フォト
2024年12月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ

« 政労使協議スタート | トップページ | 山崎文夫『セクシュアル・ハラスメント法理の諸展開』信山社 »

2013年9月21日 (土)

民法第1条第3項を適用除外する特区!?

さて、政労使協議がスタートしたその同じ日に、「解雇しやすい特区」という話が持ち上がっているようで、

http://www.asahi.com/politics/update/0920/TKY201309200403.html(「解雇しやすい特区」検討 秋の臨時国会に法案提出へ)

政府は企業が従業員を解雇しやすい「特区」をつくる検討に入った。労働時間を規制せず、残業代をゼロにすることも認める。秋の臨時国会に出す国家戦略特区関連法案に盛り込む。働かせ方の自由度を広げてベンチャーの起業や海外企業の進出を促す狙いだが、実現すれば働き手を守る仕組みは大きく後退する。 ・・・

いや、私は、物理的労働時間がきちんと規制されるならば残業代ゼロはあってもいいと思いますが、それより何より、「解雇しやすい特区」って何を考えているのかと思って、覗いてみると、

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/kadaibetu/dai1/siryou5.pdf(国家戦略特区WG 規制改革提案に関する現時点での検討状況)

「国家戦略特区WG座長 八田達夫」の名前で出されているので、「WGの見解」というのはとりあえず八田氏の見解という理解でいいでしょう。

(2)特区内の一定の事業所(外国人比率の高い事業所、または、開業5年以内など)を対象に、契約書面により、解雇ルールの明確化

<厚労省>・契約書面で解雇要件等を明確にすることは奨励している。ただ、裁判になったときは、その後の人事管理・労務管理などを含め、総合判断せざるを無い。(契約書面は、労使双方にとって有効でない)

<WGの見解>・「総合判断」という限り、労使双方にとって予測可能性が担保されない。
・書面で明確にすることが、労使双方にとってプラスのはず。
・不当労働行為や契約強要・不履行などに対する監視機能強化を特区内で行うなら、検討可能。

八田氏など、法の存立構造を根本からわかっていない経済学者の発想の欠点がもろに露呈していると言えましょう。

そもそも、日本の労働契約法は使用者に解雇権があることを大前提に、法の一般原則としてその権利の濫用を無効としているだけなのですが、そこのところがわかっていないので、話が全部おかしなことになっていっていることがよく窺えます。

この点、今年4月に本ブログで説明したことに尽きているので、そのまま引用しておきますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-e13d.html(日経病?)

前から不思議に思っているのですが、労働契約法16条が諸悪の根源とかいう人々は、何をどう変えようとしているんでしょうか。

(解雇)

第十六条  解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、又は社会通念上相当であると認められなくても、権利を濫用しても有効である」とか?

もしかして、法学部に行ったら誰でも最初に習う民法冒頭の

(基本原則)

第一条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

 権利の濫用は、これを許さない。

の例外規定を労働契約法に規定しようと?権利の濫用は雇用以外では許されないけれども、雇用だけはなぜか許される、と。それは大変勇気のある話ですね。

そういうとてつもないことはやめて、「客観的に合理的な理由」の中身を明確化していこうという、規制改革会議雇用ワーキンググループなどの素直な発想に整理されたというだけのことだと、ある程度もののわかった人々は共通に考えているはずですが、一部の人々はなかなかそこにたどり着かないようですね。

たどり着かない典型がこの八田氏なのでしょう。

おそらく自分の言ってることが、労働契約法だけにとどまるものではなく、およそ契約書面で「どんなむちゃくちゃな解雇でもOK」と書いてしまえば、民法第1条第3項の「権利の濫用は、これを許さない」が適用除外されてしまうという、大変稀有壮大な、日本国の法体系の根本をひっくり返すような凄いことを言ってるんだという自覚が、いささか足りないような気がします。

なんにせよ、民法第1条第3項を雇用関係に限って適用除外する特区、というすさまじいアイディアについて、民法学者のご意見を是非賜りたいところです。

(念のため)

