教育をめぐる諸問題――日本の経験に即して
 (森直人/筑波大学人文社会系准教授)

2 東欧近現代史から見た「市民社会」
 (姉川雄大/千葉大学アカデミック・リンク・センター特任助教)

3 新自由主義時代の教育社会史のあり方を考える(岩下誠)

広田さんには、必ずしも直接に関わらない分野のものであるにもかかわらず、いつもいつも心にかけていただいて有り難い限りです。

2013年10月11日 (金)

本日規制改革会議雇用WGにて意見陳述

本日、政府の規制改革会議雇用ワーキンググループにお呼び頂き、労働時間規制の在り方について意見を述べて参りました。

まだ内閣府のHPには上がっていないようですが、アドバンスニュースが早速報じていますので、そちらを:

http://www.advance-news.co.jp/news/2013/10/post-958.html(識者3人からヒアリング 規制改革会議雇用WG)

政府の規制改革会議雇用ワーキング・グループ(WG、鶴光太郎座長)は11日、労働時間法制について有識者からヒアリングした。意見を述べたのは鶴座長自身と東大社会科学研究所の水町勇一郎教授、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎統括研究員の3氏。3氏とも欧米の制度と日本を比較しながら、問題点や改革の方向性について持論を述べた。

日本の労働時間規制は労働基準法などによる形式的な規制はあるものの、実質的な規制は弱いというのが実情で、長時間労働や過労死の要因の一つになっており、新たな規制が必要との声が強まっている。雇用WGでも、3月の発足時から重要テーマの一つに据えていた。

すでに、6月に出した答申の中に「企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制等労働時間法制の見直し」を盛り込み、閣議決定されたことから、これを受けた労働政策審議会の労働条件分科会で9月から議論が始まっている。

このため、雇用WGとしては、次回以降も労組など関係団体からのヒアリングを予定、11月中の意見集約を予定しているが、閣議決定はしない見通し。2007年当時、労政審でホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間規制の適用免除制度)の導入を決めたところ、労組などが「残業代ゼロ法案」などと呼んで反対してお流れになった経緯もあり、慎重な姿勢を崩していない。

私が述べたのは、6,7年前のホワイトカラーエグゼンプションが問題になっていた頃に、雑誌『世界』等で繰り返し主張していたことと何ら変わりません。

物理的労働時間規制の強化と残業代規制の緩和の両方が必要という主張です。

そのうちアップされると思いますが、本日私が使った説明メモです。

規制改革会議雇用ワーキング・グループ第11回会合                     2013/10/11

「労働時間規制に関する3つの大誤解」                                  濱口桂一郎

1 「日本の労働時間規制は厳しい」
2 「労働時間の規制緩和はワークライフバランスに役立つ」
3 「残業代ゼロ法案はけしからん」

→すべて間違い。しかし、マスコミも、政治家も、場合によっては学者までこの間違いに乗っている。

1 日本の労働時間規制は厳しいのか?

・いうまでもなく、労働時間規制とは物理的労働時間の規制である。残業代をいかに規制しようが、それは賃金規制に過ぎない。
・現行労働基準法上、年少者を除けば物理的労働時間の上限は存在しない。(かつては女子に存在)
・労基法32条の上限(1日8時間、週40時間)は36条の労使協定によって法律上上限なく延長できる。
・いわゆる「限度基準」が大臣告示で存在するが、「労働契約に対して強行的補充的効力を有するようなものではない」(菅野)。
・その限度基準にも、適用除外がある。
・それゆえに、日本は約1世紀前のILO第1号条約(週48時間)も批准できない。
・事実上、日本で意味があるのは残業代規制のみ。(組合の残業拒否戦術への活用を別にすれば)

では、他の先進諸国は?
・アメリカは残業代規制のみで物理的労働時間規制が存在しない。
・EUは指令で物理的労働時間を規制し、28加盟国で国内法化されている。
・週労働時間規制は「時間外労働を含め」48時間。残業代を払おうが払うまいが関係ない。
→救急病院の医師たちの不活動待機時間を欧州司法裁判所が労働時間と判断したため、彼らを個別適用除外にせざるを得なくなった。なぜなら、残業代を払おうが払うまいが関係なく、長時間労働が禁止されるから。(日本では「残業代払え」にしかならない)
・休日規制(週1日)も変形労働時間制も、それを超えることが禁止される絶対的労働時間規制。超えたら休日手当や残業代を払えばいい日本とは異なる。
・とりわけ健康確保のために、1日11時間の休息期間が義務づけられている。

→「日本の労働時間規制は厳しい」は間違い。アメリカと並んで、世界で最も労働時間規制の緩い国の一つ。

2 労働時間の規制を緩和すればワークライフバランスに役立つのか?

・かつての規制改革・民間開放推進会議の答申は、「仕事と育児の両立を可能にする多様な働き方の推進」という節の筆頭に「労働時間規制の適用除外制度の整備拡充」という項目を挙げていた。
・これは、労働基準法の法的性格に対する根本的誤解に由来する。
・労働基準法の名宛人は使用者であり、その規定は「1日8時間、週40時間以上働かせてはならない」という意味でしかない。「1日8時間、週40時間まで働け」などという意味は全くない。
・就業規則的意味を持つ国家公務員法における勤務時間規定とごっちゃにしてはならない。
・労基法の上限の範囲内で、どんなに短く働くことも、十分に可能である。
・上限規定の緩和には、より長く働かせることが可能になるという以上の意味はあり得ない。
・ワークライフバランスとの関係での柔軟化の障害になり得るのは、就業規則の必要的記載事項としての始業・終業時刻等。物理的労働時間の上限規制ではない。

→「労働時間の規制緩和はワークライフバランスに役立つ」は間違い。

3 残業代ゼロ法案はけしからんのか?

・物理的労働時間規制が極小化された日本で、唯一法律上の武器として駆使されているのが残業代規制(労基法37条)。
・いわゆる労働時間訴訟なるものも、中身はほとんどすべて「残業代払え」。
・労基法37条も、労働時間規制と一緒くたに、適用除外は「管理監督者」など。
・(労基法の本来の趣旨であったはずの)物理的労働時間規制からすれば、適用除外は真に自律的に働く者に厳格に限定されるべき。
・しかし、残業代という賃金規制にまで、同じ基準をあてはめると、とりわけ職能資格制の下では矛盾が生じうる。
・管理職並みの高給ではあるが管理職ではない者に残業代を払うと公平感に反し、払わないと法律に反する。
・近年の成果主義賃金制度の下でも、時間内であれば規制がないのに、時間外になると厳格に時間に比例した残業代の支払いが要求され、不公平感をもたらしうる。
・企画業務型裁量労働制やいわゆるホワイトカラーエグゼンプションとは、実はこういう残業代規制の問題点を解決するためのものであったはず。(経団連の提言)
・ところが残業代規制と物理的労働時間規制がごっちゃになり、労働側から「過労死促進」との(きわめてまっとうな)批判を呼び起こした。
・それをさらに歪めたのは、マスコミや政治家が(過重労働はそっちのけで)もっぱら「残業代ゼロ法案」として批判したこと。
・このため、真の目的であり、それ自体はまっとうであった、残業代規制の合理化ということが、世間的には一番口にできないタブーになってしまった。
・そのため、6年後のいまになっても、虚構のワークライフバランス論を持ち出さざるを得ない状況が続いている。

→「残業代ゼロ法案はけしからん」は間違い。

(参考)

http://homepage3.nifty.com/hamachan/sekaiexemption.html(「ホワイトカラーエグゼンプションの虚構と真実」 『世界』2007年3月号)

http://homepage3.nifty.com/hamachan/johororenjikan.html(「労働時間規制は何のためにあるのか」 『情報労連REPORT』2008年12月号)

常見陽平『普通に働け』

1816常見陽平さんから新著『普通に働け』(イースト新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.eastpress.co.jp/shosai.php?serial=1816

日本の雇用・労働をめぐる議論は、エリートかワーキングプアを対象としたものに偏りがちである。
そこには「普通の人」の「普通の働き方」が見落とされており、ブラック企業論争やノマド論争で可視化されたのは、私たちの「普通に働きたい」というこじれた感情であった。
しかし、「普通の人」とは誰か?
「普通の働き方」とは何か?
そもそも私たちは「普通」ということが、実はよく分かっていないのだ。
本書は豊富にデータを揃えながら「意識の高い」系言説のウソを暴き、私たちノンエリートのための働き方を考察する。

というわけで、内容は『僕たちはガンダムのジムである』のノンエリート論を、もう一度きちんとデータで基礎付けながら諄々と説き聞かせるように語った本ということになりましょうか。

読んでいくと、拙著『若者と労働』が繰り返し引用されていたりして、その問題意識が通底していることがよくわかります。

題名が「普通に働け」だからじゃないですが、あまりにも当たり前のことを語っているので、いかにそれ以外の論客たちがおかしなことを言っているかが逆に浮かび上がってくる本でもあります。

で、本書の最大の読みどころは、巻末の海老原嗣生さんの解説です。・・・なんて言っちゃっていいのかな?まあ、いいことにしておこう。ある意味で、常見さんの諄々と説き来たるところを、一言でまとめちゃっている解説なんですね、これが。

昨今の雇用をめぐる議論に対する痛烈な批判にもなっているこの海老原節の小節の切れ具合をどうぞ:

・・・雇用の世界には、実にいろんなタイプの論者がいます。「世代間格差」をドグマにまで昇華させている人もいるし、小泉改革以降のネオリベ改革を憎み、保護と規制を強めろという、純粋な左バッターもいるし、逆に、最低賃金をなくして解雇自由にすれば、今の就職難は解決すると力説するばりばりの右バッターも存在する。

ただ、そうした個々の主義信条の違いを超えて、けっこう共通する傾向が一つあります。

それは、極端なケースを持ち出して、これが世の中の趨勢だと論を進めるやり方。

まあ、貧困とか格差なんかのマイナスを捉える場面では、それも仕方がないでしょう。世の中で起きている最悪のケースを捉え、まだそれが大多数でないうちに、警鐘を鳴らす。そのためには、強弁もやむなしと考えるからです。

しかし、納得がいかないのは、その逆です。最良のケースを取り上げ、それが当然だ、そうしなきゃダメだ、という論法。それも、「普通の人もがんばればああなれる」もしくは「こんなこともできない今の日本は最悪」と帰結するような説。

