「メンバーシップ型を美化」って、こういう議論のことだよね
世の中には、メンバーシップ型正社員の在り方を賞賛する議論に疑問を呈し、ジョブ型正社員というコンセプトを提示している当の人間たちに対して、「メンバーシップ型を美化」などと、当の本を読んだ人ならみんな首をかしげるような見当外れの罵言を弄することを生計の道にしている手合もいるようですが、いうまでもなく、言葉の正確な意味で「メンバーシップ型」を礼賛しているのは、こういう議論でしょう。
規制改革会議の雇用ワーキンググループの9月25日の会合に出されたこのペーパーには、
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg2/koyo/130925/item2.pdf(雇用WG の進め方について 労働時間等について)
1:健全な雇用・労働環境をつくるために必要な改革は何か
長時間労働など、働き手が健全な労働を提供できない悪質な環境をつくらないために労働者を守ることは大変重要である。しかし一方で、「使われている」発想でなく、チームメンバーの一人として「貢献している」という発想で働いている多くの人たちが、積極的かつ能動的に働くことができるように必要な規制改革をしていきたい。
いや、これはこれで一つの筋の通った考え方です。
というか、まさに今までの日本型雇用システムが(実定法たる労働基準法の精神に反して)現実社会で実行してきた労働のありようそのものというべきでしょう。
まさに、労務と報酬の交換契約という民法の発想に則った「使われている」発想でなく、
本来株主であるはずの「社員」という名の「チームメンバーの一人として「貢献している」という発想で働いて」きたのが、
欧米の正規労働者とは全く異なる特殊日本型正社員であったわけですから。
そして、そういう「「使われている」発想でなく、チームメンバーの一人として「貢献している」という発想で働いている」ことこそが、「積極的かつ能動的に働くことができる」ことを通じて、日本のすばらしい競争力の源泉になっていると、多くの経済学者たちが口々に褒め称えていたわけですよ。
もちろんそれはそういうすばらしい光の面もあったのは事実です。と同時に、すべてのものには光と影があるわけで、その影の面こそが、「長時間労働など、働き手が健全な労働を提供できない悪質な環境」を生み出すもとであったということもまた事実であるわけです。
問題構造は少なくともこれくらい腑分けして議論しなければなりません。
そう、労働時間に関する限り、今問題になっているのは、まさにこの規制改革会議委員の方が言う「、「使われている」発想でなく、チームメンバーの一人として「貢献している」という発想で働いている多くの人たちが、積極的かつ能動的に働くことができるように必要な規制改革」が事実上実行されてきたことが、いやもっとはっきり言えば、労働基準法に規定されているはずの物理的労働時間規制がほとんど残骸もとどめないほど規制緩和され尽くして、あとに残るのは残業代規制だけという状況になってきたことが、それでいいの?という疑問を提起しているということなのではないでしょうか。
かくも話が見事に180度ねじれてしまっている状況下で、さて何をどのように話していったら話が通じるのか、なかなか難しいですね。
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『若者と労働』読ませていただきました。
日本の新規採用制度の歴史から現状の若者の雇用問題、そして現在クローズアップされている「ブラック企業」とはどの様な企業をいうのか、非常に解りやすく解説されており、参考となりました。『新しい労働社会』も勧められていますので、是非こちらも読ませていただきたいと思います。
投稿: 井手奈津美 | 2013年9月28日 (土) 19時00分
拙著お読み頂きありがとうございます。
世の中にはけっこういい加減な表層的な議論が横行していますので、歴史的観点と国際比較の観点を常にもって、落ち着いて頭の整理をしていくことがとても重要です。
編集者の助力もあり、できるだけわかりやすくわかりやすく書いたつもりですので、そのように評して頂けるのはとても嬉しく思います。
投稿: hamachan | 2013年9月28日 (土) 23時32分