本ブログの読者にとって言わずもがなですが、世の中にはわかってない人も多いようなので。

仕事がなくなったときに整理解雇をどこまで認めるかというのは、配転の権利をどこまで認めるかとの相互関係で、日本型正社員のように配転全面自由の代わりに整理解雇は厳格というルールも、ヨーロッパ型の配転の範囲が狭い代わりに整理解雇の可能性もその分広いというルールもあり得る。権利濫用法理の枠内で、それを予め明確化しようというのが、「ちゃんと物事の道理がわかっている」規制改革会議の方向性。

それに対して、物事の道理がわかっていない人ほど、解雇権濫用法理自体を目の敵にしたがる。

八田説をそのまま実施すると、雇用契約に、「社長の命令はいかなるものであっても従わねばならない。従わないときは直ちに解雇する」と書いておけば、

社長「俺とセックスしろ」

社員「嫌です」

社長「クビだ!」

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_586b.html(ベンチャー社長セクハラ事件)

というのも認めなければならなくなる。だって、「それは別」とか言ったら、社長にとって「予測可能性が担保されない」ですからね。

もし、そういうのは別だというのであれば、権利濫用法理を認めていることになるのです、残念ながら。

「君はセックス要員で雇った。社長とセックスするのが君の仕事だ」

「それならハローワークの条件に書いておいてください」

「そんなこと書いたら誰もきいひんやろ」

「君はセックス要員で雇った」「社長のスケジュール管理とセックス管理をするのが秘書の役目だ」

「明日は同じホテルに泊まるんやで。分かっているな」

「セックスできないなら,最初から君を雇わない」「何でセックスできないのに俺に同行してグリーンに乗るんや。経費かかるわ」「セックスしないなら社長室を退け。お前は降りろ。うちの会社と関係ない」「セックスできないなら用はない」「君は社長秘書をはずす。一切降りろ」

「なんで(社長室にいる)他の二人(の女性職員)はセックスしなくていいのに,私だけセックスしないといけないのですか」

「そのために君を選んだからや」「90%仕事で頑張っていると認めても,あと10パーセント肉体関係がないと君は要らない」「セックスが雇用の条件。それを了解してもらわないといけない。セックスできなければ終わり。」

「家内とはずっとセックスをしてきた。しかし彼女はもうできない。淋しいから君に求めたという事はわかるでしょう。でも,できないと言うなら君はもういいわ「家内の代わりをするだけだから,これは不倫ではない」「君はセックス担当。秘書はセックスパートナーだ。A(得意先会社の社長の名前)とB(同社の秘書)との関係もそうだ」「C(社長室の女性職員の名前,Xが競え。俺の寵愛を受けてセックスした方が役員。給料も上げる「仕事を ちゃんとしていると言ってもそれは俺が判断することでポイントは俺とのセックスだね。君が出来ないと言ったらそれでいい。できないのだったら,じゃあ,もう辞めろ。ありがとう」

「Xを好きになってるんやけど,これ(男性性器)大変なことになってるで。手で出してくれ」

「君は社長室の主任次は課長役員やぞただしセックスが条件だ」

「もう会社に来るな。俺の寵愛を断ったら,君はもう終わりだ。辞めろ」「俺が君を雇ったのは君を抱きたかったからだ。それを断ったら君はもう仕事ないで」「仕事は俺とセックスするのが条件だ。しなかったら,もう良い」

「君は私の寵愛を拒んだから,もう用はない。一身上の都合で辞表を出しなさい「明日はもう来なくていい。ただ,考え直すなら話を聞く」

「お前何しにきたんや。ここではもう仕事はない。他の会社に行け。雇ってくれるかどうかは別やけど」「君を愛した。寵愛をした。でも君断ったやろ。だから終わりや。君もう社長室はだめや」「寵愛って知ってるか。社長に抱かれてセックスするのが,まずお前の責任。イヤやったらそれでいい。君に はもう辞めてもらう君はもう仕事ないでどうすんのえ全部D(社長室の女性職員の名前)に移転する。仕事ないんやもん,どうすんの」