そんな茶番を、けっこうアカデミズム的には一目置かれるような科学者や経済学者(といっても雇用の門外漢!)が先導しているのです。そして、マスコミがそれに追随する。さらに、そのモデルケースとなるような偶発的人物を、時代の寵児に仕立て上げる。・・・

いやあ、まさに「あるある」。あまりにも的確すぎて、二の句が継げないような見事な海老原節です。

そういうクレージーな日本の言論状況に対して、

・・・常見君は、返り血を恐れず、内角球を投げ続けました。

そう、本書は、

・・・当たり前の話を無視して、一部の極端に触れた例を出して、周囲を幻惑しながら、話を進めるまったく無益な論議に対して、「え?普通の人はどうすんの?それで解決すんの?」と懐をえぐる。それがこの書なんですね。

ちなみに、この海老原さんの解説のタイトルは、

[解説]誰もがエリートを夢見る社会

だったりします。え?どっかで聞いたことがあるような・・・。

2013年10月10日 (木)

解雇規制論議に見る律令法思想と市民法思想

今年の4月から月2回のペースで、WEB労政時報の「HR Watcher」というコラムに、溝上さんらとともに連載していますが、今週アップされたのは「解雇規制論議に見る律令法思想と市民法思想」です。

http://www.rosei.jp/readers/hr/article.php?entry_no=118

その最後のところで、主として国家戦略特区WGの八田氏を念頭にこう述べましたが、これは一昨日の朝日の記事の松井氏やその尻馬に乗っている評論家諸氏にも同じように言えることであることは、賢明な読者の皆さんにはよくおわかりのことと思います。

このように、権利濫用法理の意味が理解できない根源には、この経済学者の法理解の歪みがあるようにも思われる、そもそも、東洋的社会においては、法とはもっぱら律と令、つまり刑法と行政法を指すものであって、国家権力による人民への規制以外の何物でもなかった。それに対して西洋社会における法とはまず何よりも民法であり、大陸系のシビル・ローであれ、英米系のコモン・ローであれ、市民相互間の利害調整の道具として発展してきたものである。

労働法も民法の特別法であり、使用者と労働者という市民相互間の関係を適切に規律するための国家規制も、究極的には労使間の利害調整をどうすることがもっとも適切かという点に帰着する。国家が一方的に人民に不都合な規制をかけているなどという、東洋専制主義世界と見まがうような法律観で労働法を語るとすれば、それはその論者の脳内の東洋専制主義を示しているに過ぎない。

労使の利害の調整点を、どこにどのようにシフトさせるのがちょうどいいのか、そういうごく当たり前の発想でこの問題が議論されるようになることを切に願いたい。

実というと、こういう自生的秩序の認識は、あのハイエクが強調していたことなのですが、それがまったく理解できないたぐいの人がその解説書を書けるあたりにガラパゴス日本の所以があるのかも知れません。

まあ、OECDから相手にもされない評論家が、OECDはこう言っているぞ、と居丈高に説教してみせて、無知なマスコミ相手に通用してしまう日本でもあります。

2013年10月 9日 (水)

OECD『成人スキルの国際比較』

146064と、ぐちゃぐちゃ言うてたら、そのPIAACの調査結果を日本中心にまとめた『成人スキルの国際比較』という本が今日、明石書店から発行され、わたくし宛にも送られてきました。

奥付を見ると、ちゃんと2013年10月9日初版第1刷発行、とあって、OECD本部のプレス発表にあわせて刊行していることがわかります。

http://www.akashi.co.jp/book/b146064.html

仕事や日常生活の様々な場面で必要とされる汎用的スキルについて、「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」の3分野から評価したOECD国際成人力調査の結果をもとに、日本にとって示唆のあるデータを中心に整理・分析する。

ということで、目次は次の通りです。

はじめに
 OECD国際成人力調査(PIAAC)調査結果の要約
 PIAAC国内調査の実施に関する研究会
 本報告書を読む際の注意

第1章 PIAACの概要
 1.1 調査の概観
 1.2 調査の枠組み
  1.2.1 調査の目的
  1.2.2 参加国
  1.2.3 調査対象・規模
  1.2.4 調査設計
  1.2.5 PIAACと「キー・コンピテンシー」
  1.2.6 PIAACとPISAとの関係
  1.2.7 PIAACと他の成人スキル調査との関係
 1.3 調査実施体制
  1.3.1 国際的な調査実施体制
  1.3.2 日本国内の調査実施体制
 1.4 評価分野及び背景調査の概要
 1.5 調査の対象者と標本抽出
  1.5.1 調査の対象者
  1.5.2 標本抽出
  1.5.3 回収率と非回答バイアス分析
 1.6 調査の実施と結果の処理
  1.6.1 調査の実施
  1.6.2 結果の処理

第2章 成人のキー・スキルの国際比較
 2.1 読解力
  2.1.1 読解力の定義
  2.1.2 読解力の各側面
  2.1.3 読解力の問題例
  2.1.4 読解力の習熟度レベル
  2.1.5 読解力の国際比較
 2.2 数的思考力
  2.2.1 数的思考力の定義
  2.2.2 数的思考力の各側面
  2.2.3 数的思考力の問題例
  2.2.4 数的思考力の習熟度レベル
  2.2.5 数的思考力の国際比較
 2.3 ITを活用した問題解決能力
  2.3.1 ITを活用した問題解決能力の定義
  2.3.2 ITを活用した問題解決能力の各側面
  2.3.3 ITを活用した問題解決能力の問題例
  2.3.4 ITを活用した問題解決能力の習熟度レベル
  2.3.5 ITを活用した問題解決能力と読解力・数的思考力の習熟度との関係
 2.4 総括

第3章 成人の社会的属性とキー・スキル
 要旨
 3.1 年齢
 3.2 性別
 3.3 出身家庭の社会経済的背景
 3.4 学歴
 3.5 職業

第4章 就業者のキー・スキル
 要旨
 4.1 仕事におけるスキル使用
 4.2 仕事におけるスキル使用とスキル習熟度
 4.3 学歴ミスマッチとスキル・ミスマッチ
  4.3.1 ミスマッチの指標
  4.3.2 学歴ミスマッチとスキル習熟度
  4.3.3 ミスマッチと賃金

第5章 キー・スキルの開発と維持
 要旨
 5.1 年齢とスキル習熟度
  5.1.1 年齢とスキル習熟度との関係
  5.1.2 加齢によるスキル習熟度の低下は避けられるか
 5.2 学歴とスキル習熟度
  5.2.1 後期中等教育とスキル習熟度
  5.2.2 高等教育とスキル習熟度
  5.2.3 国内及び各国間の学歴の比較
 5.3 PIAACとPISAの調査結果の関係
 5.4 成人教育・訓練とスキル習熟度
  5.4.1 成人教育・訓練の参加率とスキル習熟度
  5.4.2 国レベルでの成人教育・訓練への参加率とスキル習熟度

第6章 キー・スキルと経済的・社会的アウトカム
 要旨
 6.1 スキル習熟度と労働市場及び賃金
  6.1.1 就業状態によるスキル習熟度の違い
  6.1.2 スキル習熟度、学歴と労働市場への参加
  6.1.3 スキル習熟度、学歴と就業
  6.1.4 スキル習熟度、学歴と賃金
 6.2 スキル習熟度の社会的アウトカム
  6.2.1 信頼
  6.2.2 ボランティア活動
  6.2.3 政治的効用感
  6.2.4 健康
  6.2.5 スキル習熟度、学歴と社会的アウトカム

資料
 資料1 調査対象者の分類
 資料2 背景調査の質問項目

ちなみに、「成人力」という奇妙な言葉に違和感を感じたのは私だけではないようで、今朝の日経新聞のコラム「春秋」は、

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO60840160Z01C13A0MM8000/

・・・しかし、経済協力開発機構(OECD)が初めて行った「国際成人力調査」は、2人のいう「成人力」を知るためのものではない。まずは、原題を「○×力」という賞味期限が切れかかった造語に翻訳したお役所のセンスが悪い、と小言を呈したうえでの話である。

日本語には「技能」という立派な言葉があるのに、文部科学省もマスコミも妙に使いたがらないのですね。

なお、このOECD調査結果についてのコメントが、明日あたりどこかの新聞に出たりするかも知れません。

OECDの『技能アウトルック』が「成人力」ですか

Skills既に本ブログでも予告していたOECDの初の『技能アウトルック』2013年版が公表されましたが、

http://skills.oecd.org/skillsoutlook.html

This first OECD Skills Outlook presents the initial results of the Survey of Adult Skills (PIAAC), which evaluates the skills of adults in 24 countries. It provides insights into the availability of some of the key skills and how they are used at work and at home. A major component is the direct assessment of key information-processing skills: literacy, numeracy and problem solving in the context of technology-rich environments.

技能概念のない日本のマスコミはこれを「成人力」などと報道しているようですね。

この報道の偏りぶりから、日本の「空気」のガラパゴスぶりがよくわかります。

この本は全文が無料でダウンロード可能ですので、関心のある皆様は是非。

http://skills.oecd.org/OECD_Skills_Outlook_2013.pdf

内容は以下の通りです。

Chapter 1. The Skills Needed for the 21st Century

This chapter introduces the Survey of Adult Skills (PIAAC). It gives a brief overview of how and why the demand for skills has been changing over the past decades. It discusses the advent and widespread adoption of information and communication technologies. The chapter describes how the survey – the first international survey to directly measure skills in literacy, numeracy and problem solving in technology-rich environments – can assist policy makers.

Chapter 2.Proficiency in Key Information-Processing Skills among Working-Age Adults

This chapter reveals the level and distribution of proficiency in key information-processing skills among adults in the countries that participated in the Survey of Adult Skills (PIAAC). Results are presented separately for literacy, numeracy and problem solving in technology-rich environments. To help readers interpret the findings, the results are linked to descriptions of what adults with particular scores can do.

Chapter 3.The Socio-Demographic Distribution of Key Information-Processing Skills

This chapter examines how proficiency in literacy, numeracy and problem solving in technology-rich environments is distributed among individuals according to various socio-demographic characteristics. These include socio-economic background, educational attainment, immigrant and/or foreign-language background, age, gender and type of occupation.

Chapter 4.How Skills Are Used in the Workplace

This chapter discusses how information-processing and generic skills are used in the workplace. It also reveals the extent of “mismatch” between the qualifications held by workers or their skills proficiency and the qualifications or skills required in their jobs. Qualification and skills mismatch are compared, and their effect on wages and the use of skills at work is assessed.

