フォト
2024年9月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
無料ブログはココログ

« 「平成25年版労働経済の分析」 | トップページ | 歴史的に俯瞰し,現代の課題を浮き彫りにしていくスケールの大きな論考だ »

2013年9月 7日 (土)

日本だけではない、先進国を覆う若年労働者の雇用問題@『Vistas Adecco』33号

Index_c_img_33アデコ社の広報誌『Vistas Adecco』33号が「日本だけではない、先進国を覆う若年労働者の雇用問題」を特集しています。

http://www.adecco.co.jp/vistas/adeccos_eye/33/

図表も豊富で、結構役に立つ記事だと思います。その中に、労働経済学の太田聰一さんと並んで、わたくしも登場しています。

ある意味で、拙著『若者と労働』の重要な部分をコンパクトに要約したような面もあり、ご参考になるのではないかと思います。

・・・だが若年者の雇用問題に頭を悩ませているのは日本だけではない。詳しくは8ページにゆずるが、労働政策研究・研修機構、労使関係・労使コミュニケーション部門統括研究員の濱口桂一郎氏によると「むしろ新卒一括採用があるという点においては、日本は他の先進国より恵まれている」と言う。

・・・このような欧米の若年雇用の実態は、70年代から続いている。もちろん各国とも、この状況を手をこまねいて見ていたわけではない。若年層の失業問題に対処するため、フランスでは年金受給年齢を引き下げ、高年齢者の早期引退促進政策を推進。高齢者の代わりに、若年層を採用するよう企業に働きかけたこともある。だが、スキルを持たない若年層は経験・技能を持つ高年齢者の代替にならないケースが多く、結果として、若年層の失業解消には繋がらなかった。「高齢者早期退職政策によって若年層の就業率を向上させる取り組みは、どの国も失敗した」(濱口氏)のが実情だ。

では、どうすれば若年層の雇用問題は好転するのか。濱口氏によると、「90年代以降、欧米が出した唯一の結論は、若者の育成」だと言う。つまり、国が若者を訓練しスムーズに就労に移行させるという方法しかないということだ。・・・

・・・日本における若年労働者の育成は、「新卒一括採用」で雇用し、OJTや研修などを介して、それぞれの 企業色”に染め上げるというパターンが主流だった。慶應義塾大学経済学部教授の太田聰一氏は、その背景と効果について「日本の企業は 現場主義”。一通りの業務ができるだけではなく、現場でトラブルが起きた際、それをうまく処理する能力を社員に求めてきた。そのため、その企業独特のスキルを身に付けるのが合理的でした」と解説する。

企業が自前で人財を育成し、高い忠誠心を醸成する。社員も失業の心配がない“安定クラブ”に入る─。双方にとって都合の良い歴史的な「新卒成功物語」は、高度経済成長期には高い生産性に繋がり、企業が力を発揮するバネになった。だが「失われた10年」で、各企業は雇用調整をせざるを得ず、そのしわ寄せは新卒採用抑制へと向かった。その結果、2つの大きな問題が生じた。一つは「“新卒採用の波”に乗り切れなかった若者」の問題だ。「日本は正社員を解雇しにくいといわれているため、新卒採用で正社員を採用することはリスクの高い投資。ましてや経済環境が不確実になると、企業は固定的人財を採用することに躊ちゅうちょ躇し、結果、若者の採用は抑制され就職できない層が増えます。いったん有期雇用労働に従事した若者は、正社員になりたくてもなれず、そのまま滞留してしまいます」

・・・高齢者が優遇され、若者がワリを食っている―。今春施行の「改正高年齢者雇用安定法」により、そんな『世代間格差論』が過熱している。だが前出の濱口氏は「日本の若年労働者は欧米と比べ、どのような状況にあるか」の議論を抜きに、高齢者雇用と若年者雇用の関係性は語れない、と話す。「欧米の採用は、欠員補充が基本です。企業は、『Aという仕事=職務ができる人』という内容で募集を出し、対象者が応募するという形です。日本のように何のスキルもない若者を一括で採用すること自体、非常に稀なのです」

濱口氏はOECD(経済協力開発機構)の『世界の若者と雇用』という本の監訳をしたとき、世界レベルでいうところの「勝ち組」と呼ばれる層の定義に驚いたという。それは図6の説明にあるようなもので「OECDの定義なら日本の大卒の90%以上が勝ち組になります。日本の若者の失業率は、10%以上が当たり前の海外と比べても低い。このように世界と見比べれば日本の若者は、まだ恵まれているといえます」

Index_c_5_img_01

もっとも欧米も、若者雇用対策を試みてきた。「1970~80年代、欧州先進国では年金支給年齢を下げるなどして高齢者のリタイヤを早め、その空白を若者の雇用で埋めようとしました。しかし実務能力のない若者に熟練の代替は難しく、この政策は失敗しました」

日本でも高年齢者を若者層に置きかえれば若者の雇用が増えるという主張があるが、濱口氏は「そうでないことは、歴史が証明している」と言う。「人口の高齢化に直面する先進国は、高齢者を含め労働者を増やし年金など社会保障制度を支えるパイを大きくする必要がある。そうしなければ社会保障費負担はかえって増大してしまいます」

ただし濱口氏は日本の若年者雇用の現状を肯定しているわけではない。「氷河期に就職できなかった人がそのまま正社員になれず『ミドルエイジの有期雇用者』になったように、日本の新卒一括採用は、一度失敗すると、その後も労働市場のメインストリームに戻れない構造問題を抱えている。就活時の景気に一生を左右され、再チャレンジできないこの構造が大きな問題です」

他方、欧米では就職することを「ジョブを得る」というように、雇用契約を職務として締結する。そのため技能を身に付ければ、一度や二度の就職の失敗は取り戻しやすい。「ドイツは学校に行きながら週2日ほど就労して職能を身に付ける『デュアルシステム』を導入、若者の雇用を増やしました。OECDもこの成功に倣い、若年雇用問題解決は『高齢者の追い出し』ではなく、『若者の育成』へシフトしています。しかし日本では、実務を学べる場が企業の中だけで、そこに入らない限り、永遠にメインストリームに戻れないまま。それを改善するためには、日本型雇用そのものを変えていく必要があります」

濱口氏はその案として、「リーダーやマネジャーを育成する既存の『新卒コース』と、地域や職務を限定した『限定社員コース』の二本立てで社員を採用し、後者で過去の新卒採用枠からもれた人を吸収する。そうすることで若者が再チャレンジできる社会に変えていくのです」。働き方が多様になれば、埋もれた優秀な人材の発掘にも繋がり、組織の活性化も期待できそうだ。

Goodstart(追記)

上で引用しているOECDの『世界と若者と雇用』(濱口監訳、明石書店)は、今回増刷されました、

https://twitter.com/akashishoten/status/375080856156504065

【重版】『世界の若者と雇用―学校から職業への移行を支援する〈OECD若年者雇用レビュー:統合報告書〉』(OECD編著 濱口桂一郎監訳 中島ゆり訳・定価3,990円)  ★よりよいキャリアを形成するための積極的な雇用政策を展望。

« 「平成25年版労働経済の分析」 | トップページ | 歴史的に俯瞰し,現代の課題を浮き彫りにしていくスケールの大きな論考だ »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« 「平成25年版労働経済の分析」 | トップページ | 歴史的に俯瞰し,現代の課題を浮き彫りにしていくスケールの大きな論考だ »