「なんでDさんなら良くて,私ではダメなんですか」

「俺が君を雇ったのは君を抱きたかったからやそれだけそれを君が嫌やったらもう辞めろもう辞めなさい君,いてくれたら困る」

「仕事が出来たらいいじゃないですか」

「いや,君は仕事できない。君は頭がアホや。どっか行き「それは俺とのセックスの問題だけ。セックスしないと俺はもう厳しいからね」

「君を一番にしてやりたかったけど無理やと思う。辞めるか。しかし君はどこでも通用しない。君,辞めるか。君の学歴からしても社長室の主任は出来ない「君は終わり。俺が終わったら終わり。俺が切ったら君は必ず終わるよ。辞表持ってこい。辞めた方がいいよ,君は」

「解雇ですか」

「解雇というとおかしくなるから」

「社長はいつもセックスが出来なければ解雇,クビと言っていましたね」

「そうやね」「俺には支える人間がいるの。女がいるの「君は何をする。もう用がなくなってしまった「君は社長室の能力がない」「お前は一番になろうと思った。大変なことやけどそんなんもん出来ない,お前は。はっきり言うたるわ。お前には出来ない。お前,学歴考え
ろ」

「セックスできなかったら手で出せ」

「じゃあ辞めろ。そういう人を雇う」

 

« 政労使協議スタート | トップページ | 山崎文夫『セクシュアル・ハラスメント法理の諸展開』信山社 »

コメント

>そもそも、日本の労働契約法は使用者に解雇権があることを大前提に、法の一般原則としてその権利の濫用を無効としているだけなのですが、そこのところがわかっていないので、話が全部おかしなことになっていっている<

全く仰せのとおり。もうちょっとまともな議論の末の特区かと思ってましたが・・。
ヤクザの合法化特区をつくるみたいなおはなしになってきました。そこではもう労働法云々はおろか、権利・自由とか責任などという言葉は通じない訳ですね。

八田氏のコメントは信義則についての規範をより精緻化するよう求めているようにも読めると思うのですが、直ちに「法の存立構造を根本からわかっていない経済学者の発想の欠点がもろに露呈」という結論を導ける根拠が分かりません。
よろしければご教示願います。

この八田資料と同時に第1回  産業競争力会議課題別会合に提出されている「田村厚生労働大臣提出資料」の関係部分に、こう書いてあります。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/kadaibetu/dai1/siryou7.pdf">http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/kadaibetu/dai1/siryou7.pdf

労働契約法第16条の特例として、「特区内で定めるガイドラインに適合する労働契約条項に基づく解雇は有効となる」旨を規定することは困難

なぜ困難であるかは上でも書きましたし、本日の新エントリでも、今年4月の規制改革会議雇用ワーキンググループで喋った議事録を引いて説明していますので、熟読して下さい。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/09/wg-1e8c.html">http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/09/wg-1e8c.html(復習用:規制改革会議雇用WGにおける濱口発言)

ネット上を見ると、法学部の一番最初に民法の冒頭で習う話がなかなか理解できない人がやたらに多いようなので、今年4月11日に規制改革会議の雇用ワーキンググループに呼ばれてお話しした時の議事録から、私の発言の一部を引用して、理解の助けにしてもらえればと思います。

経済学バックグラウンドの人でも、鶴座長のようにちゃんとその理屈がわかって話を進めようとしている人も結構いるんですが、マスコミはわかってないケーザイ学者の方を使いたがるようで、かえって話を混乱させる傾向にあるようです。

このあまりにもまともな厚生労働省の反論に対して、八田氏が「「総合判断」という限り、労使双方にとって予測可能性が担保されない」などと、自動的解雇有効制度に固執している点が「法の存立構造を根本からわかっていない」点です。

ある程度のルール作りにより予測可能性を高めることは可能ですし、望ましいことですが、そもそも権利濫用法理とは原則の例外に対応するためのものである以上、何があっても例外を認めないというまでに主張するのであれば、それは本エントリのタイトルにあるように「民法第1条第3項を適用除外する」主張になってしまいます。