Chapter 5.Developing and Maintaining Key Information-Processing Skills

This chapter examines the processes and practices that help to develop and maintain skills – and the factors that can lead to a loss of skills. It discusses how age, educational attainment, participation in adult learning activities and engagement in skills-related activities outside of work affect skills proficiency.

Chapter 6.Key Skills and Economic and Social Well-Being

This chapter details how proficiency in literacy, numeracy and problem solving skills is positively associated with other aspects of well-being. These include labour-market participation, employment, earnings, health, participation in associative or volunteer activities, and the belief that an individual can have an impact on the political process.

そもそも、文部科学省が『成人力』って言っているのか・・・。

アダルト・スキルを成人力と訳したのは誰だ。

2013年10月 8日 (火)

経済同友会雇用・労働市場委員会にて

本日、経済同友会の「雇用・労働市場委員会」にお呼び頂き、「今後の労働法制の在り方」についてお話をして参りました。

経済同友会は企業経営者個人の集まりなので、この会合に出席されたのも、錚々たる企業の社長や会長、CEOといった方々です。

わたくしは、呼ばれたところが経団連であろうが経済同友会であろうが、連合であろうが何であろうが、基本的に同じお話を致しますので、いろいろな受け取り方があったかと思いますが、大きな方向性としては、かなりご理解をいただけたのではないかと思っております。

1時間お話しして、予定を超えて35分以上の質疑となりましたが、大変本質的な突っ込んだご意見をいただきました。

1 日本型雇用システムとその変容
・「ジョブ型」と「メンバーシップ型」
・正社員と非正規労働者それぞれに矛盾
・求められるのは「規制改革」ではなく、「システム改革」

2 限定正社員(ジョブ型正社員)
・解雇「規制」の緩和ではない!
・「高度」ではない(とは限らない)専門能力活用型の無期雇用
・iPS細胞ではなく、部品型労働力
・どこまで「限定」に耐えられるか、問われるのは企業側

3 解雇規制と金銭解決
・労契法16条は変えようがない
・現行法は金銭解決を否定していない
・中小企業では金銭解決なき解雇が多い
・裁判前金銭解決を促進するためには裁判後金銭解決金額の基準設定が有効

4 労働時間規制の誤解
・日本の労働時間規制は極めて緩い
・異常に厳しいのは残業代規制
・正しい「残業代ゼロ」を隠して、嘘の「ワークライフバランス」を掲げる
・そもそも人単位の「企画業務」など存在しない
・正しい中高位者エグゼンプションと健康確保のためのセーフティネット

5 労働条件変更と集団的労使関係システム
・2007年労契法の挫折
・現行過半数代表者法制の欠陥
・労働条件変更を正当化しうる従業員代表法制の必要性
・「過半数組合」を労組法上に位置づける必要性

6 労働者派遣法制の見直し
・「常用代替防止」とは何か
・派遣労働者保護法への転換
・派遣業界レベル協約によるジョブ型労働市場形成の可能性

農業の適用除外の再検討

ご存じの通り、現在農業は労働基準法の労働時間規定が適用除外されています。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO049.html

第四十一条  この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

別表第一 (第三十三条、第四十条、第四十一条、第五十六条、第六十一条関係)
一 物の製造、改造、加工、修理、洗浄、選別、包装、装飾、仕上げ、販売のためにする仕立て、破壊若しくは解体又は材料の変造の事業(電気、ガス又は各種動力の発生、変更若しくは伝導の事業及び水道の事業を含む。)
二 鉱業、石切り業その他土石又は鉱物採取の事業
三 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
四 道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業
五 ドック、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫における貨物の取扱いの事業
六 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
七 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業

八 物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
九 金融、保険、媒介、周旋、集金、案内又は広告の事業
十 映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業
十一 郵便、信書便又は電気通信の事業
十二 教育、研究又は調査の事業
十三 病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
十四 旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業
十五 焼却、清掃又はと畜場の事業

実は、かつては林業も適用除外だったのですが、その後適用されるようになりました。

農業や畜産業が適用除外されているのは、コンメンタールでは「その性質上天候等の自然的条件に左右されるため」とされていますが、それを言うなら林業だってそうだし、建設業だってある程度までそうなのですから、本当のところはむしろ、戦後の農地改革で、農業従事者のほとんどが自作農となり、農業雇用労働者というのがほとんど存在しなくなったからではないかと推測しています。

ところが、その基盤がそろそろ揺らぎだしているようです。

規制改革会議の10月4日の会議に提示された提案というのを見ると、

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee2/131004/agenda.html

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee2/131004/item2-2_2.pdf

「多様化する農業法人での雇用労働への対応」という項目で、

6次産業化への取組が進むことに伴い、農業法人等の従業員が製造・加工や販売等に携わる機会が増えていることから、農業に従事しつつ製造・加工・販売等にも従事する従業員の労働基準法上の取扱いについて明確にしたガイドライン等の作成を求める。

と書かれています。

ここではガイドラインという話をしていますが、そろそろ農業・畜産業への労働時間規定の適用の是非という根本論をする時期が来ているようにも思います。

というか、実は既に農業分野への雇用労働者の就業は隠れた形で進んでいるんですね。研修・技能実習制度は元々は製造業などを想定していたのですが、今ではかなりの数が農業分野に入っていることは周知の通りで、これをそのままにしておいていいのか、というのも大きな問題であるはずなのです。入管法改正で、労働者じゃないことにはできなくなっているわけだし。

労働法分野ではまだほとんど指摘のない事項ですが、真面目に考える必要はあろうと思います。

経済学者の意識せざるウソ

いつものことではあるのですが、朝日の紙面にでかでかと出ているので、

今朝の朝日の15面、経済学者の松井彰彦氏が、「改正労働契約法 「身分差」埋める努力を」というのを書いているのですが、これが、法律そのものを知らないまま、慣行を法律規定と思い込み、その慣行を是正しようとしている法律を、その趣旨と正反対のものと取り違えるという、ある種の経済学者に典型的な間違いを堂々と犯しています。

・・・もちろん、この問題は大学に限らない。元々の原因は正規労働者と非正規労働者の間の身分差にある。

日本は欧米諸国と比べても、正規労働者と非正規労働者を法律によって明確に区別し、前者を手厚く保護することで知られている。・・・

こういう、法学部の1年制でもたやすくその間違いを指摘できるような台詞を、東大経済学部教授が平然と吐けてしまうのが、今日の現状というわけです。

いうまでもなく、日本国の実定法体系は、欧米と共通のジョブ型で作られています。しかし、日本の企業、とりわけ大企業が、事実上の慣行として強固なメンバーシップ型のシステムを確立してきたため、その下で生ずるさまざまな紛争の処理も、現実に存在するメンバーシップ型の枠組を前提として判断されてこざるをえず、結果としてメンバーシップ型に立脚する膨大な判例法理が積み重ねられてきた、ということは拙著で繰り返し述べたとおりです。

判例法理は膨大に積み上がっても、実定労働法自体に「正規労働者と非正規労働者を法律によって明確に区別し、前者を手厚く保護する」などという馬鹿なことはありません。むしろ、実定法だけ見ていけば、事実として厳然として存在するメンバーシップ型を前提とした「正規労働者と非正規労働者の間の身分差」を、何とか少しでも縮小しようと努力を試みているわけで、その一つの現れが、この松井氏が口を極めて非難している昨年の労働契約法改正であったわけです。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H19/H19HO128.html

第十八条  同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。

(有期労働契約の更新等)

第十九条  有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)

第二十条  有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

そういうまさに「正規労働者と非正規労働者の間の身分差」を埋めようとする実定法の試みが、しかしながら現実の(大学を含めた)メンバーシップ型社会の圧力の前になかなか効果を発揮できない姿を目の前にして、よくぞ人ごとみたいに「「身分差」埋める努力を」などと言えるものだと、もののわかった人ならあきれてものが言えなくなるところですが、朝日新聞の記者も含めて、そういうリテラシーが欠如している人々にはどうにも通じないようなのですね。

(参考)

https://twitter.com/Keikolein/status/387422814245883904

あ。この嘘ははまちゃん先生じゃなくてもイラッとするなー。それをただ載せる新聞にも腹立つーっ“

https://twitter.com/sumiyoshi_49/status/387518052436160512

国による法規制と民間の慣行による規制を混同するのは、経済学者の職業病なのなのだろうか。

https://twitter.com/04_17/status/387521161015214080

学者に専門分野以外の事を喋らせてはいけない。

https://twitter.com/konno_haruki/status/387496091626659840

経済学が悪いのではなく、勉強不足。経済学でも、制度学派の本を一冊でも読んでいれば、こうはならない。

一番冷静に事態を解説しているのはPOSSEの今野さんでした。

https://twitter.com/shimashima35/status/388125483730100224

「法律によって明確に区別し」とまで言っているのだから、どの条文か指摘できるはずだよね?突込み入れれば勉強不足が露呈する。

https://twitter.com/tm_tkuc/status/387598768943558656

俺の浅い読解力ではhamachanさんの経済学者に対する意見は「法に(文字で)書いてあることと書いてないことを混同するな」と「大企業の事例を全体に適用できると思うな」の2点に集約されると思うんだけどね。

https://twitter.com/bn2islander/status/388272923452010496

hamachan先生は非正規を正規化しろとは言ってないようには思った。有期の無期化は主張していてもね

正確にいうと、非正規を特殊日本的メンバーシップ型正社員にしろなどと言っておらず、欧米で普通の無期労働者、つまり「ジョブ型正社員」にしようと言っているのですが、

そこをわざと理解できないふりをして、「日本型正社員になんか出来ねえだろ、バカ」と言って、人の意見をよく読まない善男善女を惑わすわけです。

まあ、左右の極論派から見当外れの人格攻撃や属性攻撃を受けるほどに、「ジョブ型正社員」論が現実に世の中を動かす理論となりつつあるということの一つの表れなのでしょう。

主観的にはどんなに声をからして応援しても、経団連からも規制改革会議からもOECDからも歯牙にもかけられず、洟も引っかけられない評論家諸氏にできるのは、議論の中身をわざと無視した人格攻撃や属性攻撃だけというのが、かの有名な「第3法則」の示すところであったわけですが。

毛塚勝利編『事業再構築における労働法の役割』

1106336320毛塚勝利編『事業再構築における労働法の役割』(中央経済社)をお送り頂きました.ありがとうございます。

M&Aから企業再生時の再編さらにはアウトソーシングなど、多様な事業の再編の局面における労働者保護の現状と課題を法的側面から検討する。欧州の最新動向も紹介する。

本書における事業再構築とは、(1)事業組織の再編(企業再編)に、(2)業務の外部化(アウトソーシング)・「ヒト」の外部化(第三者労働力の利用)と(3)人的合理化(解雇・労働条件の変更)を加えて考えている。経営効率の追求のなか事業の再編成の強化が不可避であるならば、その現実に労働法がどのような選択肢を提供できるか、公務サービスの動向をも視野に入れて探求する。

ということで、全部で500ページを超える大冊の内容は以下の通りです。

第1編 事業の再構築をめぐる法的問題(課題設定—検討の概要と特色
組織再編をめぐる法的問題
事業譲渡における労働契約の承継をめぐる法的問題
解散・倒産をめぐる法的問題
現代における整理解雇法理のあり方
賃金処遇制度の見直しをめぐる法的問題
第三者労働力利用と集団的労使関係—派遣先の団交応諾義務
公務部門の法的問題
事業再編における労働者保護に関する立法論的検討:欧州法モデルを超えて)
第2編 比較法の視点からの検討(EU法
ドイツ法
イギリス法)

このうち、橋本陽子さんが書かれているEU法の章は、私にとってもずっとフォローしてきた分野でもあります。

上記目次のように、かなり広範な分野を対象にしている本書ですが、やはり中心をなすのは、編者である毛塚さんの「事業再編における労働者保護に関する立法論的検討」でしょう。あえて、「欧州法モデルを超えて」というサブタイトルをつけていることに、2000年の労働契約承継法を超える立法を目指す思いが伝わってきます。他の論文も、多かれ少なかれ同じ方向性を共有しているように見えます。

ただ、私自身は、本書の筆者の皆さんとはいささか考えを異にするところがあります。それは、端的に言ってしまうと、欧米と違って職務無限定の労働契約を前提とする日本の労働社会において、ドイツ法にならって、事業移転に伴って自動承継されない異議申立権を認めてしまっても、移転元に仕事がなくなった(移転してしまったんだから当然)ことを理由とする解雇がドイツと同じように行えるわけではないため、結果的に労働者のごね得を認める結果になってしまうのではないかということです。(ドイツの章の374ページ参照)

それに、ドイツ以外の国では、そもそもジョブとともに移転するのが当たり前で、嫌だという権利がある訳ではないのがデフォルトなわけです。

ジョブ型だから自動移転を原則とする社会で、それは嫌だと主張する権利はあっても、それは仕事がなくなったことを理由とする正当な解雇のリスクにさらされることを意味する訳なので、バランスはとれるわけですが、メンバーシップ型の社会で同じようにはならないのではないでしょうか。

2013年10月 7日 (月)

守島基博・大内伸哉『人事と法の対話』

L14452守島基博さんと大内伸哉さんの対談本『人事と法の対話 新たな融合を目指して』(有斐閣)をお送り頂きました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641144521

人事管理と労働法は敵対するものなのか。両者が協力して,人を幸せにする雇用のあり方を作ることはできないのか。「雇用の多様化」「解雇規制」等,話題のテーマを素材に,新たな人材マネジメントのあり方を人事管理と労働法の対話から考える。

実を言えば、労働法と経済学の話の噛み合わなさに比べると、労働法と人事管理は、話の一つ一つが嫌になるくらい噛み合いすぎて、それが故にいろいろと問題も出てくるという面が強いのではないかと考えています。

以前、大内さんも入った『雇用社会の法と経済』(有斐閣)をJIL雑誌上で書評したときに、

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2008/08/pdf/116-124.pdf

第7章の人事考課・査定(土田・守島) は, 法と経済学ではなく人事管理論との対話であるが, 他の領域と異なり両者はほぼ同じ現実認識のもとほぼ同じ問題意識で語っているように見える。

と述べたことがありますが、本書でも、そもそも下の目次のように、労働法と人事管理の問題意識がほぼきれいに一対一対応していること自体が、両者の噛み合いぶりを証明していると言えるのではないでしょうか。

もっとも、噛み合わない同士は、所詮お互いに遠吠えするだけですが、噛み合う同士はまさに「噛み合」ってしまうので、いかにその認識が遠く離れているかがくっきりと浮かび上がってくる面もありますが、それも噛み合いの味というもので。

session 01 人材を獲得するとき
session 02 正社員と非正社員の間
 《ゲスト:二宮大祐氏〔イオン㈱グループ人事部〕》
session 03 公正な評価と納得できる賃金
session 04 人材を動かすとき
session 05 人材を育成するとき
 《ゲスト:澤和宏氏〔㈱ベネッセコーポレーション人財部〕》
session 06 ワーク・ライフ・バランス
session 07 メンタルヘルスと産業医の役割
 《ゲスト:川上憲人教授〔東京大学大学院医学系研究科〕》
session 08 退職のマネジメント
session 09 高年齢者の雇用
session 10 労働紛争の解決
session 11 グローバル化で問われる日本の人事
 《ゲスト:日置政克氏〔コマツ顧問〕》
session 12 対談を振り返って

内容的にも、まさに現下の政策課題である問題が目白押しで論じられており、関心のある読者は一気に通読してしまうでしょう。

2013年10月 6日 (日)

私はブラック企業の経営者だった

「9bit Party」というブログに、「私はブラック企業の経営者だった」という大変興味深いエントリがアップされておりました。

http://blog.goo.ne.jp/lattice_anomaly/e/ff870f6ecb3086069aa30bbca8ce3600

これは薄っぺらなマスコミの表層的な記事とは違って、とても物事の本質に迫った記述になっています。

かつて私は経営者として利益のために横暴の限りを尽くし、社員の心身と人生を破壊した挙句に、結局何も残せなかった。
つまり私はブラック企業の経営者だった。

良き経営者がすべきではないことの全てを私はした。
サービス残業をさせた。
休日出勤をさせた。
賞与を払わなかった。
何十時間、何百時間と、従業員が体を壊すまで酷使した。
過大なノルマを課した。
それだけのことをしても、恐ろしいことに私は恨まれなかった。

私は、私と従業員たちが家族のように仲良くつきあっていたことを利用したのだ。
彼らは会社の一員である自分たちが、会社が大変なときに滅私奉公するのは当然のことと考えていた。
私も彼らに協力を要請し、自分の家を守るかのごとく会社を守って欲しいと願った。
誰も自分たちの置かれた境遇に文句を言わなかった。

そして最後に私は、会社のために利益を出せなくなった従業員を次々に解雇していった。
会社の一員である彼らが、会社に貢献できなくなった時に辞めていくのは当然のことだと思った。

こういう行動様式の背後にある思想は何か?

多くのブラック企業はメンバーシップ型雇用の権利だけを利用し、義務を果たさないでいる。
従業員に対しては日本型のメンバーシップ雇用を推奨し、経営者としては欧米型の「ぐろうばる・すたんだあど」を連呼する。

従業員は、まるで経営者のように働くことを当然とされる。
会社メンバーの一員として、会社理念を理解し、会社の利益を考え、会社のために自己犠牲を求められる。
それができない社員は無能でやる気のない怠惰な社員として罵られるのだ。
それは日本では当然の「メンバーシップ型」労働なのだと経営者は説く。

だが経営者は、従業員を経営者としては扱わない。
会社利益に貢献しなくなった従業員は辞めさせればいい。
辞めさせる手段はいくらでもある。
この「ぐろうばる・すたんだあど」な競争が求められる時代に、それは当然のことと彼らは主張する。
それは欧米では当然の「ジョブ型」労働なのだと経営者は説く。

要はブラック企業の経営者は自分に都合のいい所だけを取り出して使っている。
「メンバーシップ型」の長所と「ジョブ型」の長所を合体させた無敵経営だ。

自分自身が経営者として、まさにそういう行動様式をなんの疑いもなく取ってきた方であるが故に、現実を何も知らない経済学者流とは違って、その実相をこのようにえぐり出すことができるのでしょう。

最近の拙著書評

先日、土田宏樹さんの書評を紹介しましたが、その他にもぼちぼちと、拙著への書評が続いております。その中からいくつかを紹介。

http://nishimiyahara-law.com/%e6%9b%b8%e8%a9%95/1100/(西宮原法律事務所)

いっぽう、濱口さんの本はもう少し学術的な性格が強く、労働省やEUでの勤務、政策研究大学院大学等での研究を踏まえて、日本の若者雇用に関する政策の推移を「ジョブ型社会」と「メンバーシップ型社会」という概念を用いて整理し、今後に向けた提言をされている好著です。

http://d.hatena.ne.jp/sunasand/20130928(LoS (Locus of Scent))

最近読んだ濱口桂一郎の「若者と労働」がほんとうにおもしろくて、テンションが上がっている。自分やその他わかものを取りまく労働のしくみや、教育との絡みはすごく気になっていて、そこに触れる内容だった。この本で読んだことを土台にして、いろいろな学びを積み重ねていけるという予感がする。もし内容がまるきり嘘っぱちだったとしても読んでよかったと思う。
まったく違うルートからのインプットが重なり、厚みが生まれつつあることへのぞくぞくする気持ち。知り合いの知り合いが知り合いだったときの、いままでと違う次元の光が垣間見える瞬間。臆せずゆこう。

https://twitter.com/shimitection/status/384163480867049472

濱口『若者と労働』がすごい。冷静に理知的に日本の若者の労働問題を分析している。しかも文章が研ぎ澄まされている。

https://twitter.com/shimitection/status/384317780696133634

濱口桂一郎『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』読了。近年稀に見る良質の新書だった。欧米はジョブ型雇用、日本はメンバーシップ型雇用という対立を軸に、すっきりと若年者雇用の問題を「解きほぐし」ている。しかもすごいのは、最後まで話が滑らかに連続してる美しい語り口。

https://twitter.com/shale_tw/status/386318625239363584

読んだ本:「若者と労働」(濱口桂一郎・中公新書ラクレ465)…読んだ後に、世の中がよりすっきりと見通せるような、そういう本があるだろう。本書はそれだと思う。こんにちの日本若者雇用問題はなぜ起きて、難しいのか。企業、政策のすれ違いを国外と比較する。最後は提言。

あと、本ではなく、講演の感想として、

http://ameblo.jp/macaron716/entry-11628889028.html(神戸労働法執務室)