そこまで言わないというのであれば、それは現行労働契約法第16条の規定ぶりの十分範囲内に収まります。つまり解雇権濫用法理それ自体は、(何が客観的に合理的で社会的に相当であるかという判断はより精緻化できるとしても)全く変えられないし、変える必要はないということです。

そして、ある解雇が権利の濫用に当たるか否かは、当然のことながら最終的には三権分立の憲法を有する日本国においては裁判所による総合判断によらざるを得ません。

そこに、最終的な司法的判断権限を有さない行政機関による「不当労働行為や契約強要・不履行などに対する監視機能強化を特区内で行うなら、検討可能」などと口走るに至っては、現代日本の法体系の根本構造をどこまで理解しているのか、まことに心配になります。

こういうことがちゃんとわかって言っているのか、わからないままに労契法16条が諸悪の根源とただ喚き散らしているだけなのか、が議論のレベルを測るいい基準になります。

素人ゆえ僭越ですが、私からも一言申し上げさせていただきます。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/kadaibetu/dai1/siryou5.pdf
に示されている案ですが・・
(1)有期雇用
・契約締結時に、労働者側から、5年を超えた際の無期転換の権利を放棄する
ことを認める。これにより、使用者側が、無期転換の可能性を気にせず、有
期雇用を行えるようにする。
→ 「労働契約法第18条にかかわらず無期転換放棄条項を有効とする」旨を規定
する。
(2)解雇ルール
・契約締結時に、解雇の要件・手続きを契約条項で明確化できるようにする。
仮に裁判になった際に契約条項が裁判規範となることを法定する。
→ 労働契約法第16条を明確化する特例規定として、「特区内で定めるガイドライ
ンに適合する契約条項に基づく解雇は有効となる」ことを規定する。
(3)労働時間
・一定の要件(年収など)を満たす労働者が希望する場合、労働時間・休日・
深夜労働の規制を外して、労働条件を定めることを認める。
→ 労働基準法第41条による適用除外を追加する。

これら現行で規制がかかっている理由は、単に民法を修正しているのではなく、寧ろ自由意思に基づく権利行使と責任との均衡という、民法の原則を全うするためで、就労にあたり労働者が自由意志を表明できない(雇い主の条件をうのみにしなければ報酬にありつけないという)場合を予定しているからこその規制です。

この案に予定されるところの特区で働く労働者というのが、そういうことを予定しなくても済むような強い幸せな人々だけだというなら実現可能だと思います。しかし、これはユートピア思想というほかないと思います。

また、そのような制度としたいのなら、現行でも委任や準委任で労務提供してもよいわけで、何も時間的・場所的・作業手順的拘束(=所謂「従属性」)をさせて働かせる労働者でなくともよいわけです。労務提供をしてもらうにあたり、手段なり成果なりを数量化して料金を払い、法的責任も持ってもらうという方法は現にあります。

それをしないで、意のままに従属性のある労務提供者を使いつつ、現行の均衡を破るのは利益と責任の均衡から言えば、如何にも世間の納得は得られないでしょう。

つまり如何にして、その均衡を保つのか?という、その案を示すべきです。また順序としては、現行法でも制度からこぼれてしまっている不運な労働者中小事業場や、所謂非正規労働者問題を出していないということが先であると思います。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 民法第1条第3項を適用除外する特区!?:

» 「外国人比率の高い事業所」だけ解雇容易化をしたい? [ニュースの社会科学的な裏側]
労働問題が御専門の濱口氏が「民法第1条第3項を適用除外する特区!?」で、経済学者の八田達夫氏などから出された解雇特区について、「法の存立構造を根本からわかっていない」と疑問を呈している。しかし労働者の権利を擁護すべきなのは分かるのだが、それ以上に制度の狙いが良く分からなかったりする。... [続きを読む]

« 政労使協議スタート | トップページ | 山崎文夫『セクシュアル・ハラスメント法理の諸展開』信山社 »