・・・濱口先生は、労働法の諸問題について現場の生の姿をほんとうによく見ている方だなと思います。労働法学者の多くは、企業に就職しないまま、また大学のような特殊な世界に属するので、労働の泥臭い部分を知っているのか疑問に思うこともあります。しかし、濱口先生は、現場のことをちゃんとわかっていて、実態に近いところで分析されています。そこが労働法学者とは違う視点だと思います。だから、私たち社労士が日ごろ、現場と向き合う問題を理論的に論じていおられるので、妙に納得を得やすいのかもしれません。・・・

ワークルール教育推進法の制定を求める意見書@労働弁護団

日本労働弁護団が「ワークルール教育推進法の制定を求める意見書」を発表しています。

http://roudou-bengodan.org/proposal/detail/post-50.php

かなり長いので、冒頭の「ワークルール教育推進法制定の必要性とその目的」のところを引用しておくと、

使用者と労働者間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差があるもとで、また、新たな労働法制の創設や法改正、雇用形態の多様化・複雑化に伴って、様々な労働トラブルが発生し、かつ増加している。この実情を踏まえると、労働者及び使用者が、労働関係法制度を中心とする労働関係諸制度についての正確な理解を深め、かつその理解に基づいた適切な行動を行い得る能力を身につけることが、労働者にとっては自らの権利と生活を守り、ワークライフバランスを実現するために、使用者にとっては円滑かつ適切な企業活動を確保するために重要な要素であり、労働者・使用者双方にとって必要不可欠である。

労働者及び使用者がそれらの知識、能力を獲得するプロセスにおいて、ワークルール教育が重要な役割を担うことに鑑み、ワークルール教育の基本理念を定め、ワークルール教育の施策の基本となる事項を定め、国、地方公共団体等の責務を明らかにすることにより、ワークルール教育に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、健全で安定した労働関係の形成に資することを目的とする法律を制定することが必要である。

本ブログでもこの問題は繰り返し取り上げてきたテーマです。

問題のネックはなんといっても学校教育の中にどれだけこの問題意識を共有してもらえるかで、

(1) 学校におけるワークルール教育の推進

① 国及び地方公共団体は、児童及び生徒の発達段階に応じて、学校の授業その他の教育活動において適切かつ体系的なワークルール教育の機会を確保するため、必要な施策を推進しなければならない。   

② 国及び地方公共団体は、教育職員に対するワークルール教育に関する研修を充実するための必要な措置を講じなければならない。

(2) 大学等におけるワークルール教育の推進

国及び地方公共団体は、大学等においてワークルール教育が適切に行われるようにするため、大学等に対し、ワークルール教育に関する自主的な取り組みを行うよう促すとともに、それらの取り組みに従事する教職員に対し、研修の機会の確保、情報の提供その他の必要な措置を講じなければならない。

いあゆるキャリア教育には熱心でも、労働教育にはリラクタントな風潮は根強いと感じます。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/08/post_44c0.html(今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/post-9708.html(今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会報告書)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-6f0e.html(神奈川県立田奈高校の労働教育)

2013年10月 4日 (金)

「高齢者フル就業」以外に日本の進路はない@『エコノミスト臨時増刊』

4910200371038既に発売されている『エコノミスト臨時増刊 65歳雇用の真実』ですが、そのうち特集「さらば「日本型雇用」」に並んでいる論文とその筆者のリストは以下の通りです。

編集者がどういう考えでこういう取り合わせにしたのかは、編集者に聞くよりありませんが、なかなか面白い取り合わせであることだけは間違いないようです。

さらば「日本型雇用」へ “直球”提言

なぜ「正社員改革」が必要なのか 日本を救う規制改革会議の提案=鶴光太郎 62

「40歳定年制」への大いなる誤解 「人生3毛作」時代へ最適の区切り=柳川範之 66

規制による雇用延長は高齢者活用に逆効果 定年制を廃止できる労働市場改革を=八代尚宏 70

年金「65歳引き上げ」は第一歩 支給開始年齢、いずれ70歳以上?=鈴木亘 74

60歳から80歳までのキャリアデザイン キーワードは「無理なく」「役に立つ」=大久保幸夫 78

「キャリア権」とは何か 職業能力を開発、キャリアを財産とするための基盤概念=石山恒貴 82

キャリアアップの受け皿 社会人大学院、現在伸び悩み 「学び直し」に格好の場だが=編集部 87

「ジェロントロジー」って何だ?超高齢未来を創造するエンジン=前田展弘/初の「高齢社会検定試験」 秋山弘子・東大特任教授に聞く 88

「高齢者フル就業」以外に日本の進路はない 「定年」は時代遅れの日本型雇用システム=濱口桂一郎 92

「労使自治によるルールを」 インタビュー 川本裕康・日本経済団体連合会常務理事 96

企業規模で違う解雇規制、65歳雇用 どちらも無縁?中小企業=編集部 97

わたくしの文章の冒頭のところをチラ見せしておきますと:

先進国の常識は高齢者フル就業である。今どき、高齢者を早く引退させよなどと主張している人間は、学者であれ経営者であれ政治家であれジャーナリストであれ、世界の雇用政策アリーナでは笑い者になると覚悟した方がいい。それも当然だろう。急激な出生率の低下と寿命の伸びによる人口の高齢化は、先進諸国が今後数十年間共通に直面する課題だ。この挑戦に対し、高齢者の雇用就業を促進するという応戦の方向性が明確になってきている。これは特に、かつて高齢者の早期引退政策をとってきたヨーロッパ諸国において顕著である。

その中でも日本は、2050年に65歳以上人口比率が3分の1を超える超高齢化社会になると見込まれているのであるから、より高齢者雇用に熱心であってしかるべきだろう。ところが奇妙なことに、民主党政権時代には、世界の潮流に真っ向から反する「40歳定年」などという政策提言が、政府の中枢に近い国家戦略会議フロンティア分科会から打ち出されたりしている。なぜこのような奇怪な事態が発生するのか。そこには、他の先進国と異なる日本型雇用システムが深く関わっている。・・・

 

法律学的にはその二つはまったく逆なんだが

もちろん、ちゃんと勉強している法学部生だったら、「解雇ルールの明確化」と称するこの二つが理論的にまったく逆であることは理解できるはずなんですが・・・、

(9月20日バージョン)

仮に裁判になった際に契約条項が裁判規範となることを法定する。

→労働契約法16条を明確化する特例規定として、「特区内で定めるガイドラインに適合する契約条項に基づく解雇は有効となる」ことを規定する。

(10月4日バージョン)

契約内容が特区本部で定めるガイドラインに適合する場合、裁判規範として尊重されるよう制度化

日本語として意味がとりにくいところもありますが、前者は法律学でいうみなし規定。つまり、実態がどうであろうが契約に書かれたとおりであると見なして法律効果を発生させるということ。事実を提示して反論することはできない。このみなし規定は当然裁判所を拘束するので、裁判所が事実認定によってひっくり返すことはできない。という趣旨にしか読めません。

一方、後者は、「制度化」の意味がやや不明ですが、要するに裁判官に「尊重してくださいませ」とお願いするだけで、みなし効果はなし。裁判官が契約条項やガイドラインを「尊重」して審理した結果、やっぱり権利濫用だよね、だから無効だよね、と言う可能性は当然ある。という風に読めます。

この法律学的にはまったく逆である内容を、まったく同じと言う人の法律学的素養についてはともかく、「尊重してくださいませ」特区ということであれば、民法第1条第3項を適用除外するという驚天動地の大革命ということにはならないようでありますな。

以上はあくまでも法制執務的観点からの話であって、労働政策上の是非論とは関係ありません。

山内栄人『図解 人材ビジネスを楽しくする101のしかけ』

A山内栄人さんより近著『人材派遣会社向け 図解 人材ビジネスを楽しくする101のしかけ』(秀和システム)をお送りいただきました。

http://www.shuwasystem.co.jp/products/7980html/3929.html

山内さんからは以前にも『業務請負の基本とカラクリ』をお送りいただいていますが、今回の本も、本人の言い方を借りれば、「超実務的」な内容になっています。

人材ビジネス業界での実態をふまえて派遣業務を成功に導くためのノウハウをわかりやすく解説した入門書です。派遣業務に関係する法律の解説書は多々ありますが、それだけでは実際に現場で働く人材ビジネス会社の社員の悩みは解決しません。本書は、現場を知る人材ビジネス業界出身の著者が、理想論を廃して実態に即した解決策を提示します。「スタッフの定着が悪すぎる」「時間外が多すぎる」「単価交渉ができない」「飛び込み営業が上手くいかない」「Facebookを活用した新規顧客開拓」「スタッフが突然退社してしまった」「他社との差別化をどうするか」など既存顧客への対応から、新規顧客開拓、スタッフ管理、経営戦略まで幅広い悩みが解消します。

その「101のしかけ」は、目次を羅列すると以下のようですが、

第1章 既存顧客対応の極意

1 顧客対応に苦しんでいませんか?

2 人選が通らない

3 定着が悪いと怒られる

4 時間外が多すぎる

5 派遣先の環境が良くない

6 人配置が遅れ怒られる

7 顧客から舐められている

8 違法な要求を受ける

9 提案が通らない

10 突発退社で怒られる

11 行っても担当者と話すことが無い

12 他社贔屓でシェア下落

13 現場で労災が続く

14 作業現場を見ることができない

15 単価交渉ができない

16 請負なのに指示をする

17 請負なのに作業速度を指示

18 請負なのに人員指定

19 請負なのに工数請求

20 決裁者まで話が行かない

第2章 新規顧客開拓の極意

1 新規顧客開拓に苦しんでいませんか?

2 会社の特徴を言えない

3 初回訪問で持っていく物が無い

4 持参品(会社案内)が弱い

5 持参品(営業ツール)が無い

6 アポイントが取れない

7 飛び込むが上手く行かない

8 プル型営業の概念がわからない

9 人材ビジネスのプル型営業とは?

10 セミナー営業の概念とは?

11 セミナー集客成功のコツ

12 セミナー成功のために

13 勉強会の開催

14 無料相談の活用

15 コンサルティングの活用

16 WEB戦略に関して

17 ソリューションサイトとは?

18 コーポレートサイトの役割

19 Facebookの活用法とは?

20 Facebookページの活用

21 ブログ活用のススメ

22 ツイッターの活用法とは?

23 ニュースレターの活用

24 定期訪問のネタに困る

第3章 スタッフ管理の極意

1 スタッフ管理が楽しくない理由

2 従業員と距離感がある

3 会話が続かない

4 突発退社が発生

5 連絡が取れない

6 飛んだスタッフの退職

7 寮を出ない

8 相談してくれない

9 請負リーダーと従業員の関係が悪い

10 請負リーダーと担当の関係が悪い

11 携帯電話代が高い

12 従業員対応に時間がかかる

13 従業員が信用できない

14 従業員への安全配慮

15 入社日に来ない

16 入社数日後に退職

第4章 求人戦略の極意

1 求人が苦戦する理由

2 求人広告は広告

3 AIDMAの法則

4 求人広告会社の提案をそのまま

5 なし崩しの求人広告

6 期待している人が集まらない

7 集まるけど採用できる人がいない

8 採用見込でも、入社とならない

9 狩猟型と養殖型とは?

10 無料スクールの設置

11 今後の求人広告媒体

12 求人広告効果測定

13 登録場所の注意事項

14 お友達キャンペーンの落とし穴

第5章 経営戦略の極意

1 経営戦略が楽しくない理由

2 顧客ターゲットが定まらない

3 商品ラインナップが定まっていない

4 商圏が定まっていない

5 営業マンに依存する経営

6 経営ビジョンが明確では無い

7 社員がなかなか育たない

8 中間層が育たない

9 社員の定着が悪い

10 社員が精神疾患に

11 社員の意見が出てこない

12 他社と差別化できていない

13 中長期的な展望が無い

14 会議が上手くいかない

15 目先の利益に左右されない

16 経営に志があるか

第6章 人材ビジネスを楽しむ極意

1 人材ビジネスが楽しくない理由

2 社員の顔は晴れていますか?

3 人材ビジネスは社会に必要な仕組み

4 悪貨に良貨を駆逐させてはいけない

5 マスコミの報道は偏っている

6 社会的役割を自分の仕事に

7 人材ビジネスは学びが大きい

8 人材ビジネスはコンサル養成所

9 経営者としてできること

10 この業界の未来とは?

11 社員の披露宴で堂々と言える業界へ

多分、どれもこれも派遣業界の方々からすると、「これもあるある」「あれもあるある」なんでしょうね。


2013年10月 3日 (木)

土田宏樹さんの拙著書評

Dsbno415l『伝送便』10月号に、土田宏樹さんが拙著『若者と労働』の書評を書かれたということを、下のエントリへのコメントとトラックバックでお伝え頂きました。

http://suyiryutei.exblog.jp/21200247

土田さんのブログ「酔流亭日乗」に、その全文がアップされていますので、こちらにもそのまま引用させて頂きます。

リンク先には、紙面の画像もあります。

今年の二月に東京、四月は大阪で開催された「新人事制度」学習会で報告をしたとき、その準備の一夜漬けで勉強になった本に濱口桂一郎氏の『新しい労働社会』(岩波新書)と『日本の雇用と労働法』(日経文庫)がある。著者の考え全てに賛同するのではないが、問題の本質的なところを掴んで提出してくれるのがありがたかった。その濱口氏の新著『若者と労働』は、いま話題の「限定正社員」について正面から論じている。そもそも「ジョブ型正社員」を提唱することで、この議論に先鞭をつけたのは濱口氏。が、急いで断っておけば、このごろ財界から盛んに出されている「解雇しやすい」ためだけの「限定正社員」と氏の構想とは同じではない。

 過労死をも頻出させている日本の労働者の長時間労働や会社への無限の忠誠はどこに淵源するか。それは日本の雇用の在り方が他国と異なり「メンバーシップ型」であることだと著者は指摘する。日本においては正社員としての就職とは、言葉そのままに職(ジョブ)に就くことではなく、会社に入ること。だから、その会社の構成員になることと引き換えに会社の強い指揮命令権を受け入れてしまう。それと引き換えに会社は正社員を簡単には解雇しない。今やっている仕事がなくなれば別の職につける(「整理解雇四要件」のひとつ解雇回避努力)。最近のブラック企業現象とは、そういう保障はせずに、強い指揮命令権だけは行使するような企業のことである。そしてメンバーシップから排除されている非正規雇用労働者には雇止めの不安が。そこで氏は、従来の正社員とも非正規雇用労働者とも違う第三の類型としてジョブ型正社員を提起するのである。それは正社員からは会社への無限忠誠という軛を取り払い(ワークライフバランスの実現)、非正規雇用労働者には(仕事がある限りだが)雇用の安定を保障するだろう。

 メンバーシップ型とジョブ型という対比は、労働運動の言葉に置き換えれば企業別と産業別というのに重なる。ならばジョブ型へという方向そのものには否やはない。問題はそれをどう進めるか。氏は、メンバーシップ型の存在を前提としつつジョブ型を漸進的に進め、いずれジョブ型を標準仕様としたいようだ。両者が併存した状態における格差の問題が軽視されてはいないだろうか。郵政でこれから導入される「新一般職」は氏の言うジョブ型正社員に近いが、年収は五〇代なかばの一番高いときで四五〇万円ほど。すると四〇歳前後なら四〇〇万に届かない。その年齢での郵政正社員なら年収は六〇〇万円前後だ。養育や住居に金のかかる世代である。ワークライフバランスと引き換えにこれだけの収入ダウンに耐えられる人がどれくらいいるだろうか。むしろメンバーシップ型の中でジョブ型におとされないための忠誠競争が激化しはしないか。他方、非正規雇用から新一般職への登用は小出しに、すなわち厳しい選別を通じて行われる(五年後の数字として郵便事業部では非正規雇用七万四〇〇人に対して新一般職は僅か一万三二〇〇人)。こちらもまた激しい競争を強いられるだろう。事態は氏が望むのとは反対の方向に進まないか。資本と労働の力関係において資本がはるかに優勢であれば、どんな処方箋を書いても資本に都合よく歪められてしまう。その力関係を変えていくことが私たちの課題だと、氏の論考に学びつつ思う。

この第3パラグラフで指摘されている問題は、教育から労働への移行の部分に焦点を絞った『若者と労働』ではほとんど触れることができませんでしたが、最初の『新しい労働社会』では、大きな柱の一つとして第3章でかなり突っ込んで議論をした点でもあります。「養育や住居に金のかかる」年代のそのコストを誰がどのように負担するのか、狭義の労働関係の中だけでは答えの出にくい問題ですが、それゆえにこそ、マクロ社会的な議論が必要な点でもあります。

どこかでもう一度、きちんと突っ込んで議論し直してみたい点です。

『労働の場のエンパワメント 日本の社会教育第57集』

128364『労働の場のエンパワメント 日本の社会教育第57集』が送られてきました。

http://www.toyokan.co.jp/book/b128364.html

成人の学習において、労働者/職業人として、状況の変革のために求められる様々な力が形成される過程、課題、展望を明らかにする。

目次は次の通りで、本論の冒頭にわたくしの「日本型雇用システムにおける教育と労働の密接な無関係」という文章が載っております。

序章   朴木佳緒留

第Ⅰ部 労働と教育のパラダイム転換
 日本型雇用システムにおける教育と労働の密接な無関係   濱口桂一郎
「労働の場の学習」研究の視角  高橋 満
 障害者雇用の展開と雇用以前の問題 ―障害者問題と労働の場のエンパワメント―   津田英二
 労働・コミュニティからの排除と若者支援 ―社会教育へのひとつの問題提起―  乾 彰夫
1950年代における労働と教育をめぐる課題 ―宮原誠一生産教育論変転の今日への示唆― 田中萬年

第Ⅱ部 <働く場>の学習
 保全工の学習と技能形成 ―労働内容の共通性からみた連帯の条件―  上原慎一
「協同労働」実践の今日的到達点と展望 ―ワーカーズコープ実践における労働観の変容過程― 大高研道
 労働の場における排除と非正規専門職女性の力量形成の課題 ―図書館司書を事例に―  廣森直子
 若年ホームレスの労働からの排除と生育家族の関連  野依智子
「田舎」の青年たちの労働と学習 ―地域青年団活動を通して―  田中潮・辻智子
 結婚移民女性と就労支援 ―韓国の事例から―  朴 賢淑

第Ⅲ部 働くこととエンパワメントの展望
 教養教育を通じたエンプロイアビリティの獲得 ―英国ラスキン・カレッジの女性学教育を事例として―  冨永貴公
 職場のセクシュアルハラスメント防止対策を契機とする学習の現状と課題  小河洋子
 労働組合運動における学習論の再検討 ―ジェンダーと省察的実践論の視点から―  平川景子
 「新しい労働運動」における担い手の形成 ―過労死問題に対する社会運動を手がかりに―  池谷美衣子
 若者自身の「NO」に何が必要か ―NPO法人POSSEの相談活動から―  川村遼平
 <就労と学習>双方からの支援アプローチの特徴と意義 ―スウェーデン北部自治体の就労支援事業におけるエンパワメントのあり方に注目して―  鈴木尚子


『潮』11月号に著者インタビュー

516dyfmnkwl__sl500_aa300_雑誌『潮』の2013年11月号の「著者インタビュー」というコーナーで、わたくしの『若者と労働』が取り上げられています。

見開き2ページわたって、拙著で何を言いたかったかを語っております。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/ushio.pdf

日本の特殊な労働事情

「メンバーシップ型」社会

世の中がどう変わろうが、必ず出てくる労働問題。中高年と若者、男と女、あるいは雇用する側とされる側など、立場によって意見がすれ違い、処理されないまま積み重なっていくというのもこの問題の大きな特徴だろう。

「自分の意見を声高に主張するだけで解決するほど、労働問題は単純なものではない」というのは、長年にわたり第一線で調査・研究に携わって来た労働政策のスペシャリスト、濱口桂一郎さんだ。個々の議論を実のなるものにするために、まずは「もつれた問題を一度解きほぐし頭の整理を」と、書いたのが『若者と労働』である。タイトルにある通り、雇用の入り口に立つ若者に焦点を当てているが、どんな労働問題も根っこは同じであるがゆえ、必然的に日本の雇用事情、労働特性が浮かび上がってくる。

「若者は中高年が既得権益にしがみついているといい、中高年は若者ばかり優遇されていると主張する。ある面では両方とも事実で、間違っていはいない。けれど、ある側面だけ切り取って『こうあるべきだ』と扇情的な言葉を投げ交わしているだけでは不毛な議論にしかならない。互いを理解する上でも、複雑な話をできるだけ明晰に、情報を分かりやすく提供したつもりです」

 問題の根本は、まず「人」を決めてそこに「仕事」を当てはめ、いわば「人」を中心に管理が行われる日本独自の雇用システムにあるとみる濱口さん。それを「メンバーシップ型」と名付け、逆に「仕事」を先に決めてそれに適切な「人」を当てはめる欧米諸国の雇用システム「ジョブ型」と比較して説明する。たとえば、「ジョブ型」の採用基準は、年齢や性別に関係なく会社が要求する職務ができるかどうか。自分の能力、経験が活かせる反面、仕事ができないと判断されれば解雇され、スキルのない新卒は採用されにくい。EUなどではそれが若者失業率問題と直結している。一方「メンバーシップ型」は、「会社にふさわしい社員」に育てることを採用の目的とするため、若者の失業率は海外と比べて低いが、採用の基準は非常にあいまいで、入社したメンバーには終身雇用、定期昇給を約束する代わりに転勤や異動など会社が命じたことには従ってもらうという考え方だ。

「メンバーシップ型の会社の新卒は全員、幹部候補生という位置付けになりますが、ポストの都合上、エリートコースから外れる社員もでてきます。そうした人は専門的なスキルがないと労働現場に適さなくなるケースが発生します。しかし、会社は簡単に解雇することもできないから、自主退社を促すための部署『追い出し部屋』へ、ということになる。こうした現象はジョブ型社会から見れば有り得ない話ですが、日本ではまかり通ってしまう」

 濱口さんは日本の雇用問題の処方箋として、職務や勤務場所、労働時間が限定されている「ジョブ型正社員(限定正社員)」の推進を提唱する。

「厚労省で議論されるようになったのは数年前からですが、実態としては『一般職』の名称で昔からありました。今は女性が就く補助的なイメージが強いですが、将来的には、新卒からそういう選択肢があってもいいと思います」

雇用事情に興味があるならぜひ一読を。「目からうろこ」の一冊になるだろう。

 


芦田宏直『努力する人間になってはいけない』より

9784947767127芦田宏直さんの近著『努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論』(ロゼッタストーン)の中に、私のメンバーシップ型の話が引用されているようなので、

https://twitter.com/jai_an/status/384703262269919233

https://twitter.com/jai_an/status/381360546043678720

確認してみました。

236-237ページですね。田村耕太郎さんによるインタビュー記事の中の注釈として、

・・・新卒人材の社会接続には大雑把に言って二種類ある。大学型接続(メンバーシップ型)と専門学校型接続(ジョブ型)。

大学型接続は一括採用、一括解雇(定年制)、職務ローテーション制、年功賃金=年功序列制、企業内組合を前提とした「メンバーシップ型採用」に呼応した、従来の大学の教養主義的な人材育成という意味での「入口」接続。つまり素養(基礎)は学校で作ったからあとは企業で教育してくださいという意味での「入口」接続。あえて言えば、「キャリア教育」接続に当たる。「素養」といっても、企業メンバーシップ(いわゆる社風)に合うかどうかの選抜になる。だから直接「できる」スキルは問われない。地頭がいい、素質がある、性格がいい、コミュニケーションスキルがあるといった抽象的な指標選抜になる。

もう一つは専門学校型。「キャリア教育」と区別された意味での「職業教育」的な「入口」接続。これは従来もっぱら専門学校も含めた専修学校や短大が担ってきた。極度に単純化した言い方をすれば、会社の「一般職」「専門職」(いずれも「総合職」に対立する意味での、つまりメンバーシップを担わない)接続としての「入口」接続。この後者の「入口」接続は、従来「即戦力」人材と言われてきたものである。「メンバーシップ型」に対比される「ジョブ型」採用と呼んでもよい。。「スペシャリスト」型採用とも言える。組織の中の“部品”のように代替がきく-つまりメンバーシップを形成しない-人材。

そのもっとも高級なジョブ型スペシャリストが大学教授と言ってもよい。"研究対象"には忠誠を尽くすが、組織への忠誠心はもっとも希薄な人種とも言える。ジョブ型は訓練すればするほど、組織人材ではなくなるという矛盾をはらむ接続になる。

一口に“実力主義”と言っても、大学型=メンバーシップ型と専門学校型=ジョブ型とでは意味が異なる。「もはや(ドメスティックな)大学卒の時代ではない」と言っても、濱口桂一郎(『新しい労働社会』」)などは、メンバーシップ型は日本の奉公制度にまで遡ることができると言っている。古くさいという意味ではなくて根深いという意味で。「グローバル時代」の個と組織との関係はまだまだ未整理なまま放置されている。

いやあ、なんだか、『若者と労働』のエッセンスをたった1ページ足らずに要約されてしまった感もなきにしもあらずですが。

でも、大学型=メンバーシップ型と専門学校型=ジョブ型という言い方に、専門学校の校長先生たる哲学者である芦田さんの思いが凝縮していますね。

(追記)

https://twitter.com/jai_an/status/385602819103162368

労働法の専門家濱口桂一郎さんがブログで私の新刊を取り上げてくれました。会ったことはない人ですが、以前から”お友達”です。「『若者と労働』のエッセンスをたった1ページ足らずに要約されてしまった感もなきにしもあらずですが」とのこと(笑)。

https://twitter.com/jai_an/status/385604756531838976

濱口桂一郎さん、ありがとうございます。私があなたの著作で学んだことは、仕事の勉強をまったくしていない高学歴高偏差値学生が、なぜ大企業で評価されるのかの仕組みについてのことです。奉公制度まで遡ったあなたの分析は大したものでした。

https://twitter.com/jai_an/status/385700117892055041

『若者と労働』(濱口桂一郎)の本一冊分が、私の新刊の註の一頁ですべてわかると、嘆かれてしまった、濱口さんの私の新刊への書評

2013年10月 2日 (水)

若森章孝『新自由主義・国家・フレキシキュリティの最前線』

03414171若森章孝さんより近著『新自由主義・国家・フレキシキュリティの最前線―グローバル化時代の政治経済学』(晃洋書房)をお送り頂きました。ありがとうございます。

レギュラシオン派の経済学をベースに、近年のEUの労働社会政策、とりわけフレクシキュリティや移動型労働市場の動向を分析されている若森さんの、過去10年以上にわたるモノグラフをまとめた本です。

視点はいささか異なるとはいえ、同じ対象をフォローしてきているわたくしとしても、いろいろと勉強になる記述がいっぱいあります。

第Ⅰ部 資本主義と国家の変容

第1章 資本主義市場経済と国家

第2章 資本主義・国家・家族

第3章 福祉国家論の展開とレギュラシオン理論

第Ⅱ部 グローバル化・ポスト工業化と21世紀の国家像

第4章 グローバル化と国民国家の行方

第5章 新自由主義と国家介入の再定義

第6章 新しい社会的リスクと社会的投資国家

第7章 生物多様性の危機と環境国家

第Ⅲ部 労働-福祉ネクサスとフレクシキュリティ

第8章 資産形成型成長体制と賃金労働社会の不安定性

第9章 フレクシキュリティの多様性とデンマークモデル

第10章 欧州経済危機とフレクシキュリティ

第11章 移動型労働市場と選択可能な社会への道

終章 21世紀資本主義の対立軸

「解雇特区」を言い出す有識者とはどんな奴らだ!! への答

Tomさんが、

http://tomohatake.blog.fc2.com/blog-entry-53.html(「解雇特区」を言い出す有識者とはどんな奴らだ!!)

と怒りをあらわにしていますが、

朝日新聞の澤路記者のツイートによると、

https://twitter.com/sawaji1965

今日の午前中は、民主党の厚生労働部門会議がありました。マスコミフルオープンで、雇用問題がテーマ。議論は、国家戦略特区の雇用部分、〝解雇特区〟に集中しました。出席者は厚労省、規制改革会議、内閣官房、連合などの担当者でした。

続き)労働契約法16条に特例をもうけることについて、内閣官房の担当者は「外資系企業には、解雇ルールがわかりにくいという意見がある。裁判にならないと不当労働行為になるかどうか、わからない」と狙いを説明しました。

続き)「不当労働行為」の使い方がおかしかったので、連合側が質問しました。しかし、内閣官房の方は繰り返し、「解雇したとしても不当労働行為になるか、ならないかがわからない。裁判までいかないとわからない」と説明。確かに、特区WGのペーパーにも「不当労働行為」と書いてありますが・・・。

その後、連合側が「不当労働行為とはどういうことですか?」と厚労省側出席者に皮肉っぽく質問。厚労省側は「労働組合法7条によって規定されているものと承知しております」。

どうも「不当解雇」の意味で使いたかったみたいです。でも「裁判にならないと不当解雇かどうかわからないのは困る」っていう理屈も? 要するに、内閣官房は不当労働行為も労働法もわかってないということですね。

今日の民主党厚労部門会議の続きです。内閣官房の事務方によると、法規範になる契約のガイドラインは「特区ごとに決める」。確かに、八田先生のペーパーには「『特区内で定めるガイドラインに適合する契約条項に基づく解雇は有効となる』ことを規定する」となっています。

続き)民主党の議員からは「『遅刻したら解雇』が理由になることはないのか」と質問がありました。事務方の返答は「可能性はゼロではない」。それもそうでだと思いました。逆に「遅刻を理由にした解雇はダメ」となったら、企業も困ってしまうでしょう。「遅刻」といってもいろいろありますから。

ひと言で言うと、労働法の入門書の一番基本のイロハのイのレベルの知識もないお方のようです。

いや、ここでいじめられている内閣官房の役人が、公務員試験でも出たはずの労働法の知識が欠如しているかどうかはわかりませんよ。

なにしろ、解雇権濫用法理と不当労働行為制度をごっちゃにしているのは、この国家戦略特区WG座長の八田達夫氏ご本人なのですから、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/09/post-2c4d.html(民法第1条第3項を適用除外する特区!?)

<WGの見解>・「総合判断」という限り、労使双方にとって予測可能性が担保されない。
・書面で明確にすることが、労使双方にとってプラスのはず。
・不当労働行為や契約強要・不履行などに対する監視機能強化を特区内で行うなら、検討可能。

そりゃ、特区担当の宮仕えの身としては、内心「こいつ、労働法の入門書レベルのことも知らないのか」と思っていても、自分自身が八田氏と同じ知識レベルになったような顔をして、白々しく答えなくてはいけないのかも知れません。

いずれにしても、こういう八田氏自身がいない場で、いかにその認識がトンデモであるかをあげつらってみても、肝心のご本人にはそれが伝わらないわけで、新聞記者の方々の責任は重いですよ。(と、さりげにボールを投げてみる)

経団連一水会で講演

本日、経団連の業種別連絡会である一水会で、例の集団的労使関係法制の研究会報告についてお話をしてきました。

それにしても、経団連という文字と一水会という文字が並ぶと、なにやら不穏な雰囲気が漂うのは気のせいでしょうか・・・。

気のせいですね、多分。

2013年10月 1日 (火)

小杉・堀『高校・大学の未就職者への支援』

115574小杉礼子・堀有喜衣編著『高校・大学の未就職者への支援』(勁草書房)を頂きました。もちろん、編著者の一人である堀さんから手渡しで、です。

http://www.keisoshobo.co.jp/book/b115574.html

かつて国際的に評価されてきた日本の高校の就職指導は縮小しつつあるが、効果的なカリキュラム・リンケージが行われている例もある。高校編では、工業高校・福祉系高校・特別支援学校を事例に検討を加える。大学編では、就職プロセスのインターネット化で発生する問題について論じ、今後の支援策と、教育・労働政策のあり方を論じる。

もはやおなじみの小杉・堀組の若者労働本ですが、今回は、同じJILPTの堀田聰子さんも1章担当しています。またマージナル大学の居神浩さんもコラムに登場しています。

はじめに

序章 若者の移行プロセスを再構築するための「組織化」にむけて[堀有喜衣]
 1 本書の問題意識
 2 使用するデータ
 3 知見の要約
 4 「道なき道を進ませない」

第Ⅰ部 高校編

第一章 高校における就職指導と未就職卒業者支援のいま[堀有喜衣]
 1 はじめに
 2 高卒就職の制度的枠組みと慣行の変化
 3 近年の高卒労働市場
 4 未就職者の把握――「左記の者以外」の進路の分析を通じて
 5 未就職者支援の際の学校外機関の活用
 6 進路が決まらないまま卒業していく生徒の目立った特徴
 7 未就職者や早期離職者に対して実施している支援
 8 高卒未就職者の支援の今後

第二章 専門高校における産学連携教育[堀田聰子]
 1 はじめに――インタビュー調査の概要と位置づけ
 2 産学連携教育のさまざまな態様――工業高校・福祉科調査から
 3 産学連携教育のなりたち――変化する産業界のニーズへの対応
 4 カリキュラムレベルの産学連携普及にむけて
 コラム――地域の再生と商業高校[番場博之]

第Ⅱ部 大学編

第三章 新規大卒労働市場の変化[小杉礼子]
 1 新規大卒労働市場の変化と未就職卒業者
 2 求職者(学生)の変化
 3 大卒者への需要とマッチングプロセス

第四章 大卒未就職者問題への対応[小杉礼子]
 1 未就職卒業者問題への対応
 2 キャリア形成支援の未就職者削減効果
 3 能動的学修と学び続ける力、新卒就職
 4 キャリア教育と就職支援
 コラム――マージナル大学における支援の課題[居神浩]

おわりに

この中では第1章の堀さんの論文が高卒就職問題の概観になっています。

メッセージ性が高いのは序章の第4節「道なき道を進ませない」です。ここで堀さんが語っている3つのメッセージを、部分的に引用する形で示しておきましょう。

まず「1.「組織化」の意義を再評価する」。

・・・移行における学校の関与は少なくなったが、まだ学校に代わる他の組織が現れているわけではないため、若者の学校から職業への移行における「組織」の関与は弱くなっている。

組織化の弱まりの帰結としてもたらされるのが、就職指導における保護的機能の低下であるが、他方でこの状況は新規学卒労働市場の「自由化」をも意味する。新規学卒労働市場の「自由化」は、一見若者に選択の自由を与えたように見えるが、このルールの変更は実のところ、将来の見通しを早期からますます不透明にすることに荷担してしまっている。

・・・移行プロセスの不透明化は後期近代においては不可避な現象として受け止められることも多いが、「組織」の関与は不透明化の歯止めとなり得るはずである。歯止めとして機能するためには、「組織」によるマッチング機能を強化し、新卒市場を一定の秩序や方向性を持った市場に再編する試みが求められる。

次に、「2.学校の教育内容と社会からのニーズとを緩やかに連結した職業教育の充実」。

中身は緩やかな職業的レリバンスを、ということなんですが、最後のところで、

・・・長期的には、ドイツの専門大学のような実戦的な高等教育機関も検討されてよい。

というひと言が。

最後に「3.進路決定を先延ばししない就職指導・就職支援を」。

このマックス・ウェーバー風の台詞は、私も結構よく使いますが、

・・・何かを選ぶことはそれ以外の可能性を失うことだが、選ぶことを先延ばしすることによるリスクの増大にも目を向け、こうした観点から、就職指導・就職支援の理念を見直す時期に来ているのではないか。

確か以前、金子良事さんとのやりとりで出たような記憶が(詳しくは下記参照)。

そして、これら3つのメッセージの後で、この章の最後に一見さりげなさそうに、実は世間ではびこる風潮に対する、柔らかくてキツイひと言が。

・・・「告発型」にとどまったり、正論かも知れないがけっしてかなうことはない理想を振りかざすのではなく、地道でこつこつとできそうなことを拾い上げていきたいというのが本書のスタンスである。

これもまた、マックス・ウェーバー風の、しかし今はやりの政治家には一番耳に入らなさそうな言葉ではありますね。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post.html(「職業教育によって生徒は自由な職業選択が可能になる」はずがない)

・・・職業教育訓練とは、それを受ける前には「どんな職業でも(仮想的には)なれたはず」の幼児的全能感から、特定の職業しかできない方向への醒めた大人の自己限定以外の何者でもありません。・・・

120806(追記)

なお、本書の編著者の一人である堀有喜衣さんは、先日刊行されたわたくしの編著の『福祉と労働・雇用』(ミネルヴァ書房)において、「学校から職業への移行」という章を執筆されています。

http://www.minervashobo.co.jp/book/b120806.html

短い中に重要なメッセージが盛り込まれた論文ですので、是非お読み頂きますよう。

ここにも一つのごく普通の日本の雇用終了が

あるブログの「解雇されちまった」というエントリ。

いや、現実の見えない人はともかく、現在の日本で解雇は日常茶飯事ですが、その解雇理由と、それに対するこの若者の反応と、そしてそれが解雇ですらなくされようとしているこの姿が、あまりにも「ごく普通の日本の雇用終了」過ぎて・・・。

http://d.hatena.ne.jp/Delete_All/20130930#1380544260

・・・今日限りで云々、お世話になりました云々、と挨拶にきた新人君に、クビになる理由に心当たりあるか尋ねてみると「仕事中に居眠りしてしまいました」。「よくないね」「はい。居眠りはよくありません。解雇されても仕方ありません」「その他には?」「二回、居眠りしました」「よくないね。他には?」「ありません。仕事が出来ないからとだけ言われました」二度の居眠りが解雇理由に当たるのだろうか?実際のところ僕にはわからない。けれど。僕が彼なら納得いかない。絶対に闘ってる。

「解雇に納得出来ないなら戦えよ」つっても「納得は出来ないけれど仕方ないですよ…」と初期アムロ・レイのようにウジウジしている彼を見たとき、僕はほとんど見放していたのだが…。

新人君が別れの挨拶を済ませたところをつかまえ、今後のことをきくと「今から退職届を書きます」と穏やかでないことを言う。解雇だろ解雇。自分の意思でないものを書いちゃいかんと説得すると「じゃあどうすればいいんですか?」と言う。解雇なら解雇の手続きを会社にさせなきゃダメだろ、ちゃんとやってもらえと教えてやる。社会人一年生だと思って汚い真似をする。僕からみると手続きだけでなく解雇の理由もおかしいけれど。

「課長ならどうします?」「僕なら闘ってる。だけどこれは君の問題だろ? 冷たい言い方になるけど戦うのは僕じゃなくて君。戦うかどうかは君次第だよ。何かあったら相談に来いよ」「わかりました…」 新人君がどう行動するかはわからないけれど、もし、戦うのなら手を貸してあげるつもりでいる。協力すれば巨大なモンスターだって倒せるはずだ。

それでも、現実の見えない人は、何にいきり立ってか、

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai14/siryou4.pdf(第14回 産業競争力会議 竹中議員提出資料)

岩盤規制を含め、相当の前進もあったものの、まだ課題は多い。
特に「雇用」分野は、残念ながら、全く前進がみられないと評価せざるを得ない。
また、一部歪んだ報道により、しっかりとした改革が止められる可能性についても危惧している。

もちろん、「歪ん」でいるのは報道の方ではありません。

「チェンジマネジメントの未来」@『HITO』第5号

977688_o『HITO』という雑誌の第5号が「チェンジマネジメントの未来」という特集を組んでいまして、その中の編集長対談に、わたくしと人事ジャーナリストの溝上憲文さんが登場しております。

「日本企業の組織変革を阻む日本的雇用慣行-ジョブ型正社員化時代の幕開けによって求められるマネジメント改革」というタイトルです。

■第5号「チェンジマネジメントの未来」  
【解説】チェンジマネジメントの未来 (インテリジェンスHITO総合研究所主席研究員 須東朋広)
【KEY PERSON】チェンジ・エージェントとしての人事部の役割と組織開発の課題(元プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)米国本社 HR担当ヴァイスプレジデント 会田秀和)
【編集長対談】日本企業の組織変革を阻む日本的雇用慣行-ジョブ型正社員化時代の幕開けによって求められるマネジメント改革(労働政策研究・研修機構 労使関係部門統括研究員 濱口 桂一郎/HRジャーナリスト 溝上憲文)
【問題提起】変革し続けられる企業と変革し続けられない企業との違い
【1st Theme:組織変革×生産性】株式会社良品計画(代表取締役会長 松井忠三)ほか
【2nd Theme:組織変革×新規事業】株式会社サイバーエージェント(取締役人事本部長 曽山哲人)ほか
【3rd Theme:組織変革×M&A】日本GE株式会社(人事部人事オペレーションリーダー木下達夫)ほか
【オピニオン】変革論序説-チェンジマネジメントの幻影を超えて(麗澤大学経済学部教授 木谷宏)


« 2013年9月 | トップページ | 2013年11月 »